第三十話 触れてはいけないもの
タクマの戦いを見ていたレオルンドとベルトリクス
「まさか超位の精霊神がタクマに宿るとは・・・」
ベルトリクスは水をまとったポールアクスでギガントの繰り出す拳を軽くあしらう
「精霊神など始めて見た・・・勇者召喚で呼ばれた者でもここまではできまい。神の一人を宿らせるなど・・・」
よそ見をしながらもギガントの足を切り落とし転倒させるとレオルンドはギガントの首を大剣で振り抜くとギガントは大量の血液を吹き出しながら息絶える
ベルトリクスも魔力を収束させ発動したスキル【ハイドロリックスピア】がギガントの頭部を貫くとゆっくりと倒れる
「姉上は・・・流石にもう終わってるか」
レオルンドの見つめる先には倒れたギガントの上で立っているサンドラがいた
荷馬車のそばで倒れていた誘拐団のメンバーの生き残りが這いずりながらローブ姿の男が持っていたポーチを探ると禍々しいアンデットを模した小さな銅像を取り出す
「もうどうなってもいい・・・この事が露見するくらいなら・・・みんな死んでしまえ・・・混沌に微睡む(まどろむ)悪意よ・・・屍を用いて死の巨人を生み出し給え!我が肉体を核として!不死の巨人を生み出し給え!」
生き残りの男が詠唱すると小さな銅像から多数の細い触手が伸び、男の血管内を這い回る
男は奇声をあげ、もがき苦しみのたうち回ると周囲に転がるギガントや誘拐団の人間たちの死体が磁力に引かれるように集まりだす
「おい・・・・・おいおいおいおい!!全員この場から逃げろ!」
叫んだのはアルドバだった
顔を真っ青にしながら大声を上げる
「クソ野郎!アンデッドゴーレムを作り出す魔導具を使いやがった!レオ!ベル!荷馬車の檻を壊して同族を走らせろ!触れたら最後、取り込まれるぞ!」
破壊した檻から出てきた獣人たちは一目散にアルドバ達に合わせて走り出す
「アルカ!獣化してパルミラとトモキ様を乗せて走るんだ!」
「はっ!」
サンドラの指示で虎に姿を変えたアルカはトモキとパルミラを乗せて走り出す
アンデッドゴーレムと呼ばれる肉塊はうごめきながら巨大な人の形に変化していく
「迦具土!」
アンデッドゴーレムに炎の刃が切り抜けるがしかし切り裂かれた場所もすぐに再生する
刀をしまい走り出すと困り顔でブレダを見るタクマ
「だめだぁ、攻撃が効かねえぞ!」
「攻撃なんて意味ないわよ!普通のアンデッドならタクマくんの炎が抜群に効くんだけど、あれは別物!何人もの聖職者で同時に浄化魔法しないと倒せないの!今は完全な人型になる前に距離を稼いで逃げるのよ!」
アンデッドゴーレムの素となった死体は完全に融合し手足が完全に形成され頭部には魔道具を発動させた男の顔が現れる
男は口を動かしているが言葉は発しておらずただうめき声だけを発しており、その様子を見たタクマは青い顔をする
「うわぁ・・・あいつもう人間じゃないのか。」
変形を終えたアンデッドゴーレムは膝をついたまま四足歩行でアルドバ達を追いかける
アルドバはすぐさま大声を上げる
「動き出したぞー!逃げろぉ!」
「何だあのクソ早えハイハイは!すぐに追いつかれるぞ!」
タクマは並走していたブレダの後ろに回り腰を両手で押して速力を上げる
その様子を最後尾で見ていたサンドラは急に足を止め両剣を構えアンデッドゴーレムを見据える
「姉上!一体何を!!」
「止まるなぁ!!私が少しでも時間を稼ぐ!皆は戻りこやつの迎撃体制を整えるのだ!」
「生身の戦士がアンデッドゴーレムに勝てた例はありませぬ!早く走ってください!」
「いいかいレオルンド!どのみち追いつかれるんだ。このままラータまで行ったら人族さん達に迷惑をかけちまうじゃないか。
だったら私が時間を稼いでる間に冒険者たちを集めて対策を立てな!なぁに、触らなきゃいい話だ。ずっと避け続けてやるさ!」
サンドラはアンデッドゴーレムに向かって走り出す
