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第五十一話 強襲!銀鉱山!(中)

-昼間のラータ-


エルドの屋敷の応接室。

ハヤテを中心とする一同は応接室のテーブルを囲み聖国の南西部とエルシアの国境を記された地図を見ており

ハヤテは国境の山脈を見て唸るように考えていた


「んー・・・どっから侵入したらいいもんか・・・」


「無難に徒歩で入るならここじゃない?もう殆ど使われてない古い街道があるし。」


トモキが地図上に指差す場所はエルシアの小さな村から国境の山を越え聖国の小さな村へと続く街道


「それは一番最初に考えたが駄目だな。最悪エルシア側の村を巻き込んじまう・・・できるだけ人のいるところを避けたいな・・・」


ハヤテとトモキが地図を見つめているとブレダが声をあげる


「ねぇハヤテくん。実はこのあたりに街道ではないけど獣道みたいな場所があるの。そこはどうかしら?」


ブレダの指差すところを見ると地図上には何も無い


「こんなところに・・・ってかなんで知ってるんだ?」


「実は私達が現役の冒険者だった頃、聖国への潜入依頼があってね。そのときにアルドバや当時のパーティーメンバーと偶然見つけて使ったのよ。いくらか魔物は出るけどトロールほどでもないし人里ともかなり離れてる。道的には小型の馬車なら走れるはずよ。」


ハヤテはサキュバスのラフィーヌから預かった聖国南部の鉱山付近の地図と照らし合わせる


「うん・・・いいね。その道を使おう!あとは救助した人間を運ぶための移動手段だ。獣道を抜けるための機動力のある馬車を作る・・・問題はそれを牽く手段だ。馬には重く速度も落ちるだろうし、ロードビルダーやクラフトゴーレムは向いてないし・・・」


するとタイラーが妹のデミアの頭に手を置きながら答える


「それは俺達にやらせろ。俺達が獣化して馬車を引けば馬なんかよりも早いし力もあるぞ?」


「いいのか?」


「言っただろ。手伝いたいんだ、協力させろ。」


「馬車ならぬ虎車(こしゃ)か、心強いよ。じゃあ二人に合わせて馬車をつくる。あとは・・・帰路の足取りを悟られないようにする方法と鉱山進入時になにか揺動できるといいんだが・・・」


ハヤテがベルゼブブと目を合わせると少し前のことを思い出す


「なぁベルゼブブ。前に聖国に隕石を落としたろ?あれって気軽には使えないのか?」


「インフェルノメテオか・・・あれはかなりの魔力を使うし、まだあれで失った魔力が回復しておらん。私とて気軽に使えたら一度に数発はあの国に落としてやる所だ。そもそも伝説級魔法(レジェンダリーマジック)を何回も撃てるような魔力の持ち主など神でもいないぞ。」


