第九話B 獅子と兎
今回の話はハヤテとソフィーがポルカの街へ出かけたあと、同じ時系列のレオルンド側の話となります。そのため第九話をAとBで書きました。
これはハヤテとソフィーがポルカに向かって出発した後の話・・・
-プレハブ-
レオルンドはハヤテに言われた作業を開始しようとしていた
「えっと・・・まずは昨日の石灰石を細かく砕いて粉末にする・・・と。」
レオルンドはプレハブから小さいハンマーと鉄製の台を取り出し表に出す
「細かく砕いて不純物を取り除く・・・白くない部分を取り除けばいいのか・・・」
丁寧に砕き不純物を取り除きひたすら砕いて粉末状にしていくと粉末はレオルンドの鼻を刺激した
「ふぇ・・・ぶぇっくしょい!!」
くしゃみをすると台の上の石灰石の粉末はすべて吹き飛んだ
「・・・」
レオルンドはまたプレハブに入り戸棚を漁ると白いタオルを見つけた
「これはハヤテ殿がいつも頭に巻いてるものか・・・」
タオルで口と鼻を隠すように顔に巻きつける
「これでよし!しかし物づくりというのは地味な作業が多いんだな。だがこの作業が我が家の役に立つのだ!ここでしっかりと役目を果たそうぞ。」
レオルンドは黙々と作業を続ける
「おーい!レオー!」
レオルンドが声のする方を向くとブレダと重そうな袋を担いだエルドが歩いて来た
「これは二人共、今日はどうされた?」
息を切らせたエルドは袋をプレハブの横に下ろす
「はぁ、疲れた。今日は我々も暇でな。ハヤテがレオに頼んだ作業というのを手伝いに来た。」
「なんだいエルド。情けないねぇ。男なんだからこのくらいでへばるんじゃないよ!」
「男でも私は肉体派ではない・・・それにどう考えてもブレダのほうが力があるだろ。」
レオルンドはエルドに水を差し出す
「ハハッ。大変でしたなエルド殿。」
「すまないレオ。それで作業というのは何をするんだ?」
レオルンドは石灰石を取り出す
「この石を粉状になるまで砕くのです。」
「何だこの白い石は?この石が建築の役に立つのか・・・」
ブレダも作業を手伝い始める
「そうみたいよ。なんでもこれはこれからいくらあっても足りなくなるからって・・・」
エルドもレオルンドからハンマーを受け取り手伝いを始める
「・・・・・」
黙々と作業すること二時間バケツ二杯分の粉末状の石灰が出来上がる
「さて、そろそろ昼食にしますか。この粉は風で飛ばぬようにここに置いておこう。」
レオルンドは石灰が入ったバケツをプレハブの中にしまった
「食べ物ならそこの袋に入ってるよ。適当にエルドの屋敷から持ってきた。」
ブレダは袋を指差すとエルドが呆れる
「朝から人の家の食料庫に入ったと思ったら黙って持っていこうとするからなコイツは。」
「ハハッ。ではコッチで食事にしましょう。」
二人はレオルンドに案内されログハウスの前に連れてこられると、そこには丸太で作ったベンチとテーブルがあった
「なにこの木材・・・つるつるでキレイ・・・」
ブレダがテーブルを触って手触りを感じている
「それは丸太を縦に割って、木の皮を剥いだものなんです。たしかその後にハヤテ殿はひたすら磨いていましたな。」
三人が昼食を取っているとどこからともなく声がする
「あの・・・少しだけ・・・食べ物を恵んでいただけませんでしか・・・」
三人は周囲を見渡すが声の主の姿が見えない
「この匂い。人間ではない・・・」
レオルンドの発言に警戒するエルド
「なんだ?」
エルドが振り向くとそこには身長120センチほどの兎の獣人が立ってエルドを見つめていた
「獣人・・・か?」
そこにレオルンドが近づく
「お前は兔人か・・・なぜこんな所に・・・」
兎の獣人はレオルンドを見て怯えだす
「ヒィ!!獅子!!!お願いでし!食べないでくださいでし!食べないでくださいでし!」
「食わんわ!!」
普段は冷静で落ち着いた話し方をするレオルンドが取り乱す様子を見たブレダ
(レオのツッコミ・・・初めてみた。)
「お願いでし。少しでいいので食べ物を恵んでくださいでし。もう3日も何も食べてないのでし・・・」
レオルンドはテーブルに皿を並べ食べ物を出す
「ここに座って食べるといい・・・して、なぜエルシアにいるんだ?お前たちは獣人でも我々と違って兔人だけで暮らす種族だろ。」
「えっ!?ここはエルシアなんでしか!私っていつの間にアドラシアの外に出たのでしか・・・」
エルドは言葉遣いで兔人の性別に気がつく
(メスなのか・・・それにでしって・・・)
「お前。何も知らずにエルシアに入ったのか!まだここにたどり着いたからいいものを・・・」
レオルンドは兔人の皿にパンを置く
「実は四日前に森のなかで野菜の種や苗を探していたら、二匹の巨大な黒い狼が沢山の狼を連れて歩いてるのを見つけて必死に走って逃げたんでし。」
