15話 「種族進化」
俺とゴブリンのリーダーはその後、簡単に自己紹介をしあった。
ヴィゴ・ダランティス。
現ゴブリン一族族長。
100年以上前に鎧の魔物に叩きのめされ、ダンジョンの魔物として戦っていたという。
彼の話によると自身はまだ新参で、何百年此処にいるか分からないゴブリンもいるらしい。
「それでは、私達の村へご案内しましょう」
「ダンジョンの中に村があるのか……」
俺は佐藤さんと鎧の魔物を抱え、ヴィゴの後をついていく。
上に戻るのは村を一度訪れてからにしよう。
鎧の魔物を見たゴブリン達は皆露骨に嫌そうな顔をしていたが、放置する方が危険だと納得して貰った。
「それにしても暗いな」
「ええ。明かりがあると凶悪な魔物が寄ってきますからね」
挙げ句の果てにダンジョンの内部は迷路のようで、彼の後ろ姿を見失えば道に迷うのは確実。
その間ちょっと臭いのは我慢我慢……
「見えてきました」
数分登ったり、降りたり、曲がったり何度も繰り返した所でヴィゴが突然暗闇の中止まった。
「ここが村? 只の通路じゃないか」
「いえ。見ていてください」
ヴィゴはそう言うと、自慢気な顔をして壁のレンガの一つを押した。
レンガがスッ、と壁の中に消えていくと同時に奥の方からガチャガチャ音が聞こえてくる。
「これが私達の技術の一つです」
瞬間、押したレンガの周りのレンガもゴリゴリと音を出して上下左右に引き込み始めた。
「ま、眩しっ……!!」
その奥から漏れ出すのは眩い光。
暗闇に慣れていた俺の目にカッ、と差し込む。
「凶悪な魔物から身を守る為に開発しました。さぁ、来てください」
「こ、これを……ゴブリンが開発したのか?」
「もちろんです」
俺はヴィゴに手を取られその先へ引っ張られる。
この感じ……まるで早く自慢したいかの様な雰囲気だ。
私達が造り上げたものをどうぞ見てくださいと言わんばかりに。
「…………!!」
俺はその光景に目を奪われた。
それは渓谷だった。
巨大な渓谷を利用した村だった。
「す、すげぇ…………」
左右から遥か高くまで迫り上がる二枚の大理石のような白い壁に、向かい合うようにして様々な形の家が張り付いている。
……いや、張り付いているのではない。
削り出しているのだ。
家一つ一つが丁寧に壁から削り出され、そのせいか切断面が無い。
それに表面もだ。
触っても凹凸を感じない。
一種の鏡のようになったそれは、村中に設置された電灯のように光を放つ松明の光を反射し、まるでダイヤモンドの如く輝いている。
「すごいでしょう。伊達に数百年過ごしてませんからね」
「あ、ああ……こんなの見た事ないぞ」
あんぐり口を開けて見惚れている俺を他所にヴィゴはどんどん渓谷の奥へ突き進む。
冷静であると思わせるのか知らないけど、一瞬口元が緩んだのを俺は見逃さなかったぞ。
「この先に私の家があります。そこで話をしましょう」
「ほう……!!」
族長の家か。
さぞかし巨大で美しい豪邸なのだろう。
それも随一美しい。
これは期待できるぞ。
「これです」
「…………へ?」
ヴィゴが指差したのは床に敷いた一枚の小汚い布だった。
「ああ、族長を守る為に仕掛けがまたあるのか」
「いいえ」
ど、どういうこと?
この布の上で……普段生活しているのか?
「上に立つ者、つまり族長は大きな家を持ってはならないと決まっています。優遇目当てで族長になる者が出てこないように」
「……なるほど」
「私は真に一族のことを想っています。一族を守るためのもの以外何もいりません」
尊敬だ。
俺だったら財宝探させたりしちゃうかもしれない。
こんなに仲間を優先することなんてできない。
ヴィゴにそばに置いてあった石製の椅子に座るよう促される。
「……さて、魔物殲滅の件ですが」
「あ、ああ」
「先ずは『契約』を結びましょうか」
『契約』……?
なんだそれ?
確か、ガチャの張り紙にもそんなことが書いてあったが……
もしかしたら一般的に知られてる物なのかもしれない。
……知ってた風にいくか。
「いやーー、『契約』ね。俺、最近やってないからどんなのか忘れちゃったんだよねーー」
「……互いに身体を触れ合い、約束を結ぶのですよ。破られないとは限りませんから」
確かに周りから大量の視線を感じる。
おそらく疑いの目だ。
すっかり忘れていたが、ゴブリンも魔物。
知人や家族を人間に殺された者もいるに違いない。
「約束を結べば互いに『恩恵』を得られるが、破れば『大切な物』を失うことになる。
それが、『契約』です」
「あ、ああ。そうだったそうだった」
ヴィゴが俺の前に手を差しのべる。
「本当に私達のことを攻撃しないと言うのなら、この手を握れる筈ですよね……?」
「……もちろん」
俺はそれを握り返した。
ヴィゴはフッ、と一瞬微笑む。
「私達『ゴブリンの一族』はあなたを信用すると約束する」
「……俺は、ゴブリンを守る為にダンジョン内の凶悪な魔物を殲滅することを約束する」
その瞬間――――ヴィゴが、気を失った。
「だ、大丈夫か!!」
周りを見渡す。
ヴィゴだけではない。
ここにいるゴブリン全員だ。
か、観察者さん、何が起こっているか分かるか?
《……種族進化でしょうか》
「種族進化だと……ウッ!!」
き、急に気持ちが悪く……
この感覚、前にもあったような……
《MPが0になりました。休眠してください》
あぁ、そうだ。
MPが……0になったんだ。
何故だろう……まぁ起きてから考えよう。
俺は深い暗闇へと意識を落とし、倒れた。




