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第三十六話 森の死者たち

-ラータ西の森【屍の森】-


ラータとテスターの間に存在する大きな森林

近隣の街に住む者たちから【屍の森】と呼ばれ恐れられるアンデッドが大量に存在する森林

しかしそれはここ数十年の間に呼ばれた名で、その昔は豊かな森で沢山の種類の獣が住む森であった


森の奥深くまで入るハヤテ達


「さて、だいぶ奥まで来たなここら辺でやるか。」


ハヤテは先に見える大きな岩の上に飛び乗りあぐらをかいて座る


「お前らも登っとけ。ゾンビ達には登れなさそうだし。」


ブレダやサンドラも岩の上に登ると辺りを見渡す


「ハヤテ様、アンデッド達がゆっくりではありますがこちらにまっすぐ向かっています。何かを感じ取っているのでしょうか?」


「その白く光ってるのに引き寄せられてるのかもね。さっきもそうだったし。・・・ってかハヤテくん、それ光りっぱなしなの?」


「さぁ?俺も意識してやってるわけじゃないし・・・これ途中で消えたりしないよな・・・」


アルドバはハヤテの方を軽く叩く


「きっとだいじょうぶだろう。根拠はないがな。ここは効率をあげよう・・・」


アルドバは持っているバッグから聖水の入った瓶を取り出し、乗っている岩の上から周囲を囲むように振り撒く


「彷徨い輪廻より外れし者よ 浄化を求め光に集え!セイントライト!」


アルドバの持っている短杖からまばゆく光る弾が生み出され周囲を昼間のように明るく照らす


「この魔法はアンデッドの誘導なんかに使うものなんだが。これならこちらに一目散に集まってくるだろう。あとはハヤテ・・・お前さんのその力に頼らせてもらう。」


ハヤテ達が乗っている大岩の側にゾンビ達が群がり岩に触れたゾンビから徐々に浄化されていく


「さっきみたいに直接触らなくてもいいのか・・・」


ハヤテは白い光に包まれて浄化されて倒れる亡骸をじっと見つめている


「ハヤテくん?何を考えてるの?」


「ん?ああ。こいつらはさ元々は人間でどうやってゾンビになるんだ?」


アルドバがハヤテの隣に座る


「人間の遺体が瘴気(しょうき)を当てられ続ける事でゾンビ化する。生きている人間でも気が狂ってしまったりと害はある。だがスケルトンは別だ。骨となった骸に魔術でアンデッド化させる。」


