第二十九話 タクマとトモキ
-アドラシア・獣人集落-
タクマ達が到着した翌朝、タクマとルミカとレオルンドは荷馬車に乗って集落から更に南へと進み胡椒の採取に向かう
集落の中では領主タイラーの屋敷でトモキがエルドへ宛てた手紙を書いている
「こんな内容でいいかな?タイラーさん、メッセージイーグルの使い方を教えてもらえますか?」
「まず手紙を足に結びつけろ。そしたらメッセージイーグルの目を見て場所と届けたい人物の姿を思い浮かべるんだ。」
そう言われてトモキは少し困った顔をする
「エルドさんとはまだ直接の面識はないんだよなぁ・・・じゃあアルドバさんを経由させてもらおう。」
トモキの目を見ていたメッセージイーグルは大きく翼を広げて屋敷の窓から外へと飛び出していく
「さて、僕は昨日のアンブッシュプラントをもうちょっと増やそうかな。」
「トモキ。あの木の化物はどのくらい存在してるんだ?」
「タイラーさん。あれは化物じゃなくて僕のアーティファクト・・・人工物なんだ。基本的には僕からの魔力供給が無くなるか。もしくは僕が解除を望まない限り消えることはないよ。」
「ほう・・・大昔に存在したという魔法生命体みたいなものか。」
トモキはテーブルに立てかけた杖と肩掛けカバンを肩にかけて外に出ようとする
「それじゃタイラーさん、すこし外に出てきますね!」
「待てトモキ。魔道士一人でうろちょろするもんじゃない。ちゃんと護衛を付けていけ、【パルミラ】!」
タイラーの呼びかけで屋敷に入ってくる豹人の女戦士
「お呼びでしょうか?」
「このトモキの護衛についてくれ。」
「はっ!」
トモキはパルミラと呼ばれる女戦士に会釈をするとパルミラは笑顔を返す
-集落の外-
集落の門からまっすぐ歩き十数分が立ったあたりでトモキは杖を掲げる
「召喚・・・【アンブッシュプラント】」
トモキの声とともに無数のアンブッシュプラントが地面から現われる
「攻撃対象はスキルや魔法で姿を消している者。攻撃属性は毒。」
アンブッシュプラントの葉が紫に変わる
「すごい・・・詠唱もなしに・・・」
パルミラは感動した様子でトモキの両手を握る
「ははっ。僕は一度詠唱した呪文は二回目から省略できるんだ。」
杖を背負ったトモキは木漏れ日の当たる地面に視線を移す
「あれ?これって・・・」
地面から生えた草をおもむろに掴み引っ張り上げると根っこにたくさんの実をつけた植物が姿をあらわす
「これは・・・ジャガイモ?」
トモキは引き抜いたジャガイモを顔の高さまで上げるとパルミラが近づいてくる
「これは、バーレイの実ですね。毒があるので食用には向きませんよ?」
(こっちの世界の人はジャガイモの芽のこと知らないのかな?)
