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第四十八話 幼き頃の真実

ラータが襲撃されてから一晩明けて日が昇り街の各地での被害が目に見えて分かっていく

診療所こそは無傷だが領主の屋敷は外壁が崩れ、冒険者・魔法ギルドの建物が半壊していた

冒険者達がギルドの瓦礫を手作業で取り除いておりエルドとエルシア王がその様子を見ていた


「領主様!地下室の確認できましたがもぬけの殻ですぜ!」


「くそっ!やられたか!」


「エルドよ、そう感情的になるでない。あの状況では仕方ないであろう。まずは民たちの無事を喜ぶのじゃ。」


「そうですね。今回の襲撃で兵が一人しか死んでいないことが奇跡とも言えます。」


「今回はそれで良い。ミランダは国で手配をかけようて。それとエルドよ、わしは一度王都へと戻る。」


「わかりました。」


-診療所前-


診療所の前では先日の襲撃騒ぎもあり冒険者達が交代で診療所の警備をしている

その直ぐ側でタクマが空き樽に腰掛け空を見上げている


「足りねえなぁ・・・足りねえよ・・・」


「どうしたんだタクマ?」


タクマのもとにやってきたベルトリクスは切り落とした左腕に包帯を巻いておりマリーに支えられて歩いている


「お前さんもう歩き回って大丈夫なのか?」


「ああ。でもアヤからは歩き回る以外の行動は制限されてな・・・武器も没収された。」


「そりゃそうだ。片腕無いんだから、安静にしてろよ。」


「ああ。して先程は何が足りないと言っていたのだ?」


「・・・食材に調味料だな。胡椒(こしょう)は前回取ってきた分とルミカが作ってくれた胡椒畑の試作品があるから良いとして。それ以外だよ。塩に砂糖に油!もう少し落ち着いたら食材探しの旅にでも出るか。」


「旅か・・・いいな。その時は俺も付き合おう。」


「じゃあさっさとその腕生やせよ。」


「クハハハ!ああ!さっさと生やすさ!俺の旅も道半ばだしな。」


「あ、あの・・・」


マリーが声を上げる


「わ、私も・・・旅に連れて行ってください・・・」


「へ?」


ポカンとするタクマ


「いや、でもお嬢さん・・マリーちゃんって言ったっけ?あんた貴族の子だろ?」


「ポルカの街がなくなった時点で私は自分が貴族だなんて思ってません。ここに暮らす皆さんを見て感じました、私は何も世界の事を知らない。ポルカに住んでいた皆さんのお陰で毎日贅沢な暮らしをして生きていた。」


マリーは両手を握りしめながらタクマとベルトリクスを見つめる


「テスターで私の母は無惨に殺されました。父は・・・もう父と思いません。私は貴族でもないただの一人の娘になったのです。これからは一人の力で生きていかねばなりません。だから少しでも学び見聞を広げ、そして強くなるためにも私をその旅に連れて行ってください。」


