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16話 「オーディン」


 「ん……また結構長い間眠っちゃったか?」


 俺は眠い目を擦りながら半身を起こす。


 観察者さん。

 俺今回はどんぐらい寝てた?


 《観察者ではない》


 え?

 ……誰?


 《『英知神(オーディン)』だ》


 オーディンか。なんかカッコいい名前と声になってるな。

 観察者って名前ずっとダサいと思ってたけど幾らかマシになった気がする。


 《人は種族進化すると、アー……いや、やめておこう》


 勝手に進化しておいて教えてくれないのはズルい。言うこと聞いてくれる観察者の方が良かったな。


 《……今回の睡眠時間は5日だぞ》


 5日!?

 そんなに寝てたのか!?


 《ああ》


 ま、マズい。地上はどうなってる。

 ゴブリンは?

 凶悪な魔物は?

 佐藤さんや鎧の魔物は?


 「…………ん?」


 俺の背中に当たっているものが妙にフワフワしている。


 ヴィゴの布だ。

 いつの間にかその布の上で寝ている。

 確か俺は地面の上に倒れた筈――――


 「拓真さん!! 目を覚ましましたか!!」

 「え……どちら様、ですか?」


 突然声がかけられたかと思うと、そこからは肌は緑色だが鼻は小さく、スラリとしたスタイルで、人間と同じくらいの身長の青年が現れた。

 肌の色以外はほとんど人間と同じだ。


 「ヴィゴですよ」

 「え?」

 「ヴィゴ・ダランティス。ゴブリン一族の族長です」

 「えええぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!??」


 ヴ、ヴィゴ・ダランティスってあのゴブリンだよな!?

 身体がゴツくて、ちょっと臭くて、鼻は大きくて、たまに見せる笑顔が素敵なあのヴィゴだよな!?


 「私も少し驚いているんですよ。『契約』の恩恵が種族進化だなんて」


 種族進化……確か眠る時、観察、いや、英知神(オーディン)が単語を言ってたような。


 「滅多に起こらないものなのですが。拓真さんの魔力量が多かったからでしょうかね」

 「それにしても凄い変わり様だな……」

 「そうでしょう。一族全員この様に進化していますよ」


 俺はヴィゴに外へ連れられる。


 確かに全員進化していた。

 通り過ぎていくゴブリンは皆ヴィゴのような見た目に変化している。

 ただ……


 「なんか数、減ってないか?」


 来た時は少なくとも200人以上いた。それがたったの50人ほどになっている。

 それに皆俺達を無視して武器を持ち忙しなく動いており、どこか表情が険しい。


 「ええ。死にました」

 「!!」


 ヴィゴは微笑みを浮かべてこちらを見つめて何も前触れもなくそう言った。

 まるで、それが当然であるかの如く。


 しかし、笑みを浮かべている顔の目の奥には、確かに深い悲しみがチラリと見えた。


 「なっ……し、死んだって……」

 「皆、眠っている間に襲われましてね。殺されたのですよ」


 ヴィゴは笑顔のままで続ける。


 「仕方のないことです。進化の代償なのですから」

 「そ、そんな簡単に言っていいのか!?」


 人間の俺がこんなにもまだ会って少ししか経ってないゴブリンに感情移入してしまうなんてな。

 ちょっと前までは殺そうとしていたのに。


 「はい。皆あなたのことを『信じて』いますから」

 「なっ……」


 これが、『契約』……

 仲間が死んでなお約束を破ることができない、と。

 こんなにも惨たらしいものだったのか……


 「一応山場は乗り越えましたからあと一週間は魔物は来ないでしよう」

 「……」


 彼は率直に、包み隠さず死んだと言った。

 これも、俺を『信用』しているからだろう。


 「『上』には一回戻らないのですか。佐藤さんという方が待っているみたいですよ」

 「さ、佐藤さんが起きてるのか?」

 「ええ……私も一度見てみたいですし。ゴブリン達が普通に生きていける世の中になっているか」


 俺はそれは無理だと言おうとした。

 今、この世界はゴブリン達が知っている世界ではないと。

 でも、そんなことを言ったら……ヴィゴがどうなってしまうかは想像したくない。


 「……わかった。行こう」


 俺はヴィゴの手を取り、穴の下へと歩き出した。


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