トモキは泥を払ったジャガイモを布袋に入れていく
「僕たちの世界では普通に食されているんだよ。タクマに調理してもらおう。」
「タクマとは一緒に来た人間ですか?」
「うん。彼は【料理人】でね。人にいろんな食事を作るのが仕事なんだ。・・・そういえばパルミラさんはサンドラさんと一緒にラータに行くメンバーなんですよね?」
「ええ。私とサンドラ様、そしてアルカの三人で行かせていただきます。」
「じゃあラータについたらタクマの料理をたべてみてください。美味しいですよ。」
笑顔でパルミラにことばを返すとトモキは更にいくつかのジャガイモを布袋にしまっていく
「おーい!トモキー!」
トモキとパルミラが声のする方を見ると荷車を引くレオルンドとタクマが見える
アンブッシュプラントを見るタクマ
「またあの気持ち悪い植物出してんのか。」
「気持ち悪いとは心外だなぁ。とても役に立つんだよ?」
苦笑いで返すトモキは荷車を見ると複数の木樽にツル科の植物が姿を見せる
「また結構採ってきたね、そうだタクマ。こんなものを見つけたんだ。」
トモキは布袋を荷車に乗せて袋の口を開くとタクマは食い入るように覗き込む
「こりゃあジャガイモじゃねえか。でかしたトモキ!ジャガイモならラータ辺りの気候でも十分育つ!・・・いや、こっちで自生してるってことは温暖な気候じゃないといけないのか?」
「そんなことはないでし。いまわたし達の家ではアドラシアのバーレイとエルシアのバーレイをかけ合わせて新種を作ってるでし、エルシアだろうがアドラシアだろうが成長力の強い芋が完成するでし。このバーレイは新種の種芋として活用できるでし!」
荷台に乗っていたルミカが嬉しそうに鼻をヒクヒクさせる
「ハヤテ様は自分の世界の芋を懐かしんでいたでし。早く再現したいでし。」
「じゃがいもを使った料理かぁ・・・油がねえから揚げ物は出来ねえし・・・」
タクマがぶつぶつと呟き始めるのを見たトモキはラータへ戻るのを遅れまいと声を掛ける
「まぁ料理のことを置いといて。もう昼過ぎだよ、そろそろラータに戻る準備をしよう。」
「ああ。ハヤテ殿たちも帰ってきてるといいが。」
レオルンドは再び荷車の取っ手を掴むとパルミラに話しかける
「パルミラよ。急ぎ戻り集落へ姉さん達へ出発の連絡を。我々はこのままラータに向けて荷車を進めるゆえ、東の森あたりで合流できるであろう。」
「わかりました。レオルンド様達もお気をつけて。」
パルミラはそばにある大きな木の枝に飛び乗ると軽々と枝から枝へと飛んで集落の方へと向かっていく
その様子を見ていたトモキ
(さすが豹だねぇ・・・)
「レオはあんな事できないでしょ?」
「なんで分かる?」
レオルンドの不思議そうな顔を見てクスッと笑うトモキ
「なんとなくね」
-アドラシア国境付近の森-
大きな切り株に腰掛けサンドラ達を待つレオルンド達
タクマは荷車の上でトモキが採ったじゃがいもを選別している
「これだけあればいいか・・・あとは種芋に回すとして・・・ん?」
タクマが顔をあげるとサンドラとパルミラ、そして虎人族の女性が歩いてくる
「待たせたね。」
「私は虎人のアルカ。よろしく頼む。」
サンドラよりも少し大柄な女性。背中には盾と片手剣を背負っている
「三人とも女性なんですね。」
アルカと握手を交わしながら驚いていたトモキに話しかけるレオルンド
「トモキ、姉さんを含め彼女たちは獣人族でも最強の戦士たちだ。三人を同時に相手にしたら私も手も足も出ない。」
「へぇ。レオはかなり強いってハヤテが言ってたけど。そのレオがそこまで言うんだから本当にすごいんだね。」
トモキは目をキラキラさせながら三人を見つめると女性獣人は少し恥ずかしそうにする一方、しっぽを振るレオルンド
「そうか、ハヤテ殿が私をそんなふうに言っていたのか。」
レオルンドのしっぽをじっと見るタクマ
「こいつ本当にハヤテに対しては感情むき出しだな・・・」
-ラータ・ログハウス-
夜になりレオルンド達がログハウスに到着するとソフィーとエレア、エルド、アルドバとアンネが出迎えてくる