「前にエレアから聞いたんだが瘴気ってのは魔力の元になるマナの歪んだ物なんだろ?」


「ああ、そうだ。」


ハヤテは森の奥を指差す


「俺は魔力もないからマナも瘴気も感じ取れない。・・・だけどこの森に瘴気があるようには見えないんだが?」


ハヤテの指差す先には野生の猪や木の上にはリスのような小さな動物たちがいた


「本当だ・・・あれだけのアンデッドが生まれる森だ、普通なら動物なんか生きられるわけがない!」


ブレダも周囲を見渡す


「知らなかった。ここはアタシやエルドが子供の頃からアンデッドの森として聞いていたから入ったこともなかった。」


一時間ほどが経過し、ゾンビの数が減っていき数分に一匹しか現れなくなる


「・・・こっちから行くか。」


「え?」


振り返るブレダをよそに大岩から飛び降りるハヤテ


「もう少ないんだし・・・こちらから行ってやろう。」


歩いていくハヤテを追いかける三人


十分程歩くと奇妙なゾンビが姿を表す

女性のゾンビだが衣服を来ておらず、四肢を切断されたゾンビが身体の全身を使ってゆっくりとハヤテに向かって這いずっている


「こいつ・・・腕は肘で・・・足は膝で切断されてやがる・・・獣に食われたとかじゃない、切られたんだ。」


ハヤテ達は青ざめた表情で這いずる女性のゾンビを見る


「アア・・・アアア!」


女性のゾンビはハヤテの足首に噛み付くが歯もない

ハヤテは女性のゾンビをそっと抱き上げる


「何があったんだ・・・」


「ハヤテ。どうやらその娘さん・・・生きてるときに切られたんだろうな。・・・その手足。」


「コ・・・ロ・・・」


「ん?なんだ?」


ハヤテはゾンビの口元に耳を近づける


「ハヤテ様!危険です!」


「静かにサンドラ。大丈夫だ。」


「ハヤテ様・・・」


目を閉じてゾンビの発する言葉に耳を澄ますハヤテ


「コ・・ロ・・シ・・・テ」


「そうか、つらい思いをしたんだな。もう大丈夫だ。」


ハヤテからあふれる白い光に包まれるゾンビ


「ダイ・・・ジョ・・・ブ?」


「ああ。大丈夫だ。」


微笑むハヤテにゾンビは涙を流し浄化されていく


「・・・ハヤテ。これで娘さんを包んでやろう。」


アルドバはつけていたマントを外し女性の身体を包むと探知用魔法を唱える


「【探知(サーチ)】・・・もうこの森に魔物やアンデッドはいないようだ。どうだろうこの辺りで一度戻ろうか。」


「ああ。そうだな。・・・クラフトゴーレム!」


空間の裂け目から現れたクラフトゴーレムは荷車を牽いてきた


「遺体を連れて帰ってやろう。ちゃんと弔ってやりたい。」


ハヤテ達は遺体を丁寧に荷車に乗せていく


遺体の回収で数時間が経過しラータに向かって移動しているとアルドバがクラフトゴーレムを見つめる


「なぁハヤテ。このゴーレムがお前さんのもとに移動するときの空間の裂け目・・・俺たちも通れないのか?」


「無理。生き物は通れないみたいなんだ。この前トロールで実験した。」


「トロールってお前・・・で?どうなったんだ?」


「身体の裏表が逆になってた。・・・出てきたときには死んでたよ。」


「裏表って・・・」


「それ見てタクマとサンドラが吐いたからな。」


「ハヤテ様その話はもう・・・」


顔色を悪くするサンドラ


「まぁあれはグロかった・・・」


ハヤテ達が森を抜けラータが見え始めると太陽が南の山脈から姿を見せる


「夜で終わると思ったんだが・・・すっかり午前様だ」


「そういやお前さん、光が収まったようだな。」


「ん?ほんとだ・・・あのまま光り続けたらどうしようって・・ちょっと不安だった」


アルドバの問に苦笑いで返すハヤテ


「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!助けてぇぇぇぇ!!」


助けを求める叫び声を聞いて全員が入っていた森に振り向くとドシドシと足音が響く

ハヤテたちがじっと見つめていると森の奥からは巨大なニワトリのような生き物が飛び出す


「そこの人間さん!保護を!保護を求めるわぁ!!」


巨大なニワトリはハヤテたちの頭上を飛び越え背後に回ると森の中からアンデッドゴーレムが姿を表すが今まで出会ったものと違い獣のような形状をしている


