第八話 帰り道
-翌日のゴブリンの村-
村長の家で目覚めるブレダ
「・・・あの飲み物。アルコール少なくても量を飲むと流石に酔うか・・・あいたた・・・」
ブレダは横を見渡すと大の字で寝ているレオルンドのお腹を枕代わりにしてハヤテとソフィーが寝ていた
「さてと、昨日は何も働いてないし今日は少しくらいはハヤテくんの役に立ちますか。」
皆を起こさないように静かに外に出るブレダ
「おはようございます、ブレダさん。」
「あら、おはようございます村長さん。昨日は泊めてもらって申し訳ないわね。」
「いえいえ。それよりも昨晩の魔獣に死骸はどうなされますか?なんでも懸賞金がかかっているとか。」
村長の目線の先には首だけのロドムと頭が陥没したシグーの死体が横たわっていた
ブレダは斧を構えシグーの首を切り落とす
「魔獣の胴体の方はゴブリンさん達の方で素材になるものを採取したら火を着けて燃やして頂戴。そのまま残しとくとアンデットを呼び寄せるから。」
ブレダはロドムとシグーの首を荷馬車に乗せて、つるはしを手に取る
「村長さん、昨日言ってた石はどこにあるのかしら?」
「それならすぐそこです、道案内にカブをつけましょう。」
長老はカブを呼ぶとカブはブレダを見てニッコリする
「わぁ!昨日のお姉さん!どこに案内してほしいの?」
「おはよう、カブ君。これと同じ石がある場所に連れて行ってほしいの。頼めるかしら?」
「まかせてよ!オラについてきて!」
-ゴブリン村の裏手-
「お姉さん!ここだよ!」
案内された場所は石灰石が広範囲にむき出しになった場所だった
「これと同じ石ね・・・よしっ!やりますか!」
ブレダは力いっぱいつるはしを振って石灰石の塊を採取していく
その様子をしばらく見ていたカブ
「ねぇ。なんで人間さんと獣人さんは仲良く一緒にいるの?」
「なんでかしらねぇ・・・きっとハヤテくんに惹きつけるものをレオは感じたんじゃないかしら?」
「ふーん。あのお兄ちゃんは変わってるよね。オラたちを見ても気味悪がらないし。」
「あのお兄ちゃんには種族とか関係ないのよきっと。初めてあった日もトロールに自分から近づいたし・・・って言うより恐怖心が死滅してるんじゃないかしら・・・。」
苦笑いするブレダ
「きっとハヤテくんが居なかったら私もレオを怖がったかもしれないし、この村に来ることもなかった。もしかしたら種族と種族を結びつける力でもあるのかしらね。」
「じゃあさ!じゃあさ!オラたちゴブリンも人間さんたちと仲良くなれるときも来るかな!?」
「ええ。来るかもしれないわね。だってこうやって私達が話をして笑えるんだから。」
パァっと笑顔になるカブ
「わぁ!楽しみだなぁ!人間さんの友達作りたいなぁ!」
ブレダはカブに歩み寄る
「じゃあまずは私達がお友達になりましょ。」
「いいの!?」
「ええ、私のことはブレダって呼んで!」
少し照れるカブはブレダから視線をそらした
「ブレダ・・お姉ちゃん。」
ブレダはカブの頭を優しく撫でた
-お昼に差し掛かる頃の村長宅-
やっと起きた三人は村長の家を出るとブレダとカブが表のベンチでパンを噛じってる様子を見かける
「ブレダ殿は酒に強いんですな。」
ぐたっとしているレオルンドをよそに荷馬車を見るハヤテ
「おおおおお・・・・・。石灰石がこんなに・・・」
荷馬車には白い石灰石が山のように載っていた
「三人共起きるのが遅い!もう目的のものは手に入ったわよ。」
「あーわりぃ、助かったわ。」
村長が近づいて来てハヤテに話しかける
「まだまだ沢山ありますのでいつでも取りに来て下さい。」
ハヤテは少し考え村長に提案した
「なぁ村長。俺と取引をするつもりはないか?」
「取引・・・ですか?」
「この石灰石を村で採取して俺に売りに来ないか?金のやり取りをしないのなら物々交換でもいい。荷馬車一台分を基準に買い取る。食料でもいいし、必要とあらばその都度欲しいものを言ってくれ。」
ハヤテの持ちかけた案に驚く村長
「過去に特産で鉄でも出ないかと掘って出たものがその石で、なんの使いみちもなく諦めていましたが・・・わかりました。その話喜んでお受けいたします。」
ハヤテは村長に手を差し出し握手を求める
