第四話 帰らない決意と旅立つ決意
ハヤテのもとに歩いてくるブレダは酒樽と食材の入った袋を持って来た
「ハヤテくんの家というのが気になって遊びに来たよ!えっ?何この四角いの・・・石でも木材でもないよね?」
コンコンとプレハブを叩いて素材が何なのか気になった様子のブレダ
「スチー・・・いや、薄くした鉄板を組み立てて作った小屋だ。家ってもんじゃないぞ。ってこの荷物は?」
「酒と食い物さ!今日は飲もうと思ってね!夜通し飲むぞぉ!」
「飲むって・・・ここに泊まる気か!もう夜になるのに武器も持ってねえじゃねえか!」
「いーじゃんいーじゃん!それにね・・・もうちょっと君のことを聞いてみたかったってのもあるんだけどね。」
「・・・・。まぁいいか。ちょっと待ってろ」
ハヤテはプレハブに入ると作業台の道具などをどかして折りたたみのパイプ椅子を出し、中にブレダを招く
「よーし!じゃあまずは乾杯だ!」
ハヤテとブレダは酒を飲み始めしばらくするとブレだから会話を切り出した
「ハヤテくんはさぁ。その、元いた世界に帰りたいとか思わないの?」
ハヤテは燻製肉を工具のヒートガンで炙りながら答える
「んー。正直なこと言うと戻りたいという気持ちは全く無いかな。俺は元の世界で何を生きがいにして生きればいいかなんて分からなかった。やりたいことも諦めてただ生きてるってだけだった・・・」
じっとハヤテを見つめるブレダ
「俺は若返ってこの世界に来て思ったよ。これからが俺の人生だって・・・諦めてたことをここでやり遂げようと思ったよ。向こうには俺の親もいるけど、弟も妹もいるし問題はないだろ。
だから俺はここで新しい人生を満喫する。」
「あんた気持ちいいくらいにさっぱりしてるわね・・・どんな世界なの?そっちは。」
「ああ・・・クソみたいな世界だよ。魔物は居ないけど人間同士殺し合うし、たまに戦争もする。
正直生きてても楽しくないね・・・」
「どこの世界もおんなじなんだね。この世界だって聖国と帝国の戦争は結構やってるし、亜人種たちとの揉め事も絶えない・・・」
ハヤテはブレダのジョッキに酒を注いだ
「俺はまずここに立派な工房を作ってからこの国の色んな所を回ろうと思う。この国にだって色んな問題があるんだろ?俺の持ってる技術で助けてやれることは助けてやりたい。俺がこっちに来たのはそういう役目があるからじゃないかって思うんだ。」
「本当に前向きだねぇ・・・帰れなくて絶望に暮れているのかと思って損したよ。」
「なんだ。心配して来たのかよ。俺はそう簡単にネガティブにならないぞ!」
「アハハッ!良かった!じゃあ飲もう飲もう!」
-2時間が経過-
ブレダとハヤテの会話が弾みワイワイと酒を飲んでるとプレハブの外から悲鳴が聞こえた
「なんだ!?」
ハヤテがスレッジハンマーを持って外に出るとスケルトンに追われて走ってくるソフィーが居た
「ハーヤーテーサーン!!!だずげでぇぇぇぇぇ!!!」
大泣きしながらプレハブに向かってくる為ハヤテはバリケードの門を開けて外に出た
「ソフィーちゃん!早く中に!ってかなんで夜中に来たんだよ!」
ハヤテはスレッジハンマーを握り野球のバッターの構えを取りスケルトンの頭を振り抜くと頭だけが遠くに飛んでいく
「とんだなぁ・・・・」
プレハブに戻るとソフィーはブレダに抱きついて泣いていた
「ソフィーちゃん、こんな時間に外に出たら危ないだろ・・・」
「だっでぇ・・・ブレダしゃんどおざげのんでるっでいうがらぁ・・・!!」
泣きじゃくって何を言っているのか分からない
ブレダはソフィーの頭を撫でながら酒を飲む
「仲間はずれにしたの悪かったよソフィー。ちょっとハヤテくんに話したいこともあったからついでだったんだ。それにここだって夜は危ないのよ?家を木で作ったバリケードで囲っただけだしスケルトンならいいが、トロールでも来たらどうしようもないんだ。」
ハヤテはソフィーに酒を出した
「ここもいつかは強固な守りを作るさ。工房を作って軌道に乗ったら人を雇うことにもなるだろうし・・・この周囲を大きく開拓したいな。」
ブレダはニヤニヤしている
「そしたらこっちにギルド支部移そうか!ねえソフィー。」