「そっかぁ。あれを一発落とせたら良い陽動になると思ったんだけどなぁ・・・」


ハヤテの言葉にベルゼブブはトモキに目を向ける


「ハヤテよ。先程の馬車を作るのにどれほど時間がかかる?」


「んー。一日とちょっと?」


「ふむ。よかろう。トモキ、そなたに私のインフェルノメテオを伝授する。一日で覚えてみせよ。」


その場にいた全員が驚き声を上げる


「えっ僕ですか?あんな魔法・・・できるのかな・・・」


自信無さげに下を向くトモキにベルゼブブは持っていたステッキをくるくると回しながら近づきトモキの目の前でビシッと止める


「友の力になりたいのであろう?出来るかではない・・・やるしかないのだ。あの伝説級魔法を使えるのは魔王クラスか賢者クラスを上回る魔力量があるお主だけだ。」


トモキは黙ったまま両手の拳を握りベルゼブブの目を見つめる


「わかりました。やります!僕にあの魔法を教えて下さい!」


その言葉にベルゼブブは喜び大きく声を上げる


「よく言った!ハヤテよ!馬車が完成したらすぐに行動するのだろう?今からトモキの特訓を開始するがゆえしばし借りていくぞ!」


そういうとベルゼブブは目の前に扉を出現させる


「ではゆくぞトモキ!特訓だ!」


ベルゼブブはトモキの手を引き扉の中へ入っていくと扉は消えようとしており

その瞬間パルミラはなにも言わずに扉へ飛び込み追いかけていった


「・・・」


全員の沈黙が数秒続くとタクマが口を開く


「な、なぁトモキたちどこに行っちまったんだ?」


ラフィーヌは消えた扉の位置を探る


「おそらく魔界のベルゼブブ様の領地でしょう。広大な平地の続く場所で大魔法の練習にはうってつけですから。」


サンドラはパルミラの行動に驚きハヤテを見つめる


(パルミラ・・・トモキ様の為に躊躇わずに飛び込むなんて。あなたの気持ちは本物なのね。)


「すまん、続きだ。鉱山への侵入は少数で行く。鉱山と言うからにはそこまで広くもないだろうし、大人数で行っても逆に行動しづらくなる。タイラーとデミアは国境手前で待機、それとアヤとサンドラも待機してくれ、状況によってはサンドラにも獣化してもらって誰かを乗せてもらうかもしれない。」


「はい。お任せください。」


「鉱山へは俺とタクマとレオの3人で行く。」


「あたしも行くわ。」


手を上げ発言するブレダ


「アルドバは冒険者ギルドの支部長としての立場もあるから無理だけど。あたしは冒険者に戻った身だし、それにあのヴァリエッタを助けられるなんて経験そう出来るものじゃないしね。」


「そうか、頼むよ。じゃあ俺とタクマとレオとブレダで行く。」


「それでは私は中の手引をいたしましょう。私が先にヴァリエッタ様と接触し脱出しやすいよう行動を起こします。」


ハヤテはラフィーヌの言葉に少し驚きながらも問いかける


「いいのか?」


「ええ。こういった時のために諜報任務を主様より仰せつかっております。」


「すまない。では2日後の深夜に行動を開始する、それに合わせてくれ。」


「かしこまりました。では皆様2日後に・・・私は先に聖国に戻っております。」


ラフィーヌは小さな扉を出現させるとその中へと消えていく


「なぁハヤテ。あいつらの扉・・・使えないのか?」


「あれは人数制限があるんだと。」


「便利そうでそうでもないのか・・・」


その日の午後からハヤテは工房に籠もり夜になっても金属を打ち付ける音、金属を削る音が鳴り響く

アドラシアから来た獣人たちは族長のタイラーと妹のデミアを残して他は集落へ帰っていったがその日の夜に以前誘拐事件でともに行動した虎人族のアルカが入れ替わるようにやってきた

