第一章 終わりの始まり
【この日、俺の人生が終わった】
「はぁ……はぁ……はぁ」
その少女は必死に走っていた。よく知らない土地をでたらめに逃げていたおかげか、先程まで少女を追っていた者の姿は見えなかった
「王の力………それを持つものはここにいるはず。早く見つけないと」
そのためにはどこを探せばいいのだろう
飛べば見つかる可能性が高くなるが間違いなく追っ手に見つかってしまう。そうなったら終わりだ。そうなる前に早く……
少女は必死に走り続ける。
「いた……!」
そして満月が空高く昇ったとき、ついにそれを見つけた
友達と遊んだ帰り道、俺こと聖夜は月夜の中帰宅していた。いつも通りの帰り道。いつも通りの風景の中にそいつは突如現れた
「ねーねー、この辺にさぁ外国人の女の子来なかった?」
気さくに俺に話し掛けてきたそいつは背中から羽が生えていた。唇からは八重歯が飛び出している。どうみても普通じゃなかった
「い、いえ……見てませんけど」
「そっか見てないか。でも残念です!君は俺を見ちゃったので死んでね。」
「え?死……?」
いきなり死ね、と言われて困惑する俺を余所にそいつは天に向かって右手を突き上げる。すると、パチ、パチと乾いた音がし右手に電気が蓄まっていく
「ばーい」
そのセリフを引き金に右手を俺に向けると、電気の塊がまっすぐ俺に向かって撃ちだされる
「ーーーっ」
あれを食らったら死ぬ、と本能的に理解は出来たが、逃げることも許されず俺が出来たのは目をつぶることだけだった
だがそれは俺にはあたらなかった
「間に合ってよかったわ。やっと見つけたのにすでに殺されてました、じゃ話しにならないもの」
目を開けた俺の視界に入ってきたのは、背中から羽の生えている美少女だった
「あんたいったい……」
「巻き込んでしまってごめんなさい。あなたの力、見せてもらうわ」
そう言うと美少女は俺の首筋に噛み付いてきた
「………!」
抵抗する暇もなく血を吸われてしまう。……つーかだんだん気持ち良くなってきた
「目の前で眷属作りに励むとかなめてんのー?もういいから2人まとめて死んじゃえ」
と美少女じゃないほうがまた天に右手を突き上げる。すると先ほどとは比べものにならないくらいの電気が右手に蓄まっていった
「ごくん、ごくん……これで終わり。ってあれはやばいわね。流石に今の私の状態じゃあ消せない」
俺から血を吸うのをやめた美少女はそう呟くと、俺と向き合う
「覚悟は出来てる?」
「覚悟?んなもん知らないね。あんたが俺に何したのかは知らないけど」
体の奥底から力が溢れる。
「これだけはわかるぜ。今の気分は………最高だ!!」
そう言うと俺は地面を蹴る。電気野郎との距離が一瞬で詰まった
「なっ……」
電気野郎が目を見開いて驚く。俺はそのスキを逃さない
「くらいやがれっ」
何の変哲もないただのパンチ。だがそれだけで電気野郎を地面に叩き落とすには十分だった
「ぐはっ……こ…の……野郎!」
それでもまだ立ち上がってくるそいつを再び美少女が地面に叩き伏せる
「形勢逆転ね。死ぬのはあなただったようね」
そのまま美少女は腰に下げていた鞘から銀の短剣を取り出すと、電気野郎の脳天に突き刺した
「ぐぎゃぁぁあぁああぁあぁ」
断末魔と共にはそいつの体から青い炎が発せられ、そのまま灰になった
「あっはははははは」
俺の気分は最高だった。最高最高最高!それと同時に誰かをやっつけてやりたいと思った
