横四楓院絞男はキュウカンチョウがお好き
愛犬、愛棒、愛鳥、愛機、愛人、愛猫……。
世の中にはありとあらゆる『愛』の付く無機物と有機物がおり、それらは親しみを込めてそう呼ばれる。僕こと横四楓院絞男にも『愛』するアイテムがあり、相棒もとい愛棒たるトカレフはいつも忘れずスーツの懐に常備し、大切に扱っているのは最早言うまでもない。……え?お前忘れてたことあるやんけ、だと?フン、僕は何時までも過去の失敗には囚われない素敵な性格をしているのである。大事なことは過去を振り返るのではなく、未来に向けて同じ過ちを繰り返さないように努めることである。フフフ、今の僕にはゴールデンロード……前しか、どどめ色の未来しか見えないぞ。
話が横道に爆走したが、無機物に関しては僕のフェイバリットは相棒たるトカレフである。有機物に関しては円らな瞳が愛らしい柴犬、すなわち愛犬が大好物である。それにプラス、柴犬がレースクイーンビキニを着用していたら僕はもう……いや、ごめん間違えた。つぶらな瞳が愛らしい柴犬を引き連れたレースクイーンな美女がいれば僕はもう無敵なのである。DT卒業である。しかし、学園に潜入任務するにあたってワンコに首輪を掛けて引き連れるのは目立ち過ぎて、敵変態組織に狙われやすい。個人的には愛犬を推したいところではあるが、スパイの利においてはNGである。
キュウカンチョウ、である。
スズメ目ムクドリ科キュウカンチョウ属に分類される鳥類である。橙と黄が入り混じった優し気なクチバシに、円らなぬいぐるみのような瞳。さらに、プロのスパイたる僕を象徴するような全身が漆黒のフォルム。まさに僕の愛鳥になるべく生れ落ちてきたかのようなイキモノである。しかも犬と違って、大きくても体長約50センチメートルである為、目立ち過ぎるといった心配もない。
『シメオ、スパイノカガミ!』
そして、キュウカンチョウの真に特筆すべき点は人間の声色でお喋りすることが可能であるという点にある。発してもらいたいエロワードを教え込んでおけば、壊れたラジオのようにべらべらと勝手にツイートしてくれるのである。
「フフフ、どうもありがとう」
『ドウイタシマシテ! シメオ、カッコイイ!』
「フッ、当たり前だろう? スパイは顔が命だからな」
『ドウイタシマシテ! オマエ、マジイケメン! ファー、ダイテ!』
「オマエって言うな」
偶に僕のことを『シメオ』ではなく、『オマエ』だとか『コイツ』だとか癪に障ることを発する時があるが、概ね僕のマイブームな愛鳥である。それに、スパイ活動において敵組織を錯乱させる上でこの人間そっくりの声色は大変に有効活用できるのである。例えば、僕を付け狙う変態用務員に扮した敵がクラスルームにいたとする。そこでキュウカンチョウに僕そっくりの声色で『トイレデ、モリモリトキバッテクルカ!』と言わせ、油断してノコノコと男子便所にやって来た敵をズゴバゴと返り討ちにする、といった陽動作戦も可能である。
「お前は本当に可愛い奴だな」
『シメオモカワイイゾ! ゴリッパサマガ!』
……んっ?
『シメオ、テンサイ!』
『シメオ、ヘンタイ!』
『シメオ、コウバシイ!』
『シメオ、クサイ!』
『シメオ、ガンバレ!』
『シメオ、クタバレ!』
あれ?
なんか、僕、いつの間にかこの焼き鳥にこっそりとディスれらてます?……気のせいか。僕のお気に入りで僕を敬愛の眼差しで見つめるこの愛鳥が僕をディスる訳がないし、きっと幻聴もとい空耳だろう。いかんね、歳を重ねると幻聴が聞こえやすくなる。
「うんうん、気のせいだ、気のせいに決まっている」
『ウンウンッ、オマエノソンザイモキノセイダ!』
「ふッ、ふふふふ、ふっ! ふざけるなぁ!? だ、だだだだっ誰がぼぼぼぼっぼっちですか!? ごごご、ご注文はぼっちですかァ!?(←錯乱中)」
『ボッチ! ボッチ! オマエハ、ドウテイボッチ! リャクシテ、ドボッチー!』
「ゆ、ゆるキャラみたく言うなぁ!?」
焼き鳥はバッサバッサと暴れながら僕に向かって暴言を吐き続ける。い、いつの間に、ボッチとかドウテイとかどこでそんなクソ単語覚えてきたんだこのクソ焼き鳥!毛皮剥いで、本当に炭火焼きにするぞ、こら!ていうか、なんでこのクソ鳥、今か今かと待ち構えていたかのようにいきなり僕に悪口を吐くの!?さっきまで、僕のことを褒めに褒めちぎっていたよね!まるで、天使にうちのオカンが憑依したみたいやんけ!あ、ま、待てよ……ま、まさか!あのオカンがもしかしてイランことをこの焼き鳥に仕込みがったか!?
