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第四十話 テスター攻略戦(中)

-テスター南部-


激しく燃えるテスターの冒険者ギルド

燃え盛る建物はメキメキと音を立てながら崩れていく


崩れる建物を見ているタクマとアンネ


「まぁ見事に何もなかったな・・・」


「ええ。何もないというより中身が処分されて大分経っていますが・・・」


「ギルドの人・・・殺されちまったのかな?」


「おそらく領主の傘下に入った冒険者の仕業でしょうね。嘆かわしいことです。魔法ギルドもひどい有様でした・・・朽ちた遺体・・・ボロボロのローブ・・・女性職員はここの被害者と同じような目に合わされたのでしょう・・・」


「・・・はぁ。なんかこっちの世界も色々と残酷だよな・・・なんか無性にイライラしてきた。」


タクマは両手を開くとそれぞれの(てのひら)に巨大な火の玉を生み出す


「こういうときはスカッとしねえとな!どうせ人なんか居ねぇんだ!燃やしちまえ!」


タクマは巨大な火の玉をそれぞれ建物に向かって投げつける


「ファイアボルト!!」


タクマの放ったファイアボルトは建物を吹き飛ばしながら南地区から西地区の方へと飛んでいく


「・・・タクマさん。ファイアボルトなんか使えるんですか?ファイアボールなんかよりも上位の魔法ですよ?」


「ん?ああ。俺と契約したアグニのお陰で炎の魔法は全部使えるらしいな。便利だよなぁ!」


あっけにとられた表情でタクマを見つめるアンネ


(すべての炎魔法・・・さっきのファイアボルトは通常の物より威力が段違いだった・・・

超位精霊に気に入られたってのもあるけど、そもそも炎適性が高いのね。)


「アンネ殿、魔法ギルドの屋根裏でこのような物を見つけました。あとは何も残ってません・・・」


レオルンドがアンネに見せたのはアンデッドゴーレムを意図的に作り出すための魔道具だった


「なんで魔法ギルドに【不浄の魔神像】が・・・」


「なぁアンネちゃん。これってしばらく前に戦った奴らがアンデッドゴーレムになった原因だよな?」


「はい。なんでこんな禍々しいものがギルドにあるのか・・・これは後ほどアルドバさんと相談して処分します。」


アンネは布で不浄の魔神像を包みカバンにしまう


-同じく南地区・作業小屋-


ボロボロになった外観の木造の小屋

あたりに人の姿はなく、小屋から生臭い匂いが漂ってくる


ブレダが扉を蹴破り中に入ると正面には無数の死体が転がり、鎖で壁に繋がれてまだ生きている女性たちの姿があった

ブレダは大斧で鎖を叩き切り女性たちを開放すると表へ連れ出す


「大丈夫?助けに来たわ!」


助けられた女性は大粒のナミダをこぼしながらブレダたちに逃げるように警告する


「早く逃げましょう!ここの見張りの男が戻ってきます!」


「ねぇブレダ。この人の怯え方・・・普通じゃない。一旦ここを離れましょう。」


アヤの言葉に頷くブレダは小屋を離れようとすると男が声をかける


「おい。なんだ?お前らか?女ども開放して回ってんのは。」


全員が振り向くとそこには2メートルは超えるであろう全身鉄製のフルプレート鎧の大男が立っていた


「おいおいおいおい。困るじゃないかぁ。勝手に家畜逃されちゃあよぉ。」


「こいつか!見張りの男は!」


ブレダは斧を振り上げ男に斬りかかるが、男が装備していたハンマーで弾かれてしまう


「おお、いいねぇ。元気があってぇ。戦士タイプの女は犯し甲斐があるってもんだぁ!」


男は兜からよだれをたらす


「反抗的な女は手脚をこいつでめちゃくちゃに潰してから犯すとよぉ?蛆虫(うじむし)みたいに這い回ってやがるんだぁ。そうなっちまうとどんなに気が強くても最後には自分から「殺してくれ」って頼みやがるんだよぉ。ッゲヒ!」