「じゃあ決まりだ!荷馬車は俺の方で用意する。せっかく200万バッツも手に入るんだ、荷馬車も対価として払う食料なんかも俺に任せて欲しい、決してあんたらに損はさせないよ。」
この様子を見ていたゴブリン族の男たちが仲間内で喜び合う
「やった・・・これで今年の冬を越せるぞ。」
「良かった・・・良かった。」
レオルンドはハヤテをじっと見ていた
(やはりハヤテ殿は種族など関係ないのだろうな。)
その様子を見てレオルンドはなんだか嬉しそうだった
「じゃあ俺たちはそろそろ行くよ。一週間以内に荷馬車を手に入れて持ってくるからよろしくな!」
「ええ。よろしくおねがいします。」
ゴブリンたちはハヤテたちが見えなくなるまで手を振って見送り続けた
-帰りの道中-
荷馬車は石灰石を平らに均し、その上にロドムとシグーの首を載せて縄でくくりつけている
「ねえハヤテくん?ゴブリンたちにあんな事約束してよかったの?自分で採取すればお金だってかからないのに・・・」
ブレダの問いかけにハヤテはゆったりとした話し方で答える
「俺がこれから工房を立ち上げて実際に作業が始まったら忙しくて材料の採取に出かけることなんてできなくなりそうだからな。だからこうやって材料を持ってきてくれるような契約をするんだ、彼らは自分たちの利益のために自ら売りに来てくれる。」
「へぇ・・・、ってことはゴブリンだけじゃなくて他の種族との取引も考えてるのね?」
「もちろん!金は今回みたいに手配された魔物とか倒して稼げばいいし、いざとなったら近所のトロールを追い回す!」
ソフィーは何かに気づいた
「そういえば最近、街の兵士さんたちがトロールを見なくなったって言ってましたね・・・まさか。」
レオルンドはハッハッハと笑いながらソフィーを見る
「毎晩のようにハヤテ殿はトロールを追い回してますからな。最近ではトロールの方がハヤテ殿を見つけると逃げていきますよ。」
「おかげで魔力結晶がだいぶストックできてきた。あれも換金以外に使い道出てきそうだな。なぁレオ?あれって魔物によって大きさはもちろんだが性能的なものが違うとかあるの?」
「ありますよ。このあたりではトロールが大きい方ですが更に強い魔物ならもっと大きく魔力の貯蔵量もあります。戦争時の魔道士なんかは魔力が尽きた時の為に加工した魔力結晶にあらかじめ魔力を溜め込んで戦場に持っていくらしいです。」
「魔力を貯められるってことか・・・。そういや魔法についても知識だけでも入れておきたいな。やっぱ種類ってか属性もあるんだろうし。」
ブレダはハヤテの肩を叩き提案する
「それならラータの西北西にある【ポルカ】の街に行くといい。魔術ギルドもあるし、冒険者ギルドもラータより大きい!っていうのも、私のギルドではこの魔獣の換金は出来ないんだ・・・」
ハヤテは真顔でブレダを見つめる
「おいババアどういうことだそりゃ。」
「だからババアじゃない!前にも言ったがラータは開拓者の街でまだまだ小さいし、エルシアでもいちばん貧しい街なんだ。そんなとこの貧乏支部が金を持っていると思うかい?」
「めんどくせえな・・・まぁラータよりでかい街なんじゃ色んな物も手に入るかもな。じゃあ荷馬車はこのまま借りっぱなしにするか。今日中に石灰石を下ろして明日にでも行こう!」
「私は家でハヤテ殿の帰りも待っていますね。」
ハヤテはレオルンドを見る
「なんでだよ。」
「まだラータは私を知る人間がいるからなんとかなりますが、他ではそうは行きません。最悪憲兵でも呼ばれて私の捕縛騒動になるのがオチです。過去にもいるんですよ・・・何もしていないのに捕まってそのまま死刑になった亜人が。あれは・・・リザードマンだったかな。」
「俺の世界もそうだけどこっちの世界も人種差別がすごいんだな。まぁいいや、じゃあレオには俺が留守の間にちょっくら作業してもらおうかな。」
「ええ。任せて下さい。」
ブレダはソフィーの頭を撫でながらハヤテに提案する
「明日のポルカにはソフィーを連れていきな。ギルドの職員だから手続きも馴れてるし、それにあんたまだ字が読めないんでしょ?ソフィーもそれでいい?」
「はい!私にお任せ下さい!」
