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第十二話 ラータの行末

翌朝のログハウス

まだ日も昇っていない早朝、ハヤテはセメントをひたすら作り続けていた

昨日簡易的な炉で焼いた粘土の混合物を取り出し、新しく作った混合物を投入して炉に火を入れて、取り出した混合物は灰色をしておりハヤテはそれをプレハブから外に出した作業台の上ですりつぶし始める


「ハヤテさん。おやようございます!」


ハヤテの後ろに立っていたのはソフィーだった


「おはようソフィーちゃん。まだ太陽も登ってないぞ?もう少し寝ててもいいんだぞ?」


「いえ、目が覚めたらハヤテさんが外に居たのが見えたので。その粉はなんですか?」


「これは昨日作って焼いておいた粘土の混合物だ、焼いた状態のものをクリンカって言うんだ。本当は高温で長い時間焼くんだけど・・・これも【高速クラフト】の恩恵なのかな・・・明らかに温度と時間が足りてないんだけど、ちゃんと出来てるんだよなぁ。」


ハヤテはクリンカを丁寧に砕いて指で触ってみる


「うん。こんなもんだな・・・」


そういうとハヤテはプレハブから大きな木箱を引っ張り出した


「あれ?それってポルカで買ったものですか?」


「そうだよ。」


ハヤテが木箱から出したのは聖国のエンブレムが入った白い天使像だった


「天使像ですか・・・。私はちょっと嫌いです・・・」


「まぁソフィーちゃんの場合はそうだよね。ちなみにこれは飾るわけじゃないぞ?」


そう言うとハヤテは天使像の腕を折りだした


「ハッ、ハヤテさん!?何をしてるんですか?」


「ん?いや、実はこいつ石膏で作られててさぁ、石膏自体が売ってなかったから割高だけどこいつを買ったのさ。」


笑顔でこたえを返しながら腕を折り、背中の羽を砕く

それは見ていたソフィーは笑い出す


「アハハハッ!こんなの聖国の人に見られたら大変なことになっちゃいますよ!」


「そう言いながら笑ってんじゃねぇか。」


ハヤテもソフィーの笑った顔を見て笑い返すと片手で持てるサイズの木槌をソフィーに渡す


「ほい。ちょっとやってみ?俺はこの腕を粉状に砕く作業をするから。」


ハヤテは作業台の上で天使像の腕を細かく砕き始める


ソフィーは天使像をじっと見つめ、木槌を振り上げた


「えいっ!」


木槌は天使像の頭部に当たり頭が転げ落ちる


「あっ・・・」


「ソフィー・・・あんた何やってんだい・・・」


ブレダは青ざめた顔をしつつドン引きした目でソフィーを見つめていた


「ブレダさん!違うんです!これはハヤテさんが必要だっていうから!ねっ!ハヤテさん!」


「んー?なんだ?」


ハヤテの手元には真っ白な石膏の粉末があり、すでに天使像の原型などなかった


ハヤテは粉末にしたクリンカ・石膏・川底から掬った川砂をバケツの中で混ぜ合わせると水を入れて木で作ったスコップで混ぜていくとバケツを持ってログハウスに向かう


「ブレダ。暇だろ?玄関前のレンガを持ってきてくれ。」


「まったく、日が登りだしたばっかだっていうのに、忙しいやつだねぇ。」


ブレダは文句を言いながらも黙々とレンガをログハウス内の暖炉を作る位置に置いていく

レンガを受け取りハヤテはきれいに並べて行く、その際に手作りのセメントをレンガとレンガで挟むように塗っていく

ハヤテがとても速い速度でレンガを積み上げていくとソフィーがあることに気づく


「あれ?何で内側にも同じものを作ってるんですか?」


暖炉の外側の壁になる位置からレンガひとつ分の隙間を開けて、更に内側に同じようレンガを積み上げる


「ああ。これはレンガの間に砂の壁を作るためだよ。ちょっとした断熱になるからログハウスの木に熱が回らないようにするんだ。」


そこへレオルンドとベルトリクスが起きてくる


「おはようございます。おや?もう作業されているのですか?」