「おいおい、ありゃコカトリスじゃねえか!アンデッドゴーレムに追われてやがる。」


「へぇ。驚いたなあんなでかいニワトリもいるのか・・・ん?」


ハヤテは追って来るアンデッドゴーレムをじっと見つめる


「何だありゃ・・・人型じゃない」


「本来アンデッドゴーレムってのは素材となってる死骸の種類によって様々な形状があるんだ、いままですべて人型だったのが逆に珍しい。・・・む?来るぞ!!」


四足歩行で走るアンデッドゴーレムは巨大なニワトリめがけて進んでくると口の外側から角のようなものを二本伸ばす


「グラウンドヴァイパー!」

「ウインドサイクロン!」


ブレダの放つスキルが地面を割りアンデッドゴーレムが足をとられると、すかさずサンドラのスキルが足を切り落とす


「動きは封じたわ!このあとは!?」


ブレダの声に暗く反応するアルドバ


「だめだ。浄化魔法を使えないと・・・」


「要はゾンビと倒し方は同じってことだな?」


アンデッドゴーレムに向かって走り出すハヤテ


「ハヤテ様!?何を!?」


ハヤテはアンデッドゴーレムの頭部の下にスライディングで潜り込むと口元から生えた角を掴む


「どおりゃぁぁぁぁ!!!」


顔を真赤にさせながら角を肩の上に回し背負投げをしようとするがアンデッドゴーレムは浮かび上がらない


「無理だハヤテ!クラフトゴーレムじゃあるまいし!」


「んぎぎぎぎ!!」


するとアンデッドゴーレムはハヤテに引っ張られるように体勢を崩していく


「おおおおおおおおお!!」


「ちょっと・・・」


呆然と立ち尽くし自分の斧を落とすブレダ

(あご)が外れたように大口を開けるアルドバ

頬を赤く染めハヤテを見つめるサンドラ


三人の前には信じがたい光景が映りだした


「さすがハヤテ様!」


サンドラはうっとりとした顔つきでハヤテを見つめる

アンデッドゴーレムは角の掴まれた位置を支点にハヤテの真上に持ち上げられていた


「ありえねえ・・・」


アルドバが浮いたアンデッドゴーレムから下のハヤテに視線を移すとハヤテは再び声を上げる


「これで・・・どうだぁぁぁ!!」


アンデッドゴーレムを地面に叩きつけたハヤテは息を荒げながらアルドバを見て親指を立てる


「はぁはぁ・・・どうよ・・・はぁはぁ」


「息あがってんじゃねえか!」


ハヤテに投げられたアンデッドゴーレムは白い煙を上げながら崩壊していく


「あれ?なんでだ?光ってないのに・・・」


「ハヤテくん、あなたの両手・・・」


ブレダの声を聞いてハヤテはアンデッドゴーレムの角を掴んだ自分の両手を見ると手首から先だけが白く光っている


「あ、なるほど。手だけ光ることもあんのか。」


掴んだ角を離し右の拳を引くと力いっぱいアンデッドゴーレムを殴りつける

すると殴りつけた場所が破裂するように吹き飛んでいく


「なんだよ・・・クラフトゴーレムいなくても倒せるんじゃねえか。」


「お前さんその光る力自由に使えてるのか?」


「いや?そもそもなんで光ってんだろうな・・・」


「本当に何なんだその力、魔力も感じねえし。」


「あ、あのう・・・」


全員がふりかえると巨大なニワトリのような生き物が草木に隠れるように見ていた

その姿をじっと見つめるアルドバとブレダ


「・・・ってそう言えばこいつ!!コカトリスだった!!」


武器を構えるアルドバ


「待って!待って!私は戦う気はないのよ!」


「お前らよせって。戦う気がないならいいだろ!?」


「ハヤテくん!こいつはコカトリスと言ってあらゆる生き物を石に変えてしまう呪いの力を持った魔獣なのよ!」


「魔獣って・・・いつぞやの狼みたいなもんか。」


コカトリスはハヤテをじっと見つめる


「私を・・・私を貴方様の眷属にお加えくださいまし!」


「はぁ?」


「私は昔よりこの森を治めていたコカトリスの【コッコクイーン】。近年この森で不自然にアンデッドが湧き出し困っていたのです。私のように魔獣の名を(かん)する者は特殊な力を持つのですが、さすがの我らもアンデッドゴーレムのような異質の存在には直接攻撃もできず・・・ひたすら逃げることしかできなかったのです。そもそもアンデッドに私の石化の呪いは効きませぬゆえ・・・」


