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第二十二話 ラータでの再会

-ログハウス-

ログハウスとラータの間のひらけた場所で伐採された丸太が冒険者たちによってたくさん集められていく

その様子を遠くから見ているハヤテとエルド


「ハヤテ。あのログハウスというものをいくつも建てるのか?」


「いや、あれは施工に時間がかかる。だから今回は工法を変えて、あの場所で壁や床などある程度の部材を作ってから現場に運び込むよ。俺のいた国はめちゃくちゃ地震が多い国でさ、住宅に関してはあっちの世界でもダントツの建築レベルなんだ。だからいろいろな家の建て方があってな、今回はパネル工法ってのを試してみる。」


「ほう。しかし地震が多い国など安心して住めぬだろう。お前の国の民はそれで平気なのか?」


「小さいのならな。ここで21棟分の部材を作って現場で組み立てるのはそんなに難しいことじゃない。一階建ての平屋だし。木材も俺の世界とほとんど似てるしなんとかなるな。エルド。夕方になったら作業は止めさせてくれ。俺は夕方まで寝るわ。俺の出番は夕方までないしさぁ。」


「ああ。わかった。管理はこちらでしておこう。私はこれから現場の地盤工事の方を見に行く。あちらはレオと魔道士達でやっているんだったな。」


「工事って言っても大穴開けて砕いた石を敷き詰めてるだけだ。・・・・あっ。」


「どうした?ハヤテ?」


「いや、明日の昼くらいに敷き詰めた石を締めるのに危険が伴うからあそこの入り口から現場までの道の封鎖と近隣の住民はどっかに避難させててね。」


「それは構わんが危険っていったい・・・」


そのときエルドはハヤテのログハウスを建てる際の地盤工事であることを思い出した


「ま、待てハヤテ!お前まさかトロールを!」


エルドが気づいた頃は既にかなり離れたところまで歩いていったハヤテ


「はぁ・・・まぁしかしハヤテに頼らないとこの移民対策も進まぬし・・・はぁ。アルドバ殿に明日の警備の相談せねば・・・」


トボトボとラータに歩いていくエルド


-数時間後-


日が傾き夕方となった。伐採作業をしていた冒険者たちとその他作業をしていた魔道士達はエルドの屋敷の大広間で食事を済ませ仮宿としている冒険者ギルドの建物に入っていく


ログハウスとラータの中間地点では地面にいくつもの松明(たいまつ)が設置され、工具箱を持ったハヤテが現れる

ハヤテはツナギの上半分を脱ぐと袖を腰で縛り上半身裸になる


「さて、こっからはオレの出番だ。」


ハヤテはノコギリを持って一振りすると丸太を次々と長尺の板状に変えていく


(俺の高速クラフトは【過程をすっ飛ばして結果にする】、ほんと便利なスキルだよなぁ。)


板状にした木材を並べ、差し金を当てて鉛筆で目印をつけるとノコギリで更に寸法を変えていく


必要な木材を切り出しているとレオルンドが近づいてくる


「ハヤテ殿、なにか手伝うことはありますか?」


「ん?いや。ねえよ?ってかお前は飯食って風呂入って早く寝ろよ。昼間しっかり働いてるんだから。こっからは俺の仕事だ。仕事ってのは短い時間で効率よくやるもんだ、これ以上働いたら長時間労働になっちまう。」


「・・・そう・・・ですか。」


レオルンドは少し残念な顔をする


「レオ。前にも離したが俺はこの世界で工房を立ち上げようと思う。」


「工房?ですか?」


「ああ。何でも作るんだ!家も作るし、人を支える設備も作る!望まれるものを何でも作るんだ!その代り俺たちは物を作り報酬を得る。」


「俺たち?」


「もちろんレオもベルも一緒にやるんだ!俺の会社の第一号と第二号の社員だ!まだ先の話だがラータ自体を作り変えちまおうかって話もエルドとしてるんだ。」


ハヤテは楽しそうに金槌で釘を打ちながら話す。その表情を見ていたレオルンド


(この人は・・・いったいなんなんだ。私を獣人・・・いや、亜人として見ていない。それどころか同じ人間だと思って接してくれているのか。)