タクマとベルトリクスは目を見合わせる


「俺は構わねえよ?でも旅となれば外で魔物と戦うこともあるだろうし、最低限自分の身は守れないとな。・・・ってこの世界に来たばかりの俺が言うのもなんだが。」


「確かにな。マリー、何か自衛手段を身につけると良い。どうだ?アンネ殿の魔法ギルドで修練してみるのは?」


「・・・そうですね。わかりました!早速行ってきます!お二人共、約束ですよ!必ず旅に連れて行ってください!」


マリーはタクマとベルトリクスに手を振ると魔法ギルドの方へと走っていった


「・・・ここに来た時は随分と憔悴していたけど、随分元気になったじゃねえか。」


「ああ。アヤの治療とタクマの旨い飯のおかげだな。」


タクマはじっとベルトリクスの顔を見つめる


「お前それ本気で言ってんのか?」


「どういうことだ?」


「・・・なんでもねえよ。さぁて俺もルミカの畑を見に行かなくちゃな。お前は絶対安静ってアヤに言われてんだから寝てろよ。」


-ログハウス-


プレハブの中でハヤテが集めた様々なジャンルの高く積み上げられた参考書を漁るアヤ


「えーと・・・これと・・・これ・・・」


数冊の参考書を手に取り外のベンチで読み始め、数時間ほどその場を動かず参考書を読み耽る


「おっ、アヤじゃないか。今日は診療所はいいのか?」


アヤが視線を上げるとアルドバとソフィーがたくさんの紙束を持っている


「あら、どうしたの?私の方は今日は休み。患者さんたちは今のところ精神的にも落ち着いてきてるしね。」


「そうか。俺たちはギルドの建物が半壊しちまったから、ここならデカいテーブルもあるし書類仕事やっちまおうと思ってな。・・・それよりそれは何を見ているんだ?」


「これ?これは医療用と競技用の装具の参考書よ。」


「なんだこれ?人間の手足か?身体の欠損した場所にこの腕や足をつけるのか!?お前さんたちの世界はとてつもない技術を持っているんだなぁ。」


「確かにこの世界に比べればの話だけど・・・まだまだ発展途上の技術だわ。でもこの世界でならもっとすごい技術が生み出せるかもしれない。」


アルドバは参考書に写った写真を見つめている

写真には片足を失った女性が義足を着けて階段を上がる様子が写っている


「こんなに優れたものを俺達の世界でさらに発展させるっていうのか・・・何を根拠にそう思ったんだ?」


「ハヤテのクラフトゴーレムよ。トモキが召喚するロックゴーレムを見たことがあるから言えることなんだけど、クラフトゴーレムはゴーレムなんかじゃないわ。」


「ゴーレムじゃない?でもああいうのはみんなゴーレムと呼ぶからなぁ。」


「ゴーレムって魔法によって創造されるものでしょ?でもクラフトゴーレムは明らかに人工物だし、本来のゴーレムは大気中のマナを吸収して活動してるって聞いたけどクラフトゴーレムは特殊な精錬で作られた魔力結晶に魔力を充填して動くから人の手がないと動き続ける事ができない。この違いから私とハヤテはクラフトゴーレムはゴーレムじゃなくて機械だと認識してるの。」


アヤは数枚の紙を取り出しアルドバに見せる


「これはクラフトゴーレムの身体をハヤテがスケッチしたものなんだけど、あんな巨大で重量のあるものが歩いたり走ったりするのは私達の世界でも実現されていないし、各所の部品は人間の筋肉や関節を兼ねた役割をしているの。ホーマ族っていうのは私達の世界よりも優れた種族なのかもしれないわね。」


「クラフトゴーレムに使われた技術と今の装具とどう関係してるって言うんだ?ってかハヤテのやつ絵描くの上手いな・・・」


「簡単に言えば【くっついているだけの偽物の手足】ではなく、この技術を利用すれば【実際に動く手足】を実現できるかもしれないの。・・・でもまだ研究が必要だけど・・・この世界のポーションの常識を覆すような回復薬の研究に義手義足の開発・・・やることは多いわね。」


そう言うアヤは小さなため息を付くが少し笑みを浮かべていた


「なんだか楽しそうだな。」


「ええ。私は医者だけどたくさんの研究を重ねて元の世界に貢献してきた。でもこの世界の魔法や素材で新しい医療技術を生み出せるかもしれない・・・そう考えるとこの世界に若返って来たことは本当に好機だわ!また長い時間かけて研究できるもの!でもまずはハヤテに金属とかの精錬をする技術を確立してもらわないとね。」


