横四楓院絞男は愛妻弁当がお好き?
人間の三大欲求の一つである『食欲』は人間が人間らしく過不足なく最低限生きる上で必要な欲求と言えよう。しかし、食欲の貪欲さは時代を超えても止まること知らず。熱々の白米の上に梨汁プシャー……ではなく、熱々の味噌汁を並々とぶっかけ!ズルズルと獣のように頬張るいわゆる貧乏飯で満足していた舌は『飽き』と言う現象に抗う事が出来ず。ぶっかけまんまぁがコンビニ飯にグレードアップ、さらにはやれブュッフェだの、フレンチだのスイーツ(笑)だの……食欲の拘りと贅肉は何時までも借金のように膨らむ一方である。国宝と言っても差し支えないスパイである僕こと横四楓院絞男は食欲に特に拘りは無く、高尚なスパイ活動に差し支えない程度に燃料補給出来れば問題ない服飾品のようなものである。フン、その気になれば額と両頬にナルトをピタッと引っ付けて街中を堂々と闊歩してやるぞ……フフ、ワイルドだぜ。
要するに見かけ重視の手の込んだエサはスパイにとって弊害でしかなく、フォアグラと海水のどちらか一方を選べと仙人に迫られても、フォグラとか訳の分からんレバーの上位互換よりも、僕は迷うことなく真っ先に塩水を選ぶということである。ごめん、それは言い過ぎました。せめて、塩水にカロリーメイトとレースクイーンをつけてください。高級食材は拒否反応を示す僕である。ついでに言うと如何にも手作り感全開な食べ物にも拒否反応を示す僕である。
「フー……やはり、カップ麺は最高だゲプッ」
三限目。
誰もいない学園の屋上のベンチで僕はカップ麺を啜っている。世間的に言えば所謂、早弁という奴である。フン、やはり上からGIFのように揺れ動く体操着女子のパイ乙を観察しながら食べるカップ麺は最高である。まさに、おかずでオカズ食べる状態である。えっ、スパイが早便って臭くないとか考えたそこの貴方。ちょっと待って欲しい。早弁はスパイにとって重要なスキルであることを理解して頂きたい。
だいたい、早弁は腹ペコ野郎のフライングゲットイベントだと思われがちであるが、それは大きな間違いなのである。昼休みという無防備な時間帯を敢えてずらすことで変態ボマーの襲撃に備える効果があるのだ。大抵の場合、授業中に聖書やエロス本を盾に、早弁をする輩が多いがこのような行為は僕から言わせれば早弁の本質を理解してない只のちん●である。誰にも目に触れずコッソリと周囲を見張りながら己はエネルギー補給しつつ、高みの見物と洒落込む。まさに、早弁はスパイのチートスキルであることは理解頂けただろう。決して、普段なかなかお目にかかれない女子の体操着姿を視姦したいだとか、そういうのでは無いことを宣誓しておくことにする。
「最高のジャンクフードに最高のブルマ桃源郷……これで、別のクラスの女子がスク水姿を拝め、諜報出来たら神最高だったのだが」
まあ、この間これでもかという程、女子のスク水をたっぷり堪能出来たのだから良しとしておこう。スク水の機能性について改良の余地があると思うし、個人的にまだまだ諜報が足りないが、これからも諜報活動頑張るぞい!
「あー! やーっと見つけた! もー! いつもはフンコロガシみたく一人寂しくトイレで便所飯してるのに何でこんなところにいるんだよー」
フンコロガシまったく関係がないぞい!
突然屋上のドアが独りでに開いたかと思うと、そこには体操着姿の巾着袋を持っためぐみんがいた。ううううっそやろ?何でここにこの女がががが。
「マナーモードみたいに震えてどしたの? あっ、もしかして体操着姿の私を見れて嬉しいとか? もー、さっとうくんはむっつりさんなんだからー」
「最高のおかずですね! ……じゃ、じゃなくって、あの、その……じゅっ、授業は」
「さ、最高のおかずなんだ……へ、へー……そ、それで授業? へっへー、授業って、佐藤くんは私といったいどんな授業がしたいのかな?」
めぐみんははにかみ、後ろ歩きで僕から距離をとる。あ、あれ?何かこの子勘違いしてない?エロい授業とかそういうのと勘違いしてない?まあ、しかし、敢えて言うならば先生と夜の組み立て体操だ!