男は下品な笑い声を上げてブレダにハンマーを振り下ろすがブレダはとっさに後ろに下がる


「そういやぁこないだ犯した戦士も良かったなぁ。でもあんま殺しちまうと女がいなくなっちまうから・・・そうだぁ。そこの女、繁殖用になれぇ。」


男はアヤを指差すがアヤの前にすかさずトモキが立つ


「なんだぁ?チビでヒョロヒョロした野郎が・・・俺とやろうってのかい!?」


トモキを馬鹿にする発言にパルミラは激高し男に短剣で斬りかかるが男はパルミラを掴み投げ飛ばす


「獣人かぁ・・・体の作りは人間とエルフとそう大差はないし。お前も繁殖用にするかぁ。」


「召喚!ロックゴーレム!」


トモキは杖を地面に突き立てると地面から岩で作られたゴーレムが現れる

ロックゴーレムは右腕を振りかざし男に殴りかかるがハンマーを拳に打ち込むことでロックゴーレムの腕を粉砕する


「残念だったなぁ!ロックゴーレム程度なら俺の敵じゃないんだわぁ!」


「ロックプリズン!」


再びトモキが杖を地面に突き立てると男の周囲に岩が突き出し男を閉じ込めるが、それもハンマーによって砕かれる


「残念だったなぁ魔道士!お前と俺じゃ相性が良くないみたいだぁ。岩ってのはぁこうやって使うんだぁ!」


男はハンマーを振りロックゴーレムの胴体に当てると砕かれた胴体の破片がトモキに向かって飛んでいく。トモキは両腕で正面を守るが一つの岩がトモキの右腕の骨を砕く


「くっ!!」


額から汗を垂らしながら歯を食いしばって必死に堪えるトモキ


「トモキ様!・・・きさまぁ!!」


再び激高したパルミラは短剣を両手で持ち男に飛びかかり方に短剣を突き立てると鎧の留具が壊れ上半身の鎧が外れる

男はパルミラの足を掴み地面に叩きつける


「獣人んん!お前から犯し殺してやるぅ!」


男が脚部の鎧を外し腰布一枚となるとパルミラに覆いかぶさろうとする


「ふざけないでよ・・・」


男はアヤの方を見る


「女を家畜みたいな言い方して・・・よくわかったわ。領主みたいな悪人が治める街だと貴方のような悪人が集まってくるのね。でも環境だけじゃない。貴方みたいな心の腐った不細工がこういう悪い環境を増長させる!」


アヤの周りに魔力が集まりだし魔力は人の形を形成していく

アヤの前に現れたのは巨大な大鎌を持った鎧姿の女性。大鎌の柄には赤い旗が結び付けられている


「我はミネルヴァ。この大陸の遥か南、砂漠の国の戦争と医療を司る神なり。」


ブレダはミネルヴァと名乗る存在を見つめる


「他の大陸の神様・・・なぜアルス大陸に。」


「アヤよ。我が力を受け入れよ。そして万人のための癒し手になるのだ。」


アヤはミネルヴァを見上げる


「医者になったのはハヤテのためだった。その理由は個人的なもので不純かもしれない・・・でも私は医療に携わる者として救える命はできる限り救いたい!・・・お願いミネルヴァ。私に力を貸して・・・」