レオルンドは初めてハヤテに会った日のことを思い出す


【まぁ待てって!せっかく知り合ったんだから一緒に飯でもくおうぜ!】

【ふーん・・・じゃあ俺とここにいれば?】


(そうだ、この人は最初から人種なんて考慮せずに接してきたんだ。だから私はこの人間であるハヤテ殿に惹かれたのだ。)


レオルンドは少し嬉しそうに笑みが溢れる


「いつかその工房の仕事が我が故郷のアドラシアでも出来ますかな?」


「そりゃできるに決まってんだろ。求められればどこでだってやってやるよ。」


「それなら私はハヤテ殿にどこまでも付いていきますよ。」


笑顔のレオルンドは機嫌よくログハウスに戻っていくと入れ替わるようにソフィーが来る


「ハヤテさん、夜食にサンドイッチ作ったので食べてくださいね!」


「ありがとう。助かるよ!」


ソフィーは近くの切り株に腰掛けハヤテの様子をじっと見ている


「・・・・・」


(なんかソフィーちゃんに見つめられるとドキっていうか変な感じするんだよなぁ・・・)


「ソフィーちゃん?こんなの見てて楽しいかい?」


「はい!珍しいですし、ハヤテさんとっても楽しそうに作業しているから。」


「えっ?」


「ハヤテさん気づいてないんですか?さっきからニコニコしながら作業してるの。」



ハヤテは自分の気づいてないことを指摘されると恥ずかしそうにする


「まいったなぁ。無意識に・・・」


恥ずかしそうに作業を進めているとハヤテは空に鳴り響く音に気づいた


「雷?こんな晴れた夜空なのに・・・」


「そういえばハヤテさん、この世界にきて二日目にラータに来たんですよね?」


「ああ。そうだよ。」


「じゃあ同じですね。ハヤテさんがこっちに来たと思われる日の前の晩、こんなふうに星が出てるのに雷が鳴っていたんです。町の人達も不思議がっていました。」


「へぇ。じゃあ珍しい現象なんだな。・・・もしかして俺以外にもこっちに飛ばされる人間がいるのかもな。」


ハヤテは冗談交じりに笑いながら話す


「ありえますよ。聖国は今まで何人も異世界から勇者の召喚をしていますから・・・」


「へぇ・・・そうなのか・・・」


ハヤテはかつてレオルンドと共に戦った【賢狼ロドム】の言葉を思い出す


「ソフィーちゃん、勇者ってのは何のために呼ばれるんだ?」


「魔族と戦うためって聞いてます。なんでも異世界から来た勇者はあっという間に強くなって聖騎士をも上回るそうです。でも殆どがそうなる前に魔物や賢狼のような存在に殺されてしまうそうですが。」


(あの狼の話は本当だったか・・・)


ハヤテは黙々と作業を続ける



-ログハウス-

二階の窓から二人の様子を見ているアルドバとブレダ


「この雷の音・・・ハヤテくんが来る前の夜みたい。」


「なぁブレダ。思ったんだがハヤテはどこかの国が召喚術を行い失敗してここに現れたんじゃないか?」


「でも戦闘スキルを持ってないのよ?とても勇者召喚で呼ばれたとは思えないわ・・・」


ベルトリクスとレオルンドが二階に上がってくる


「おそらくハヤテ殿をこちらの世界に呼んだのは神鳥です。」


レオルンドの話に驚くアルドバ


「馬鹿な。亜人達の崇める神が呼んだってのか・・・何のために。」


ベルトリクスは窓の外のハヤテを見る


「確かに神鳥はアドラシアに住む我々亜人が太古より崇める神。本来下界の事には干渉しないし、ましてや人間に見向きするような事などありえない。だが実際に神鳥はハヤテの前に現れた。しかもガルーダ達を連れてまで。」


窓から振り向きブレダとアルドバを見るベルトリクス


「レオとも話したが間違いなくハヤテをこちらに呼んだのは神鳥。何の意図があってそうしたのかは分からないが。この大陸を傍観する三大神のうちの一人が召喚したのだ。あのスキルが聖国と関わりのあるものであってもハヤテは我々の味方だ。」