レオルンドとブレダはピンと来た
(賢狼か・・・)
「必死に走り続けて、気がついたら知らない森で迷ってしまい。今度は何か地鳴りがすると思ったらトロールの集団が走ってきて、もうだめだと・・うずくまっていたらトロールが通り過ぎて・・・それを人間の方が追い回していたんでし。」
三人はピンと来た
(ハヤテくんね・・・)
(ハヤテ殿か・・・)
(ハヤテか・・・)
兔人の娘は自分を落ち着かせるためにコップいっぱいの水を飲んだ
「そして森の中をずっと歩き続けてパンの香りがしたのでこちらに向かって歩いたら森から出られてここにたどり着いたのでし。」
レオルンドは兔人のコップに水を足す
「ともかく良く無事だったな・・・先程のトロールを追い回してた人間はハヤテ殿という人でこの家の主だ。私はその人と一緒に暮らしているんだ。この家の付近は魔物も怖がって今は近づきもしないから安心だ。しばし休んでいくといい。」
兔人は長椅子からピョンと飛び降りレオルンド見上げる
「私は兔人の【ルミカ】と言いますでし。」
「私はレオルンド。そちらの人は冒険者ギルドの支部長のブレダ殿にあそこに見える街の領主のエルド殿だ。」
「まぁそんな立派な身分の方が・・・あの・・・食べ物を頂いて申し訳ないのでしが・・・今は何も支払えるような物がないのでし。」
「ハハハ。構わんよ。同じ獣人同士、ここで出会ったのもゼファーのお導きだ。気にしなくてもいい。」
ルミカはピョンピョンとテーブルの上に乗る
「こうなったら・・・身体で払うしかないでし・・・さぁどうぞレオルンドさん。でもこれだけは覚えておいてくださいでし・・・いくら私を抱こうと私の心まで貴方になびく訳じゃありませんでし!!」
ブチッ
レオルンドの中で何かが切れた音がした
「いや・・・何もいらないと言ってるではないか。そろそろアドラシアに帰りたいだろう?私がアドラシアまで送ってあげよう!」
レオルンドは右手でルミカの頭を鷲掴みにして持ち上げ投げようとする
「ちょっと待つでし!ちょっと待つでし!悪ふざけが過ぎたでし!」
ルミカはバタバタと手足を動かし抵抗する
(レオってあんな一面もあるんだ・・・)
ブレダは真顔で見ているとエルドがレオルンドをなだめていた
ルミカは首を回しながらレオルンドに謝罪する
「謝るでし。助けてくれた人間さんに私のとっておきの一発芸を見せるでし!これは人族には大受けでし!」
そういうとルミカはレオルンドの前に立つ
「レオルンドさん、ちょっと協力してほしいでし。首を少し横に傾けて口を大きく開けてほしいでし!」
レオルンドはルミカに対して呆れていたが渋々協力する
「・・・こうか?」
レオルンドが大きく口を開けるとルミカは自分の頭をレオルンドの口の中に入れると口の中から大声を出す
「これが・・・弱肉強食でし!」
エルドは青ざめた表情で見ていたが、その後ろではブレダが声を殺してテーブルをバンバンと叩きながら笑いをこらえている
ブチン
レオルンドの開いた口がふさがる
「あれ?真っ暗でし。あ・・・・あだだだだだだ!!痛いでし!痛いでし!本当に噛まないでほしいでし!」
「レオ!落ち着くんだ!まずは口を開けなさい!」
エルドがレオルンドの口を手で開けようと力んでいる
「口を開けるんだレオ!そんなもの食べちゃ駄目だ!」
「そんなものとは何でし!」
レオルンドは口を開けルミカを取り出すと作業を再開した
「いかんいかん。休憩しすぎた。」
ルミカはじっとレオルンドを見つめている
「なんで獅子の獣人のレオルンドさんが人族と一緒にいるんでしか?」
「・・・・・」
レオルンドは口を閉じたまま黙っている
(相手にするな相手にするな・・・)
-夕方-
エルドはラータに戻っていき、ブレダはこのまま泊まっていくといいだしながら酒を出してくる
(量にしてバケツで5杯・・・果たして多く作ることが出来たのか・・・)
レオルンドは粉状になった石灰が入ったバケツをプレハブにしまっていく
「さて、夕食の準備をしますか」
レオルンドがログハウスに入るとテーブルに酒を出すブレダの横にルミカが座っていた
(こ、こいつ。まだ居たのか・・・)
「ルミカといったな。今夜はここに居てもいいから朝になったらアドラシアに帰るんだぞ。街道が繋がっているから迷わずに帰れるはずだ。」
「嫌でし。」
「は?」
「気になるでし!人族と獣人族が一緒に暮らしてるなんて私には理解出来ないでし!その人族の人を見るまで帰らないでし!」
(こ、こいつ・・・)
レオルンドは拳を握りしめる
「勝手にしろ。」
ドシンと椅子に座り酒を飲むレオルンド
「そろそろあの子達も宿にでも入ったのかしら・・・」
ブレダはレオルンドを見ながら話しかける