ミネルヴァはアヤの瞳を見つめ笑みを返す


「祝福を受けし我が子よ。そなたに癒やしの力と雷を与える。そなたにできる戦いをし、癒やしを求めるものに救いの手を・・・」


ミネルヴァは人の形から流れる魔力と化しアヤの中へと入っていく

アヤは肩に掛けたバッグを地面に下ろすと中から一本のメスを取り出す


「これは医療道具だから本当は戦いに使いたくないんだけど・・・今は仕方ないわね。」


アヤはメスを右手で持つと目を開き男を睨みつける


「ッゲヒヒ!犯すのはお前からだぁ!」


男はアヤに向かって走り出すとアヤはゆっくりと歩き出す


「イメージが伝わる・・・どうすればいいか・・・わかる。」


男は両手でアヤを掴もうとするがアヤはそよ風に巻き上げられた花びらのように男の頭上にまで飛び上がる

アヤは男の全身を見つめるとメスを持っていない左手に魔力を集め、男の頭に乗せる


「大丈夫・・・痛みは感じないわ。」


アヤは男の頭部に電流を流すと背後に立ち素早く右腕を振るう


「いま・・・何したの?腕を振っただけ?」


トモキの言葉に返すパルミラ


「いえ。今5回振りました・・・」


男は何も抵抗することなく仰向けに倒れる


「どう?痛みはないでしょ?」


男を冷たい目つきで見下すアヤ


「身体がうごがないぃぃ」


「それはそうよ。貴方の手と足、そして首の筋肉は切ったもの。」


「うぞだ!血が出でない!」


「それは私の腕が良いってことね?血管を避けて筋肉を切ることくらい訳ないわ。ちなみに傷口はこの魔力で作った縫合糸でちゃんと縫合してあげてるのよ?」


アヤは左手を掲げると指先から銀色に輝く糸のようなものが出ている


「さぁ貴方には痛みは与えないけど、ここの人たちを同じく苦しい思いしてもらうわよ。」


首から胸にかけてメスを入れ身体を開く


「うっぷ・・・」


ブレダは吐き気を堪えながらも見ている


「喉から肺にかけての器官を切開、器官の太さを10分の1にして縫合。」


アヤは男の切り開いた部分を閉じると男を見つめる


「一応酸素は取り込めるけど貴方の体格じゃ圧倒的に酸素量が足りない・・・苦しみながら窒息なさいな。」


男は苦しそうにもがこうとするが手足を動かせないため暴れることもできず顔色だけが変色していく


「ふぅ。やっぱりメスを戦いに使うものじゃないわね・・・さて行きましょう。領主の屋敷で集合だったわね?」


「う、うん。」


トモキは青ざめた顔でアヤから視線をそらす


(こ、こわいいいいい!!ハヤテ助けてぇぇぇぇぇ!!)


「アヤ!すごいじゃないあなた!聖属性に雷属性だなんて!トモキくんなみに珍しいわよ!」


「そうなの?」


「まずこの大陸に雷を司る精霊や神様はいないし、手に入れようにも他の大陸で出会えるとは限らない。聖属性は何十年も信仰を捧げた神官でも習得は難しいわ。低位の回復魔法なら魔力があれば誰でもできるけど、より複雑な回復魔法は聖属性が必要なのよ。獲得できるのはセンスのある人だけね。」


ブレダとハイタッチするアヤはトモキの腕を見る


「そういえばトモキ、腕骨折してるわよね?治してあげるから見せなさい。」


アヤはトモキの腕を見つめると両手でそっとつかみ魔法を唱える


「医療術式・・・持続治癒(パーシステンスヒール)


トモキの折れた腕は皮膚の色が血色良くはなるがアヤはトモキの腕に木の棒を添えて包帯を巻く


「あれ?治ったんじゃないの?」


トモキは不思議そうな顔をする


「前にアルドバさんに聞いたでしょう?治癒魔法は傷を治して塞ぐけど消毒なんかしないし・・・かえって危ないのよ。それにトモキの骨結構ポッキリ逝ってるから・・・持続するヒールで時間をかけるわ。・・・それでも私達の世界の医療なんかより早く治るわよ。」


