第三話 下準備
-冒険者ギルド・ラータ支部-
うまそうに樽の形状をしたジョッキで酒を飲むブレダ
「ぷっは-!ってハヤテ君本当は34なの!?私より年上じゃないか!」
テーブルの向かいで同じ酒を飲むハヤテ
「なんかコッチの世界に来たら若返ったんだよね・・・ってかこの酒なんだ?ビールっぽいけどぬるいな・・・」
ブレダの隣で酒を飲むソフィー
「仕方ないです!酒場とかなら氷魔法を付与したジョッキとかで冷やしたりして飲むんですが、こんな田舎ですからねー。魔法を付与する人間もいませんし。
あっ。そうそうハヤテさん、これ今回の緊急クエストの報酬と魔力結晶の換金額です。全部で5万8000バッツです!」
硬貨が入った袋をドシンッとテーブルに置く
「この金で何買おうかなぁ・・・」
ブレダはハヤテをじっと見つめた
「ハヤテ君は今後はどうするんだい?この街に住むかい?なんならこのギルドにも空き部屋もあるし。」
「いや、この世界に来たときに俺が使ってた作業場もなぜか一緒に飛ばされてきたんだよね。だからそこを中心に居住環境作ろうと思ってるよ。作業場にはいろんな道具があるから物づくりには欠かせないし。」
「物づくり・・・そういえば君の適正を見る石版にスキルがいくつか出てたね・・・確か、【高速クラフト】と【資源鑑定】と【資源感知】
どれも私は聞いたことがないスキルだ。それにスキルというのは基本一人に対して1つか2つなんだ。君はどこか特別なんだろうね。」
苦笑いするハヤテ
「戦闘スキルじゃないんかい。資源鑑定ねぇ・・・ん?」
ハヤテはブレダの胸元に光る宝石のついたネックレスを見つめる、するとハヤテの茶色い瞳が青くなる
「スピネル・・・またの名を尖晶石・・・化学組成・・MgAl2O4・・・その宝石は赤というよりピンクに近いからスピネルでも希少種で高価なもの・・・ん?あれ?」
三人は驚いたような顔をした。ハヤテは自分が無意識に言ったことに対してスキルを理解した
「なるほどこれが資源鑑定か・・・鉱石とかの判別ができるみたいだね。なら資源感知は・・・鉱石の鉱脈でも感知できるのかな?」
「そいつは面白いスキルだな。きっとバトルクラフターの【クラフター】に由来するものなのだろうな」
バタン
ギルドの扉を開けて兵士が入ってくる
「失礼いたします。領主様よりギルドのみなさんを領主様の屋敷に招待せよと命を受けてきました」
ソフィーは冷ややかに反応した
「もう営業時間は終わってますよ。それにみんなお酒が入ってしまってますし。」
ブレダはジョッキに酒を継ぎ足しながら兵士に問いかける
「あんたら昼間の襲撃の原因は調べたのかい?誰かが変な魔道具持ち込んだとか、魔物の幼体が居たとか。」
「いえ、やはり我がラータの街は【女神の守護】を受けていないせいかと思います。」
ハヤテは酒と一緒にパンをかじりながらブレダに質問する
「何だこのパン・・・美味くない。ってか女神の守護ってなにさ、やっぱこの世界って神様とか居るの?」
「ああ・・・。この世界は各都市に一人の女神様が住み、守護する。だがこの街に女神様は居ないんだ。ここラータは移民たちが集まり出来た開拓地、街になってまだ30年しかたってない。本来なら見習いの女神様が天界から降臨されこの街を守護されるのだ。まぁ、守護と言っても魔物の襲撃が全くなくなるわけではないが。」
「へぇ、女神様っていっぱいいるのか!この街ってまだ新しいんだな。ってことはこのあたりは他所の比べたらまだまだ発展途上って事か。
なぁなぁババア。この土地で何かを始めるときってやっぱり領主の許可居るのか?」
「当たり前だ。領主様はこの地を一番最初に切り開いた一族様だ。」
「じゃあ俺はその領主様に会わないといけないか。よっし!行くか!」