更に数日が経過しハヤテ達がアドラシアに旅立って5日目になると気温もだいぶ下がり

朝方には水も凍るようになってきた

診療所前では大きな焚き火が燃やされタクマやベルトリクス、アヤ達が暖を取っている


「寒い・・・」


ベルトリクスは目を閉じ身体をガタガタと震わせている


「やっぱ爬虫類系は寒さに弱いのか。ってかこの季節はアドラシアも寒いんじゃないのか?」


「アドラシアは命の炎を司る不死鳥様のお膝元だからな、一年通して温暖な気候なんだ。」


「へぇ。山脈ひとつ越えるだけでそんな気候が違うのか。・・・たしかに獣人の集落は暖かかったな。」


ベンチの上で毛布にくるまり暖を取るアヤは半壊したギルドの建物の方を見ている


「冒険者たち、だいぶ王都や他の大きな街の方に移住していったわね。」


「仕方あるまい。ギルドがあんな状態で尚且つこの近辺はただでさえ冒険者向きの仕事が少ない。奴らが仕事のあるところへ移動するのは誰にも止める権利はない。」


「でもちょっと薄情じゃない?ハヤテがせっかく冒険者達の宿舎建てて住める環境は作ったのに・・・冒険者の仕事がなければ農業の手伝いでもすればいいのよ。」


そこへアンネが小走りで近づいてくる


「私も暖を取らせてください~」


炎に手を向け暖めるアンネはアヤの少し不機嫌そうな顔に気がつく


「アヤさん?何かあったんですか?」


「冒険者たちの話よ・・・」


アヤの愚痴を聞いていたアンネは苦笑いする


「確かにアヤさんの言い分はわかります。でもそれが冒険者なんです・・・基本的に冒険者というのは仕事のある所に行く根無し草ですから。でも冒険者のみなさんがこぞって引っ越していったお陰で私達魔法ギルドの人間はゆったり宿舎を使わせていただけますし、そういった意味では得してますよ。」


「冒険者ギルドはどうなるのかしら?仕事が無いと潰れたりしないの?」


アヤの疑問に笑顔で答えるアンネ


「そんな事はありませんよ。確かに王都や大都市に比べたら貧しい経営ですが、ここに冒険者がいる以上存在し続けますよ!」


アヤは指を折りながら冒険者の人数を数える


「登録してるのは私、ハヤテ、タクマ、トモキ、レオとベル・・・ブレダさんも管理職から冒険者に戻ったんだっけ。・・・7人?」


「いいえ。あと3人居ますわ。ほらあそこ。」


アンネの指差す先には農家の手伝いをして藁を載せた荷車を押しているコルト、レナとエナの兄妹たちが居た


「あの子達って確かアンネと同じポルカの・・・」


「ええ。避難してきた冒険者です。彼らはこの街に残るそうですよ?」


ベルトリクスは兄妹たちを見つめる


「彼らはまだ小さく幼いがとても勇気のある子どもたちだ。」


タクマは何かを疑うように声を漏らす


「でもなんか怪しいんだよなぁ。ハヤテがいる時は必ずどっかでハヤテを見てるし。」


「それ私も感じました。たしかにハヤテさんの行動をじっと見ていることがありますね・・・あの子達はポルカ所属の冒険者ですが出身者という訳ではないんです。なんでもアルドバさんの旧友繋がりでポルカにやってきたと・・・」


「まぁ何か俺たちには計り知れないような事情があるんだろう・・・前にやった親善試合のときに俺が作ったホットドッグ食って美味しいって言いながら【みんながこれを食べられるようになったらいいな】って・・・悲しそうな顔して言ったんだよ。

確かに怪しいが悪い奴らじゃないと思うぜ?兄想いの妹達だし、本当に正直に生きてるって感じがするよ。」


するとアヤが真っ青な顔をしてタクマを見る


「な、なんだよ。」


「あんたがそんな真面目なこと言うと気持ち悪い・・・」


「お前・・・俺をなんだと思ってんだよ。」


そこへ馬にまたがったエルドとブレダが通りかかりタクマが話しかける


「どうしたお二人さん?デートか?」


「冷やかすなタクマ。憲兵から報告があってな、南の森に行くところだ。」


「森?なんだってまた・・・またアンデッドでも出たのか?」


「いや。見張り台の憲兵の話では少し前に南の森を越えた山の麓で土煙が上がっていたのと、南の森の木々が線を引くように伐採されているんだ。しかも徐々にこの街に向かって。」