ベルトリクスは自分の寝室に入っていく


「まぁそういうことです。私はハヤテ殿が誰に召喚されようがどうでもいいですが。共にいるだけで新鮮で楽しいので私はそれだけでいいですが。それじゃあおやすみなさい。」


レオルンドも寝室に入っていく


「なんかバカバカしいわね・・・アタシ達。」


「亜人のあいつらが信用してるってのに・・・人間の俺たちがこんな話をしているなんてなんか情けないな。やめようこの話はこれで終いだ。俺も寝るぞ!」


一階に降りていくアルドバ


晴れた夜空なのに鳴り響く雷音


小さな雲に隠れていた月が姿を現すと月明かりがハヤテとソフィーを照らす


「おっ、綺麗なお月さんだ。・・・・ってか何で月が3つもあるんだか・・・・。」


ハヤテが夜空を見上げると日本でも見ることが出来た白い光を放つ月とそれに続くように緑と黄の月が並んでいる


「え?お月様って3つじゃないんですか?」


ソフィーの返答に振り向くハヤテ


「俺の世界では月はひと・・・・」


ハヤテが振り向き視界に入ったのは月明かりに照らされた大きな三角帽子を被った白いローブ姿の女性

女性はハヤテを見つめ微笑んでいる

女性はハヤテに向けて口を動かし何かを話しているようだが聞こえなかった


「・・・」


「ハヤテさん?」


ボーッとしていたハヤテが気がつくとそこにはソフィーがハヤテを見つめていた


「いま・・・ここに女の人いなかったか?」


「え?ここに私しかいませんよ?」


「あれ・・・何だったんだいまの。」


ハヤテは少し周囲を見回すと首を傾げながら作業を再開する


「・・・そういえばハヤテさん、あの黄色いお月様には【ホーマ族】という一族が住んでいるっておとぎ話があるんですよ。」


細い板状の木材を組んで四角い枠をいくつも作りながらハヤテは返事をする


「ホーマ族?どんな奴らなんだ?」


「大戦が起こるずっとずっと昔、私達の住むこの大陸にはホーマ族と言われるとても高い文明を持った一族が住んでいたと言われています。その人達が作りだした物は難しすぎて他の種族たちには理解することも動かすことも出来ませんでした。」


「へぇ・・・そんな奴らがいたのか。」


「とても優れた道具。強力な戦力を持った彼らですが、ある日突然彼らホーマ族はこの大陸から居なくなってしまったのです。言い伝えではホーマ族が消えた日に黄金の宮殿が轟音を建てながら黄色いお月様に向かって飛んでいったと言われてるんですよ。」


「飛んでったって・・・ロケットかよ・・・。でも高度な技術を持った種族か。」


ニヤッと笑うソフィー


「ハヤテさん。興味持ちました?実は今でもホーマ族の居た証拠はあちこちにあるんですよ!ホーマ族の遺跡はだいたい地下にあって洞窟のダンジョンなんかで繋がってる場合が多いんですよ。でも遺跡の扉は誰にも開けられなくて冒険者さん達はみんな悔しそうに帰ってくるんです。色んな所から白い煙が出ていてガシャガシャと大きな音を立てているって聞いたことがありますよ。」


