第七話 火山のゴブリン族
-ラータを出て1時間ちょっとが過ぎた山道-
ガタガタと揺れる荷馬車にソフィーとブレダを乗せ、左右を挟むように歩くハヤテとレオルンド
暫く進むとハヤテは道に落ちた白く濁ったような岩を見つけつるはしで少し砕いてみる
「おっ!あったあった!」
「なんだいそれは?」
ブレダは興味なさそうに見ている
「石灰岩だよ、これがこれから大量に必要になるんだ。」
「それがセメントになるのですか?」
レオルンドはハヤテの手にある石灰岩を見る
「そうだよ。この石灰岩は何で出来てるか知っているか?」
「え?ただの石にしか見えませんが・・・」
「これはなずっとずっと大昔の生き物の死骸からできてるんだ。」
ソフィーはハヤテから石灰岩を受け取る
「これが生き物の死骸なんですか?白いから骨とかですか?」
「近い!ってかほぼ正解!石灰岩の主な成分は俺たち生き物の骨を形成しているカルシウムという成分なんだ、まぁ生き物って言っても主に貝とか海にいるものだな。」
ブレダは石灰石をまじまじと見る
「海?ここは山なのになんで海の生き物の死骸があるのさ?」
「ここは大昔は海の底だったって事だよ。俺の国じゃそこら中の山から石灰石が掘れるんだぞ?海のそこだった場所が地殻変動や度重なる幾つもの火山の噴火、いろんな条件が重なって今の大地を作った。
山ってのは地殻変動で地面と地面がぶつかりあって盛り上がって出来たってのも沢山ある。特に火山なんかは噴火でマグマを拭き上げれば冷えて固まり溶岩になる。そうしたことの繰り返して地面が出来上がったりするんだ。まあそのへんは諸説あるけどな。」
『へぇ~!』
声を揃える一同
「火山じゃない山で石灰岩が取れるような場所があれば人を雇って採掘したいな。石灰はこれからいくらあっても足りなくなるだろうし・・・レオ!そこの岩の白いところだけ砕いて採取するぞ!」
レオルンドはつるはしを振って石灰岩を採取していく
ブレダは荷馬車から降りて山を見上げる
「ここが海だったなんてねぇ。なんか・・・すごいなぁ・・・想像もつかない。」
ハヤテはツナギの胸ポケットからタバコを取り出し火をつける
「まぁここまで大地が出来るのに何万年・・・いや、きっと何億年かかってるんだ。俺の国じゃ地質学者って職業があってな。そいつらは地層から歴史を読み取る専門家なんだが、そういうやつがいない限り分かることじゃない。」
ハヤテたちはさらに採取を進めるためにさらに進んでいくとレオルンドがなにかに気づいた
「ん?この匂いは・・・」
レオルンドの顔が険しくなる
「どうしたレオ?」
「獣の匂いがします。それも複数・・・」
ブレダは背負った斧に手をかける
「このあたりはそんなに調査されていないから詳しくはないがエルシアとアドラシアの隣接地帯はよく狼の群れが出ると言われているんだ。決して油断はしないで。」
ブレダはハヤテの方を見るとハヤテは目を閉じてなにかに集中している
(この風に乗ってくる匂い・・・鉄?・・・・いや・・・・これは。)
目を開けるとハヤテは全力で木の生い茂った方に走り出した
「ハヤテ殿!いったいどうされた!・・・この匂いは・・・血か!」
続いてレオルンドも走り出す
-火山の麓・森の中-
ハヤテがニオイのもとにたどり着くとそこには黒い狼の群れに囲まれた緑色の肌の子供がいた
子供は左腕に怪我をして血を流し泣いていた
「助けて・・・誰か助けて。」
ハヤテのもとにレオルンドが追いつく
「ゴブリンの子供か!そこのゴブリン!耳をふさげ!」
「じゅ、獣人さん!?」