「ああ。そうだったね。ありがとう。」


そこへ魔法ギルドの職員が歩いてくる


「ブレダ様。私たちはアンネ様の指示で東門に後退します。なにか手伝えることはありますか?」


「それじゃここで保護した被害者を連れて行ってあげて。私たちはこのまま領主の屋敷に向かうわ。」


「わかりました、アンネ様とタクマ様、レオルンド様も屋敷に向かわれています。みなさんもお気をつけて。」


保護した被害女性はギルド職員に連れられて歩いて行く


-テスター領主の屋敷-


3階建ての巨大な館

頑丈そうな正面の扉はアルドバがいくら押しても開こうとしない


「参りましたな・・・裏から鍵をかけられているようです・・・どうしますか領主殿?」


「そうだな・・・ハヤテ?あの扉は破壊できるか?」


「いいのか?壊しても。」


「ああ!構わん!思い切りやってくれ!」


「まかせろぃ!」


ハヤテは30メートルほど後ろに下がると扉に向かって走り出す


「こんばんわ!!N○Kでーす!!」


勢いに任せ扉を蹴破るハヤテ

扉は屋敷の中へ吹き飛び玄関ロビーがあらわになる


「ハヤテ。なんだ今のは?えぬえい・・・」


「俺の世界の家にお邪魔するときの挨拶みたいなもんだ!気にすんな!」


玄関ロビーに入ると正面の階段に鎖に繋がれた大きな男が立っている


「おまえ、トーマスか!」


アルドバは驚きの表情を見せながらトーマスと呼ばれる男に近づこうとする


「アルドバの旦那。来ないでくれ!」


「どうしたトーマス!お前さんは無事なんだな!?アッシュたちはもう・・・」


「ドジ踏んじまったよ・・・ここの領主に・・・かけられちまった・・・」


「かけられた?いったい何を・・・」


「魔人化の呪法さ。もう時間がない・・・みんな逃げてくれ!」


「魔人化・・・だと。そんな禁忌を・・・領主が使えるっていうのか。」


「今はそんなことどうでもいい!!早く逃げてくれ!ハ・・・ヤ・・・ク」


ハヤテはエルドの前に移動するとアルドバに声をかける


「なんか変じゃないかあいつ。なんだか変な感覚だ、胸のとこがざわざわする。」


「オヤッ・・・サン。ミン・・・ナ・・・」


トーマスの体は徐々に巨大化し、その身長は3メートルを超す高さとなる

皮膚が岩のようにゴツゴツと変異し、指からは何でも引き裂いてしまうような鋭利な爪が伸びる



「これが魔人化・・・」


エルドの額から大粒の汗が流れると同時に魔人はエルドにめがけて突進する

あまりに一瞬の出来事に横を通り過ぎる魔人を見逃すアルドバ


「領主殿を守れハヤテー!!」


「おう!」


ハヤテは両腕で魔人の突進を受け止めるがその威力に耐えきれず壁を突き破り隣の部屋に吹き飛んでいく


「ハヤテ!」


エルドは腰のレイピアを抜き構えるが異様な魔人の姿に剣先が震える


「アルドバ!ハヤテの様子を!」


「そんなことを言っている場合じゃありませんぜ!次はこっちに来ます!」


魔人は再度エルドにめがけて突進しようとすると気配を殺していたサンドラが魔人の背後を取り飛び上がっていた


「よくもハヤテ様を!」


サンドラは力いっぱい振りかぶり魔人の背中をめがけて両剣を振り下ろすが一同は魔人の行動に目を疑う

魔人の背中から新たに2本の腕が生え、その腕がサンドラをつかむ


サンドラは魔人に握りしめられ苦痛で叫び声を上げると隣の部屋の壁を再度突き破りハヤテが飛び出す

ハヤテはレオルンドの持つような大剣を両手に1本ずつ持ち、右手の大剣でサンドラをつかんだ魔人の腕を切り落とすと大剣は砕け、左手の大剣を魔人に投げつけると大剣は魔人を貫き壁に突き刺さる