「みなさんおかえりなさい!」
ソフィーが笑顔で声を掛けるとレオルンドは周囲をキョロキョロする
「ハヤテ殿たちは・・・まだ帰ってないのか。」
「はい。まだ帰ってないです。」
「トモキと言ったな。顔を合わせるのは初めてだな、領主のエルドだ。アルドバからメッセージを確認した。」
トモキに歩み寄り握手を交わすエルド
「はじめまして。メッセージの内容の通りで誘拐された獣人族の方々の救出をしたいと思いまだ面識のないエルド様にお願いをしてしまいました。」
「かしこまる必要はない。私のことはエルドでいい。街の憲兵隊から何人か腕の立つ者、それと冒険者を何人か手配してある。現在はトモキの予測した場所に配備している。」
エルドは地図を広げながらトモキに人員の展開状況を説明する
そこへ歩み寄るサンドラ達
「ラータの領主。エルド・ラータ様とお見受けします。私は獣人族の戦士サンドラ、そこのレオルンドの姉であります。此度は我ら獣人族のために動いていただきありがとうございます。」
片膝をついて頭を下げるサンドラの肩を掴み起こすエルド
「そういうかしこまったのはやめてくれ。私は友人の同族の手助けをするだけだ。」
「サンドラ様!なにか複数の足音がこちらに近づいています!」
パルミラの言葉に耳を澄ます一同
ガシャッ ガシャッ
複数の足がきれいに足並みをそろえて行進しているような音が響いてくる
その音の中に明らかに一体だけ重量のある思い足音が響く
「なんだありゃ・・・」
怯えたような顔でログハウスの北側を指差すアルドバ
全員がその方向を見るとブロンズ色に輝く3メートルほどのゴーレムが荷車を引いてログハウスに向かって歩きその後方を小型のゴーレムが4×5の列になって行進している
「おーい!」
全員がゴーレムの辺りをよく見ると荷車から上半身を乗り出して手を振るアヤとブレダ
ゴーレムがログハウスの前で停まると荷車から降りてくるブレダとアヤ
「んー!疲れたぁ!」
大きく背伸びするアヤに駆け寄るレオルンド
「アヤ殿!このゴーレムはいったい・・・そうだ!ハヤテ殿は!?」
気難しそうな顔をするアヤは荷車を指差すとベルトリクスがハヤテを抱いて降りてくる
ベルトリクスの腕に抱かれたハヤテはぐったりとし、髪の毛の半分が真っ白になっていた
「ハヤテ殿!!ベル!一体何があった!!」
動揺するレオルンドをなだめるベルトリクス
「まずは落ち着け。ハヤトを横にしたい。」
ベルトリクスはログハウス前のベンチにハヤテをそっと寝かす
ハヤテは意識を失っているようだが口元は小さくぶつぶつと何かを呟きながら動いている
「ブレダ。一体何があったんだ?」
アルドバの質問に苦笑いで返すブレダ
「実はね・・・開いちゃったのよ。ホーマ族の遺跡。」
『ええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!』
タクマ、トモキ、アヤ以外の全員が驚き声を上げる
「この数百年、誰も開けられなかった遺跡が・・・」
アンネはハヤテを見て驚く
「それでね?中では遺跡を守るゴーレムと戦ったり、そこの荷車に載ってる遺物も見つけたんだけど。とある部屋でハヤテくんだけが入れる部屋があって・・・」
「あって?どうしたんだ?」
アルドバはゴクリと息を呑む
「なんだか頭の中にホーマ族の知識とか歴史とか無理やり流し込まれたみたいなのよね・・・アハハ。アタシもなんだか良く分からなくて。」
呆れ顔をするアルドバに説明するアヤ
「おそらくハヤテは一度に大量の情報を叩き込まれて脳が休止状態になったようなものね。脈拍・血圧・体温に異常はなし。このぶつぶつ言ってるのは無意識下で脳が情報を整理している為だと思われるわ。それと私のスキルでハヤテの脳内を見たけど脳の奥に機械のようなものを埋め込まれたみたい。
あんなのわたし達の世界でも摘出できないわよ。右脳と左脳を物理的に割らない限りね。」
タクマとトモキは脳を割るという言葉にゾクッとする