子供は両手で耳をふさいだ
レオルンドは大きく息を吸い込む
「立ち去れ弱き獣よ!獣王戦技!【王者の咆哮】」
レオルンドは大きな咆哮をあげた、その咆哮はライオンそのもの雄叫びだった
咆哮は近隣の森一体に響き渡り沢山の鳥や動物たちが森から逃げていく、ゴブリンの子供を囲んでいたオオカミたちも一目散に逃げていく
「大丈夫か少年。」
レオルンドはゴブリンの子供に駆け寄る
「あ、ありがとう獣人さん・・・あの。」
「気にすることはない、ここで会ったのも何かの縁だ。」
「いや、そうじゃなくて・・・」
ゴブリンの子供が指差す方を見るとハヤテがレオルンドをじっとりと見ながら両耳をさすっていた
「レオ・・・。お前そういう事するならやる前に一言言えよ!あー、耳いってぇ・・・鼓膜破れたかと思った・・・」
レオルンドはやってしまったと言う思いとともに驚いていた
(あれをほぼ真横で受けて平気でいられるなんて・・・あれは私よりも劣る力量の生き物なら無差別に戦意を削ぎ落とす技、やはりハヤテ殿は私を上回る力量の持ち主ということか。)
ゴブリンの子供はレオルンドとハヤテを見て驚いていた
「獣人族の人と人間さんが一緒にいるなんて・・・」
そこへブレダが荷馬車を引いて追いついてきた
「はぁ・・・はぁ・・・やっと・・・追いついた・・・」
ブレダはその場でぐったりと座り込んだ
「あれ?ソフィーちゃんは?あと馬。」
ブレダは荷馬車を指差すと馬とソフィーが目を回して気絶していた
「さっき・・・・はぁ・・・広範囲スキ・・・ル・・・はぁ・・・・で・・・動物・・・たちが・・逃げたと・・・はぁ・・・おもったら。気絶してたの・・・よ・・・。あたしも・・・数秒・・・気を失った・・・」
青ざめた表情のレオルンドはブレダに土下座した
「おっ、いい土下座だレオ。ところで君はなんであの狼に襲われてたんだ?」
ゴブリンの子供は大事そうに小さな包を抱えていた
「オ、オラは病気の母ちゃんに薬の飲ますために西のゴブリンの部族から薬草を分けてもらったんだ。でも近道をしようと森を通ったら狼に追いかけられて・・・。人間さん!獣人さん!オラを助けてくれてありがとう!オラは【カブ】!ゴブリンのカブ!」
ハヤテはカブの頭を撫でた
「俺はハヤテだ。そっちのがブレダ、気絶してる子がソフィー。そんでお前を助けたライオンがレオルンドだ。カブ、お前の住んでるとこは近いのか?」
「うん!この森を抜ければすぐだよ。」
「よっしお前ら!カブの村まで付いていくぞ!」
パァっと笑みを浮かべるカブ
「いいの!?ありがとう!」
ハヤテはカブを荷馬車に乗せる
「起きろ!馬!」
パシンと馬の頭をひっぱたくと荷馬はハッと目を覚ます
「あたしも荷台に乗せてもらうよ・・・疲れた。」
ブレダも荷台に乗るとカブの怪我に気づく
「怪我をしているのね、ちょっと待ちな。傷つき者に癒やしの息吹を・・・ライトヒール。」
淡い光がカブの腕の傷口を包み込む
「わぁ・・・。もう痛くないよ!ありがとう!お姉さん!」
ブレダはにこっりとカブに微笑む
「いいよなぁ・・・ちょっとでも魔力あるやつは。」
「拗ねない拗ねない!アンタも回復薬くらいは常備しておきなさいよ。」
一同は森をしばし歩き森を抜けると小さな村が見えてくる
「あれがオラの村だよ!」
民家からゴブリンたちが出てくる
「あれは・・・カブか!おーい!カブが帰ってきたぞぉ!」
村人たちが集まってくるとカブが駆け寄る
「みんなぁ!ただいま!」
「帰りが遅いから心配したんだぞ!」