「吸血鬼化の副作用かしら。それとも力の制御が出来ていない?つまり血が……」
ぶつぶつと女が何か言っていたがそんなことはどうでもよかった。この力を早く試したくて仕方がない
「つーかこれあれじゃね?お前倒せばよくね?つーわけで、さっきの野郎じゃないけど死ね」
「はぁ……仕方ないわね。暴走されたらこっちも困るのよ」
俺は全力で女に飛び掛かった。はずなのに、体はちっとも動いちゃいなかった
「くそっなんだよこれ!放しやがれ」
「いくらあなたが王の力を持っていて私より強くても、あなたが私の眷属であることは変わらないの。下僕の動きくらい簡単に止められるわ」
「眷属だの下僕だのさっきから何なんだよ!うぜぇうぜぇうぜぇ!ぶっ殺してや……っ」
その瞬間、俺の中から溢れていた力が急に消えた。それとともに誰かをやっつけてやりたくなる感情も薄れていく
「血が体に馴染んだようね。少しは落ち着いた?」
「……あぁ」
「そう。じゃあ今あった一連のことについて説明するわね」
「取り敢えず自己紹介から。私の名はエリーゼ。吸血鬼よ。で、さっき倒したのも吸血鬼なんだけど種族が違うの。私たちは吸血鬼あいつらは吸血鬼。2種族の差は人間との関わり方で、私たち吸血鬼は太古から人間と共存し、人間から血を貰う代わりに知恵を与えたり、争いごとを納めたり持ちつ持たれつの関係を築いてきたわ。一方吸血鬼側は1000年くらい前から派生した新派で、人間を殺しそのまま血を吸うのよ。人間にとっては有害ともなりうるわね。ここまではわかった?」
「長すぎて何が何だか。取り敢えずあんたが吸血鬼でヴァンパイアっていうのはわかった。ドラキュラってのもわかった。重要なのはそんなの俺には知ったこっちゃねぇってことだ。お前らで勝手にやってくれ。俺を巻き込むな」
本当に迷惑極まりなかった。つーか話し長ぇよ
「何が何だかって言いながら全部理解してるじゃない。あと、もう巻き込んでるのよ。あなたは後戻り出来ない」
「どういう……意味だよ」
「あなたも吸血鬼になったのよ。私の眷属に」
そこで女は素っ頓狂なことを言いやがった。そうかこれは幻だ。今夜は満月だし、眠くて夢と現実が混ざったに違いない。別に薬なんかやってないんだからね!………我ながら何言ってんのか意味不明だな
「そうかそうか。そいつはよかった。じゃまたな」
俺は右手を挙げ、その場を後にする。これ以上幻の相手なぞやってられるか。ご近所様に独り言言ってる悲しい奴だと思われちまう
「ちょ、ちょっと。待ちなさいよ。まだ話は終わってな……」
話し掛けてきた瞬間俺は走りだした。なんか凄いスピードが出てる気がするが気のせいだろう
「幻ちゃんは……よし、いねぇ」
そりゃそうか。幻なんだものいるはずねぇよな。早く風呂入って寝よっと
「ただいま~」
家に入った瞬間俺は違和感を覚える。家が静かすぎる。人の気配はあるけど、それに混じって違う物も感じる。これは……殺気?
「おーい帰ったよ~」
と、俺はリビングのドアを開ける。そして目の前には
「だ、誰だ!泥棒か!この家にお前に渡すものはない!おとなしく帰れ!」
両手でゴルフクラブを構えた親父と、右手に包丁左手に鍋蓋という格好をしたお袋がいた
「おいおいおい、何のジョークだよ。今日はエイプリルフールじゃないぜ。あんたら、自分の息子の顔も忘れたのかよ」
「私の子供は娘だけだ。息子などいない!」
「何だこれ……」
どうやら本気で言っているらしい。どうなってやがる?