「んー。なんだ?蒸気機関みたいだな。避難民の住宅建設が終わったら行ってみようかな。よく考えたら冒険者登録してから俺は家を建てることしかしてねえし。」


「あれ?冒険する気無いんじゃなかったんですかぁ??」


ニヤニヤとするソフィーは立ち上がる


「じゃあ、一番近い遺跡調べておきますね!私はそろそろ寝ます。ハヤテさんおやすみなさい。」


「おう!おやすみ!」


静かな夜の闇の中にハヤテの打ち鳴らす金槌の音が響き渡る

それはログハウスに眠る者たちにとってうるさくは感じず、むしろ心地よく感じた


-翌朝-


目覚めたレオルンドが外に出ると昨日切った木材がすべて大きな木枠に加工され積み重ねられている


「あれだけの木材を一晩で・・・ん?あれは・・・」


レオルンドの視線の先には細長く切られた厚さ1センチほどの木の板が3枚で煙突のように組まれ地面に立てられたものがいくつも並んで白い煙が上がっている


「何だこれは・・・中で燃えてるのか?」


レオルンドは見渡すと切り株に寄りかかって寝ているハヤテを見つけ近寄る


「ハヤテ殿、よく外で寝れますね。」


「ん。おはようさん。」


「あの煙の出ているものはなんですか?すごい数ですが・・・」


「ああ。あれは焼き杉を作ってるんだ。まだまだ足らんからもっと作るけど。」


起き上がるハヤテは大きく背伸びする


「さて、俺は臨時作業員を捕まえに行ってくるからレオ達はみんな街に行ってエルドの支持に従ってくれ。」


ハヤテはラータの南側の森へと向かっていく


-ラータの北東側-


平原を歩くタクマ、アヤ、トモキの三人


「タクマ・・・歩き疲れた・・・」


トモキの肩により掛かるアヤ


「っせーなぁ。あそこに街っぽいのが見えるだろ。あそこまで我慢しろ。」


「そうだよアヤちゃん。大きな街に行けばハヤテのことが分かるかもしれないし。もうちょっと頑張ろう?」


するとタクマが急に立ち止まりアヤとトモキがぶつかる


「いったぁ。ちょっとタクマ!急に止まらないでよ!」


「あ、あれ・・・」


タクマの指差す方向に見えたのはログハウスとプレハブだった


「ハヤテ!」


タクマは走り出しプレハブの前に立つ


「間違いねえ。ハヤテのだ。ハヤテ!居るのか!!」


タクマはプレハブとログハウスに向かって大声を上げる

タクマに追いつくアヤとトモキ


「ハヤテ?どこ?ハヤテ?」


アヤがログハウスのドアを叩くと扉を開けたのはレオルンドだった


「どちら様で・・・」


レオルンドはアヤの顔を見て驚きベルトリクスを呼ぶ


「ベル!!アルバムを持ってきてくれ!」


「ライオンが・・・喋った・・・」


ポカンとするアヤに駆け寄るタクマとトモキ


「アヤ!そいつから離れろ!!」


アヤの前に立つタクマはレオルンドを睨みつけ、レオルンドの背中にスレッジハンマーが背負われてる事に気がつく


「まさか・・・ハヤテはこの野郎に・・・」


「どうしたレオ?」


アルバムを持って玄関に現れるベルトリクス


「おお、ベル。この者たちハヤテ殿のアルバムに写っていた・・・」


「ああ。間違いない。お前たちも違う世界から来たんだな?」


アヤとトモキを守るように前に立つタクマはコクリと首を縦に振る


「やはりそうか!あいにく今はハヤテ殿は外に出ている。しばらくしたらラータにて落ち合う予定だから良かったら共に会おうではないか。」


レオルンドの言葉に三人は目を合わせる


「ハヤテは・・・ここで生きているんだな?」


「もちろん。今はラータに避難してきた難民の為に毎日忙しくしている。我々以外はもうラータに行っているし話はそれからにしよう。」


「あ、ああ。頼む。ハヤテに会わせてくれ。」


レオルンド、ベルトリクス、タクマ、アヤ、トモキの5人はラータに向かって歩いていった。


-ラータ-


東門から街の中央までの通路の各所に街の衛兵たちが青ざめた顔をしながら警備を固めている


「な、なぁ。なんでここに人たちは顔が引きつっているんだ?」


タクマの問いかけに答えるレオルンド


「私のことはレオでいい。そっちはリザードマンのベル。ハヤテ殿は我々の名前が長いからとそう呼んでいる。実は今、避難民たちのためにハヤテ殿がいくつもの住居を建てなければならないのだが、地盤の改良をするとかで大穴を開けて砕いた石を敷き詰めて固めなければならないのだが・・・その方法が・・・」


