表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/46

横四楓院絞男はスク水がお好き(前編)

 激動の現代。

喰うか喰われるか──ピラミッド型の弱肉強食の時代はとうに終わりを告げた。これからの真の意味での勝者は『強者』や『賢者』では無く、変化に対応できる『臨機応変型の者』だろう。今までの常識は何一つ通用しない時代が到来する……は言い過ぎかもしれないが、自分の価値観が普遍的であるという固定観念は早い内に捨てておくことに超した事は無いと僕は思う。


 環境は自分で変えることは出来ない。自分が環境に染まるのである。僕こと横四楓院絞男もプロのスパイとしてこの学園の少しの環境変化にも臨機応変に対応できる人間であらねば。スパイとして、根拠のない推定──『だろう』行動は命取りとなりかねない。あらゆる想定外の事態に臨機応変に対応する為にも理屈に基づいた『かもしれない』行動を念頭に諜報活動を進めるのである。


「フフフ、まったく最近のJKときたら身体ばかりご立派になりやがって……まったく……ぶつぶつぶつぶつ……たまらん」


 放課後。

僕は誰もいない校舎の屋上から水泳部女子が棲息するプールを監視している。勿論、双眼鏡を駆使してな!バードウォッチングならぬ人間ウォッチングというスパイの任務を遂行しているのだ。何ですかその死んだ齧歯類のような目は?これは、その、決して、女子のたわわに実った恥丘を観察したいだとか、そういうのではない、です!変化、そう!学園を裏で牛耳るスパイとして女子生徒の細かな変化も見ておかないといけないのである!えっ、男子は……だと?知らん!おかんのパイ乙でもつぶらな瞳でモキュモキュと舐めていろ!


「まったく……あの上半身の二つの膨らみはもしかして手榴弾でも隠し持っているのではないか?」


 まったく本当にけしからんな最近のJKは……スク水の中に凶器を隠し持つなんてまったくもってけしからんと思うですたい。僕の凶器もといご子息もご立派になってしまったではないか。これはもうあれだな、色んな意味で慰めてもらわなければな、上のお口で。『絞男くんのリアルトカレフはとってもぶっといね!』だとか『お兄ちゃん、だいしゅき!』だとか……是非ともそういう台詞を上目遣いの赤面顔で田中某に言ってもらいた。


 待て待て、待つんだ僕。どうしてそこであのかまってちゃん系女子の名前が出てくるんだ僕。ま、まったく……た、確かに?一万歩譲ってあの女は顔は可愛いし?ボンキュッバァン!な体型とまではいかないがスタイルはそこそこ良いし?ハッキリ言ってスク水とか着せたら僕のリアルトカレフもご立派によゐこのようにぐんぐんと成長すること間違いなしだろう!フルおっきすること間違いないだろう!


『にっしっし、さっとうくん? 全世界の男の子の夢が詰まったおっぱい見てたでしょ~? や~らしいんだ』


 僕の妄想の中の田中某(※スク水仕様)は悪戯な笑みを浮かべて、胸元をチラリズムさせながら僕を大人の世界へ誘っていた。ま、待てえええ!な、何故、僕はあのストーカー女子のスク水姿を妄想しているのだ!お、おかしい。これからあの女の短所をこれでもかというくらいにあげつらおうとしていたのが、いつの間にかスク水を着せていたでござるの巻。くっ、何たることか。プロのスパイがこんな邪な感情を持ってしまうとは一生の不覚。そ、そうだ、こんな邪な感情を振り払う為にも遠くにいる水泳部女子のイヤラシイスク水を視姦しなくては。


『ふっふっふ! 我慢は身体に毒なんだよ佐藤くん! さあ! そのスケベ眼で私のおっぱいを見たいのなら見たいとハッキリと言うのだっさっとうくん!』


 とっても見たいです!!ちがぁア嗚呼ああう!あああ、だ、ダメだ!何を見ても何を考えてもナニをしていても、あの女の姿が目に焼き付いて僕の身体を目に見えない鎖で束縛する!そうか、もうこれは認めるしかないようである。僕は田中某のことを意識してしまっているという事実を。宜しい、ならば戦争です!感情の本質を分かってしまえば対処も実に容易いものです。今から僕が為べきことはあの女をストライクゾーンから外すということ。やきうで言うならばデッドボール、複雑骨折、一発退場、レッドカードといったところだな!よし、今に見てろ田中某。僕の脳内破廉恥劇場から今すぐお前を退場させてやるんだもん!


「ふっははは、ハハハハ! 覚悟するんだなあ! 田中某!」

「呼んだ?」


 どき土器DO☆KIどっきんちゃん!

な、何だ……い、今のあるはずの無い不可解な返答は!僕は恐る恐る、背後を振り向くと。


「あ……」

「ハロー、さっとうくん! 元気に……してた?」


 屋上の入口に久方ぶりの田中某の姿があった。あ…良かったちゃんと制服着てる。って、な、ナニを当たり前のことを言ってるんだ僕は。いきなりスク水姿で登場してきたら度肝を抜くぞ。度肝だけじゃなくて違うところも抜いてしまいそうだけれど。


「オッオッオッ……オッ、オッオッオッ、オエ゛エエッ……エップ」

「人の顔を見るなりいきなり吐くとか傷付くな~……まー、でも対人恐怖症に服を着せたようなさっとうくんにとっては挨拶みたいなもんだよね!」


 僕が蹲って吐いている傍ら、田中某は一人でうんうんと頷いている。何が対人恐怖症に服を着せただ!ば、馬鹿にするな!ただ、その、ちょっと、心がフワフワしただけだ!いや、ドキドキかな?って、何で僕がこの女にドキドキしなくちゃならないんだ!


