17話 「驚異」
俺とヴィゴは俺の開けた穴の真下へ移動した。
穴のあるドーム型の部屋はゴブリン達によって整備されており、何かしらの建設が進んでいる様だった。
元はと言えば俺が魔物を殲滅するお礼だから、仲間が死んでいる中少し悪いな。
「それで、私も穴の下へ連れてこられましたがどう上がれと?」
そんなことを考えているとヴィゴがそう尋ねてきた。
俺はくるっと手の平を上に向ける。
「この腕に座ってくれ。そのまま空中浮遊で行くから」
「……よろしいのですか?」
「ああ。構わないぞ」
ヴィゴは視線を俺の手と自分の足の間で動かす。
ゴブリンは基本裸足で、その足が手に着くことに俺が気にしていると思っているのだろう。
まぁ、気にしていないと言ったら嘘になるが、一番簡単な方法だし仕方ない。
物攻と物防が高ければ手にのせるのが楽なのだ。
「それでは……失礼します」
俺が乗れる位置まで下げると、ヴィゴは飛び乗った。
予想通り多少重さを感じるだけ。
このまま自由に動ける。
「落ちないよう気をつけろよ」
「はい」
「『空中浮遊』」
俺は穴の中を上がっていく。
ヴィゴに上のことを何と言おうか。
流石に文明が発達したと言っても信じて貰えないだろうし。
「……ん?」
そう思い上を見上げると、妙なことに気がついた。
「空が……見える?」
穴からは夜空が覗いている。
数多く散りばめられた星々たち。
それが眩しいほどに俺達を照らす。
この穴はダンジョンと化したビルの中に作った穴。
もちろん空など隠れている筈だが。
「……」
ドッドッドッドッと、心拍が早くなっていく。
足が震え出す。
呼吸が早くなっていく。
自然と移動する速度が速くなっていく。
「拓真……さん?」
「……」
思い浮かべるのは建物がめちゃくちゃにされ、荒廃している日本の姿。
政府が崩壊し、国として機能していない日本の姿。
「……そんな訳ないよな」
俺は嫌な予感がしながらも上へ上がっていく。
まさか、日本が崩壊するだなんておかしな話だ。
自衛隊もいる。
アメリカの軍基地もある。
いざとなったら彼らが救ってくれるはず――
「…………」
そこにあったのはビルではなかった。
瓦礫。
ただひたすらに瓦礫の山である。
ずっと、ずっと地平線の先まで。
「ど、どうなってるんだこれ……」
周りを見渡す。
あるのはやはりコンクリートと鉄骨の入り混じった瓦礫の山。
ほ、他にあった建物は?
自衛隊は?
住んでいた人達は?
一体どこに――――
「おい、拓真」
「……ッ!!」
声がしたほうへ向くと、その男は黒いスーツを綺麗に着こなし、破壊されたコンクリートの一つに、前傾姿勢で座っていた。
佐藤さんだ。
膝に肘を乗せ、手を顔の前で組みながら。
真っ直ぐ遠くを見つめて。
「な、なんでこんな事に……」
「ヴィゴを降ろしてやれ」
「……あっ、すまんヴィゴ」
ヴィゴは答えない。
俺は動かないヴィゴを無理矢理腕から降ろす。
「……ヴィゴ?」
その表情は正に驚嘆といった表情で固まっていた。
口を半開きにし、目の焦点が合っていない。
……そうだよな。ヴィゴのほうがこんな現実、受け止め切れない筈だ。
ヴィゴがいた世界でなく、全く知らない世界にいるだなんて。
「俺も最初は驚いたさ。どっかの国がミサイルを落としたのか。
俺の所属してた暴力団の『上の奴』とその取り巻きが暴れたのか。
そう思っていた」
「暴力団……?」
「それは後で説明してやる。今はこれを見ろ」
佐藤さんは折り畳まれた紙をこちらに投げる。
「近くにあった死体が手に握っていた紙だ」
……遺書、か。
鉛筆のようなもので何か殴り書きがしてある。
「……巨大なトカゲのようなものが暴れ回っている。人を食い、建物を破壊している」
リザードマンか?
アイツらに建物を破壊するほど力があるとは思えないが……
「だが、ただ単に大きなトカゲではない。羽が生え、牙が長い。
これを読んだ者は、速くここから立ち去れ。夜になる前に。これが私が今、最大限できることだ」
「……」
一瞬、静寂が流れる。
俺はこの正体を知っている。
おそらく、佐藤さんも知っている。
「これって……」
「……ああ」
羽が生え、牙の長い大きなトカゲ。
奴は色々な漫画やアニメで何度も見た。
「今、東京にいるのか!?」
「らしいな」
俺は魔力探知を起動し、辺りを見渡す。
……目立って光るものはない。
「い、急いで下に戻るぞ」
佐藤さんは真っ直ぐ虚空を見つめながら動かない。
今は夜。
来る……奴が。
「おい、早く戻るぞッ!! 今ならまだ間に合う!!」
俺は佐藤さんの腕を掴み、引っ張る。
佐藤さんはそれに対して力が抜けたかのように体をだらりと垂らし、低い声で呟いた。
「……もう、来てる」
「なっ、い、いるのか?」
「…………ドラゴンが」
二人の声が重なると同時に、その声をかき消すようにして空が破れるような暴風が全身を貫いた。
俺は思わず耳を塞ぐ。
咆哮のような轟音が体中を這い回る。そして、芯まで震え上がるほどの威圧感。
真っ黒で、巨大な何かがとんでもない速さと音を立てて此方に近づいて来ていた。
それも、瓦礫を吹き飛ばしながら。
間違いない。
あれは、強い。
「おいおいおいおいおい………」
佐藤さんはあらぬ方向を見て座ったまま。
ヴィゴは口を半開きにして突っ立っている。
「お、俺が一人でやるしかないのかよ!?」
俺は鉄の塊を手に持ちそう言った。
鉄の……塊?