-ラータ中心部・領主の館-
ハヤテたちを出迎える貴族の男は咳払いをしてブレダを見る
「ブレダ・・・・お前酒でも飲んでいたのか、エールの匂いがすごいぞ・・・」
「あはは・・・ちょっと祝勝会を・・・」
「まぁよい。君がハヤテか、私はこの街の領主、エルド・ラータだ。なんでもトロールを一撃で仕留めたとか」
「ん?二撃だけどな。」
「ところで君はここラータではじめての冒険者と聞く。今回の件で礼をせねばなるまい、そこでなにか欲しいものはないか?金か?家か?」
少し考え込むハヤテ
「んじゃぁ、この土地で工房を始めたい!それで資源を得るために領地の山を掘ったりしてもいいか?」
「工房・・・とは?」
「んー。人々の暮らしを豊かにするための道具や設備を作り出すんだ。使い方によっちゃ人に危害を加えるかもしれないが正しく使えば沢山の人を幸せにできる。
まぁ騒音とかもあるからこの街から離れたところでやるつもりだよ。」
エルドは少し悩んだがハヤテの要求を快諾した
「良かろう。お主の好きにして良いぞ。そのかわりこの街にも少しばかりの恩恵を預かりたい。」
「もちろん!」
エルドとハヤテは握手を交わした
「それともう一つ。この世界のことをもうちっと教えてくれないか?ここが世界のどこに位置するのかも知りたい。」
エルドは書棚から地図を取り出した
「それではこれを見なさい。この中央に位置するのが【聖国アルトーク】十二神を信仰し沢山の魔道士を抱えた大国だ、魔道士だけじゃなく聖騎士なんて化け物じみた連中もいる。
その北に位置するのは【帝国バルトゥーラ】最大の軍事力を持ち兵の数も最大。しかし、この国は農耕に乏しく、何度も農耕地を巡って聖国とやりあっている。
そして聖国の西から南を囲むように位置するは我が国【エルシア】その中でも私達は南東の最果てに位置する。」
ハヤテはなるほどと言った顔でうなずく
「つまりは辺境のど田舎ってことね」
「おっほん・・・。そして我が国の南方には獣人やリザードマンのほか様々な亜人種が住む国・・・いや、国というか幾つもの部落の集まりの【アドラシア】という大陸がある。」
「へぇ~、見てみたいな!こっちの国は?」
ハヤテはエルシアの東を指差す
「そこは【エルミガント】ドワーフやエルフたちの住む国だ。基本的に我々人間は嫌われるので交流は殆ど無い。だがドワーフは技術力に長けていて、エルフは医学や薬学に優れている。」
(ドワーフか・・・面白そうだな・・・)
エルドは地図を丸めてハヤテに渡した
「よかったら差し上げよう。それで?今夜はどうする?もう夜も更けてるしこちらに泊まっていきなさい。」
「いや、プレハ・・・・家に帰るよ。これからやることもあるし。」
ブレダは不服そうにハヤテを見る
「なんだいつれないねぇ・・・」
ハヤテはラータを出てプレハブに向かってあるき出した
「しかし面白え世界だなぁ。ここまで色んなのが居るとは」
-翌朝-
カンカンカンカン!
早い時間からトンカチを叩く音が聞こえる
「うわぁ・・・やっべえな。釘も限りがあるし、消耗品の補充も考えておかないとな・・・」
しばらくするとプレハブの中に転がっていたジャンクのモーターを引っ張り出し中身を出す
「うーん。ジャンクだからってもらったけど、まだまだいけるな。でも導線もそこまで備蓄あるわけじゃないしな・・・まぁ今は仕方ない!」
ハヤテは近くの小川に加工した木材を組み上げ簡単な水車を作り上げた
「・・・高速クラフトってこれか?まだ昼くらいだし・・・」
バラして改造したモーターを水車の軸に取り付け導線を接続し、プレハブまで引き込んだ
「変圧器はそのまま使えるからこれをつなげて・・・っと。」
ピッ!