「い、いやあの。じゅ、授業はどうしたのかな、って。いま、確か保健体育の時間じゃ」
「え? さ、さっとうくんは私と保健体育の授業がしたいんだ、そ、そうなんだ」
め、面倒くせぇ!
人の話を半分しか聞かないタイプの女だ!只でさえ人と会話するのは精神衛生上悪いし、疲れるのだ!頼むから話はちゃんと聞いとくれ!
「ま、まあ? そ、そういうのは私と佐藤くんには早いとおもっ思うし……あ! そ、そんなことより、佐藤くんお腹空いてるでしょ!? 私、お弁当を作ってきたのだ!」
めぐみんは羞恥心を紛らわすように、大きな声を上げながら僕に巾着袋を差し出してくる。あ、誤解されたまま続くんですね……まあ、いいか、可愛いし。……。なんか今、ポロっと言っちゃいけないこと言っちゃったような気がする。疲れてるのかな、僕。
「いや、お腹、空いてない、です……」
「じゃーん。さっとうくんが大好物なおかずを詰めたよ! ガツガツと犬のように惨めに上の口を駆使して貪り食べるんだよ!」
い、言い方。
ちくしょう、僕の大好物のおかずは洋物動物ビデオだい!だめだ、端から人の話を聞いてないし、断れる雰囲気でもないぞ。や、やばいな……カップ麺を食ったあとで手作り料理とか口にしたらリバースしてたちまちこの場が阿鼻叫喚の地獄絵図になっちゃうぞ。ウインナー、唐揚げ、ハンバーグ、ベーコン、卵焼き……見た目はどれも不自然に綺麗だな。は、果たしてこの中にハズレ(手作り料理)はどれなのだ?ケミカル色が強い冷凍食品なんかは僕も普通に食べられるのだが。ていうか、肉系ばっかだな。僕を流行りの肉食系男子にしたいのかこの女は?
「あ、あの。こ、この中で、冷凍食品ってどれですか?」
「え? あ、ごめんねー。私、お料理、最近ママに習い始めてねー、今日は卵焼き以外は冷凍食品なんだよ」
「じゃ、じゃあ、卵焼き以外を頂きます」
「はい、どうぞ~召し上がれ……あー! ナニソレナニソレ! 酷くない非道くない!? 私の手料理なんか食えるかむきーってことぉ!?」
「あ、いや、そういうのじゃなくて。ぼ、僕、手垢がついたエサ食べたらゲロ吐く体質なんで……じゃ、じゃあ、唐揚げ頂きます」
「うがー! 手垢なんてついてないもん! 手、洗ってるし! し、しっつれい! さっとうくんはとっても失礼です! 訳の分からないこと言ってないでさっさと、私の卵焼き食べてください!」
「い、いやあ……です。あ、この唐揚げ、美味しいです」
「む、ムカつくよー! く、くえー!! 私の卵焼きをくえー!!」
ばっちん
「クェェェ!? ヒェッ! ま、待って!! お、おひふ……もがもが」
キレためぐみんさんは僕の両頬を右手で挟み、僅かな隙間に卵焼きを押し込んできた!ヒィィィィ、キャアアア!あ、愛情が!人の愛情が流れ込んでくるぅぅ!死……あ、あれ?こ、これは。
「うまい……です」
「でしょー?」
い、いや、うまいというより懐かしい味である。全然、ふわふわしてないむしろぱさぱさ系の卵焼きで、そしてまったく甘くなくダシの味がよく効いてる?手作り料理は昔から苦手な僕であったがこのオカンの卵焼きだけは忘れられないオカンの味なのだ!こ、これは、お、悪寒!じゃなくてオカンの味や!まったくオカンの味と一緒やないかい!オカンの味!オカンの味って、連呼してたら背徳的に危ない奴やないかい!
「やっぱり、愛妻弁当作るのに佐藤くんの好みは愛妻として知っとく必要があるからね! 佐藤くんのお母様に大好物の卵焼きの作り方を聞いたんだよ、えっへん!」
…………ヒッ、ヒェッ!
い、いつの間にか愛妻に認定されてる。い、いつの間にか僕のおかんと仲良くなったのお?な、何だろう。こ、この言いようのない得難い不安感は?な、何か、外堀から固められているような?