笑顔でソフィーはハヤテに応える
「いやぁ助かるよ!読めない書面で換金額をぼったくられても分からないし。お願いするよソフィーちゃん。」
話しているとラータの街が見えてくる
「じゃあアタシたちはここで。明日の朝にソフィーを向かわせるよ。」
「ああ。じゃあまた。」
-プレハブ-
ハヤテとレオルンドはロドムとシグーの首を一度下ろして石灰石をプレハブのそばに置いていく
「おい、人間。」
「ん?」
ハヤテとレオルンドが振り向くとロドムの目が開いていた
「うおおおおおおおおおおお!まだ生きてんのかこいつ!」
ハヤテはスレッジハンマーを構える
「まぁ待て、とうに心臓と切り離されておる。今は残った魔力で意識があるだけだ。じきに死ぬ。」
「まさかあっちも生きてんのか・・・」
シグーを見るハヤテ
「シグーは死んでおる、ワシと違って脳をやられているからな・・・まさか200年生きた我らが敗れるとは。人間・・・お主、この世界の者でなかろう?」
「わかるのか?」
「この世界の人族でそんな力のものはおらんよ・・・誰に呼ばれた・・・」
「呼ばれた?俺はいきなり雷に打たれて気づいたらここに居たんだ。呼ばれたってどういうことだ。」
ロドムはじっとハヤテを見つめる
「ワシは昔、異界から来た人間の女を食ったことがある。100年以上前だったか・・・たしか聖国の神官たちに呼ばれたと言っておった。」
レオルンドは驚きながらもつぶやいた
「他の世界の人をこちらに召喚する・・・噂に聞く勇者召喚か。」
「ワシも魔術には詳しくはないので深くまでは知らんが、結論から言えば出来る。何人もの魔術師が30日かけて詠唱を続け呼び出すそうだ。過去に何人かが呼び出されたらしい。ワシが食った女は魔神族の王を倒すために呼ばれたらしい。その道中でワシに破れ食われたがな。」
「それは・・・聖国にしか出来ないのか?」
ハヤテの顔つきが少し曇る
「いや、優れた魔道士がいればどの国でも出来る。まぁこのエルシアにはできんがな。出来るような魔道士がおればワシなどとうに殺されておろう。これは魔神族から聞いた話だが呼び出された人間は何かしら戦闘において優れた能力を持つ。しかしお主から魔力が全く感じられないし、シグーとの戦いにおいてもなんのスキルも見せていない・・・それが気になったのだ・・・」
「戦いに使うようなスキルは持ってねえよ、魔力も一切ない。」
「お主は・・・誰・・・に・・呼ばれ・・たのだろう・・・な・・・」
「・・・おい。」
ハヤテはロドムに声を掛けるとレオルンドがロドムに近づく
「・・・完全に死んでいます。」
「くそっ。気になる事言い残しやがって・・・」
ハヤテは荷物の固定に使っていた縄を取り出すとロドムとシグーの口に巻き付け開かないようにした
「レオ。今の話は誰にも言うな。この事は少しづつ情報を探しながら考える。俺たちだけの秘密にしてくれ。・・・・頼む。」
「ハヤテ殿がそうおっしゃるのなら。わかりました。」
-翌朝-
「おはようございます!」
レオルンドが玄関の扉を開ける
「おはようございますソフィー殿。ハヤテ殿はもうじき来ますよ。」
ソフィーはログハウスを見上げる
「本当に一階は出来上がってるんですね。すごい。」
「ハハハ。二階は凝りたいとかでもう少しだけかかるそうですよ。」
ログハウスの外壁を触りながらよく観察するソフィー
「すごいなぁ・・・壁に隙間がない・・・私達のギルド支部を兼ねた家は隙間風がすごい入ってくるんですよぉ。冬なんかひどいですよ。」
ニヤッとするレオルンドはソフィーの肩を優しく叩く
「それじゃあ今年はハヤテ殿がいるから心配ないですな。」
そこへハヤテがやってくる
「おはよう。レオ、昨日伝えたことをやっといてくれ。そんなに焦らなくていいから怪我しないようにな?」
「はい。まかせて下さい!」
ハヤテは荷馬車の前に座り馬の手綱を手に取るとソフィーはハヤテの隣りに座った
「レオ、晩飯はブレダが持ってくるから昼は家にあるものを適当に食ってくれ。一応いくらか金も置いといたからラータで済ましてもいいぞ!んじゃ、行ってくる!」
荷馬車がガラガラと動き出す
(・・・母ちゃんか俺は・・・)
-続く-