「そりゃ奇妙な話だな。よしっ!俺もついていくぜ!」


「タクマが着いてきてくれるなら正直助かる。では私の後ろに乗ってくれ。」


タクマは馬に乗るエルドの後ろに跨るとエルドとブレダとタクマはラータの南口の方へと走っていく


-ラータ南部の森-


ラータを出て馬を5分ほど走らせると森に入り更に5分走ると森が急に開けた場所に出る

エルドたちは馬を止めて降りて辺りを見渡す


「これは一体・・・森が一直線に切り開かれている・・・」


「ねえエルド。あそこに積まれてる木・・・」


ブレダの指差す先には枝を落とし綺麗に積まれた丸太がある


「ん?なにか聞こえねえか?」


タクマたちが辺りを見渡しているとビルダーズが伐採された場所に残る切り株を地面から掘り出しており、更にその奥からロードビルダーが大きな音を建てながら整地している


「な、なんだこのゴーレムは!?」


エルドとブレダは進路上に立たないようにロードビルダーを見つめるがロードビルダーは地面を薄く削り脚部のローラーを振動させながらゆっくりとラータに向けて移動している


「クラフトゴーレムよりも大きいんじゃない?」


「ああ。だがこれではっきりした、ハヤテの仕業だと。・・・それで当の本人はどこにいるんだ?」


三人は周囲を見渡すがハヤテの姿は見えない


「いねえな・・・ん?向こうから馬車が来るぞ。」


タクマの指差す方からメルゴートに引かれた荷車が向かってくる

荷車は巨大なホーマ族の機械や植物が入った樽に木箱などが多く積まれている


「おや?エルド殿じゃないですか。」


メルゴートの後ろから顔を出すレオルンド


「レオ・・・これは一体・・・」


荷車を止め降りてくるレオルンド

荷車にはハヤテとトモキ以外の全員が乗っている


「ハヤテ殿が街道を造ると言い出しましてな。」


「街道だと?それで?そのハヤテと・・・トモキの姿も見えないようだが?」


「あの二人なら今はあちらに・・・」


レオルンドはアドラシア方面に見える火山を指差す


「なんでも硫黄?とか素材が沢山あるとかで二人で登っていきました。我々は鼻が利きすぎるのであの火山は苦手で・・・」


「ハヤテはともかく・・・大丈夫かトモキのやつ・・・」


タクマは苦笑いを浮かべながら火山を見つめる


「最初ハヤテ殿だけで行くとおっしゃっていたのだが、トモキも行くと言い出してな。」


「それに帰りは素材担いで山を降りるんだろ?・・・しゃあねえな、俺も今から行くか・・・」


「タクマ。その必要はないと思うぞ。ハヤテ殿はゴーレム達の生み出す空間の裂け目を使って物を運ぶ方法を確立していた。トンネルを掘る際にも土砂を外に運び出していたからな。」


レオルンドの言葉に疑問を抱くエルド


「まて、トンネルと言ったか?どういうことだ?」


「実は我ら獣人族の族長タイラーがエルド殿の収めるラータと友好関係を築いても良いと言い出しまして。それなら集落とラータを結ぶ最短距離の街道を造ろうとハヤテ殿が新しいゴーレムを使ってあの山脈を掘り抜いたんです。このメルゴートでも2時間あれば到着できるほどの最短距離ですよ。」