「さあ化物!私にしばらく付き合ってもらうよ!【ウインドブレイバー!】」
サンドラが投擲した風の力をまとった両剣は高速で回転しアンデッドゴーレムの体に大きな裂傷を作るとブーメランのようにサンドラの手に戻ってくる
「ラータの人間さん達には借りがあるんだ!行かせはしないよ!」
アンデッドゴーレムの肉体からゴキゴキと生々しい音がなると背中から更に腕が生え4本腕となり
口を開け黒い煙を吐き出すとサンドラは後方に飛ぶ
(腐食の息に4本腕・・・ついてない・・・上位種だ・・・)
「唸れ風神の風!【ウインドサイクロン!】」
サンドラが自身の真上に向かって両剣を回転させるとサンドラを中心に竜巻が巻き起こる
アンデッドゴーレムは4本の腕で竜巻の中のサンドラを掴もうとするが竜巻に触れた途端に腕がバラバラに切り裂かれる
(これなら腐食の息も影響を受けない・・・あとは私の魔力がどこまで続くか・・・)
切り裂かれた腕の再生が済んだアンデッドゴーレムは近くの大岩を掴むと4本の腕で持ち上げサンドラに目掛けて投擲する
岩はサンドラの風に削られながらも巨大なままサンドラに直撃する
「姉上!!」
走りながらも様子を見ていたレオルンドの声で全員の足が止まる
サンドラの風が止み(やみ)、頭から流血したサンドラは意識を朦朧とさせながら起き上がるとすぐ目の前にアンデッドゴーレムの手が伸びていた
アンデッドゴーレムの右腕に掴まれたサンドラはゆっくりと口元へ運ばれる
「姉上!!」
レオルンドがアンデッドゴーレムへ方向を変えて走り出すがサンドラの頭部がアンデッドゴーレムの口の中に入ろうとしておりレオルンドはすでに最悪の事態を想像したのか青ざめた顔をすると、巨大な物体が大きな足音を立てながらレオルンドたちの横を高速で通り過ぎる
「レオ!ベル!受け止めろ!」
声とともに巨大な物体から悲鳴とともに飛んできたのはソフィーとアヤだった
レオルンドはすばやくソフィーを、ベルトリクスはアヤと受け止める
「アヤ!いったい何事だ!」
「ごめん、ハヤテを止めたんだけどぜんぜん言う事聞かなくて・・・まさかあのゴーレムあんなに早く走れるなんて・・・」
ハヤテを背に乗せるクラフトゴーレムはゴリラが走るような格好で四足で走っている
「クラフトゴーレム!やつを止めろ!」
ハヤテは指示とともにクラフトゴーレムから飛び出すと背負っていたスレッジハンマーでアンデッドゴーレムの右腕を叩き潰し、その衝撃でサンドラは真上に吹き飛ばされハヤテはアンデッドゴーレムの腕にめり込んだスレッジハンマーを足場にしてサンドラに向かって飛び上がる
(スレッジハンマーが中にめり込んでいっちまった・・・まぁいいか。)
空中でサンドラを抱きかかえ地面に着地したハヤテはすぐに離れ、木の影にサンドラをそっと下ろす
意識が朦朧とした中でハヤテを見つめるサンドラ
「良かった。死んじゃいないな?」
ハヤテはツナギのポケットから小瓶を取り出すと中身をサンドラにふりかける
「街の人にもらったポーションだ。これでいくらか楽になんだろ。」
クラフトゴーレムはアンデッドゴーレムの前で停まると上半身を起こし腰を軸に180度回転させるとゴリラのような姿から人型に変形する
「来い!ビルダーズ!」
ハヤテの呼びかけとともに空間の裂け目が現れ、中から小型のゴーレムが10体ほど現れる
「ビルダーズ!ここに穴を掘れ!やつを落としても出られないような穴だ!」
ハヤテは指示を出すとアンデッドゴーレムのもとに向かい、ビルダーズの5体が内蔵されたドリルのようなもので穴を掘り出し、残りの5体は内蔵された伸縮するコンベアのようなものでドリルのビルダーズに連結し土や石を勢いよく掻き出していく
クラフトゴーレムが右腕でアンデッドゴーレムを殴ると肉体が耐えきれずにちぎれていくが、やはり高速で再生していく