コッコクイーンは消えていくアンデッドゴーレムを見る


「ですが貴方様はアンデッドゴーレムを直接触れても取り込まれないだけでなく浄化してしまうほど強い。なら貴方様の庇護下に入るのが得策と考えましたの。」


ハヤテは近くの岩に腰掛けタバコに火をつける


「手下になるから守ってくれって言われてもな・・・俺にメリットが・・・」


すると森の中からハヤテの聞き覚えのある鳴き声が聞こえる


「コココココ・・・・」


森の茂みから姿を表したのは数十羽のニワトリだった。


「ニワトリだ・・・」


ハヤテはポカンとしながらニワトリを見つめる


「ちょっと!コッコじゃない!久々のごちそうよ!」


ブレダがコッコと呼ばれるニワトリを捕まえようとするとコッコクイーンが大声を上げる


「この子たちは私の主様に捧げる子たちよ!気安く触るんじゃないわよ!石にしてやろうかしら!」


ブレダはピタリと止まりハヤテの後ろに隠れる


「主様。この者たちは私の眷属。どうか好きにお収めください。」


「お収めくださいって・・・食ってもいいのか?」


「ええ、もちろんですとも。この者達は私の恩恵で非常に強い繁殖力も持っており、放って置いても勝手に増えていきますの。」


「タクマが聞いたら喜ぶな。鶏肉・・・それに栄養価の高い卵。」


ハヤテは少し考え事をする


「よし。お前の申し出を受けよう。だがいくつか条件がある。俺はあのラータという街に住んでいる。お前の眷属は沢山の人達の食料となってもらう。」


「構いませんわ。この者たちは勝手に私に集まり勝手に増えていくのですから。別に特別な感情があるという訳でもありません。」


「あと街の人間を石に変えるのも禁止な?もしあの街に危害を加えるような奴がいればそれは許可する。」


「仰せのままに。」


「よし。じゃあよろしくなコッコクイーン。」


「はい、主様。」


-ラータ・西門付近-


太陽が昇り辺りが明るくなると領主エルドを始めとした面々がハヤテたちの帰りを待っていた


「トモキ様、ハヤテ様たちが帰ってきました。匂いからして相当な数の遺体を運んでいるようですが・・・」


「ありがとうパルミラさん。」


トモキが西の方角を見つめると人影が見えてくる


「あれ?なにか大きいのが・・・」


複数の遺体を載せた荷車を牽くクラフトゴーレム

その横を歩くサンドラ、アルドバ、ブレダの三人

そして先頭を歩く白く美しいニワトリの魔獣にまたがるハヤテ


「またなんか増えてやがる。ん!?あの後ろ・・・」


ハヤテたちの後ろには数十羽のニワトリが歩いてついてくる


「ニワトリじゃねえか!でかしたハヤテ!これでこの街の台所事情も一気に変わるぞ!」


「よぉ、ただいまぁ。」


コッコクイーンから降りるハヤテに歩み寄るエルド


「おかえりハヤテ。色々聞きたいんだがまずこの魔獣は?」


コッコクイーンは(クチバシ)が地面につくほど頭を下げる


「領主エルド・ラータ様ですね?主様より伺っております。はじめまして私はコカトリスのコッコクイーン。こちらのハヤテ様の眷属となり、これからこの土地でお世話になります。どうかよしなに。」


「眷属とな?一体何があったのだハヤテ。」


「エルド殿、それは俺の方から説明させてもらう。」


アルドバは腰の鞄から記憶読みの魔道具を取り出し森の中の出来事映しながら話し出す


「もともとあの森はこのコッコクイーンの縄張りだったんですが、アンデッドゴーレムの発生で森の中を逃げ回っていたそうだ。それで素手で触れてなおかつアンデッドゴーレムを倒せるハヤテを見て保護してもらおうと眷属になることを申し出てきたんです。」


「なるほど。あの賢狼と同格と言われるコカトリスが・・・」


ハヤテはエルドの言葉を聞いてコッコクイーンを見る


「お前あの狼と同格なのかよ。」


「強さという点では同格ですわね。」


「まぁハヤテの眷属でこの街の者たちに危険が及ばないのであれば私はとやかくは言うまい。」


「ハヤテ!」


アヤがハヤテのもとに歩み寄るがその表情は曇っている


「あのね、浄化で消えなかった遺体を一通り見たんだけど。浄化で消えたり消えなかったりするのは遺体の腐敗具合に関係してると思うの。それで残った遺体を見たんだけど、男性の遺体は戦いによる傷が死因なのは間違いないんだけど・・・女性はね・・・」


口をつむぐアヤの表情を察したハヤテはアヤの手を引き人混みから遠ざける


「アヤ。俺も森で異常な女性の遺体を見た・・・アヤの言葉を聞かせてくれ。」


「女性の大半は性暴力を受けた痕跡があったの・・・ひどいのはお腹に胎児が居た・・・その胎児がね・・・ゾンビ化してて・・母親のお腹を食い破って・・・うう・・・」


話すうちにアヤの瞳には大粒の涙が流れ出し泣き崩れる


「こんなひどい死に方をするなんて・・酷すぎる・・・この人達が何をしたっていうの!?」


「アヤ・・・」


ハヤテはアヤを抱き寄せるとアヤはハヤテの胸元で声を出して泣き出した

その様子を遠くから見ていたサンドラとブレダ


「サンドラ、私はみんなをエルドの屋敷に集めるわ。アヤが落ち着いたら二人を連れてきて。」


「ええ。」


-続く-

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