「ごめんよ。早く帰ろうと思って森を抜けようとしたら狼に襲われて・・・そこの人間さんと獣人さんに助けてもらったんだよ!」
カブは笑顔でハヤテたちを指差す
ハヤテのもとに年老いたゴブリンが歩み寄る
「人間さん、カブが世話になりました。ありがとう。」
「いや、助けたのはそこのレオだ。俺は危ないと思ったから一緒についてきただけだよ。」
「獣人の方、ありがとう。」
レオルンドは小恥ずかしそうに照れる
「偶然であって助けることが出来ただけのこと。気になさらずに。」
カブがレオに駆け寄り手を掴む
「長老さま!この獣人さんが狼に襲われたところを助けてくれたんだ!すごかったんだよ!叫んだだけで狼達が逃げていったんだよ!」
「獣人様もありがとう。しかしなんとも不思議なパーティですな・・・人間と獣人族が一緒だとは。」
「私はゆえあってハヤテ殿と共に暮らしている。」
長老は驚くようにハヤテを見る
「人と獣人が・・・それはそれは面白い。さてさて、こんな所で立ち話もなんですから私の家にどうぞ。貧しい村ですがささやかなおもてなしくらいはさせて下さい。」
ハヤテはレオルンドとブレダを見る
「いいじゃないか。せっかくだしお呼ばれしよう。ゴブリンに歓迎されるなんてそう体験できるもんじゃないよ。」
ハヤテは荷馬車で寝ているソフィーを持ち上げて背中に背負う
「よいしょっと。」
「なんだいその紐は?」
背負ったソフィーを紐で自分に固定する
「なんだ、おんぶ紐を知らないのか。」
-ゴブリン族・村長の家-
村長は木のコップに入った赤い飲み物を出す
(なんだろう・・これ。)
ブレダは慎重に匂いを嗅ぐと横でソフィーを背負ったままのハヤテがグビグビと飲む
「あんた、見たことないものをよく飲めるわね・・・」
「ん?これワインだろ?葡萄の香りがするし。」
「ほっほ。ワインというものがなんなのかわかりませんが、確かにこれはぶどうを使った飲み物です。我々はめでたいときに飲む風習がありましてな、今日はカブが無事戻ったのとカブの母親の体調が良くなったのもありますが。なによりあなた方との出会いを祝おうと思いまして。」
「この村の名産なのか?」
「ええ・・・まだ小さいですがぶどうの畑を作っております。我々が西からここに移り住んだのはまだ十年ほど前ですので、まだ収益を得るものなどはないのです。」
レオルンドは出されたパンをかじる、それを見ていたハヤテ
「ん?収益ってことはゴブリンも金のやり取りをするってことか。」
「いえ、我々は人間とは取引してはもらえないので主に亜人の方々や他のゴブリンの村と物々交換でなんとか生計を立てています。」
「なんかもったいないなぁ。このワインっぽいのアルコールは殆ど無いだろうから葡萄ジュースみたいで美味しいのに。」
「ところでハヤテ殿たちは何をしにこの山へ?」
ハヤテはポケットに入った小さな石灰石を見せる
「この石を取りに来たんだよ。石灰石っていうんだけど、建築の材料になるんだ。」
「これなら村の裏手に沢山ありますぞ。もう日が暮れる、朝になったら好きなだけ取っていくといいですじゃ。」
「ハヤテ殿!やりましたな!」
レオルンドは嬉しそうにする
「助かるよ!・・・ん?なんかいま言ったか?」
ハヤテは入口の近くにいるブレダを見る
「なんにも言ってないわよ。」
『出てこい!獣人族!!』
そとからけたたましい声が聞こえる
レオルンドは表に出るとそこには巨大な黒い狼が二匹待ち構えていた
「魔獣か・・・」
「貴様が昼間の獣人か、我らはこのあたりを治める賢狼【ロドム】と【シグー】。我らの眷属が世話になったそうでな。挨拶に来てやったまでよ。」