「レオ。寝起きで悪いんだが、前に砂を麻袋に入れて家の裏に置いといたろ?あれを持ってきてくれないか?」


「ええ。わかりました。」


レオルンドが麻袋を持ってくるとハヤテは中身の砂をレンガの間に流し始めた

砂が隙間なく入るように細い木の枝で砂を突いて押し込んでいくと再びレンガを積み始めた

その様子を見ていたベルトリクス


「レンガを積み上げたまま一緒に二階に上がっていく・・・レンガも二回に運んだほうが良くないか?」


その言葉に「あっ」と気づいてイソイソとレンガを二回に運ぶレオルンドとベルトリクスとブレダ


ハヤテはそのまま高速でレンガを積み上げ二階を通り抜け屋根まで上がって行く


「ねぇねぇハヤテくん!」


ブレダの呼びかけにレンガの煙突から顔を覗かせるハヤテ


「なんだ?」


「本当に人間なの?」


「お前失礼なやつだな・・・」


ハヤテは煙突の中を手足で抑えつけながらゆっくり降りてくる


「ん・・・完成すると中は狭いな。これにはサンタもガッカリだな。」


暖炉から這い出るとベルトリクスが見ていた


「これはもう火をつけられるのか?」


「ああ。本当はセメントも数日は完全硬化のために時間を開けなくちゃいけないんだが、俺の【高速クラフト】の影響みたいで、もう完全に乾いてるんだ。ちょっと火を入れてみるか。」


薪を暖炉の中に入れ火をつけるとハヤテは家の外に出る


「・・・・・・」


じっと煙突を見ていると白い煙が上がっていく


「完璧だな・・・」


「ハヤテさん、あの暖炉でお鍋を温めたりできるようになりませんか?」


ソフィーも煙突から上がる白い煙を見上げる


「なるほど。よっし!出来るだけ早くやっておくよ。」


「はい!」


レオルンドとベルトリクスが小さな風呂敷を持って歩いてくる


「ハヤテ殿、我々もそろそろアドラシアに向かいエルゴートの捕獲に行って参ります。すぐ捕まりますから夜には戻ります。」


「わるいなぁレオ。面倒なこと頼んじまって。」


「ハハハ。アドラシアは我々の庭ですから気になさらないでください。それとベルの武器のことですが、槍やポールアックスと言った長い獲物を使うそうです。」


「サンキュー、レオ。」


手を振りながら街道を南へ歩くレオルンドとベルトリクスを見送るとハヤテはあることに気づいた


「レオの背中にルミカが張り付いてる・・・あいつは気配を断つスキルでも持ってんのか?・・・まぁいいや、さて、俺達もラータに向かうぞ。エルドに馬と馬車も返さないとな。あ、でも二人の荷物を運び出すからこのまま借りたままにするか・・・」


-ラータ-


荷馬車に乗ったハヤテ・ソフィー・ブレダはギルドの前に荷馬車を停める


「よし、早速始めるか。まずは大きくて重いものを先に運び出すぞ!」


「ないよ。」


ブレダは荷馬車から降りようとしない


「は?」


「家具とかはギルドからの支給品だし。移動する必要があるのは衣服とか私物ばっかりね。」


「じゃあ力仕事ないじゃん。俺はエルドのところに行くからさっさとやっとけよな。ソフィーちゃんもう行ったぞ。」


「わかったわよぅ。」


-ラータ内・領主の館-


玄関では館に仕えるメイドが立っていた


「これはハヤテ様。領主様に御用でしょうか?」


「ああ、エルドに会いたいんだ。」


「少々お待ちくださいませ。」


しばらくするとメイドに案内される


-執務室-

部屋に入るとエルドは机に向かい書類に目を通していた


「ハヤテか。今日はどうした?」


「なぁエルド。ちょっと相談したいことがあるんだが。」


「なんだ?」


「この街をエルシアで一番発展した街・・・いや、都市にしたくないか?」


「ふむ。では私からもハヤテに相談がある。この街ラータを【エルシア】と【アドラシア】の玄関口として貿易都市を造り変えたい。知恵を貸してはくれないか?ゆくゆくはドワーフとエルフの国【エルミガント】も視野に入れている。」