「くそっ」
俺はリビングを後にし、2階にある妹の部屋に向かう
「光、いるか光!」
「うわっ、お兄ちゃん?血相変えてどうしたの?」
どうやら光は俺を覚えているらしい
「よかった。お前は俺がわかるんだな?」
「あったりまえじゃん!光はお兄ちゃん大好きだもん」
そう言って抱きついてくる光。日々成長している一部分の感触がたまらんです。ゲフンゲフン
まぁそれはともかく、俺は下の状況を説明した
「まっさかぁ。お兄ちゃん、夢でも見ていたんじゃない?もぅ仕方ないから、光が確認してきてあげる!」
「わりぃな。サンキュー」
そう言って光は下に降りていった。
「何で親父とお袋は俺のことを覚えていないんだ?」
俺の独り言に答えたのは、
「だから言ったでしょ。あなたは吸血鬼になったの。それの後遺症みたいなものよ」
またしても登場した美少女こと幻ちゃんだった
「な、何でここにいやがる」
「貴方は私の眷属なのよ。居場所の探知くらいわけないわ」
プライバシーもへったくれもない答えが返ってきやがった
「オーケイオーケイ、取り敢えず落ち着こうじゃないか」
「落ち着いてないのはあなただと思うけど」
失礼な。ていうかこの状況で落ち着いてられるか
「つか、勝手に入ってくんなよ。あんたが幻じゃなかったなら、親や妹に見られたら厄介なんだよ」
「大丈夫よ。今この家の時間は停止しているわ。ゆっくり話していても問題ないわ」
そうかい。そいつはよかった。こっちも聞きたいことが沢山あるからな
「取り敢えず……トマトジュースない?」
そんなものはありません
取り敢えず俺の部屋に来てもらった。決して襲うためじゃないぞ
「ていうか時間止められるんならさっき使えばよかったじゃん。そしたらさっさと倒せたのにさ」
「時間を止めた場合、対象に干渉することは出来ないのよ。正確には、元に戻るの」
どういうこっちゃ。もっとわかりやすく説明してほしいもんだよ
「で、結局どういうことよ」
「時間の巻き戻しが起こるの。例えば私がこの部屋の窓ガラスを割ったとする」
「弁償してください」
「本当に割ったならね。でもこの部屋には時間停止状態だから、術を解除したら割れたことがなかったことになるのよ。つまり窓は元に戻る、少なくとも私たちからはそう見えるわ」
へぇ、そうかい。そいつはよかった
「なんか役にたたない術だな」
率直にそう思ったね
「そうでもないわ。現に今役立ってるしね」
なるほど。そいつぁその通りだ
「時間停止についてはもういいかしら」
「あぁ、次にいってくれ。まずはさっきの状況の説明からお願いしたいね」
「簡単に言うと、あなたが吸血鬼になったことで人間からあなたの記憶が無くなったのよ」
「でも、光は俺のこと覚えてたぜ」
「人間にも魔力を持っているものはいるわ。魔力がある程度あれば記憶は消えないの」
魔力ね。光にそんな力があったのか
「じゃあ親父たちは俺のことずっと忘れたままなのか?」
「そうでもないわ。詳しく説明すると、これは吸血鬼が自然と放っている魔力に関係するの。人間と吸血鬼は共存してきたのはさっき話した通りなんだけど、普通の人間からしたら吸血鬼は魔の存在。それから物々交換した、なんて周りの人に知れたらその人間も吸血鬼、悪魔扱いされ、弾圧される。魔女狩りみたいなものね。そしたらそれを恐がって吸血鬼に協力してくれる人は少なくなってしまう」
「そこで魔力の登場ってわけだ。吸血鬼から自然と放っている魔力は記憶を消す。物々交換した次の瞬間には何があったか覚えておらず、能力だけが手元に残った」
「そうよ。でも記憶を消す量は個人差があってそれが放出する魔力に比例するの。つまり、魔力を押さえ込めばみんながあなたを覚えていられる」
「そういう意味では消えた、というより封印に近いな。で、結局どうすればいい?」
「知らないわ」
なんて無責任なことを言いやがる
「だって今までそうしようとしてきた吸血鬼はいないんだもの」
そりゃ合意のもとでなったならそうでしょうが、生憎俺は無理矢理だったんでね
「吸血鬼の特性の一つにエナジードレインってのがあるの。それを使えばあるいは出来るかもしれないわ」
吸血鬼ってのはそんなに能力があるのか。他にどんなものがあるのか、ぜひ教えてほしいね
「で、そのエナジードレインとやらはどうやってやるんだ?」
「あなたの血を私が飲めばいいのよ」
そりゃまた吸血鬼らしいな
「つかエナジードレインってどんな効果?」
「基本的には生命力を吸い取るものよ。ただ、吸血鬼同士がやると生命力と魔力も吸い取るのよ」
「つまりエナジードレインをやると俺の魔力が弱まってみんなが思い出す代わりに死ぬと」
まさに命懸けだよ
「大丈夫よ。私は魔力だけを取り出せるもの」
「そんなこと出来るのか?」
「えぇ。可能よ」
そいつは驚いた。でもさっきは"出来るかもしれない"って言ってなかったか?