「サンドラッ!」


ハヤテはスライディングで落ちてくるサンドラの下に潜り込み受け止める


「おい!大丈夫か!怪我してないか?」


「は、はい。だいじょぶでしゅ・・・」


顔を真っ赤に染め、愉悦に浸るサンドラ


(また助けられたまた助けられたまた助けられたまた助けられたまた助けられた・・・しあわせぇ・・・)


「ハヤテ!そんな武器どこで見つけた?」


「隣の部屋に武器がたくさんあったんだよ!」


「くっ!」


サンドラは声を漏らす


「どっか痛めたのか?アルドバのおっさん、サンドラを連れてここを離れてくれ!エルドも!」


ハヤテは隣の部屋から再び大剣を両手に装備して魔人の前に立つ


「ここは武器は腐るほどある!俺の一回で壊すデバフがあってもここなら壊し放題だ!さっさと行け!そんで他の奴らと合流しろ!」


ハヤテの声にエルドとアルドバはサンドラを抱えて外に出る


-屋敷前-


屋敷を出たところでエルドとアルドバはサンドラをそっと芝の上に寝かせる


「さっき握りしめられたときに痛めちまったか・・・」


アルドバはサンドラの様子を心配するがエルドは腰につけたカバンを外し身軽になると屋敷に向かって歩き出す


「領主どの!」


「サンドラどのの事は頼むぞアルドバ、私はハヤテの加勢に行く。私はラータ家の当主として民を守らねばならない。民の幸せを第一に考えなければならない。それがラータ家の教えであり、私が何よりも優先すること。」