ログハウスの扉をノックするとサンドラが出迎える


「いらっしゃいアルカ。」


「フフッ・・・もうすっかりこちらの住人ですね、サンドラ様。」


「・・・冷やかさないでくれ。」


サンドラは頬を赤く染めながら返事を返す


「それで兄様と姉さまはどちらに?」


「タイラーはハヤテ様の工房でハヤテ様の作業を見学されてるわ。デミアは家の裏でレオと新しい武器で稽古してるわ。」


「新しい武器?」


「ええ。ハヤテ様に作れって頼んでたみたいなの。・・・ほら、音が聞こえるでしょう?」


アルカは耳を澄ますと家の裏の方から金属をぶつける音と一緒に衝撃音が聞こえてくる

その一方でハヤテの工房の方からは金属を打ち鳴らす音とタイラーの驚く声が漏れていた


「・・・どちらも気になりますが、兄様のほうがなお気になりますね。」


サンドラは頭の上の耳を動かすアルカを見てクスッと笑う


「じゃあ工房の方を見学しましょう。」


‐ハヤテの工房‐

工房の中ではハヤテとクラフターズが鉄板をつなぎ合わせ四角い箱型を作っており、その様子をタイラーとアヤが見学している


「・・・よし、ここで繋げろ!」


ハヤテの声に反応してクラフターズの1機が溶接機のトーチの形をしたアームで鉄板を溶接しつなぎ合わせていくとタイラーが大きな声で歓声を上げる


「すげぇ!鉄と鉄がくっつくのか!すげぇ!」


「兄様、外にまで兄様の大きなお声が漏れていますよ。」


工房に入ってきたサンドラとアルカは子どものようにはしゃぐタイラーを見て呆れている

サンドラは形になっていく馬車を見て驚く


「鉄の馬車・・・ですか?」


「ああ。中の人間を攻撃から守ることを最優先にしたんだ。ただ母さんと妹、それに執事とメイドの4人が乗るにはかなり狭いがな・・・」


「問題は重さよね。この馬車、いったい何トンあるのよ。獣化したタイラーさんとデミアだけで牽けるの?」


アヤの質問にハヤテはいくつかの金属性の小さな円柱状の物を見せる


「出だしはきついがスピードが乗れば大丈夫だと思う。グリスがないから獣脂で代用するが車輪の軸受にベアリングを使う。」


「よくそんなもの作ろうと思ったわね・・・」


「ベアリング自体はローマ時代にはその原型があったんだ。知識さえあればやれないことはないさ。」


笑うハヤテにアルカが声を掛ける


「あの・・・私にもそれを牽かせてください!」


「アルカよ・・・さすがは俺の妹だ!ハヤテ!この馬車、我ら兄妹三人で牽かせてもらおう!」


「あんたもタイラーの兄妹だったのか・・・わかった。3人で牽けるようにする。」


それからハヤテの工房からは夜も遅くまで金属を打ち鳴らす音が響き渡る


その日の夜、ログハウスに住む獣人たちはハヤテの工房あたりから漂う悪臭に顔を歪ませる


「一体何なのだ、この鼻の曲がるような悪臭は。」

「おそらくハヤテ殿が何かやっているのだろう。しかしひどいな、まるで糞尿だ・・・」


ログハウス周辺に漂う悪臭に寝付けない獣人たちは1階の食堂に降りる


「人族の鼻ではあまり感じないらしいな。」


‐同時刻の聖国‐


聖国アルトークとエルシア王国の国境の山脈の麓にある銀鉱山の街

聖国貴族が収めるこの街では多くの奴隷が使役されている

そんな鉱山の近くに建てられた粗末な建物に様々な種族の奴隷が収容されており日中は強制労働、夜間は建物内に監禁されていた。


そこへ領主に仕える私兵が大きな鍋を運んでくる

「おい。飯を持ってきてやったぞ!給仕係、さっさと配れ!」


私兵は茶色の長い髪の女に鍋を渡すと女は小さな器に少しづつ中身を移し奴隷たちに配る


「さぁみなさん、召し上がってください。」


奴隷たちはドロドロに煮込んだだけの味もしない穀物を口に運ぶ

年老いた老人は女にも食べることを勧める

「ヴァリエッタさん、あんたも食べなさい。ずっとなにも口にしていないじゃないか。」


「いえ、私はいいのです。皆さんみたいに鉱山に出ていませんし・・・これしかやらせてもらえませんので。」


私兵たちはヴァリエッタを見つめながらヒソヒソと話し出す

「あの女、音を上げるまでここに監禁しろと領主様に言われたが元A級の冒険者なんだろ?反抗でもされたら俺達じゃひとたまりもないぞ。」


「そこは大丈夫だ。そのために領主様は娘を人質にしているんだからな。」


私兵たちは空を見上げるとそこに小さな小屋のような建物が宙に浮いている

建物は地面から太い鎖で繋がれている


「しかし浮遊牢獄とは不思議なものだな。鎖で繋いでおかないともっと高いところまで浮いてしまうとか。」


「たしか天使様たちがおられる天界大陸の地盤の欠片で作られたみたいだが、もしかしたら天界大陸と同じ高さまで浮いてしまうのかもな。」


「こんばんわ。兵士の皆さま方。」


私兵たちが振り向くとそこにはサキュバスのラフィーヌと人間に化けた4人のサキュバスが立っていた

「領主様から兵士の皆さま方に英気を養っていただくために使わされました。私たちが皆様の今宵のお供をさせていただきます。」


ラフィーヌの微笑みに私兵たちがつられ集まる


魅了(チャーム)