呆れ顔のエルドはロードビルダーの整備してきた街道を見つめる


「まったく。反対はしないが一応領主の私に許可を取ってもらいたいものだ。よし、特に問題が起きたわけじゃないから戻るとするか。」


エルドとブレダは馬をメルゴートに合わせてゆっくりと歩かせながらラータに向かっているとレオルンドがエルドとブレダに話を切り出す


「エルド殿、ブレダ殿。お二人に大切なお話があります。今夜時間をもらえませんか?」


「どうしたの?そんな真剣な顔をして。私は夜は大丈夫よ。」


「私も大丈夫だ。なにかあったのか?」


「・・・」


うつむくレオルンドはどう話をするべきか悩んでいるとサンドラが切り出す


「話というのはエルドさんブレダさんの両親の事です・・・」


エルドとブレダはサンドラの表情を見る

その表情は曇っていながらも真剣に伝えようとする


「この続きは夜に・・・タクマさんやアヤ、アルドバさんやアンネさんも交えてお話することになると思います・・・」


エルドとブレダは顔を見合わせるとサンドラに向かって頷く


「わかった。夜に詳しく聞かせてくれ。」


「はい。あとハヤテ様から言伝を預かっているのですが・・・エルドさんの屋敷にいるセバスさんも呼べとのことです。」


「執事長を?・・・ハヤテが言うのなら何かあるのだろう。わかった。」


-アドラシア・火山-


山の頂上、煮えたぎるマグマを覗くことができる火口付近、その直ぐ側では地面から水蒸気が不規則に吹き出している

トモキをおぶったハヤテが急な斜面を駆け上がり火口の手前でトモキを下ろす


「まったく、序盤でバテやがって。だからついて来るなって言ったのに。」


「ごめん。でも今回ろくに働いてないし・・・少しでも役に立とうと思って。」


ハヤテは呆れ顔をしながらトモキの頭にげんこつをする


「ばかやろう。お前がいなかったら獣人の集落は火の海になっていたし十分すぎるほど働いてるじゃねえか。俺はお前を役立たずとか足手まといと思ったこと一度もねえよ。昔からな。」


ハヤテはビルダーズを呼び出し周囲の岩を砕き始める


「お前はちっと休んでろ。ほら、ここからラータが見えら。」


トモキは立ち上がり眼の前に広がる光景に感動する


「本当だ・・・あっちにはテスター。もっと西側にも街が見える・・・その先は海かな。」


ハヤテはスキルを使い周囲の資源を探す


「資源感知・・・やっぱり腐るほどあるな。ビルダーズ!あの辺りを集中的に採取しろ!」


3機のビルダーズが岩場を砕くと黄色い塊が現れ1機のビルダーズが内蔵されたコンベアを使い空間の裂け目に採取物を流し込んでいく


「ハヤテ・・・これって硫黄?」


「そうだ。これ以上近づくなよ?こっから先はガスで俺たちは活動できない。・・・この火山の真下に獣人集落とラータの方に向かって地下水脈が流れてるんだな・・・」


「すごいね、資源感知のスキルってそういうのも見れるんだ。」


「なぁ。火山から伸びる水脈って事はこれ熱いんじゃないか?」


「そうだね温泉地にはよくあるよね。箱根温泉や草津温泉も火山で熱せられたお湯で出来た温泉だしねぇ・・・」


しばらく沈黙が続くとハヤテとトモキは顔を見合わせる


「ラータで温泉に入れるじゃねえか!」


「そうだね!広いお風呂が作れるよ!」


ハヤテは初めてドラム缶風呂に入ったソフィーのことを思い出す


(もっとデカくてあったけえ風呂に入れてやれるな。)


「気づかなかったよ・・・街の下にでかい水脈があったのは知ってたけど、この火山と繋がっていたとはな。下で温泉が採取できるなら湯の花・・・硫黄もここで取れる物より純度は低いだろうが、採取方法によってはそこそこの量は採れるだろうな。いちいち此処でガスの危険のリスクを追わなくて良いしな。・・・ならここでの採取は最低限でいいか。」


ハヤテはビルダーズの採取を辞めさせ細長い包みを用意させる


「よし!お前らは撤収だ!」


空間の裂け目に入り消えていくビルダーズたちをよそに包みを開き中から細く丸棒状に加工された木材を組み立てていく


「ハヤテ?今から帰るとなると何処かで一晩野宿することになるよね?食べ物持ってきてないよ?」


日が少し傾き夕方手前の頃、ハヤテは組み上げた木材のフレームに大きな膜を貼り付ける


「いや。ここからなら一時間もあればラータに帰れるぞ!こいつならな!」


「・・・まさかこの世界でハンググライダーを見るなんて・・・大丈夫なの?フレーム木だよ!?」


「だいじょぶ!だいじょぶ!フレームの木材はタイラーの使ってた棍棒と同じでアドラシアの【百年樹】だし。この翼の飛膜だってこないだのドラゴンの翼のものだ!耐久性に関しては俺達の世界のものよりも頑丈だ!」