その時東門の方から鐘がカンカンと鳴り響く


「来たぞぉぉ!!女子供は建物に入れぇ!!」


憲兵の声で住民たちが建物に避難しあたりが静まり返る


「え?なに?」


アヤはトモキの後ろに隠れる


「なんか地響き?みたいな音が・・・」


トモキは東門の方を見る


複数の重く鈍い足音が遠くから聞こえてくる


「なに・・・あれ。」


トモキが指差す方向を見るタクマとアヤ、その先には10を超える数のトロールがまっすぐラータの中に向かって走ってくる


「おいレオ!あれは何なんだ!」


「あれはトロールという魔物だ。熟練の冒険者でも一対一で戦おうとは思わないくらい怪力で、この辺りでも結構居たんだが・・・あれはだいぶ遠くから引っ張ってきたな・・・」


「ほらお前ら。ハヤテが帰ってきたぞ。」


ベルトリクスの指差す方にはトロールの集団の前を走るハヤテ。

ずっと走り続けて暑いのか大汗をかいてツナギの上半身を腰で巻き、上半身裸姿で走るハヤテ


「うおぉぉぉぉ!!」


ハヤテはそのままタクマやレオルンド達の前を通り過ぎて街の西側の方へ走りトロールを誘導する


「やっぱりハヤテも若返ってるのか。」


タクマは少し嬉しそうにつぶやく


「よし、我々も追いかけよう。」


レオルンドとベルトリクスについていく三人


-ラータ西側-


縦横80メートルほどの四角い大きな穴を囲むように冒険者と魔道士たちが待機する、その中にはエルド、ブレダ、アルドバ、アンネの姿があった


「連れてきたぞー!!」


走ってきたハヤテはそのまま大穴に飛び降りるとトロールたちも穴の中に入っていく


追いついて大穴にたどり着くレオルンド達


「すごい光景だな・・・」


ベルトリクスは呆れ顔で穴の中を覗き込む

その中では10数匹のトロールの攻撃を避けながら地面を踏ませるハヤテの姿があった


「ちょっと!ハヤテが危ないじゃない!」


アヤの声に笑って返す余裕の表情のレオルンド


「大丈夫。ハヤテ殿はこの近辺のトロールを絶滅させるほどですから。」


その時一匹のトロールの鳴き声が聞こえる


「うおぉぉ!まじかよ!」


冒険者たちは驚きを隠せずに歓声を上げる


その視線の先にはトロールの腕を両手でつかみ一本背負いするように投げ飛ばすハヤテ


「ええー!!」


顎が外れたように口を開け驚くレオルンド


「いやぁ。流石にあそこまでとは・・・」


「おーい!レオー!」


30分が経過した頃に穴の底から手を振るハヤテ


「はっ!」


レオルンドは背負っていたスレッジハンマーをハヤテに向かって投げるとくるくると回転して飛んできたハンマーを掴み構えるハヤテ


「地ならしは済んだからこいつらには今日の晩飯代になってもらうか!」


ハヤテがトロールの腹にめがけてスレッジハンマーをフルスイングすると、トロールは大穴から飛び上がり冒険者たちのそばに落ちてくる


「し、死んでるよな?」


冒険者たちは剣を突き立てたり蹴ったりとトロールの死骸を確認する


穴の底から鈍い音が鳴り響き、その場を囲んだ全員が穴の中を覗き込むとトロールはほとんどが死に絶えており生き残った一体のトロールとハヤテが正面を向き合っていた

ハヤテはスレッジハンマーを後ろに放り投げると息を大きく吸いながら腰を落とし右足を引き左拳を前に出す。


「・・・」


その姿を見たタクマはハヤテの小さい頃を思い出す


「あれは昔、公園で近所の爺さんに習ってた・・・」


突進してくるトロールに対しハヤテは引いた右足をすばやく前に出すと同時に右の拳でトロールの腹を突く

トロールはその場で止まりその場が静かになる


「な、なんだ?何をやったんだ?」

「トロールを殴ったのか?」


ざわつく冒険者たちをよそ目にレオルンドとベルトリクスは冷静だった


「レオ。あのトロール・・・」


「ああ。死んでる。しかしあれは・・・スキルなのか?魔力を感じなかった。」