「自信満々みたいだが大丈夫なのか?」
「やったことないから、少し不安なんだけど……まぁ大丈夫だと思うわ」
「そうか。じゃ、さっそくお願い出来る?」
俺の言葉にエリーゼは頷く
「えぇ、いいわよ」
そして最初に噛み付かれたときと同じように俺は血を吸われた
「んくっ……ぷはぁ、こんなものでどうかしら?」
「どうかしら?って言われてもな……実際試してみないことには何とも言えまい。つーわけで時間停止をといてほしいんだが?」
「それはダメよ。まだ話は終わってないもの」
そーですかい。じゃさっさとしてしまおうぜ
「じゃあ取り敢えず吸血鬼の基礎的なことを教えてくれ」
「基本的なこと、と言われてもよくわからないけど人間との違いを言えばいいのよね?」
いや、自分たちのことくらいわかれよ。まぁ俺も人間について説明しろって言われても困るけどよ
「取り敢えずなんかあんだろ?日光が苦手とか十字架は嫌いとかニンニク無理とか海水嫌いとか」
あとは銀の銃弾だったか?
「あーそういうのね。順番に、まず日光は大丈夫よ。辛いけど人間の中の設定みたいに焼け死ぬことはないわ。十字架とニンニクと海水も大丈夫。ニンニクは個人的に嫌いな人もいるけど。ただ、銀の物はあまり好ましくないわ。銀で付けられた傷は治りが遅いの。深すぎるとそのまま死ぬわ」
言われて俺は電気野郎が銀の短剣に刺されて、青い炎と共に灰になった光景を思い出した
「ところであんた、腰に短剣ぶら下げてたよな?あれは大丈夫なのか?」
「自分を傷付けたらまずいけど基本的には大丈夫よ。鞘に入れてるし、この短剣は私の魔力じゃないと抜けないもの」
そいつは便利なもんだ
「それって俺も出来るのか?」
「普通は無理ね。超能力は吸血鬼が1人1つ持っている。けど時間を止めたり鞘を固定したりエナジードレインで魔力だけを吸い取れるのは世界広しと言っても私の一族だけなの」
なんか急に話がぶっ飛んだ気がする。超能力とか超胡散臭ぇ
「じゃあ俺にもあんのか?その超能力ってやつがよ」
「えぇ、あるわ。それも世界最強の王の能力がね」
ますます胡散臭い話だ。世界最強とか王の能力とかどんな電波話だよってな。取り敢えず話だけは合わせておこう。面白いし
「で、どんな能力なんだ?」
「突然変異。自分の知識にあるすべての能力が使えるわ」
「それのどこが最強なんだよ」
「さっきも言ったけど、吸血鬼は1人1つの能力を持っている。逆に言えばそれ以外の能力はたいてい持っていないのよ」
「あんたみたいな一族の能力ってやつか」
「ご名答。まぁそれは例外だからともかく、1つしか使えないってことは自分の能力に相性がいい能力を相手が持っていたらそれで勝負はついてしまう。だけどあなたはそれを補えるのよ」
確かにそいつは便利かもな
「だけどよ、別に能力バトルじゃなくて肉弾戦ってこともあるだろ?実際さっきの電気野郎のときは普通に殴っただけだし。相手が俺より強かったら終わりじゃね」
「そりゃそうよ。どんなに能力が素晴らしくても扱う人が弱かったら何も意味はないわ。だけど突然変異の場合、それすら補ってくれるのよ」
言われて俺は電気野郎もびっくりのスピードを出したことを思い出す
「あれって吸血鬼になったからじゃねぇの?」
「吸血鬼の身体能力は基本的には人間と同じなのよ。ただ私たちは特殊なことが無い限り死なないの。人間は肉体を壊す力を無意識に制御しているけど私たちはそれをする必要が無い。死なないんですもの。常にリミッター解除状態。でもさすがにあんなスピードは出ないわ」