ハヤテはニヤニヤと笑みを浮かべながらトモキを手招きし、自分とトモキの身体を獣の皮で作ったベルトで固定する


「覚悟決めろよトモキ!」


「決めてなくてももう飛ぶ寸前じゃないか。・・・信じてるから大丈夫だよ。」


「よっし!行くぞ!」


ハヤテはハンググライダーのフレームを掴み火山の頂上からラータに向けて走り出し崖になったところで飛び出す

ハンググライダーは風に乗りハヤテとトモキを乗せてエルシアの上空を飛ぶ


「ねえハヤテ。ちなみにこれってテストとかしたの?」


「ん?今してんだろ。」


「・・・だから一人で行くって言ったのか。ねえあそこを見て!煙が立ってる!」


ハヤテは火山からラータの間に見える岩場に見つめると岩の隙間から白い蒸気が立ち上っており、その周囲が黄色く見える


「驚いたな・・・あんな低い場所でもガスが吹き出してる。硫黄もあそこで採れるぞ・・・」


「やっぱり空からだと見えるものが違うね!」


「ああ!そうだな!硫黄はいろんな物の材料になるからこれからたくさん使うことになるしな。正直あの低い場所で採れたら助かるよ。」


トモキはハンググライダーに掴まり身体を重ねているハヤテの顔を見上げる


「・・・大丈夫?」


「あ?何がだ?」


「これからのこと・・・テスターから救助した人達のこと・・・この世界にいたハヤテの本当のご両親のこと・・・レオやエルドさん達のご両親のこと・・・考えることもやることも多いよね?みんなハヤテばかりに負担がかかっちゃうよね・・・」


「トモキ・・・俺たちが小学生の頃・・・俺はお前になんて言ったか覚えてるか?」


「あっ・・・」


「俺はお前についてこいと言った。・・・まぁまさか世界を跨いでまでついてくるとは思わなかったけどな。」


「ハハハッ。僕もハヤテがまさか別の世界に行ったなんて想像できなかったよ。」


「・・・この世界に来てもうすぐ半年になるけどさ、死ぬかと思ったこともあるし。この世界の文明の低さに驚いたこともある。でもよ、おもしれえじゃん。」


「・・・そっか。」


ハヤテの笑みを浮かべる顔を見てすこし安心するトモキ


「だいぶ暗くなってきたね。」


「ああ。この光る魔導具使おうぜ。流石にここから下は見えないけど地上に居る奴らには俺たちがいること知らせることはできるしな。」


ハヤテはランタンのような魔導具をハンググライダーの取っ手に吊るし光をつける


「ラータは近いけどまだ僕らの高度は高いよね?どうする?旋回する?」


「そうだな、パラグライダーなら自由に減速も出来たんだが・・・次はパラグライダー作るか。」


ハヤテとトモキを乗せたハンググライダーはラータの上空を大きく旋回し少しづつ高度を下げていく


-ラータ-


日も沈み辺りが暗くなるなか、領主の屋敷や診療所のある中央の広場で空を見上げるベルトリクスとマリーとアヤ


「なんだ?空に光るものが飛んでる・・・」


「大きな鳥でしょうか?」


ベルトリクスとマリーの会話を聞いて苦笑いするアヤ


「鳥じゃないわよ。この世界で空を飛ぼうとする人間なんてハヤテしかいないでしょ。ハンググライダーを作ったのね・・・この様子だと高度が高すぎてしばらく旋回しているみたいだけど。」