エルドはレイピアを抜き鞘を捨てる


「祖父や父上にまだ届かぬかもしれないが。私もラータの人間!かつて【王の剣】と呼ばれた貴族の者!そうそう遅れはとらんよ!」


エルドは屋敷の玄関に走り出しながら自身を魔法強化する


「ヴァリアントパワー!プロテクトアーマー!ハイフィジカル!」


屋敷内に戻ったエルドはレイピアを構え魔人に向かって走り出す

エルドに気がついた魔人はエルドに向かって拳を振るうが紙一重で避けられる


「確かに動きは早いが図体が大きい分攻撃が大振りだな!」


そこへ大剣を持って飛び上がったハヤテが魔人の右腕を切り落とす


「おっしゃぁ!あと一本!」


「ダブルスマッシュ!」


ハヤテの攻撃に続いてすかさず追撃を入れるエルド

エルドの素早い2連突きは魔人の両目を貫き視界を奪う


「ナイスエルド!ってか戻ってきたのかよ。」


「友人一人に戦いを任せきりにするわけにもいくまい。私はな領主としてではなく友人をしてお前の隣に立ちたいのだよ。」


照れくさそうに笑うハヤテは砕けた大剣を捨て大斧を拾う


「よし!あとはあいつの首を落とせば終わりだ!エルド!この街のクソ領主、引きずり出すぞ!」


「ああ!」


大斧を引きずりながら走るハヤテは魔人の左側に回り込むと斧を振り上げ首に狙いを定めるが魔人の口から放たれた光線に腹を撃たれ、地面に転がる


「ハヤテ!」


駆け寄るエルドはハヤテの身体を確認する

ハヤテのツナギは腹部のところが焦げて穴を開けていたが肉体は赤く火傷のような傷で済んでいた


「いってえ・・・何があったんだ・・・」


よろけながら立ち上がるハヤテ


「ハヤテ。あれを見てみろ。」


エルドの指差す方を見るハヤテ

魔人は大きく口を開き、その中で巨大な目玉がギョロギョロと動きエルドとハヤテを見ている

魔人は咆哮を上げると一瞬で切り落とされた腕を再生させる


魔人は口の中の目玉に魔力を収束させて高出力の魔力光線を撃ち出すとハヤテはエルドを突き飛ばし、突き飛ばされたエルドは窓から外に放おり出される


「ハヤテ!!」


放たれた魔力は屋敷の壁を貫き、立ち並ぶ住宅を巻き込みながらまっすぐ北へ向かって飛んでいく


「領主殿!」


駆け寄るアルドバにエルドは撤退指示を出す


「サンドラを連れて・・・東門に逃げろ・・・」


そこへ他の全メンバーが合流する


「ちょっと何なの今の魔力波は!?」


ブレダの問いにエルドは意気消沈したように小さな声で答える


「屋敷の中に・・・魔人がいる。私をかばってハヤテが・・・」


その言葉にアヤとタクマが屋敷に向かおうとするがレオルンドとアンネに止められる


「お二人とも待ってください!魔人に挑もうというのですか!?無茶です!」


「アンネ殿の言う通り!魔人は精鋭が100人集まってやっと倒せるような規格外の生き物なんです!」


「ならどうしろって言うんだよ!」


-瓦礫の中-


崩れた瓦礫の中

全くの視界がない状態でハヤテはなんとかもがこうとする


(だめだ・・・力が入んねぇ。ってか俺の身体まだ全部つながってんだろうな?)


「ハヤテ。」


(その声、ラインハルトか。お前本当に何なんだよ。ちょいちょい現れやがって・・・)


「もうすぐその答えがわかる。」


(もうすぐ死にそうなんだが俺。)


「私は君の発動させたスキルについていくつか思うところがある。」


(スキルとか今はどうでもいいだろ。)


「まぁ聞け。お前のスキル【破壊を司るもの】は私が13番目の大天使ルシフェルから貰い受けたものだ。本来であればその場にいる者すべてを殺すまで止まることのない狂戦士のスキル。」


(そりゃエレアから聞いたよ。)


「私は当時魔女の祝福を受けることで制御を得ることができた。だが君は違う。世界渡りを2度も経験したからなのか・・・理由は定かではないがスキルの本質が変わっていたのだ。」


(世界渡り?2回?何いってんだ?)


「強く願え。思いを。」


(思い?)


「君が何をしたいのか強く思い浮かべろ、それでならスキルは暴走しないだろう。」


(本当か?)


