18話 「スレイプニル」
「な、何でお前がいるんだ!?」
「何でって、お前が持ってきたんだろうが」
俺が、コイツを……?
無意識のうちに元鎧の魔物を持ってきたって言うのか?
いや、持ってきたのではなくずっと持っていたのか……寝ている間、ずっと。
「そ、それよりも」
俺は迫り来るドラゴンへ目を向ける。
「あれ、どうする?」
「……簡単なことだ」
簡単なこと?
「我と契約をしろ」
「な、契約だと!?」
契約はダメだ。
ゴブリン達と契約をし、俺は既に痛い目を見ている。
得られる恩恵は大きいだろうが……デメリットについて考えるほうが大切だ。
「拓真はこう契約するだけでいい。『ローレンス』を装備します、ってな」
「何だよローレンスって」
「……我の名だ」
「なっ……!?」
「我を装備しろ。十分な力になる筈だ。
しかし、もう一度あの鎧の姿に鉄を形成するのは不可能に違い。だから恩恵で元に戻るのだ」
装備できるなんて初耳だぞそれ……しかも名前もあったのか。
しかし、鎧の魔物……ローレンスがしょうもない契約を出してきたら困るな。
《大丈夫だ。必ず対等な物を契約すると決まっている》
な、本当か?
《ああ。経験した限りではな》
経験?
《いや、何でもない》
「おい、何ボケっとしてる」
「す、すまない」
ローレンス、か。
どこから来たかも分からないし、何故ダンジョンの奥底でボスなんかやっているかも聞きそびれた。
でも、何故かコイツは信用していい気がする。
口調、だろうか。声質、だろうか。魔力の感覚、だろうか。
はたまた、それら全てだろうか。
何か、今まで長い間一緒にいたような懐かしささえ感じる。
「す、スキルは通じないのかアレに」
「よく見ろ。奴の皮膚に張り付いた紫色に光る結晶。
ダンジョンの魔法陣に使った素材はアレから取ってる」
「……つまり?」
「魔法陣みたいに触れると消えるってことだ。かなり珍しい種の筈だが……不運だな」
嘘だろ……スキルが使えないのか……
「覚悟はしたか?」
「……ああ」
かなり遠くにいたドラゴンは、20メートル先にまで近づいている。
ゴブリンの時みたいに、気を失わなければいいが。
俺は一言一言、ゆっくりと言った。
「……『ローレンス』を装備することを約束する」
「『拓真やゴブリンに危害を加えないことを約束する』」
そうか。
危害を加えないこと。
それが、対等だということか。
……それにしてもローレンスは種族進化するとどんな見た目になるのだろうか。
ダサいのは少し嫌だな。
「がッ、うっ……ギッ……」
突如ローレンスがうめき声を上げ、俺の腕から離れる。
「大丈夫か…………ッ!!」
あ、頭がぐわぐわする。
俺の魔力が、ごっそり減ったようだ。
半分以上減った気がする。
ゴブリン一族全体で俺の魔力ちょうど全てだったから……ローレンス一匹での消費量は異常だ。
「う、おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ローレンスが叫び出す。
それと同時に、鉄の体が溶けたかのようにグネグネとうごめき出し、俺に向かって飛び掛かった。
「な、なんだこれ……っ」
俺の体の表面を撫であげるようにして金属のような物が覆っていく。
見た目こそウネウネとしているが、感触は冷たく、硬い。
まるで鉄がそのまま液体になったかの様である。
『ガァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!』
轟音。
俺は前を見る。
「ま、間に合えッ……」
もう、ドラゴンは目と鼻の先だ。
全身が黒く、月光を反射し紫色の輝きを放っている。
その黄色い目から感じられるのは、明確な殺意。
だが。
俺は、鎧と共に作られたであろう右手に握られていた剣を構えた。
間に合った。
これなら、いける。
《ローレンスのスキル『スレイプニル』が発動する。魔力が減るから気をつけておけ》
ローレンスのスキルだと……?
《装備した者の魔力を吸収し、身体能力を増大させるスキルだ》
そんなもの聞いてないぞ。
それに、何故俺の魔力が減るんだ。
普通減るのは本人の魔力だろう。
「……まぁ、コイツを仕留められればどっちでもいいか」
ドラゴンは、上空を飛んでいる。
大きな羽をはためかせて。
地面に張り付きそうになってしまう程の暴風が吹き荒れる。
そんな中でも、佐藤さんとヴィゴは微動だにしない。
このドラゴン……何か、精神を汚染するものを発しているのだろう。
俺の精神異常耐性が初めて役に立ったような気がする。
ドラゴンは口を大きく佐藤さんへ向かって開ける。
「……そうかよ」
俺達は、餌だ。
ドラゴンからしてみれば、人間は餌に過ぎない。その程度の存在なのだ。
「……」
だが――
俺は長い刀身の剣をドラゴンへ向け振り上げる。
「今度は、人間の俺が食らう番だ」
剣を振り下ろす。
大量の、魔力を込めて。
込められるだけの魔力を込めて。
『ガッッッッ』
空間が引き裂かれるような風圧と共にドラゴンの首へ、剣閃が走った。
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