次第に広場には人が集まり降下してくるハヤテたちを見上げているなか、ゆっくりと降りてくるハンググライダー

中央の広場に降りようとするとハヤテは両足で踏ん張りハンググライダーの勢いを抑える


「うまくいったなぁ。次はもっとはやく降下できるように改良してみるか。」


「やっと地面に足を着けるよ。ああ安心する。」


ハヤテは二人を固定するベルトを外し自由になると辺りを見渡すと全壊したギルドの建物、壁の崩れ落ちた領主の屋敷が視界に入る


「おいおい・・・なんでこんな荒れてるんだ?」


「よく帰ったなハヤテ、トモキ」


近づいてくるベルトリクスと目を合わすハヤテは真っ青な顔をする


「お前・・・その腕・・・何があったんだ。」


ベルトリクスは切り落とされ包帯の巻かれた腕をさすりながら答える


「まぁ見ての通りなんだが・・・」

「ハヤテ、お前たちがいない間に襲撃されたのだ・・・テスターの生き残りにな。」


ハヤテのもとに歩み寄るエルド


「襲撃って・・・他にけが人は?!」


「王国から来ていたガーランドの部下が一人死んだ、それとアンデッドゴーレムに取り込まれかけたベルトリクスの腕だな。」


「そうだよ!ベル!お前腕失くしちまって・・・」


「まぁその事なんだがな。腕は魔力と栄養のある食事でそのうち生えてくる。」


「まんまトカゲだな・・・まぁ生えてくるなら良かった。しばらく何もすんなよ?」


「ああ。タクマにもきつく言われてる。」


ハヤテが周りを見渡すとエルドの肩に手を乗せる


「エルド。今からブレダとアルドバとアンネさんを屋敷に集めろ。」


「サンドラ殿から聞いたが我々に関する話なんだな・・・」


エルドがハヤテの顔を見るとハヤテは少し曇った表情をしていた


「それと・・・お前の所にいる執事の爺さんだ。そいつも呼んどけ。俺もタクマとアヤたち連れてすぐに行く。」


そういうとハヤテは急ぎ足でログハウスの方へと帰っていく


-領主の屋敷-


ハヤテとトモキが戻ってから一時間ほどが経ち屋敷の応接間にはハヤテに呼ばれた者たちが集まっていた

応接間に入ってきたハヤテは部屋に入るなり席に付き口を開く


「呼び出して申し訳ない。帰ってきていきなりなんだが大事な話があるんだ。特にエルドとブレダ。それにレオとサンドラの事についてだ・・・ちなみにレオとサンドラ・・・アドラシア組にはもう話した。」


エルドとブレダは顔を見合わせる


「私達とレオ達のことか?私達の親のことだと聞いたがどういうことだ?」


「その前にエルドとブレダの親の話を聞かせてくれないか?」


「私達の親か。ハヤテには前に酒の席で話したと思うが我々の親たちはラータの近くに現れた魔獣を討伐し相打ちとなって死んだ。」


「そうだな。俺がここに来たばかりの頃に俺とエルドとブレダで酒を飲んでるときに確かに聞いた。・・・んで、同じこと聞くけどさ。こいつらの親たちはどうしたんだ?執事さん・・・たしかセバスって言ったっけ?」


全員がエルドの執事セバスに視線を向けるとセバスはハヤテに答える


「エルド様の仰っていたことが事実でございます。」


「・・・暴食の王。知ってんだろ?」


ハヤテの口から発せられた名前に驚きの表情を見せるセバス


「なぜ・・・その名を・・・あなたはいったい・・・」


顔色を変えその場で膝をつくエルドの執事セバス


「アンネさん。記憶読みの魔導具って俺が意識のある状態で見たものは何でも再現できるの?例えば・・・幻覚みたいなものとか。」


「できると思います。その人の見たものが記憶として残っているものではっきりと思い出せるなら。」


アンネはカバンから記憶読みの魔導具を取り出しチェーブルに置く


「じゃあ俺の記憶読みを頼んでもいいかな?今から見せるのは俺が口で説明するよりも伝わると判断したからだ。セバスさん、これが終わったら話してくれよ・・・あんたの知る限りのことを。」