「暗くなりましたし、もう食事も済ませた頃でしょう。そういえばブレダ殿はなぜ今回は一緒について行かなかったんですか?」
「ポルカ支部のアルドバって支部長がいるんだけどさ、アタシあいつに金を借りてて・・・ラータ支部の予算のほとんど酒代に使っちゃったし・・・会うといっつも小言を聞かされるんだよ。」
「それは・・・ブレダ殿に非があるのでは・・・」
「だってこんな田舎の冒険者ギルドなんかに仕事なんかないし。やることっていったら一日お酒を飲むしかないんだもん!」
ブレダはほっぺを膨らませてレオルンドを見る
「そんな顔したって借金はなくなりませんよ・・・」
「それにアルドバはアタシの昔のパーティメンバーなんだよ。」
「なんと!ではソフィー殿も・・・」
「ええ、まぁ・・・・アルドバの場合はソフィーを娘みたいに可愛がってるわね。「ソフィーは俺が引き取って育てる」って言い出したくらいだから。」
レオルンドはブレダの話を聞き微笑んだ
「優しい人なんですね。」
するとルミカがレオルンドの腕をトントンとたたく
「レオルンドさん、私はそろそろ寝させていただくでし。」
「ああ、そこのわらで作ったベッドを使ってくれて構わない。」
「おやすみなさいでし。」
ルミカは目をこすりながら藁の上で横になる
「・・・ねえレオ?兔人ってどんな種族なの?」
「兔人は大まかに分けると我々と同じ【獣人族】ですが少し変わってまして、彼ら兔人は【単独種】での生活を好むのです。我々獣人にも色々居ます。
私のように戦闘に恵まれた種もいれば、力が弱く戦うことも出来ない種。私の祖先である獣王【レオニール】は【弱き者も強き者も共に支え合い生きよ】という言葉を残しています。弱き者は戦い以外で周囲に貢献し戦えるものは弱き者を守ることで種族全体を守る。」
「やっぱり獣王ってのは獣人たちにとって偉大な指導者だったのね。でもなぜ兔人だけが獣人の群れから離れているの?」
レオルンドは寝ているルミカをチラッと見て答えた
「これは獣人の中でも獣王の血の直系だけに伝えられた話なのですが。かつての悪魔と天使の大戦時に獣王【レオニール】ドワーフの王【シグムンド】エルフの女王【アリア】の三大英雄の内、シグムントとアリアは天使たちの魔法攻撃で瀕死の重傷を負い。撤退戦でレオニールは仲間が全て撤退するまで一人で悪魔と天使の軍勢を抑えつけていました。
だが一人で数百の軍勢を足止めするにも限界がある・・・レオニールは天使の矢を受け負傷し動けなくなった所で天使たちの大魔法【ホーリーレイ】を浴びせられようとしていました。」
ブレダは思い出すように答えた
「ホーリーレイ・・・十二神の大天使全員が同時に詠唱し発動するっていう伝説級魔法・・・私も話でしか聞いたことないけど。それを使わなくちゃいけないほど獣王は天使たちに驚異と思われていたのね。」
「ええ。その時点で亜人連合の大半は戦場から離れていたので、レオニールはそこで諦めかけたようです、後はシグムントとアリアに任せようと。しかしそこでレオニールを救ったのがルミエと言う兔人の女でした、ルミエは戦闘力を持たない兔人の中でも珍しく魔法に優れた獣人だと伝わっています。
ルミエは防御魔法を張りレオニールを守りました。ホーリーレイは全ての魔力を使う大魔法、放てば天使たちは一時的に戦うことができなくなります。
ホーリーレイが収まった頃、魔力が尽きた天使たちは撤退し悪魔の大半もホーリーレイに巻き込まれ、そこに居たのはわずかに生き残った悪魔とレオニールの前で身代わりになるように立ち尽くしたルミエでした。
その後レオニールはルミエの亡骸を左腕に抱いて残った悪魔と戦いながらアドラシアに撤退し、兔人の長にルミエの亡骸を返しました。
その時レオニールは【私のせいで死んだ】とだけ告げました。それから兔人は獣人の集落から出ていき単独で暮らすようになったのです。」
レオルンドは食器を片付けだした
「ただその時・・・【私を守って死んだ】と言えば現在に至るような事にはならなかったと思いますが。レオニールは許せなかったんでしょう。獣人の頂点に立つ者として・・・仲間の犠牲で生き残ってしまった自分に。
これは私の祖父の代に発覚したことなのですが、当時のレオニールとルミエは恋仲であったようです。」
ブレダはレオルンドに顔を見られないようにうつむいた
「その本当のことを兔人には伝えないの?」
「ええ、固く禁じられています。レオニールの遺言で。」
「そう・・・」
レオルンドはハヤテが使っている毛布をブレダに渡した
「さぁ、もう夜も遅い・・・明日にはハヤテ殿とソフィー殿も帰ってきますから我々も休むとしましょう。」
「ええ、ありがとうレオ。」
-続く-