「具体的に表すとどれくらいなんだ?」
「そうね……人間が蟻、普通の吸血鬼が人間だとするとあなたは自転車かしら」
生き物ですら無いんですね。しかも漕いでいるのって人間じゃん
「先生、それなら歩くか自転車か車でいいと思います」
「あらそれはいいわね。じゃあそれでいいわ」
そうですか。蟻さん、健気に生きているのに例から外してごめんよ
「これ、弱点とかねぇのかよ」
「さぁ?」
さぁ?ときましたよこの人
「だってこの能力、古代の文献に載っていただけで実際の使い手は少なくとも私が生きている間はいなかったのよ。たぶんドラキュラ側は存在すら知らないんじゃないかしら」
「まぁいきなり殺されかけましたからなぁ」
エリーゼが来てくれなきゃ死んでたよ。結局人間じゃなくなっちまったけどな
「弱点、かどうかはわからないけど、あなたさっき力を解放したとき随分好戦的だったわね」
「それ、血が体に馴染んだとか言ってなかったか?」
「そうだったわね」
忘れてたのかよ!
「つか、知識にある能力が使えるってことは知らない能力は使えないってことだろ。それって弱点じゃね」
「そう言えばそうね」
うおおい。この人、間抜けですか?
「知識ってどの程度知っていればいいわけ?」
「存在を知っていればいいはずよ。と言っても噂レベルじゃだめだけど。実際に目で見たものや文献なんかを読んだりしたら使えると思う」
「じゃあさっきの電気野郎の能力は使えるってことか」
さっきのことを頭に思い浮べる。するとどうすれば能力が使えるのかが理解出来た。野郎の姿をイメージし、右手に力を集中させる
「はぁぁあぁああぁあ」
するとイメージ通りに電気の塊が出来た
「おぉ!………で、これどうしよう」
「知らないわよ!自分で何とかしてちょうだい」
仕方ないから窓から空に向かって塊を撃ちだす
「あーびっくりした」
「びっくりしたのはこっちよ!いきなりあんなもの作り出して」
そいつは悪かったな。でも新しい力って使いたくなるもんなのさ
「それ、さっきの奴の能力ね。どう?使えそう?」
「どう?って言われてもなぁ。電気蓄めんのに時間かかるし正直使いづらい。むしろあれになんで苦戦してたか教えてほしいくらいだよ」
蓄まるまで待ってたのかよ。ヒーローの変身を待つ怪人かっての。いつも思うけど変身している間に攻撃すれば勝てるよね
「うっ……それは、その……」
見ると顔を真っ赤にしている。そんなに恥ずかしいことなのだろうか
「不意討ちをくらったのよ。今日はあなたを探しに来たのだけれど、まさかこんなところで奴らと交戦するなんて思ってもいなかったのよ」
「?よくわかんねぇな。んなこと、恥ずかしがることじゃなくね?不意討ちは仕方ねぇだろ」
「恥ずかしいわよ!不意討ち食らったなんでみんなにバレたらいい笑い者だわ」
どうもヴァンパイアってやつはプライドが高い(?)らしい
「もうその話はおしまい!とにかく突然変異についてはこんなところかしら」
話をそらしやがった。まぁこれ以上追求しても意味ないしやめてやるか
「ところでなんで突然変異って名前なんだ?」
「元々は相手の能力を吸収する能力だったらしいわ。吸収するだけで使えるわけではなかった。それが急に今の能力に変わったのよ。それで突然変異。何で能力に変化が起きたのかは今だにわかっていないわ」
「なるほどな。………もしかしたら、最初からそういう能力だったんじゃねぇか?使えることを能力者が気付いていなかったとか」