少し考え込むとハヤテは大きく深呼吸する


「・・・スキル・・・発動!」


-屋敷前の広場-


瓦礫をまたぎ屋敷から顔をだす魔人はエルドの姿を探すがエルドたちは建物の影に姿を隠す


「くそう。やろう領主殿を殺すことが最優先なのか。」


「エルド!あなたは先に逃げて!」


ブレダとアルドバの声が聞こえてないのかエルドはずっとハヤテの心配をする


「まだあの瓦礫の下にハヤテが・・・」


「エルドさんよ、うちらの大将がそう簡単にくたばるかよ。」


タクマはポケットから出したハヤテのタバコに火をつける


「野郎はゴーレムより頑丈だ。」


「タクマの言う通り!ハヤテ殿があれしきでやられるなど・・・」


その時屋敷の方角から魔人の咆哮とは違う別の咆哮が聞こえる


「なんだ!?」


アルドバとブレダが物陰から顔を出す


瓦礫の中から飛び出したハヤテは全身が白く光っている

獣のような咆哮を上げながらハヤテは魔人の足を掴み近くの建物に叩きつける


「ハヤテ!」


エルドは物陰から姿を出すと魔人も反応しエルドに目玉を向けるがハヤテは魔人の顎を蹴り上げ光線が上空に放たれる


「アルドバさんよ。あれがハヤテの例のスキルか?」


「ああ。だがなんか前とまた雰囲気が変わってる。今回はあの光が出てる。」


ハヤテは魔人に激しく高速で連打を当て続けると後ろに回り込み背中から生えた2本の腕を引きちぎる


「すっげぇ・・・あれもう人間の域出てるだろ・・・」


タクマはハヤテの姿にあっけにとられる


「ん?」


エルドはハヤテの姿を見てあることに気がつく


「みな!屋敷に突入するぞ!」


「領主殿?」


「ハヤテを見ろ!」


全員がハヤテを見ると左手で屋敷を指さしていた


「あいつ今回は意識あんのか!?」


「アルドバ!今はどうでもいいわ!ハヤテくん言う通り屋敷に向かうわよ!アンネはサンドラをお願い!」


「はい!」


-屋敷内-


玄関ホールの階段を上がり2階の大広間に入ると大広間にはいくつかの牢が置かれていた


「なぜここにまで牢屋が・・・中に誰かいるぞ!アルドバ!頼む!」


アルドバが近づくと驚き大声を上げる


「領主殿!エルフ族だ!エルフ族が捕まってる!」


「なんだと!?急ぎ解放し傷の手当を!」


アヤがエルフ族に近づき身体を診る


「よかった・・・まだこのひとは何もされてない。精神的なショックは受けてるみたいだけど。」


「こちらにも人が・・・」


レオルンドの声でアンネが近づく


「この人は・・・アレスティナ?!」


「何だブレダ?知り合いか?」


「この人は王都で有名な吟遊詩人よ!前にポルカにも来たことがあるってアンネが言ってたわよ。・・・よかった、この人も無傷みたい。」


タクマは吸いきったタバコを床に落とし足で踏み潰すとある違和感に気がつく


「なんかこの部屋変じゃねえか?」


「どういうことだい?」


「こういった客を招き入れる部屋って作りは結構豪華にするだろ?エルドの家だって応接間だけは豪華にしてある。」


「まぁ貴族の家だからね。世間体みたいなものもあるんじゃないかな?」


「ならなおさら作りには気を使うはずだ。」


タクマは部屋の端まで歩く


「ここがおかしい・・・」


トモキもついてくるとタクマの言っていることを理解する


「なるほど。絨毯の刺繍がここだけない・・・」


「あるんだろうよ・・・この先に。」


そういうとタクマは部屋の壁を殴り始めると少しづつ穴が空き中に空間があることがわかる


「中にも牢屋があるぞ!」


男たちが総出で壁を壊すと一つの牢が現れ中には一人はまだ幼さの残る子供の姿、一人は美しい大人の女性の姿の純白の翼を生やした二人の女神の姿があった


「女神・・・様?」


エルドは唖然としながらも牢屋を開けようとするが牢に掛けられた鍵が頑丈で壊せない


「エルド、どいてくれ。頼むぜアグニちゃん。」


タクマは鍵を両手で握ると手が炎に包まれる


「鍵だけを溶かす・・・鍵だけを溶かす・・・」


目を閉じて集中するタクマ、すると鍵は赤く変色し溶けて落ちる


「すごいねタクマ・・・熱くないの?」


「料理人に熱さなんて無意味だぜ。」


エルドはゆっくりと牢の扉を開ける


「女神様、我々はここより東のラータの者たちです。今は故あってここテスターを攻撃しておりますが見たところ女神様も監禁されていたようですが、どうか我々の保護を受け入れていただけませんか?」