「ってかよぅ・・・このロボットたちはなんなんだ?」
タクマやエルド、女性獣人たちはまじまじとゴーレムを観察する
ゴーレムたちはハヤテの命令がないためかそこから微動だにしない
「今回わたし達が潜った遺跡はこのゴーレムたちの保管庫だったみたいなの。ハヤテに埋め込まれた機械の影響でハヤテを主人と認識しているみたい。でかいのが機械兵、小さいのがそのままで小さき機械兵って名前みたいなんだけど。ここに戻る最中にハヤテが機械兵を【クラフトゴーレム】、小さき機械兵を【ビルダーズ】って名前をつけ直してたわ。
クラフトゴーレムが戦闘用、ビルダーズが作業用とも言ってたわね。」
アルドバはクラフトゴーレムを間近で見ている
「信じられん・・・これがホーマ族の古のゴーレムだというのか・・・他のゴーレムとは全く違う。」
アルドバの言葉に反応するブレダ
「そういえば遺跡の守護をしているゴーレムと戦うときもハヤテくんは「俺から見たらただの機械だ」とか言ってたわ。戦ってる最中もどこを攻撃すればわかってるみたいに迷いなくわたし達に指示を出してたし。」
ベルトリクスはその時の様子を思い出していた
「そうだな。ハヤテは倒し方を知っていたようだった。もしかしてこのような存在がお前たちの世界にもあるのか?」
トモキは苦笑いする
「さすがに無いよ。でも似たような構造の物はたくさんあると思う。工業用・産業用のロボットとか・・・僕は専門外だからわからないけど。」
ベンチに寝かせているハヤテを寝室に移してきたレオルンド
「ハヤテ殿がこの様子では今夜の作戦への参加は無理であろう。ゴーレム達もハヤテ殿が命令しない限り動く気配もないようだし。今回は我々だけで動こうかと思う。」
「そうだね。おそらく誘拐団も夜中から日の出の間にはエルシアに入るはずだろうから、そろそろ僕たちも移動しないと。」
レオルンドはベンチに立てかけた自分の大剣を背負う
「ではソフィー殿とエレア様にハヤテ殿の看病を任せてもよろしいでしょうか?」
ソフィーとエレアは縦に首を振る
「私は捕まっている獣人族を保護するために馬車を手配する。おそらく何らかの方法で動けなくされてると思うからな。」
エルドは自分の乗ってきた馬にまたがりラータへと戻っていく
「アヤ、今回はお前も家に残るんだ。相手が魔物でなく人間であるかぎりどんな手を使ってくるかわからん。まだ戦闘に慣れていないから危険だ。」
ベルトリクスの言葉に頷くアヤ
「そうね。わかったわベル。」
ソフィー、アヤ、エレアの見送る中、北へ向かって移動する一行
-エルシア領のとある渓谷-
ラータから北に2時間、エルシア領とエルミガンと聖国アルトーク、三国の端に位置する山脈【パラス山脈】の中腹にある巨大な湖【パラス湖】
満月の出る夜で月光で湖や辺り一面が明るく照らされている
湖を覗き込むトモキ
「すごく綺麗な湖だね、日本の濁ったものとは大違いだ・・・」
アルドバは岩場に腰掛ける
「ここは山脈の湧き水が集まる場所でな、ラータのそばを流れる川の水源でもある。ラータに住む人間はみんなここの水の世話になるのさ。」
タクマは両手で水をすくって飲む
「へぇ、ここの水は軟水か。」
しばらくするとラータの憲兵が息を切らせながら走ってくる
「報告します!正体不明の荷馬車を引いた集団を確認!冒険者と我々憲兵が交戦に入りましたが敵の中に召喚術師がいたようで現在は召喚された魔物との交戦で・・・集団を・・・取り逃しました。この街道を進んでおりま・・・すので間もなく会敵すると思われ・・・ます。」
ぐったりと座り込む憲兵
憲兵に水を飲ませ介抱するトモキ
「先回りして必死に走ってきてくれたんですね、お疲れ様です。」
トモキは杖を持つとアンブッシュプラントを召喚する
「召喚!アンブッシュプラント!攻撃条件は姿を隠しているもの。攻撃属性は炎!」
燃える葉を宿した一体のアンブッシュプラントが周囲を警戒を始めるとすぐに枝を振りかぶり火球を飛ばす
「直ぐ側にいるぞ!全員警戒しろ!!」