「それもありうるわ。でも今となっては過去の話。確かめることは出来ないわね」
ま、そりゃそうか。しかし能力についていまいちまたわからんくなってきたぜ
「なぁ、能力について一回まとめてくれないか?」
「いいわよ。じゃあ家のことも含めて話すわね」
「あぁ、頼む」
「まとめるとこんなかんじね」
エリーゼが話したことを箇条書きにするとこんな感じになった
・能力は1人1つ
・種類は攻撃系統やサポート系統など様々。知られていない能力も多々ある
・同じ能力を持つものもいる。ただし使用者により扱うレベルは変わる
・家系により、個別の能力とは別の能力を宿すこともある。その能力は一般の能力にはない
「こんなものかしら。私も完璧に覚えているわけではないから、思い出したらまた教えるわ。取り敢えずここまでで質問はある?」
「いや、能力についてはないかな」
「そう。じゃあ次の話を進めましょう」
「ついでだから吸血鬼の特性についてもまとめてくれ」
バラバラに話されたからすっかり忘れちゃったぜ
「そうね.まとめるとこんな感じよ」
・日光は辛いけど直接の害はない
・十字架も平気。ただし殴られたら痛い
・ニンニクも平気。個人的に苦手な人もいるらしい
・海水も平気。海水浴を平気でするやつもいるとのこと
・身体能力は人間と同じ。ただし常にリミッター解除状態
・背中から翼を自由に出せる。訓練すれば飛行も可能
・銀で作られたものには触れられない。銀の傷は治りが遅く、致命傷だと死に至る
・死ぬときは体から青い炎を発してそのまま灰になる
「さんきゅ。・・・これ以上話すことってあるか?」
「私はもうないわ。だからあなたのことを聞かせてちょうだい。よく考えたら名前すら知らないもの」
名前を知らなくても会話って出来るんだな。言葉はホント便利だぜ
「俺のこと、ね。名前は聖夜。友達からはそのままセイヤって呼ばれてる。夜光学園2年生。家族構成は両親に妹1人。名前はそれぞれ朝日・夕子・光。・・・こんなもんか?」
「えぇ、ありがとう。夜・・・ね。夜・NIGHT・騎士・KNIGHT。素晴らしい偶然ね。まさに私の騎士にふさわしいわ」
何をいきなりいってやがりますかあなたは
「決めたわ。私はあなたのことをナイトって呼ぶことにするわ」
そうかい。もう勝手にしてくれ
「そういえばあんたのことはなんて呼べばいい?」
「エリー。そう呼んでちょうだい」
エリーね。わかったよ
「じゃあエリー。これからのことを話そうじゃないか。てゆうか時間止めたままで大丈夫なのか?」
「時間については心配ないわ。今動いているのは私たちだけだもの。さっきも説明したでしょう。もとに戻るから大丈夫よ」
さっきはそこまで言ってませんでしたよエリーさん
「んーじゃあここでの会話も無かったことになんじゃねぇの?」
「あーもうめんどくさい。少しは察しなさいよ!あのね、術者は私であなたはこの空間の中で動いている、つまり私があなたを私と同じ状態にしているのよ。術者が忘れたら意味ないでしょ」
最初からそう説明してくれたらよかったと思います
「この話ももう終わり。で、これからだけどさっきあなたの魔力を吸ったからあなたに関する記憶は全員持ったまま、と考えていいわ」
また強引に話し変えやがったよ
「あなたは今まで通りに生活してくれていいわ」
「ちょっと待て。じゃあなんで俺を吸血鬼にした?」
「もちろんドラキュラと戦うためよ」
「呑気に学園行ってていいのかよ!?」