ハヤテは腰に備え付けたノコギリでそばの木を切り倒し、そこから何本もの長い木の杭を作り出す
「クラフトゴーレム!やつをビルダーズが作っている穴まで誘導しろ!」
クラフトゴーレムはアンデッドゴーレムを両手で抑え込むと相撲のように少しづつ押し出していく
穴のそばまで押すと穴の中から連結したコンベアで引き上げられるドリルのビルダーズ達
「よし!落とせ!」
ハヤテの号令とともに掘られた深い穴にアンデットゴーレムを落とし込むとハヤテは先程作った木の杭を穴の中に投げ込みアンデッドゴーレムに突き刺していく
サンドラはその様子をじっと見ているとハヤテが穴の中に飛び込む
「えっ!?」
サンドラはよろけながらも穴に向かい覗き込むとハヤテは穴の中で杭を飛び跳ねるように踏みつけて更に差し込んで行く
穴から飛び出るとハヤテは穴のそばにいたサンドラを抱き上げる
「そんなとこにいると危ねえぞ?」
「えっ?」
サンドラとハヤテの立っている場所が急に暗くなりサンドラが上を見上げると巨大な岩を担いだクラフトゴーレムが近づいてくる
クラフトゴーレムは担いでいた岩を穴に落とすとピッタリと穴が封じられる
「おっしゃ!封印完了!あとは後日!他の奴らに任せるとしますか。」
ハヤテはサンドラを抱えたままクラフトゴーレムに飛び乗るとレオルンド達の方へ歩き出す
「おーい。無事かぁ?」
ハヤテに抱かれたサンドラを見て安堵するレオルンド
「姉上。生きた心地がしませんでしたぞ。」
「私もヴァルハラに旅立つものかと思ったよレオルンド・・・」
レオルンドに微笑むサンドラをぽかんとした顔で見つめる
「えっ?なに?姉弟なの?」
「ふふっ。私はサンドラ、レオルンドの姉で獣人族の戦士をしている。先程は助けてくれて本当に感謝している。」
「おーい!」
ハヤテ達のもとへアルドバ達が引き返してくる
「アンデッドゴーレムはどうした!?まさか倒したとか言わねえよな!?」
「ああ。深い穴に落として岩で塞いで閉じ込めたぞ。あとは頼むな?しかし厄介だよな、素手で触れないってのは・・・スレッジハンマー飲み込まれちったよ。」
「お前さん・・・なんで知ってるんだ?アンデッドゴーレムの事を。」
アルドバの問いにハヤテは真上に向かって指差す
「エレアが教えてくれたんだ。」
全員が空を上を見上げると女神エレアがゆっくりと翼を羽ばたかせながら降りてくる
「うまくいきましたねハヤテさん。」
エレアがにっこりと微笑むとハヤテはエレアに向かって親指を立てる
「エレア様!こんな所まで・・・」
「いいんですよアルドバ様。私も獣人の方々の安否を気にしていましたし。それにもうすぐエルド様が馬車を連れて到着します、ぜひ連れられた獣人の方々にとおっしゃっていました。」
「しかしアヤとソフィーはなんだってハヤテと一緒に来たんだ?」
アルドバの一言に怒りながら早口で答えるアヤ
「アタシ達は安静にしてろって言ってんのに無理するからソフィーとしがみついて行かせまいとしたのにアタシ達二人を担いであのゴーレムに飛び乗るし!散々だったわよ!」
「お、おう。そっちも大変だったんだな・・・」
雲に隠れた月が姿を表し、月明かりで照らされると全員がハヤテの髪が真っ白になっていることに気がつく
「ハヤテ・・・お前、髪が・・・」
ハヤテの頭部を指差すベルトリクス
「ん?ああ。頭が破裂したり髪の毛が全部抜け落ちないだけ、まだ真っ白ですんでよかったよ。」
苦笑いするハヤテ
するとラータの方から馬車を率いたエルドの姿が見え、エルミガント国境方面からラータの憲兵と冒険者たちが戻ってくる
「さて!みんな帰るぞ!とりあえず俺は・・・もうしばらく・・・寝たい・・・」
少しよろつくハヤテは抱きかかえていたサンドラをクラフトゴーレムの背中に座らせ、その横で仰向けになって寝そべる
一同はクラフトゴーレムに続きラータへと帰還していく
-続く-