ベルトリクスの声とともに闇の中から一本の矢が飛んでくるとパルミラの肩を貫く
「パルミラ!」
サンドラがパルミラに視線をやるとトモキがパルミラのそばで呪文を詠唱する
「すべてを守護する聖なる光よ。この者の痛みを和らげ、不浄を浄化せよ。【ファストエイド】」
杖の先から発光する光はパルミラの変色した傷口を包むと出血が止まり変色した皮膚が元の肌色に戻っていく
「トモキ様。矢に毒が塗られてるとよくおわかりに・・・」
「喋らないで。万が一と思ってこの魔法を作っておいてよかった。いいかい?この魔法は傷を塞がない。傷はちゃんと消毒した上で塞がないと体内にばい菌を残してしまう。
この魔法で痛みと出血は数時間は和らげることが出来るからあとで僕たちの仲間のアヤちゃんにちゃんと塞いでもらうんだよ?」
トモキは立ち上がると少し機嫌の悪そうな表情をする
「ほんと・・・卑怯だよね。こんなやり方は・・・
いや。違うか。ここは日本じゃない。殺すのも当たり前の世界なんだよね。ボクの考えが間違っていたよ。」
トモキは杖を離すと杖はひとりでにトモキの正面で浮かびクルクルと駒のように回る
「幻影よ。我が魔力にひれ伏し真実を晒しだせ!【アンチイリュージョン】」
トモキを中心に魔力の衝撃波が広がり、魔法によって姿を消していた誘拐団が次々と姿を現し獣人が捕まった大きな荷馬車も現れる
パルミラに肩を貸して後方に下がるアンネはトモキからあふれる魔力の量に驚く
「信じられない・・・これが不死鳥の加護持ちの力・・・」
トモキを見つめるパルミラ
「不死鳥様の加護を・・・すごい・・・」
誘拐団の男たちは武器を構えレオルンドとベルトリクスに向かって斬りかかるが二人の大ぶりの一撃に吹き飛ばされる
「さっきの冒険者や兵士共なんかより厄介だな。・・・おい!あれを使うぞ!」
誘拐団のリーダーと思われる男がローブ姿の男に声を掛けるとローブの男は黒い水晶の魔道具を取り出す
「これに封じられているのはお前たちが相手したこともないような魔物だ!出してしまえばもう私にも止められん!」
男は水晶を放り投げる
「戒めを解き開放されよ!召喚!【サモン・ギガント】」
水晶から光が漏れるとその場に高さ4メートルを超える5体のギガントが姿を現す
その大きさはラータを襲撃したギガントよりも遥かに大きかった
「嘘でしょ!?あのギガントが5体も・・・」
少し後ずさるブレダ
その先では驚いた表情をするローブの男
「そんな・・・まさか!5体も封印されているなんて聞いていない!」
声に気がついた一体のギガントが振り向きローブの男を掴むとそのまま口元まで運ぶ
「ひぃ!やめろ!私はお前たちの召喚主だぞ!」
「ニンゲン、イッパイ。クイモノタクサン。」
口の中に放り込まれたローブの男は鈍い音を立てながらギガントの口内で朽ち果てる
更に一体のギガントが獣人の入れられた荷馬車に近づく
「ジュウジン、オイシソウ。」
ギガントの右手が荷馬車に乗せられた女性獣人に触れようとすると横から誘拐団の残党を巻き込みながら風の刃がギガントの右腕を切り裂く
「我が同胞に汚い手で触れるな。」
大剣を肩に担ぎ歩いてくるレオルンド
「レオルンド様。」
捕まっている獣人が涙を流しレオルンドを見つめているとレオルンドの後方にもう一体のギガントが近づいていたがベルトリクスの攻撃で背中を大きく切られる
「レオ、一体引き受けるぞ。」
「頼んだ。」
その様子を見ていたブレダ
(レオとベルならわたし達よりも強いから一体ならなんとかなるはず・・・わたし達も力を合わせれば・・・)
「アルドバ、また昔みたいに力を貸してもらえるかしら?」
「引退した冒険者にはかなりきつい相手だな。まぁ良かろう!思いっきり暴れてやるとするか!」
アルドバはメイスと盾を構える
「アンネは後方からお願い。」
手を震わせながらも杖を構えるアンネ
「・・・わかったわ。」
一体のギガントがブレダめがけて近づいてくる
その様子を見ていたサンドラ
(残りは二体・・・一体は誘拐団が相手しているから残りのやつをやれば!)