「だってそのために魔力を吸い取ったんじゃない」
まて、話が微妙に噛み合ってない気がする
「よし、いったん落ち着こう。まず、何で俺は吸血鬼になった?」
「ドラキュラと戦うためよ。」
「何で俺なんだ?」
「突然変異を持っているからに決まっているじゃない」
「ヴァンパイアの目的は?」
「ドラキュラを滅ぼして人間を守ること」
「俺の役割は?」
「ドラキュラを一人でも多く倒すこと」
「じゃあ学園行く意味ないじゃん!」
「ないわよ」
あっさり認めやがったっ
「でもあなたはこっちの世界に未練がある。そうでしょう?」
「そりゃあるさ。具体的に、って聞かれたら困るけどよ。いきなり、あなたはヴァンパイアになりました仲良くしましょ☆あ、人間界とはおさらばしてね。みたいな展開誰もついていけねぇっつの」
しかも光以外俺を忘れるとかひでぇ話じゃねぇか
「じゃあいいじゃない。こっちで暮らしましょ。その間にあなたのことは鍛えてあげるし、どうせ向こうからやってくるわ。それを返り討ちにしてやれば問題ないわよ」
それだと争いの中心がこの町にならねぇか?
「それでまわりに被害とかでないのかよ」
「戦争になるわけじゃないから大丈夫よ。レベルとしては刺客程度じゃないかしら。1人、2人くらいなら何とかなるわ」
「そういう時特殊フィールドとかねぇの?」
「あなた、私たちをなんだと思っているの?後言っておくけれど、私たちは自分たちの争いで人間がどうなろうと構わないの。ヴァンパイアは人間との共存を目指してはいるけれどそれは別の話。共存とか言ってても自分たちが全滅したらいみないでしょ?」
「それは・・・」
言いたいことはわかる。でも・・・
「やめましょ。この言い争いは無意味だわ。混じることのない平行線、吸血鬼になったばかりのあなたと私じゃ価値観や立場が違うもの。いずれあなたも理解する日が来るわ」
「そんなときは、永遠にいらない」
「そう、それならそれでもいいわ」
そういうとエリーは窓から身を乗り出し
「お、おい何を・・・」
「時間。今日はもうおしまい。じゃあまた明日会いましょ」
そういって窓から飛び降りた
おいおいマジかよっ
「おい、エリー!」
しかし奴は背中から翼を出し、そのまま飛んで行った
この後のことを話しておくと家族は俺のことを覚えていた
「私たちがお前を忘れるわけなかろう。なぁ母さん」
「えぇ。全く、くだらないこと言ってないで勉強しなさい」
と、きたもんだ。光はわかってたのかわかってないのか
「よかったねーお兄ちゃん」
と抱きついてきた。その感触にゲフンゲフンしつつ、女の子って柔らかいよなぁとか思った
……それは冗談だが、光はエリー曰く魔力があるとか
この可愛い妹を戦いには巻き込みたくはない
エリーはここで生活すると言っていたが果たしてそれで本当にいいのか、と思ってしまう
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ん?なんでもないよ」
そう言って光の頭を撫でてやる
「光、離れなさい。バカが移るわよ」
「うにゅー」
言われて渋々(俺補正)俺から離れる光
その目が一瞬怪しく光った
「!?……なぁ光、歯を見せてくれないか」
「いいよ。いー」
あの電気野郎は八重歯がかなり長かった。エリーも一般よりは長かった。そして恐らく吸血鬼となった俺もそうなのだろう
そして、瞬時に思いついた可能性……すなわち、光が俺を覚えていたのは人間にしては魔力が大きい、という理由じゃなく同類という可能性が頭をよぎった