少し驚いた様子のハヤテ


「ほう。詳しく聞かせろ。」


「このラータはエルシアとアドラシア、そしてエルミガントの三国の国境に近い。私はこの街を貿易都市として人間と亜人の【共存貿易都市】の構想を練っている。」


エルドは立ち上がって執務室の窓から街を見下ろす


「この街は我が祖父と父が開拓し築いた、まだ歴史の浅い街だ。私は貴族としてこの街の維持を第一に考えていたが最近それは間違いだと考えるようになった。」


「間違い?」


「ああ。お前たちを見て思ったよ。ハヤテとレオが一緒に暮らして・・・」


遮るようにハヤテが話し出す


「あ。また増えて今はリザードマンのベルも一緒だ。」


「・・・・ハッハッハッハッ!そうかそうか!やはり身近にモデルとなるやつが居るのは面白いな!」


「おいおい、人をモデルケースにするんじゃねえよ。」


「ハハッ、すまない。とにかくお前たちのような共存を都市レベルでやりたいのだ。どうだ?協力してくれないか?」


「うーん。それにはラータを全体的に建て直すくらいの改良を加えないとな。どうせやるなら王都とやらに住む貴族たちが妬むくらいに都会にしてやろう!」


「まずはどうする?何か考えがあるのか?」


「ああ。まずは新しい場所の地盤改良を行う。地盤改良したところには市場や商店など商業をメインとしたエリアを作る。居住区も見直して下水の設備を作る。」


エルドは不思議そうに聞き返す


「下水とはなんだ?」


「下水ってのは生活ででた排水や汚水。または今まで外に捨てていた糞尿を集めて一箇所に集約する仕組みだ。この世界の人達は糞尿はそのまま家の裏だとか道のない方に捨ててたろ?これは俺の世界じゃありえない事なんだ。何よりも衛生面が最悪だし、疫病なんかを引き起こす可能性もある。」


「確かに・・・穴を掘って捨てたりもするが、それでもハヤテから見ると良くない状況と言うことか。」


「そうだ。この下水によって集められた汚水は専用の処理施設で浄化する、これに関してはを考えて作るから少し時間くれ。汚水はできるだけきれいな状態にして川に流すことで環境を汚さずに住む。」


エルドはとても深い興味を持つ


「そんな事ができるのか・・・」


「想像してみろ。糞尿の全く無い、家庭から出る排水もそのへんに捨てることのない街を。他の土地から来た奴らはどんな反応するだろうな。」


ハヤテの言葉を聞くうちにエルドはワクワクしていた


「なぁハヤテ。これはとんでもない計画だと思うがどうだろうか。考えるだけでワクワクする。こんな大規模なことをやるとなると人員も必要だ。」


「そんなの住むのにも食うのにも困ってるやつを集めればいい。仮設の住宅なら作ってやるし、一日三食ちゃんと食わせて賃金も出すんだ。賃金や衣食にかかる金の捻出はエルドが考えてくれ。」


「なんとか考えてみよう。」


「あと下水とは別に上水道もやるぞ。」


「上水道?」


「ああ。今は家から水汲み場の井戸まで行って水を家まで担いでもっていくだろ?その負担をなくして各家庭できれいな水を出したい分だけ出せるようにする。その水は川が水源になるが、ちゃんと殺菌して清潔な飲める水にする。」


机をバンと叩き反応するエルド


「そんな事もできるのか!素晴らしい!」


「だがそれらを行う施設も維持には金がかかることになる。それらは【税】という形で街に収めてもらう。言わば街の設備を維持するための金を市民から少しづつ集めるんだ。なるべく市民の生活に支障が出ないようにな。」


「ふむ、つまり街に住むための税を収めてもらうことによって、街は市民に安全で清潔な上水などの提供を行うってことか。」


「そうだ。俺の世界でも似たような形をとっている。低い税率にしてても他からの移住者が増えれば税収は増えるからその分街から市民への貢献として返すんだ。」


「これは面白い。ぜひやろうじゃないか。」


「よっし!まずは街の拡張をするために周囲の土地の調査もしないとな。時間はかかるだろうがこのラータをエルシア1の都市にしてやろうぜ!」


「ああ!やってやるさ!祖父と父がつくったこの街をもっと素晴らしいものに変えてみせる!」


ハヤテとエルドはガッチリと強く握手を交わした


-冒険者ギルド・ラータ支部-


ブレダとソフィーが自分の荷物を荷馬車に運び出してるところにハヤテが帰ってくる


「おー。終わりそうかぁ?」


「ハヤテくん!手伝うって言ったじゃない!」


「だって私物ばかりなんだろ?」


ハヤテはギルドの壁にかかった武器を見つめる


「なぁブレダ。あの武器俺にくれないか?」


ハヤテが指差すのは一本のポールアックスだった


「あんた武器使えないんでしょ?」


「俺じゃなくてベルに渡してやりたいんだ。」


「・・・しょうがないわね。いいわ。安物だけど持っていきなさい。」


ハヤテは壁にかかったポールアックスを取り外す


「サンキュッ!」


満面の笑みを浮かべるハヤテ


「・・・・・」


ハヤテを見ているソフィーにボソッと話しかけるブレダ


「こらソフィー。見とれてないでさっさと荷物を出しなさい!」


「ブ、ブレダさん!・・・・もう・・・。」



-続く-

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