「・・・」


アンネは魔導具を手に取りハヤテの横に立つ


「では行きます。その時のことをよく思い出してください。」


魔導具の水晶部が光りだすとハヤテとエルドが夕方のラータで墓石を作っているところが映し出される。

ハヤテの目線で映し出される昔のラータ、エルドとブレダそしてレオルンドとサンドラの両親、そして白金鎧の聖騎士ラインハルトとハヤテの会話


「姉上、私は幼き頃のことはあまり覚えていないのですが・・・あの二人が私達の父上と母上なのですか?」


目に大粒の涙を浮かべ隣に座るレオルンドの手を強く握るサンドラ


「ええ。あの人たちが私達の両親。仕方ないものね、レオはまだ2歳の頃だったから・・・」


「ママ・・・」


ブレダも涙を浮かべながらも映像に映るアマゾネス族の女性を見つめる


「お父上・・・母上。」


エルドは両親の姿をずっと見続ける

移動した両親たちを追いかけ森に入り暴食の王と戦闘している光景が映るとその場にいた全員がどよめく


「なんだ・・・この化け物は・・・父上たちはこれと戦い相打ちになったのか?」


「違うぞエルド。相打ちでも勝っていたなら嘘なんか付く必要無いんだよ・・・なぁ執事さん?」


うつむき肩を震わせるセバス

映像は暴食の王がその場の全員を食い、エルドの祖父ギルバートとブレダの祖母パルテアが駆けつけ、パルテアの命を引き換えに暴食の王を封印する所が流れていた


「・・・うそ・・・おばあちゃん。」


座っていた椅子から崩れ落ち床に伏せて泣き出すブレダ、エルドはブレダの肩に手を置き慰めようとする

映像の中のギルバートはパルテアの大剣を持ち上げその場から去っていく


「俺が見たのはここまでだ。」


セバスはエルドの前で土下座する


「申し訳ございませんエルド様!わたくしは長年エルド様たちを・・・騙しておりました・・・」


「セバス。話してくれるな?」


「はい。・・・あれは15年ほど前になります。南の森に突如あの化け物が現れラータの近隣の小さな集落を襲う事件が起きていました。そこでエルド様の父上ホランド様は奥方のエリカ様と討伐に向かおうとしていました。」


(なぁアヤ、昔はこの周りに集落とかあったんだな。)


(タクマ!こういう時くらい静かにしてよ。)


タクマとアヤの小声に気がつくセバスは話を続ける


「近隣の集落はこの事件をきっかけにこのラータに集まったのです。そしてホランド様たちは事件のあった集落に調査に向かった所で例の化け物に遭遇しました。明らかに異質で勝ち目がないと判断したお二人はラータに戻り前領主のギルバート様に報告し対応策を練るのに苦労していた所、アドラシアから来た獣人の夫婦が友好の為に交流に来たのです。そこでその夫婦は化け物の討伐を手伝うと申し出てくださり、まずはあの化け物は何なのかを調査することとしました。」


セバスは一冊の手記をテーブルに置く


「これはホランド様たちが必死に調べて集めた情報が書かれております。情報を集めた結果・・・倒せないと判断した皆様は犠牲ありきでの封印をする決断をしたのです。複数で挑み少しでも化け物の力を削り、誰か一人が命を代償に拘束の魔導具を発動させ、古代エルフが作ったと言われる封印の力を持った壺の魔導具にて封印する。封印後はアドラシアの火山の火口にその壺を投げ入れる・・・そこまでの計画でした。」


「それでおばあちゃんは・・・」


「はい。パルテア様の犠牲があってこそ封印は成功いたしました。ですがギルバート様にはその先が実行できず森の中に埋めてしまい、そのままあの化け物を倒す別の方法を求めて旅立たれていきました。」


セバスは大粒の涙をこぼす


「まだ幼かったエルド様とブレダ様にはあまりにも酷ゆえ・・・嘘をつき続けたこと・・・どのような処罰もお受けいたします・・・」


エルドはセバスの肩をそっと掴み立たせ抱きしめる


「すまなかったセバス。一人で辛い思いをさせてしまった。そして私達のために・・・ありがとう、よく話してくれた。幼かった私とブレダを育ててくれたのはお前だ・・・もう泣かないでくれ。」


「そうよセバスさん。ありがとう。」


ブレダとエルドの目を見てセバスは更に込みあげようとする涙をこらえる


「もったいなきお言葉・・・」


そこに大きく手を叩き全員の視線を集めるハヤテ


「さて。こっからが問題だ。どうすればアレに勝てるのか・・・そこを考えないとな。」


「待てハヤテ!父上たちがやっとの思いで封印してものを解き放つというのか?!」


「当たり前だろ。もちろん何かしら勝算を得てからの話だ。封印と解くからには確実にその化け物を殺す!そしてエルドとブレダ!レオにサンドラ!お前らの父ちゃん母ちゃんを必ず助け出す!」


「ハヤテ様・・・」


涙を浮かべるサンドラの肩にそっと手の乗せるアヤ


「それじゃあ、それまでに私はもっとミネルヴァの力をうまく使えるようにするわ。戦力はあったほうが良いものね。」


「そういうこった。どっから調べたら良いかわからんが俺たちのやることは決まった!みんなそのつもりでいてくれ。」


全員が頷くとハヤテは席を立ち上がる


「じゃあそういう訳だから、俺はさっさと寝るとするわ。明日もやることが多いからな。」


ハヤテはそのまま部屋から出ていく


-続く-

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