だがそれは杞憂だったようだ。光の歯は八重歯も伸びておらず、歯並びもきれいだった
「もういいよ」
俺の気のせいだったのだろう。さっきのは光の加減かなんかだろうと納得した
「夜、宿題は終わったの?」
「宿題なんて出てねーよ」
口を開けば勉強、宿題ととにかく学力向上に熱心なわが母。学歴社会の立派な虜だよ
「光はもう終わったよ」
さすがわが妹。宿題もきちんとこなして偉いものである
「ふむ、まぁ勉強も大切だがな。今やるべきことをきちんとやることだ。学生である以上本分は勉強だが、遊ぶのもまた大切だ」
さすがは遊び人のお父様。今は何の職業をされているのでしょう?我が家の生計はなにで成り立っているのでしょうね
「あなた、余計なことを言わないで。この子たち、特に夜は長男なんですからね。いい大学に行って一流の企業に努めてもらわないと困ります」
「誰が困るんだよ」
こういうやりとりをするときに思うんだ。なんで俺は生まれてきたんだろうって。種の繁栄だとか生存本能だとかいろいろあるけど、今の時代結局は創る側、つまり親となる人間の自己満足なんじゃないかってな
ただ快楽を求めてってのはおいといて、男女が結婚したりするとだいたいが子供欲しいってなると思う
で、実際に生まれてきた子にやれ勉強だ勉強だ勉強だと勉強を強要し、首都とかではお受験なんてのもある
そして受験戦争が始まり、勉強が出来るか出来ないかで評価される
名家は家柄だの血筋だのってのがあるけど、そうじゃないならなんで子供を欲しがるんだろう
そして親はお互いに我が子を自慢するが大抵はどこの高校に入った、どこの大学に行ったなど子供ではなく実際は行った学校のレベルを自慢しあう
そう考えたとき、俺たち子供は親の自慢の道具、自己満足のためだけに創られ生かされてる
そう思うんだ
そう考えると人間って醜いな。俺はもう吸血鬼だけど
そういえば吸血鬼はなんで生きようとするんだろう
やはり生物の根本的な本能なのだろうか
ヴァンパイアもドラキュラもお互いが分かりあえば、というかドラキュラが人間を殺し尽くそうとしなければ、またはヴァンパイアが人間を見捨てればお互い争わなくてすむのにと思ってしまう
ここにも深い溝があるのかな?
エリーに聞いたら馬鹿馬鹿しい返答しかこない気がするけど
「宿題がないならもう寝なさい。明日も学校でしょう」
「はーい」
「はいはい」
宿題やって寝なさいなんてセリフ、未だに言ってるのなんてうちくらいじゃないだろうか
「お兄ちゃん、上行こう」
「うん」
「おんぶ!」
そういって光はいきなりおぶさってきた
「ちょ、いきなりはおも」
くなかった。その事実に背中に当たる二つの柔らかい感触を楽しむ暇もなかった
光は女子の中でも小柄で体重もそんなに重くない。だがいきなり乗っかってきた場合は意識してない分普段より重く感じる
それがない、ということは俺が本当に吸血鬼になったんだなと実感するのに十分だった
「お兄ちゃんごめんね、重かったよね」
「いや、大丈夫だ。少し痩せたんじゃないか?」
そういいながら二階に上がる。光は背負ったままだ
「んーそうかもしれない」
「ダイエットでもしてるのか?」
「んーん。何もしてない」
「そうか」
本当にこれからどうなるんだろうな
「お兄ちゃん、もういいよ」
言われて二階についていたことに気付く
「おやすみ、お兄ちゃん」
「あぁ、おやすみ」
そして部屋に戻り、ちゃんと学校の準備をしてベッドに横になった