すると子供姿の女神が反応する


「あー!ラータ!わたしね、ラータに祝福をあげるために下界に降りてきたの!」


その言葉に全員が驚く


「なんと・・・あなた様が!」


エルドが跪くと子供の女神はエルドの両手を握る


「ごめんね。ラータが出来たときにすぐ私がいかなかったせいで、たくさん苦労したでしょう?ごめんね。」


エルドは薄っすらと涙を浮かべながら笑顔を女神に向ける


「三代目ラータ領主、エルド・ラータが女神様をお迎えに上がれたことを幸運に思います、よければ女神様のお名前をお聞かせ願えませんか?」


「わたしはシンシア!【豊穣の加護】の女神だよ!」


シンシアは笑顔を振りまく

エルドはもう一人の女神に話しかける


「では、あなた様がこの街の女神様ですね?」


「はい、イリアと申します。此度のあなた方の保護を受け入れさせてください。」


イリアがエルドの手を取り牢から出るとアヤが不思議そうに問いかける


「ねぇ・・・ラータがエルドさんのおじいさんが開拓した街ってのはハヤテから聞いてたけど・・・ラータって出来て何年経つんだっけ?」


「30年だ。」


「えっ!?じゃあ女神様は下界に降りてここの人に捕まって30年も牢の中にいたの?」


シンシアはうつむく


「30年。そんなに経ってたんだね・・・」


イリアはシンシアを優しく抱きしめながら腕につけられた腕輪型の魔道具を見せる


「この【聖封の(せいふうのわ)】の効果で私達の能力が封じられ他の女神と交信する能力が使えず、外の情報も入らなかったためそれほどの時が経っていたなんて・・・」


「そんなことを言ってるんじゃないの!ずっとこんな狭いところに入れられて!飲まず食わずに30年も!」


感情的になるアヤの頭をポンとたたくアルドバ


「女神様は俺たちと違って無限を生きる方々だ。食わなくても生きていけるんだ。でもまぁ食った方がいいに決まってるがな。エレア様が連絡が取れないと仰っていた理由がやっとわかった。」


「エレア!?ポルカの女神エレアのことですか!?」


「ポルカは・・・」


「よい、アルドバ。・・・女神様、ポルカは今は滅びました。詳細は後でお話しますがエレア様は現在ラータにて保護しております。」


「そうですか。では私達もなおさらあなた方の保護をお受けしたいと思います、ですがその前にこの街の領主にこの街の加護を取り消すことを告げます。お付き合い願いますか?」


エルドはイリアに跪く


「もとより我らは領主ミランダ・テスターを捕えるつもりで来たのです。喜んでお受けいたします。」


「おーい。話まとまったんならさっさと帰ろうぜ。」


タクマとレオルンドは大きくあくびをしながら窓の外を見ているとアルドバは呆れた顔で返す


「お前らなぁ。これから領主捕まえようとするって所だろぉ。」


窓の外を見たままのタクマ


「お前ら話なげぇぇぇんだよ。話してる間にレオと捕まえてきたぜ。部屋の隅でプルプル震えて隠れてやがった。」


「「えっ!?」」


全員がレオルンドの担いでいる大きな麻袋を見ると袋がガサガサとうごく

アルドバが恐る恐る袋の口を少し開けると中からガタガタと震えるミランダ・テスターが姿を表す


「ま、まちがいねぇ。ここの領主だ・・・一体なぜこんなに怯えてるんだ?」


「ね、ねえ。牢でもどこでも入るから私を早くここから連れ出してよ!何なのよあの怪物は!私の造った魔人と互角に戦うなんて!」


「造った・・・だと!?てめぇ!俺の街の奴らに何をしやがったんだ!」


怒るアルドバを止めるアンネとブレダ


「アルドバ!落ち着いて!あんたの気持ちはわかるけど!」

「そうですよアルドバさん!私だって気持ちは同じです!」


「こいつのくだらねえ事のせいで!アッシュたちが!ポルカの奴らが!」


「アルドバ、もうよい。後のことは私に任せてくれ。」


エルドは麻袋から顔を出すミランダ・テスターと目を合わせる


「ミランダ・テスター。私はラータ三代目領主エルド・ラータである。貴様の行っていた数々の残虐な行いの罪、エルシア国の法に従って裁く。」


「ふん。若造が・・・」


「全員ここから撤退するぞ!小型の牢を一つ持ち出しミランダを拘束した後ラータへ帰還する!」


全員が屋敷を出ようとするとタクマが口を開く


「あ、やべ。」


その瞬間屋敷に何かが激突し轟音が鳴り響く


「急ぎ外へ!」


全員が外に出ると屋敷が崩壊しかかっており、外壁には魔人の胴体が突き刺さり建物に大きく損傷を与えている


-つづく-



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