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横四楓院絞男はラヴレターがお好き(前編)

『佐藤パイセンにお話しがあります。今日の放火後、屋上までヨロヨロです』


 某月某日の朝。

一ヶ月洗っていないキッズの靴下と腐った魚の腸をミックスしたような腐敗臭漂う魔境エリアTHE下駄箱の己の靴箱を覗くと謎の怪文書が書かれた便箋が入っていた。送り主の記載は便箋には一切なく、便箋の入った白い封書には赤い字で『あなたのつっかけより』とこれまた謎の奇怪な文が殴り書きされていた。…フン、この手紙を発見したのがそこいらで徘徊しているラヴコメ臭がプンプンと漂うヤリ●ン主人公なら鼻息をハアハアと荒くして、ドキドキと胸と期待とアソコを膨らませながら屋上に行き、フラグとアソコをヴィンヴィンに立てちゃうのだろう。


 だが、僕は違う。


 この手の手紙を只のサブヒロインからのラヴレターだとか、これからオニャノコに告白されてぼっくんうれしいにゃああああああ、だとか恥ずかしい勘違いなど断じてしないし、そんな気持ちなど微塵もないことを約束しよう。寧ろ僕はこの怪文書を読んだ瞬間、この手紙が敵組織の工作員による挑戦状だと瞬時に判断した。プロのスパイである僕が敵組織からその存在を認知されるような行為をした覚えは断じて無いが、恐らくは何かしらの卑怯な方法で僕に偶然に辿り着いたのだろう。しかし、いずれにしても変態ボマーを返り討ちにした僕にとっては恐るるに足らず。怪文書の内容の『放火後』という文字から察するに己が狂気の放火魔であり、学園の放課後に亡き者にしてやるから来い、という高度なギャグを僕にかまして来たと考察できるのである。『あなたのつっかけより』は意味不明だが……多分、来世はつっかけになりたいだとかの願望だろう。上等である。普段は人目の触れぬ裏方で隠密行動をとる僕であるが、かのような邪悪な不届き千万な輩からこうも真っ向勝負を挑まれては黙っていられない。


 ようこそ……。

血で血を洗う残酷で無慈悲で理不尽で陰毛、じゃない陰鬱なこの世界へ……一名様をご招待して差し上げませう……。


──放課後──


「髭は剃った、鼻毛は切った、髪はばっちり、ネクタイもOK……よしっ」


 今から五分後くらいに血で染まるであろう屋上に行く前に僕は便所の鏡の前で身嗜みを整えていた。相手をけちょんけちょんのポニョポニョにする為にも準備を怠ってはならないからな。今一度、鏡の前で己の全体像を把握する。七三分けに、白のタキシードで赤い血のような薔薇の花束を携える。……よしっ、イケる!……フンっ、勘違いしてもらっては困る。これは、僕の戦闘モードである。僕がこのモードで戦闘を終えた頃には白のタキシードが返り血に染まり、赤色のタキシードになってしまうのは僕の頭の中で専ら有名である。因みに薔薇の花束は薔薇の棘を武器にする為に携える。そして決めポーズに決め台詞は最重要である為、鏡の前で練習してやろう。


「ぼっ……ぼぼぼぼぼぼっぼふぅ、ぼっぼぼ、ぼっちでふ! しゅしゅしゅ、しゅきぃ! ぼっくんもだいしゅきぃでしゅ! しゅしゅしゅっ……しゅえにゃぎゃく、おねがいしゃああああああッス!」


 斜め四十五度で鏡に向かってお辞儀する。

……。嗚呼、ヴィーユティフォ……完璧だ。モウ何も言うことはありませんね。絞男、とっても合格です!ここまで、噛まずにすらすらと想いの丈、じゃなくて決め台詞を言えればもう何も怖くありません。もう、何も、怖くな。


「さっとうくん、にゃーろはー!」

「ピェェェェイ! い、イキって、ごめんなしゃああああああ……アッ、め、めぐみん、しゃん?」


 鏡の前でドヤ顔でウィッシュポーズをしていると、いきなり背後からメスの鳴き声が聞こえてきた。振り返えると、全力笑顔のめぐみんさんが男子便所の入り口で覗き込むように半分だけ身体を出して佇んでいた。い、いきなり、シャウトするな!ビクッーってして心臓が下の口から飛び出しそうだったじゃないか!ていうか、こっわ!何で、ストーカースタイルで男子便所を覗いてるのコノヒト……。


