14話 「ゴブリンの才能と願い」
俺は元鎧の魔物の鉄塊と、佐藤さんを抱えて周りを見渡す。
先程の戦いの風圧のせいか、魔法陣の敷いてあった地面がめくれ上がっている。
……地面殴って破壊するのもアリだったな。
「それにしても俺の拳、結構強かった気がする」
風圧だけで地面がめくれ上がるなんて殴りの域を超えている。
うっかりしていたら大変な事故が起こりそうだ。
寝てる間に町消滅とかたまったもんじゃない。
《一時的なものですよ。魔法陣の影響で魔力が体外に放出されなかったので、少量身体強化に使われたのです》
え?
ということは俺、結構ギリギリの戦いだった?
《ええ。あと物防が1000ほど少なければ頭が飛んでいました》
ひょ、ひょえぇ……
知らぬが仏、ってとこか。
さすがはダンジョンのボスだな……
「おい、人間たちが何処に引きずり込まれたか知ってるか」
「わ、我が出てきた方だ……」
最初に鎧の魔物が出てきたほうを見ると、確かに木製の両開きの扉があった。
他に入り口もないし、あそこしか無いだろう。
俺はその扉に近寄り、開ける。
「くっさ!!」
その中は暗く奥はよく見えないが、湿気に加えて酷い異臭が鼻を襲う。
この臭い、何処かで嗅いだことがあるような……
「ギ、ギィ……」
奥から出てきたのは数匹の大きめのゴブリン。
やはり、か。
上で会った時もこんな似たような臭いがしていた。
しかし、肝心の人間は何処にいるんだ?
まさかゴブリンが殺したとかないよな。
俺はゴブリンに向けて手を向ける。
「……ん?」
何だろうか。
ゴブリン達の後ろに、また別の気配が……
「ギャガァァァァァァァァァ!!!!」
「う、うぉっ!?」
そこから出てきたのは巨大な蜘蛛のような化け物だった。
その体を俺目掛けて突進してくる。
「『滅雷』」
俺がそう言うと、蜘蛛の化け物は跡形もなく消え去った。
そのままゴブリン達へ手を向ける。
「ギッ……ま、待って下さい」
「なっ……!!」
その大きなゴブリンの内一際大きく、先頭に立っていたリーダーらしきゴブリンが肩を震わせながら流暢な日本語で話し出した。
「た、助けてくださり有難うございます……」
「しゃ、喋れるのか?」
先に動物ですらない鎧が喋っていたから今更驚く必要はない感はあるが……違和感が半端ない。
「……な、何を言っておられるのですか? 『アースガルズ国』の民が『アースガルズ語』を使って何かおかしいことでも……?」
「ちょ、ちょっと待て」
アースガルズ国?
アースガルズ語?
いきなりそんなこと言われても意味が分からんぞ。
……面倒になりそうだし辻褄合わせておくか。
彼らにとってはダンジョンがあることが普通みたいだし、深掘りするのも辞めた方がいいだろう。
変に疑われて戦うことになるのは嫌だ。
「あーー『アースガルズ語』ね、分かるよ。うん。いや、上で出会ったゴブリンが話せてなくてね」
「あぁ、それは下級ゴブリンですね」
「へ、へぇーー、そ、そうなんだ」
ゴブリンにも下級とか上級とかランクがあるようだ。
確かにアイツは身体も小さく何も喋っていなかった。
ただ……倒しちゃったんだよな。
一応伝えておくか。
「その下級ゴブリン、殺したかもしれん」
「…………ッ!!」
後ろに立っていたゴブリン達がザワリと騒ぎ出す。
「やはり危険だ」とか「敵だ」とかそんな声。
だろうとは思っていたが、言わない方が良かったのだろうか。
「……あなたの進行を妨げたから殺したと信じています」
「ああ、そうだ」
アレは仕方がなかった。
襲ってきたのだから自分の身を守るのが普通だろう。
「それで、何故殺される危険が分かっていながら俺の前に現れたんだ?」
単刀直入に聞いてみる。
「先程の戦いを……見ていました。あなたなら、私達の願いを聞いてくださると思ったのです」
「……願い?」
「私達は100年以上、あの鎧の魔物によってこのダンジョンに囚われ戦闘を強いられていました」
「……ほう」
ゴブリンは100年以上も生きられるのか。
その割には老けているように見えないし、人間より圧倒的に長寿だな。
「それが今、只の鉄塊となり我々は現在、自由の身なのです」
あの鎧の魔物……今考えると相当強い。
もう少し物攻が高ければ俺の首も飛んでいたし、鉄自体が魔物だから切断も効かない。
このゴブリン達がアイツに囚われていたということも納得がいく。
「しかし、自由の身になったのはゴブリンだけでなく先程の蜘蛛のような大量の凶悪な魔物も解放されてしまいました」
「……」
「その魔物達は知能が低く、私達を襲うのです。あれはゴブリンだけでは太刀打ちできません。
……そこで。私達ができる限り恩を返しますので魔物達を殲滅して欲しいのです」
これって、鎧の魔物を倒した俺が原因なのか?
だとしたらちょっと複雑な気持ちだな。良かれと思ってとった行動が逆効果だったなんて。
「いいけど……恩なんて要らないぞ? ほとんど俺が原因みたいなものだし」
「いえ、恩は一族全体の意思ですので恩の拒否は即ち一族の否定、敵になります」
一族の意思、か。
しかし俺は何も要らないんだけどな……
強いて言えば財宝だけど。
「何ができるか聞いていいか?」
「……建築、ですかね」
「なるほど」
俺の能力は全て破壊、破壊、破壊の三つの熟語で成り立っている。
それに効果範囲も広すぎる。
建築とかそういう、細かく、繊細で、造り出すものは俺には無理だ。
「じゃあ、このダンジョンを……俺風に改装とか頼めるか?」
「俺風……分かりました」
リーダーにゴブリンはそう言うと、右手をサッと挙げた。
「お前たち!! 出てきなさい!!」
「う、うぉっ!?」
その合図と共に、鍾乳洞の岩陰、魔法陣の下などから大量のデカいゴブリン達が現れた。
100匹以上いる。
凄い隠れ方してるな……
「『ダンジョンを俺風に改装』しろとの命令だ!!」
「な、ちょ」
そこら中から「はっ」といった声が聞こえてくる。
「こんなアバウトな命令でいいのか?」
「はい。彼らは説明し過ぎると頭の処理が追いつかなくなってしまいますから」
ゴブリン達は見たことも無いような器具で、早速壁を削り始めている。
……もしかして、この空間を作ったのもゴブリンなのだろうか。
だとしたら凄い才能だ。俺には到底無理だろう。
「あ、そう言えば」
「……何だ?」
ゴブリンのリーダーが思い出したかのように呟く。
「人間がいたのですが自衛隊とやらに動画とか言うものをばら撒くとか言って、板の様なものを貴方に向けて逃げてしまいましたよ」
「……」
それ、スマホで撮影されてないか?
……マズいことになってくるかもな。