「そうですねブレダさん!」
ハヤテはハッとひらめいた
「ならラータに向かって開拓するか!ここは工業地区にしてラータからこっちに向かって居住区を増やせばいい!」
三人は笑い話をしながら飲んでいるといつの間にか日が昇りだし明るくなってきた
-朝の10時頃-
ハヤテは黙々と前日に焼いたレンガを積み上げて行く
レンガは円柱状に積まれ、外壁に水で溶いた粘土を塗りつけていく。
粘土を乾かしている間、木の棒を使ってハヤテはプレハブの近くの地面に縦横15メートルほどの線を引いていくとスコップで掘り出した
-午後1時頃-
二日酔いのブレダとソフィーが起きてきた
「なにこれ・・・」
ソフィーがハヤテの方を見ると縦横15メートル深さ約1メートルほどの巨大な穴を掘っていた
「おはようソフィーちゃん!」
「なんなんですこれ?」
「これは家を建てるにあたって地盤を改良してるんだよ。後は深さの半分くらいに砕石を敷き詰めないと・・・」
そう言うとハヤテはスレッジハンマーで近くの岩をどんどん粉砕していく
その姿を見ていたブレダ
「バケモノ・・・。ソフィー、帰るわよ。今日もどうせ暇だろうし帰って二度寝しましょ。」
-同時刻・亜人の大陸【アドラシア】-
多くの部族が住まう大陸、その中の一つの部族【獣人族】
犬や猫、狼にライオン、様々な【ケモノ】の姿の特徴を持った人型の種族
部族の村では新しい族長を決めるまつりごとが行われていた
「フンッ!!」
大きな棍棒を振り回す虎の獣人
棍棒を回避して大剣を横に振るライオンの獣人
「ハァッ!!」
二人の獣人の戦いが拮抗しながらも周囲の獣人たちが歓声を上げて応援している
「オラァ!やれ!タイラー! レオルンドなんかに負けんじゃねえ!」
「レオルンド!根性見せろよ!」
虎の獣人タイラーの足払いで転ぶライオンの獣人レオルンド
タイラーはレオルンドの大剣を足で踏みつけて押さえる
「はぁはぁ。レオルンド。俺の勝ちだ!」
周囲から歓声が上がる
「新しい族長の誕生だぁ!!!」
村人たちは楽器で鳴らし大きく音楽を鳴らし、武器をぶつけ合いガチャガチャと音を立てる
レオルンドは村人たちをよそ目にその場を去っていく
-近隣の沼地-
レオルンドは静かに座りぼんやりとしていた
「レオルンド。お前はまた手を抜きやがったな!」
怒りをあらわに近づいてくるタイラー
「タイラー。これは正しいことなのだろうか・・・」
「あっ?何いってんだテメー!我らは太古からこの方法で族長を定め民を導いてきた!お前はこの伝統をなんだと思っていやがる!」
「私はな正直戦いたくないんだよ・・・戦う意味がわからない。他の亜人との戦いも終われば虚しくなる。仲間もたくさん死ぬが、私も他人を沢山殺す。こんなことになんの意味がある?こんなことやっていればいつかはどちらかが絶滅する・・・私はそれが嫌だ。」
タイラーはレオルンドの横にドスンと座った
「テメーは甘いんだよ・・・獅子のお前が俺に負けるわけなんかないのに。じゃあ俺たち亜人が戦わなくても幸せに生きていける方法なんてあんのかよ。いっつもお前は戦いに悲観的になってブツブツ言ってるだけだ!」
「私はアドラシアを出るよ。」
驚き立ち上がるタイラー
「正気かテメェは!!俺たち亜人が外に出れば殺されるか奴隷にされるかのどちらかなんだぞ!」
「すぐ北のエルシアに行く。聖国や帝国に行けば確かに俺達は迫害されるが・・・今はエルシアに行けば何か事態が変わる気がするんだ。もしかすると大精霊【ゼファー】のお導きかもしれない・・・」
レオルンドは立ち上がると大剣を肩に担ぐ
「本気なんだな・・・村の奴らにはなんて言う?」
「任せるよ・・・族長。」
「生きて帰れるなんて甘いこと考えるなよ?」
「ああ・・・行かせてくれ。」
「・・・わかった。我が部族に恵みをもたらす風の大精霊【ゼファー】よ。我が友レオルンドに慈悲とご加護を・・・」
タイラーはレオルンドの左肩、右肩、左足、右足、頭の順番に棍棒を優しく当てて祈りを捧げた
「行って来い。我が友よ。死ぬんじゃないぞ・・・」
レオルンドはタイラーと別れ北へ、エルシアを目指した
-続く-