「そだよーめぐみんさんだよー……偶々、廊下を歩いてるとさっとうくんがトイレの鏡の前で高速土下座してる姿が見えたから今日はどんな変態してるかなーって、見てたのだ」


 めぐみんさんは聞いてもいないのツラツラとここにいた経緯を僕に説明する。な、なんだよ、高速土下座って。ブラック企業の圧迫面接じゃあるまいし。高速お辞儀の間違いじゃろがい!ていうか、ほ、本当に偶々歩いていたのお?ここ、最上階のトイレで偶々通るような廊下じゃないんですけどーけどー。


「ウウッ…………」

「あれ? どうしたの、バツの悪い顔して。あれれ? めぐみんおねーさんに何か隠し事かなー?」


 とぼけたペコちゃんみたいな顔してめぐみんさんはジリジリと僕との距離を詰めてくる。な、なんか、普通に男子便所に入って来たんですけど、この娘。


「か、隠し事にゃんか……して、してないっ、でっす」

「ほんとかなあ? ところで、何時もの勘違いしたダサダサスーツと違って、今日は随分と気合いが入ってるね。気合いの入る方向性が完全に間違ってて、更に痛々しい無敵の人になっちゃったね!」


 えっ、何か今、さらりとディスられた?


「勝負服……でしゅう」

「勝負服? ナニを勝負するの? ドン引き選手権でも出場するの? それなら問答無用でさっとうくんの優勝だよ! 大優勝! おめでとう! ぱちぱち、ぱちぱちー」

「あ、ありがとうございます」


 なんか拍手されながら祝われる僕。

な、なんですの、これえ?そして僕はどうして普通にお礼を言っちゃうのだろう。


「ぱちぱちー……で、本当のところは?」


 急に無表情になるめぐみんさん。

ヒッ!やめて、全力笑顔からのいきなり無表情はもの凄く怖いからやめてあげて!


「ヒィッン! い、いやあの、しょの……」

「……。さっとうくん、私と話すときは目を見て話そうよ。さっとうくんが根っからのコミュ障で童貞で変態で水虫でダメ人間で不潔でマザコンでロリコンで変質者で犯罪者一歩手前なのは分かってるよ。分かってるけど、目は見て。目を見て話さないとさっとうくんが何を考えてるのか分かんない」


 えっ、ちょっ…あん、やだ。

やめて、据わった目で僕を見ながら耳元で囁くように悪口を並び立てるのやめてちょうだいよ。えっ、なに、メンヘラ?メンヘラスイッチはいっちゃってますう?


「……は、ははっ、あの、ご、ごめん……なしゃい」

「ウガーッ!」


 ドォォォォン!!


「ピャアアアアイッ!! オッオタッオタスケビキニ!!」


 いきなり僕の顔面横を両手で叩き、シャウトするめぐみんさん。所謂、壁ドンである。う、ウガ?今度はカラオケで歌いたい気分ですか?


「言えよ! さっとうくん、私に隠し事してるでしょ?! 普段からおかしな子だとは思ってたけど、その格好は常識的に考えて流石に異常だし、その、人外だよ! 頭、大丈夫?」


 じ、人害に人外とか言われたんですけど。ていうか、心配してるの?馬鹿にしてるの?これは果たして、どっちなのお?教えてエロゲー玄人。


「……ごめん、なさい」

「謝んなよう……。わたしは、わたしはっ、佐藤くんのなんなんだよう」


 めぐみんは涙声で呟く。えっ、なに、ここシリアスな場面ですか?何で意味不明なタイミングで泣いてるの?えっ、喜怒哀楽のテンションの幅が激し過ぎないこの娘?えっと、ほんとにめぐみんは僕のなんなの?メンヘラストーカー?変質者?犯罪者?やべえ、将来的にどう転んでも後ろ暗いことしか思いつかない。この状況がよく分からないが、たとえ僕の所為では無いとしても目の前の女子を泣かせてしまったことは事実である。罪悪感が物凄い……正直に事実を言ってしまおう。


「ほっほほんとっうに、ごごごごごぉめんなしゃい! じ、実は……ら、ラブレターが靴箱に入ってて、しょ、しょの、浮かれ、浮かれてしまっ、しまったでしゅ、はい」


 フッーすっきり……。

やはり、隠し事や嘘は気分が良くないな。これからは、スパイとして誠実な人間になろう。フッ、スパイが誠実を語るとは……僕も昔と比べて随分と丸くなったものだ。


「は?」


 ズモモモモモモ……。


 …………んっ、ンン~?

あ、あれ?く、空気変わった?なに、この、『は』の威力。ぼっくん、ガチブル怖い。


「あ、あの……め、めぐみん、しゃん?」

「……。私、佐藤くんの事が好き。大好きだよ。どうしようもなく大好き。だから、もう、我慢しない、付き合って。私を佐藤くんの彼女にしてください」


 突 然 の 謎 の 告 白 !

 真 顔 が 怖 い !

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