ラフィーヌのスキルで私兵たちは思考することをやめニヤけだす


「ラフィーヌ様あとは私たちで。ラフィーヌ様は例の人物に接触してください。」


「ええ。兵士たちは少し体に支障が出る程度に搾り取ってあげなさい。」


ラフィーヌは建物に入ると中を見渡しヴァリエッタを見つけ歩み寄る


「ヴァリエッタ様ですね?はじめまして、わたくし魔王ベルゼブブ様の配下サキュバスのラフィーヌと申します。」


ヴァリエッタは壁にかかった松明を手に取り警戒する


「魔王配下の魔族がなんの用かしら。」


「ヴァリエッタ様にお話があり参りました。明日の夜にハヤテ様の率いる救出パーティーが貴女様と御息女、それと従者をこの場より脱出させます。

それではまず明日の説明ですが・・・」


「まって!いきなりどういうこと!?救出って・・・それにハヤテ様って?」


ラフィーヌはポカンとした表情でヴァリエッタを数秒見つめるとハッとする


「そうでしたね。名前をつけられないまま異世界渡りしたんでした。・・・落ち着いて聞いて下さい。ハヤテ様は貴女のご子息様です、ルシファー様によって異世界に送られたご子息がこの世界に戻ってきており、家族が居ることを知った彼は仲間とともに救出する作戦を計画しています。」


ヴァリエッタは動揺し座り込み涙を浮かべる


「あの子が・・・生きている・・・私の・・・ぼうや。」


しかしヴァリエッタは不安を隠しきれずラフィーヌに告げる


「危険すぎるわ!お願いやめさせて!あの子が生きているだけでも十分・・・私はそれだけで十分。」


「その願いは聞き入れられませんわ。まずわたくしは魔王ベルゼブブ様の命によって動いております。それにあなたの御子息のハヤテ様は仲間たちと計画を練っておられるようですので、それを止めるのは私にはできません。もちろん明日は私も協力しここの私兵たちの邪魔くらいはさせていただきますわ。」


ラフィーヌは柔らかい表情でヴァリエッタを見つめる


「ベルゼブブ様はハヤテ様と友好関係を築く事を大事になさっています。その友好関係は我々魔族にもとても有益になると信じて。ですから明日の作戦は必ず成功いたします、貴女は迷わずに信じてお待ちになっていてください。」


ラフィーヌはヴァリエッタにお辞儀をすると建物から出ていく


「ハヤテ、それが坊やの名前・・・」


ヴァリエッタは壁にもたれながら座り込むと静かに泣き出す


「良かった・・・あの子が生きてる。」


「奥さま、なにかあったのですか!?」


部屋の奥からボロボロの服を着た老人が歩いてくる


「グラン。マーサを呼んでちょうだい、二人に話しておきたいことがあるの。」


しばらくすると老人はゆっくりと歩く足を悪くした老婆を支えながら戻ってくる


「グラン、マーサ。あの子が・・・私の息子が生きていたの。」


二人の年寄りは顔を合わせ驚く


「まさか・・・・あの時の子が・・・」


マーサと呼ばれる老婆は涙を浮かべる


「奥さま、お話を詳しくお聞かせください。」


グランの言葉に頷くヴァリエッタは魔族のラフィーヌが来たこと、そしてヴァリエッタとハヤテの妹と従者を脱出させるためにハヤテが動いていることを伝えた

するとマーサとグランはヴァリエッタの手を取り口を開く


「奥さま、私たちは置いて行ってください。」


「なにを言うの!だめよ!二人ともついてくるのよ!」


「私たちは旦那様が生まれる前からエリクス家に仕えてまいりましたが。ここでお暇をいただきたく思います。どうか奥さまとお嬢様だけでお逃げください。私たちではお二人の足手まといになりますゆえ。」


ヴァリエッタは二人の手を強く握り返す


「絶対に駄目よ!二人とも今辞めることなんて認めないわ!私はあの人と約束したの、従者を絶対に見捨てたりしない!それにマーサ、あの子を産んだときに取り上げたのはあなたよ。グラン、あなたはあの子を抱いてよく庭を散歩していたでしょ? 私は絶対にあの子をあなた達にも会わせる。だからお願い、残りの人生も私たちと一緒にいて?」


二人は涙ぐみ頷く


「明日は二人とも常に私のそばにいて。」


そして夜が明け作戦実行当日となった


-続く-


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