「ハヤテに魔力は存在しないだろ。だが何らかの力を感じた。」


「ハヤテのやつ。あの爺さんに教わってたこと覚えてたんだな。すっげぇ・・・」


タクマの言葉に振り返るレオルンドとベルトリクス


「あれはハヤテ殿の世界のスキルなのか?」


レオルンドの問いかけに答えるタクマ


「スキルってのがなんだか知らんが。あれは俺達のいた国の隣の国から来たって拳法だ。・・・なんて言ったっけ?」


「けんぽー?」


レオルンドとベルトリクスはお互いの顔を見て首をかしげる


ボンッ


鈍い破裂音が聞こえレオルンドたちが再び穴の中を覗くとトロールの腹に穴が空いている


「うーん。やっぱでかいと伝わるのが遅いなぁ。・・・でも出来た。この世界でなら出来る・・・」


ハヤテは少し嬉しそうに穴をよじ登る


「ハヤテ!!」


穴から這い出たハヤテを呼ぶ声


「えっ・・・」


顔を上げたハヤテの前に立っていたのはタクマ、アヤ、トモキの三人


「お前・・・本当に生きてやがった・・・」


「タクマ・・・なんで。」


ハヤテの顔を近くで確認し嬉し涙を浮かべるタクマ


「ハヤテ!!」


タクマを払いのけハヤテを抱きしめるアヤ


「やっと会えた!生きててよかった!」


「アヤ・・・お前もか!」


涙を流すアヤ、その後ろでは焦りながら周りをキョロキョロと見渡すレオルンド


(ソフィー殿は・・・いないな?よし。)


「ハヤテ。無事だったんだね。安心したよ」


トモキは嬉しそうに手を差し出しハヤテと握手を交わす


「お前ら・・・なんでここに。」


ハヤテは驚きを隠せずポカンとしていたが次第に目に涙を浮かべる


「なんだよ・・・なんでお前らここに居るんだよ。」


こらえようとしていた涙が溢れ膝から崩れるハヤテ


ベルトリクスはそんなハヤテの姿を見て冒険者たちに大声で支持を出す


「それでは冒険者の皆様方!次の作業に入ってください!」


その声に動き出す冒険者たちは予め(あらかじ)ハヤテが作っておいた全長3メートルほどの木枠を大穴の底に立て掘った土を戻していく


「ハヤテ。しばらくはお前の出番もないのだろう?一度家に戻ったらどうだ?積もる話もあるだろう。」


ベルトリクスの言葉に頷くハヤテ


「そうだな。ここの監督はエルドに任せてあるし。そうしようか。お前らも俺の家に来てくれ、話を聞きたい。」


「ああ。俺もお前の話を聞かせて欲しい。」


差し出されたタクマの手を握り起き上がるハヤテ


「アヤ、そろそろ離してくれよ。」


「嫌。もう少し。」


「そうでし!ハヤテ様から離れるでし!」


「えっ?」


アヤが顔をあげるとハヤテとアヤの間に居るルミカはハヤテの胸板に顔を当てるようにアヤを睨む


「うさぎ?」


「いつまでハヤテ様に抱きついてるでしか!」


「フンッ!」


ルミカの胴体を片手で掴むレオルンド


「お前もだルミカ!」


「嫌でし!汗をかいた雄の匂いでし!!」


ハヤテの胸板に顔を押し付け高速でスリスリとこするルミカ


「あっつ!ルミカ!摩擦熱!あっつ!」


「いい加減にせんか!」


レオルンドはルミカをハヤテから引き剥がしログハウスの方角へと投げ飛ばす

飛んでいったルミカを見ていたハヤテ


「お前けっこうひどいことするな・・・」


「大丈夫です!ちゃんと家に落ちるように投げましたから!」


「まぁいいか。ベル、アルドバやブレダたちに事情を説明してきてくれないか?手が空いたら家に来てくれって。」


「ああ。承知した。」


ベルトリクスは大穴の反対側に向かって歩いていった


「よし、みんなも行こう。アヤ、いい加減離れてくれ。」


「嫌!」


「離れろって!」


「いーや!!」


アヤを引きずるハヤテに続いて一同はログハウスに向かった


-続く-



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