『ドボッチ! ドボッチ! オマエハ、フノウ!』
バッサ、バッサ!
ツンツンツンツンツンツンツン!
「いてっ、いててててっ! いたい、です! ご、ごめっ……ゆるしてください……く、クチバシ、攻撃は卑怯ですぅ!」
ご主人様である僕に暴言による精神攻撃だけでなく、クチバシによる肉体攻撃も仕掛けてきやがった!ち、畜生……か、かくなる上は僕のおち、愛棒であるトカレフでこの馬鹿鳥を黙らせてやる!アッー!し、しまったあ、いつもは懐にしまってあるトカレフを家の冷蔵庫に忘れてきてしまった!ギャーッ、絶体絶命のピンチ!も、もう誰でもいい!きょぬーレースクイーンかつぶらな瞳がハゲしいワンコか……どちらか僕を助けておくれ!
「ちーっす! さっとうくん、今日はナニしてるのー? あっ、鳥とストリートファイトしてるー! ぼっちっちのさっとうくんが鳥とw喧嘩wマジウケるwwwしかも負けてるしwww」
レースクイーンやワンコどころか今世紀一番来てほしくない人害が僕の目の前に現れた。アホウドリと死闘を繰り広げる僕を指差して笑いながら見つめるめぐみんである。み、みつめてないでナイト!く、草生やしてんじゃねえ!草生やすのは大事なところだけで充分だ!さ、さっさと僕をこのアホウドリから助けろ!
「たったふしゅきゅてぃきゅだちゃい……」
「え、何語? ていうか、何でさっとうくん鳥と喧嘩してるの? 何でそんな服ボロボロなの? そんな漫画みたいなことしてるノリの人、私初めて見たよ」
の、ノリの人とか言うな!
好きでしている訳じゃないんだい!
『メグミン、アイシテル!』
……はっ、はあ!?
「……えっ。さ、さっとうくん、い、今……な、なんて」
「ばっ、こ、こぉ! こぉれは、ち、ちがっ」
『メグミン、ベロチュウシテクレ!』
ぼ、僕の声色でいきなりナニ言っているんだこの焼き鳥!
「ベッ、ベベベベッ、ベロチュウ!? な、ななななな、何言ってるのさっさささささっとうくん!? そそっそそそそそっそういうおとっおととととおとなのちゅちゅちゅちゅーはははははやいんじゃないかなななななななな!?」
めぐみんさんは壊れたブリキの玩具のような挙動で顔を茹蛸のように真っ赤にしながら口にする。動揺が一目見て取れる凄まじいリアクションである。普段、いぢられっぱなしの僕にとってはここいらで攻めるチャンスなのだが、ぐああああああ!ハズイ!僕も恥ずかしすぎる!なんなのこれ!?精神攻撃、肉体攻撃、ときてまた精神攻撃を仕掛ける気かこの焼き鳥定食!そ、そうは問屋が卸すか!しからば、このクソ鳥を炭火焼きに……!
『メグミン、キミノパイオツト、ボクノパイオツデ、チクビアテゲームヲシタイ……』
甘くて色気のある僕のイケメンヴォイスで変なことを言うなぁ!?
「きぃいいいやぁあああああ! さっとうくんの、へんたい! えっち! すけべ! 性獣! レイプ魔! 淫乱テディ●ア!」
ばっちん!
ばっちん!
ばっちん!(←ボーナスステージ突入)
「ぐっはぁあああああアァン♡」
そして、最後にはめぐみんさんの往復ビンタで〆られる僕なのであった。