「アルカ!私に続け!一体を仕留める!」
盾と片手剣を構えるアルカと両剣を回しながら構えるサンドラ
その一方で負傷したパルミラを介抱するトモキは違和感を覚える
「なんだろうこの魔力。とても熱い・・・」
誘拐団と戦っていたギガントがトモキを視界に捉え走ってくる
「ウマソウ!マリョクイッパイ!」
ギガントの拳がトモキに振り下ろされる
「トモキ様逃げて!」
パルミラの言葉も聞いても笑顔で返すトモキ
「大丈夫。僕の親友はどんなときでも助けてくれるから。」
ギガントの拳で舞い上がった砂埃
全員が拳の先にいたトモキとパルミラの場所を見つめると砂埃が落ち着き現れたのは額に血管を浮かばせながらギガントの拳を止めるタクマだった
タクマは腰に収めてあった2本の片手剣をクロスさせてギガントの拳を止める
「おい。」
タクマの声に反応し拳を引くギガント
顔を上げギガントを睨みつけるタクマはこの世界の者達に見せたことのない表情をする
「てめぇよぉ。今、俺の身内を食おうとしやがったな?」
血走るタクマの目にゾットした悪寒を走らせるアンネとブレダとアルドバ
そのときアンネがタクマの周りに渦巻く魔力を感じる
「あれは・・・精霊・・・いえ、何か別のものが現れようとしている。」
渦巻く魔力は次第に炎の渦となり、炎は集まり人のような形をなしていく
それは炎で出来た鎧をまとった女性の姿だった
女性はタクマを穏やかな表情で見下ろす
「我はアグニ。炎を司る存在。」
アンネはアグニの名前に驚く
「アグニ・・・大精霊イフリートよりも遥か上位の・・・神・・・」
「汝の怒りの感情、とても美味である。とても純粋で・・・とても猛々しい。」
アグニと名乗る存在は指先から赤く燃え盛る炎の球体を出すとタクマの胸にそっと押し当てる
「熱く・・・ない。」
球体は完全にタクマの体内に入り込む
「これで我の加護が汝に加えられた。その力、怒りのままに振るうがいい。」
そう言い残すとアグニは燃え尽きるように消えていった
「燃えろ・・・」
タクマの声とともに両手の片手剣に魔力がこもり燃え盛る
トモキはその様子を見ている
「タクマ?大丈夫そう?」
「ああ。問題ねえ。トモキの言ってた通りだ、イメージが湧いてくる。」
タクマはすばやくギガントの足元に潜り燃え盛る刃で右足の脛を十字に切り裂くと体重に耐えきれず右足が潰れる
「イダイ!イダイ!」
地面でもがくギガントを見ながら右腕を前に伸ばすタクマ
「これが俺の力・・・俺の魔力。」
伸ばした右手の指先に小さな赤く燃える玉のような物が現れるとそれは放物線を描いてギガントに飛んでいく
「燃えつきろ。ファイアストーム!」
燃える玉はギガントに触れた途端巨大な火柱になり周囲の温度を上げていく
周囲の草木は焦げギガントはまたたく間に骨だけになっていく
「こりゃあ火葬場いらずだな。」
呑気な発言をするタクマは両手の剣を構えるとブレダたちが相手をしているギガントに向かって剣を振るう
「炎剣!!迦具土!」
剣から放たれた炎の刃はギガントの首を切り落とす
切り口が焦げたためか一滴の血も流れずにギガントはゆっくりと倒れていく
「最高だぜアグニ。俺にぴったりな神様だ。」
タクマはトモキの方を見ると親指を立てるとトモキも笑って親指で返す
-続く-




