11話 「ダンジョン」
「「「ギギィ……」」」
まずいな。
さっきと同じ条件だが、俺は今佐藤さんを抱えている。
もう一度滅雷を使えば、佐藤さんも巻き添えになってしまう。
窓から『空中浮遊』で逃げるか?
俺は恐る恐る、窓から首を出す。
地上四階建てのビル。
高所恐怖症の俺からしたら絶叫ものだ。
足が震える。
怖い。
もし落ちたら……どうなるのだろうか。
浮けるのは分かるが……本当に、いけるのか?
いや、いける。
この俺なら。
「……やるしかないッ!!」
俺は窓から勢いよく飛び出した。
冷たい空気が真っ逆さ様に落ちた俺の頬を掠める。
「く、『空中浮遊』!!」
俺はもの凄い勢いで地面近づく最中、まるで何者かに捕まているようにして静止した。
後ろから化け物たちが騒いでいるのが聞こえる。
「バ、バランスが取りにくい……下を見るな……下を見るな……」
《手足に流れる魔力を調整することでバランスの調整や、移動可能です》
……こうか?
観察者さんの言う通り魔力を上半身に多く、下半身に弱く込めると、徐々に足が下になっていく。
最近の観察者さんは聞かずとも助言してくれる。
LVが上がったからだろうか。
「先ずは……佐藤さんを安全な所へ連れて行こう」
行くとしたら……父さんと母さんの家か。
あそこなら化け物たちも来ていない。
俺は地面へゆっくりと降り、周りを見渡す。
「ひ、酷い……死体だらけだ……」
全て魔物にやられたのだろう。
中には原型を留めていないものもある。
こんな死体を見るのは人生で初めてだ。
……少し気分が悪くなってくる。
「あれっ?」
何か違和感がある。
魔物が来ているということ自体が常軌を逸した状況なのだが、また別の違和感だ。
俺は死体を見つめる。
「……!!」
死体がこんなにあるのに妙に魔物がいない。
俺達の所に来たリザードマンがやったとも考えられる。
しかし、死体は皆鋭利な刃物で切り裂かれたかのように真っ二つになっている。
それに、数ある死体の内のいくつかが引きずられて地面に跡がついている。
向かいのビルの中へ。
「中に引きずり込まれたって言うことなのか……?」
俺は入り口の割れた自動ドアの隙間に首を入れる。
一応、『魔力探知』を使っておこう。
魔物や生きている人間がいるかもしれない。
「それにしても暗いな……」
窓がある筈なのに、光が差していない。
カーテンだったり遮るものも無かった。
それなのに真っ暗だ。
『ザッ、ザッ、ザッ』
それにまるで足音がレンガのような素材の上を歩いているようだ。
明らかにビルの中の雰囲気ではない。
……引き返そう。
「ん?」
入り口に戻ろうとした時、視界の端に何かが映る。
光だ。
地下のほうにぼーっと光を放つものがある。
『魔力探知』の光。
何か、いる。
そこへと続く階段もある。
まるで、誘っているかのように。
「光で少し見えるようになったし……確認するだけ」
俺はその階段を駆け下りる。
それと同時に迫り来る酷い臭気と湿気。
洞窟の中のようだ。
「くっ……」
光はこのすぐ先。
もう少し。
「「「ギェェェェ!!!!」」」
「なっ、何だ?」
寄生と共に出てきたのは蜥蜴士でも、人間でもなかった。
緑色の肌、大きい鼻、長く伸びた犬歯、小柄な体格。
間違いない。
これは……ゴブリンだ。
「「「ギャアアアア」」」
ゴブリンは松明のようなものを持ち、威嚇している。
松明で照らされた壁は石レンガで作られ、その表面を苔が覆っている。
ゴブリンがいるということは……もしかして、ここはダンジョンってこと!?
いや、そんなこと信じられん。
急にビルの内部がダンジョンに変化するなんて有り得ない話だ。
「……でも」
現にいきなり大量の魔物達が町中に現れ、人を襲い始めているのだ。
このような建造物があっても今更驚くことはない。
「ゴブリン、すまん!!」
「「「ギョエッ」」」
俺が滅雷の威力を抑えて放つと、ゴブリンはそんな声を出して倒れた。
少し可哀想だが、松明のほうが大事だ。
死体が引きずられた跡はさらに奥へ続いている。それに、ゴブリンの体格では死体は運べないだろう。
引きずったのはこのゴブリンじゃない。
「つまり……親玉がいるって訳か」
長年の夢の一つ……俺自身がダンジョンを攻略し、開拓するという夢が叶うかもしれない。