「…………」

「あ、落ち着いた? ん、んん? あれ、さっとうくん、何か顔、赤くない?」


 田中某は僕の顔を上目使いで覗き込んでくる。

うっ、ち、近い。今の今までこの女を頭の中でスク水にしてたからとてもではないが真面に顔が見れない。僕はぷいっと明後日の方向に顔を背ける。


「あっ! 何で目を逸らすんだよー! こっちを向けー」

「…………っ」

「あー! また、逸らしたあ! ていうか、無視するなー! こっちを向けー!」


 いだだだだだだっ。

田中某は凄い力で僕の顔面を掴み、無理矢理に自分の方へ向かそうとする。や、やめなはれ!僕はマネキンじゃないぞ!だ、だいたい何なんだよこの女は!この前あれだけの爆弾発言しておいて何で平気な顔して僕の心の中に土足でズカズカと入り込んでくるんだよ!も、もう、ほっといてくれ!何とか抵抗していたが遂には女子力の前に僕は屈し、至近距離で田中某とご対面してしまう。


「ヒェッ」

「佐藤くんが私から逃げても、私はずっと追っかけるよ。私は逃げも隠れもしないんだから」


 な、何の話なのぉ?

い、一体今から何が始まるんです?ストーカーの無茶苦茶な暴論講座ですか?


「……は、離ちて。言っ言ってる意味がわか」

「自分の気持ちに嘘はつけないんだよ……? わ、わか、分かるよね?」


 田中某は涙ぐみ、頬を朱色に染める。わっ、わっかんねーよバーロー!ていうか、両手で僕の顔を挟み込むな!僕はサンドイッチの具じゃないぞ!な、何なんだよ、何なんだよこれは!ぼ、僕はこんな展開は望んでない!やめろっ、これ以上、僕を目まぐるしく愛憎が溢るる桃色乙女空間に引きずり込むな!


「……ふぁい」


 しかし、予想外の田中某の真剣さに僕は情けない声を上げることしかできず。今まで女子という女子に縁の無かった童貞人生まっしぐらな僕にとってはただ黙って生唾を飲むことしかできないのである。


「し、知ってる佐藤くん? す、好きな人の為なら何だって出来るんだよ……? な、何かして欲しいことあるかな?」


 田中某は小声で、自分に言い聞かせるように口を開く。な、何だと…。じゃ、じゃあ、あんなことも、こんなことも、そんなことも……?ふ、ふふ、ば、馬鹿め!かかったな阿呆が!そ、そんな、大事な事を軽はずみに口にしてしまった貴様の運の尽きだ!よ、よーし、だったらとってもすごくてトンでもない要求をして、僕を見たらトラウマになる程の悪夢をお前に味わせてやる!ふん、プロのスパイに容赦という文字は存在しないのである。


「えっと……じゃ、じゃあ、す、スク水……スク水を着てくだしゃい……」


 ……あれ?

お、おかしい、僕が言いたかったことはこんなことでは無い。『何でも……? よし、じゃあ、ご近所を濡れ透けの白スクで四つん這いで犬のように廻りながら電柱でおしょんしょんポーズでワンと鳴くんだな?』とかそういう感じの鬼畜命令を与えて一生お嫁にイケナイ身体にしてやるつもりだったのに何だこれは……あれ?


「え、えっと。そ、それって、遠回しに私に『海でデートしてくれ』って言いたいのかな?」


 田中某は両の人差し指をツンツンと突きながら上目使いでそう口にする。ち、違う!で、デートとか恥ずかしいこと言うな!ていうか、いっその事、ドン引けよ!男子が女子に『スク水を着なさい』とか言ってるんだぞ!やっぱ、この女、何かおかしいぞ!頭のネジが数本どころか全部吹き飛んでるんじゃあないか!?


「…………」

「しょ、正直に言うとね。は、恥ずかしいよ……とっても、恥ずかしい。最近、ちょっと太っちゃったような気がするし……だ、だけど、ね。わ、私が言い出した事だし、が、頑張る」

「ハイ」


 ハ、ハイ、じゃないよ、僕。が、頑張るって何を頑張るのだ?ほ、本当にスク水を着てくれるのか?僕のためにスク水姿を披露してくれるのか?……。この際だから正直に言うとね。とっても、嬉しい!はっ、ぼ、僕はナニを言ってるんだ。


「あ、あとね! そ、その……す、スク水、ちゃんと着るから……わ、私のこと、その、『めぐみん』って呼んでくれないかな……?」


 田中某はこれ以上無いくらい消え入りそうな声で僕にそう言う。何だと…スパイの僕に交換条件を突きつけるつもりか?ふん、そんなもの……。


「ハイ、めぐみん」


 だ、だから、ハイ、じゃないって、僕。


「……っ、あ、ありがと! じゃ、じゃあ、ら、ライン交換しよ? しゅ、週末でいいかな……で、デート?」

「ハイ、めぐみん」


 え、NPCか、僕は?

だ、ダメだ、き、緊張し過ぎて感情の籠もった返答が出来ない。緊張してなくてもちゃんと返答出来ないけれども。そして、めぐみんと無事ラインを交換し終えた。


「あ、あの……」

「ハイ」

「ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いします」

「ハイ、ヨロシクオネガイシマス」


 け、結婚の挨拶か?

こうして、なし崩し的に週末にめぐみんとスク水デートすることになったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