プレハブ内のノートPCなど電源を必要とする機器が起動し始める
「おっしゃー!!うごいたぞぉ!」
PCを操作しだす
「ネットにこそ繋げないがこれには沢山の設計図が入ってる!壊れでもしたら大変だからな、全部プリントしておこう!」
ハヤテはプリントした設計図をフォルダに入れてしまいこんでいく
「簡単な水力発電だが、ここで使う分には十分だ!後はとにかく金属がほしいな・・・」
ハヤテは目を閉じて集中した
「・・・資源感知」
するとハヤテの中にイメージが駆け巡る
地面の中に色んな色の光が点在する
「驚いたな・・・この光ってる所に鉱石があんのか・・・色が幾つかあるけど・・・なんだろ。鉱石の種類かな?金属・・・炉が必要になるな・・・」
ハヤテは犬のように手でその場で土を掘っていくとあることに気づく
「あった!粘土だ!これで鋳造炉が作れそうだな!」
手が痛くなったのか、ある程度粘土を掘ると小川で手を洗い出した
「スコップないと駄目だ・・・あと砂も必要だな・・・後は木枠用の木材・・・粘土を焼く簡単な窯・・・やること多すぎる・・・」
ハヤテはスレッジハンマーを手に取りプレハブの近くにあった大きな岩の前に立つ
「・・・・スウゥゥゥゥゥ・・・・・・・。フンッ!!!」
スレッジハンマーを岩に叩きつけると細かく粉砕される
「・・・すげぇ。自分でもびっくりするわこんなの・・・」
砕けた岩を広い積み上げて筒状にしていくと積み上げて岩の隙間に粘土をつめていく。
そして小枝を中に入れ火をつける
「これはしばらくほっとくとして・・・・砂か。」
ツナギを脱ぎパンツ一枚となり小川の中に入ると底をあさり濡れた砂を両手ですくいだした。
砂をある程度掘ると水車のそばに集め山のように盛る
「こんなベッチョリしてたら使えないからなしばらくはここで乾かすとして・・・次は・・・」
ストックしておいた木材を更に細かくノコギリで切り分け四角い枠をたくさん作っていくと先ほど掘っておいた粘土をぎっしりと詰め込んでいく。
粘土の詰まった枠をプレハブの壁に立てかけていき、再び粘土掘りをする
日が傾き薄暗くなる頃にはハヤテは手で自分の身長くらいの直径1メートルにもなる穴を開けていた
そしてまた木枠に粘土をつめてプレハブに立てかける
小川で身体を洗いプレハブに戻る頃にはすっかり暗くなっていた
「これが最後の缶詰か・・・」
缶詰と先日収穫したリンゴを食べると窓から街の方を見る
「明日は街で食材を買うか・・・スコップと斧もほしいな・・・ってかプレハブじゃなくてちゃんとした家を建てたいなぁ・・・」
壁にもたれかかると寝言をつぶやきながら、そのまま眠りについてしまった
「いきねば・・・・・・いき・・・る・・・・・に・・・く・・・」
-翌朝-
疲れていたのか昼近くまで寝ていたハヤテは起きるとプレハブに立てかけた粘土を先日作った簡易的な窯の中に立てて敷き詰めていくと隙間を埋めるように小枝を投入し火をつけ投入口を土で塞いだ
空気穴からは白い煙が上がっていく
「よっしゃ!後はほっといて街に行きますか!」
ハヤテは背中にスレッジハンマーを背負い、金の入った袋を持ってラータに向かった
-ラータ-
街につくとハヤテは街の民家などを見ながら歩いている
(ただ切り出した石を積み上げているだけなのか・・・地震とかないのかな・・・なら簡単な作りの家でもダイジョブそうだな。しかし切り出した石と言ってもおそまつな作りだな・・・)
-ギルド-
ソフィーは玄関前でほうきで掃き掃除している所にハヤテが顔を出す
「こんにちわソフィーちゃん。」
「あっ!ハヤテさん!どうしたんですか?」
「ちょっと道具が欲しくて買い物に来たんだ。スコップと木を切る斧ってどこで買えるか知ってるかい?」
「それなら武器屋さんで買えますよ!ここをまっすぐ行って突き当りの薬屋さんの隣です。」
「助かったよ、ありがとう。」
手を上げてソフィーの前を去っていく
-武器屋-
中に入ると違和感を感じた、武器屋なのに武具が少なく農機具のほうが多い。おそらくこの街のギルドに冒険者が居ないというのが少なからずとも影響を与えているのだろう。
「おじさん、木こり用の斧を2本、スコップを2本。・・・ああ、あとそこのつるはしも2本くれよ。」
「え?そんなに?・・・まぁいい、せっかくの上客だ!」
武器屋の主人はロープでそれぞれをまとめハヤテに渡し、ハヤテも代金を支払い出ていった
-プレハブへの帰り道-
まとめた6本の農機具と小さな市場で買った食材を担いで歩くハヤテ
「リアカーも作るか。これは流石に失敗したな・・・」
プレハブにつくと買った食材をプレハブの中の冷蔵庫に入れる。水車の発電で冷蔵庫も使えるようになっており生物をしまいこんだ
外に出て簡易窯の入り口の土を崩すと焼いた粘土はレンガになっていた
レンガをそれぞれ両手で持ちぶつけてみるとカチンっと硬い物同士が当たる音が聞こえた
「よしよし!これをもっと作るぞぉ!!」
入り切らなかった粘土を再び窯に入れて火をつけると遠くの方からハヤテを呼ぶ声が聞こえる
「ん?だれだ?」
キョロキョロと見渡すとラータの方角から歩いてくるブレダがいた。
-続く-