村長の家からそっと見ているブレダとハヤテ
「あれは・・・相当やばいわよ・・・」
「ん・・・ここは・・・」
ソフィーが目を覚ます
「起きたかソフィーちゃん。」
「あれ?なんで私ハヤテさんにおんぶされてるんですか?」
「あんたレオのスキルの効果範囲にいて巻き込まれて気絶しちゃったのよ。」
「ああ・・・なるほど!ってあれ?レオさん?あの大きい狼って・・・【賢狼】ですか?」
「ソフィー。アンタあれを知っているのかい?」
「もう・・・ブレダさんは・・・ギルドに手配書来てますよ!100万バッツの懸賞金がかけられた魔獣です、たしか冒険者を何人か食べたとか・・・もともとはエルシアの西の方にいたらしいですよ。」
「100万かぁ・・・」
ハヤテがじっと賢狼を見ている
「いえ、一匹100万で二匹で200万です。」
「やるか・・・」
即断したハヤテは立ち上がり村長の家を出る
「レオー!」
レオルンドは手を振りながら走ってくるハヤテに表情が緩くなる
「ハヤテ殿・・・私の身を案じて・・・」
「俺は右でレオは左なー!」
「えっ?」
ハヤテはレオルンドを通り過ぎる
「人間風情が!我らに挑もうというのか!面白い!ロドム!手を出すでないぞ!」
シグーは右の前足を振り下ろしハヤテを叩き潰そうとするがハヤテは後ろに飛び回避する
「よっしゃ!トロールよりは強そうだな!」
ハヤテは右手を背中に回しスレッジハンマーを取ろうとする
「ん?柔らかい・・・」
「は、ハヤテさん・・・私・・・縛られたままなんですが・・・そこ・・・胸・・・」
顔を赤くしているソフィーはハヤテとソフィーの間のスレッジハンマーを引き抜き、同じく顔を赤くするハヤテに渡す
「ご、ごめん・・・忘れてた・・・」
「ここで放されても危ないんで・・・このまま戦えますか?」
「ああ。大丈夫!しっかり捕まってくれ!」
ソフィーは両手足でハヤテにがっしりと掴まる
ソフィーを背負ったままシグーの攻撃を回避するハヤテ
「人間のくせによく動くじゃないか。」
ハヤテはスレッジハンマーを横に振るがシグーは高く飛び上がり回避する
「どうした人間全く当たらないではないか!」
「賢狼って言うからよっぽどかと思ったが。結構馬鹿じゃねえかお前。」
ハヤテは全力でスレッジハンマーを飛び上がってるシグーに投げつけ、投げたスレッジハンマーはシグーの腹に当たりそのまま地面に崩れ落ちる
「お、おのれ・・・」
痛みでもがき苦しむシグーの頭頂部に向かってハヤテはスレッジハンマーを叩き込む
「何だ大したことねえな。レオ!早く終わらせろ!二匹で200万だぞ!」
「200万・・・なんだそういうことですか。」
レオルンドは肩の力を落とす
「そういうことだロドムとやら。この村も知られてしまったしな、また襲われてもかなわん。ここで始末させてもらうぞ!」
レオルンドは大剣を構える
「獣人が!その頭噛み砕いてくれる!」
ロドムは大きく口を開けてレオルンドに突進する
「風の大精霊ゼファーよ。我に風の加護を与え給え!」
大剣に巻き付くように風が流れ出しロドムの突進を回避する
「切り裂け!ウインドリッパー!」
振り下ろした大剣から放たれた風の刃がロドムの首を切り落とす
「じゅ、獣人ごときに・・・」
「ふう。スキルを使う必要もなかったな。」
ハヤテはレオルンドの肩を叩いた
「おつかれさん。さて、村長の家で飲み直すぞ!」
「はい!」
「ソフィーちゃんも下ろさないとな。」
「あー。私もう少しこのままでいいです。」
ハヤテたちは村長の家に戻っていった。
-続く-




