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横四楓院絞男はヨガがお好き

「……よし。誰もいない……な」


 早朝の六時。

僕は予め用務員のおっさんからくすねた鍵を用いて、周囲の人の有無を十二分に確認しながらコッソリとNINJAのように抜き足差し足で自分のクラスの教室に入る。そして、内側から教室のドアの鍵を閉める。これで万が一でも僕のことを吐け狙う宇宙人や外来生物、田中某からの強襲を防げるというわけである……フフフ、完璧だ。完璧すぎて、この場で白スクで盆踊り大会を開催したくなる。さて、七時半頃になると密に群がる蟻のようにわらわらとクラスメイトがこの教室に集まって来るから、早く事を済まさないとな。無論、ここでいう事とは白スク盆踊り大会の事ではない。


「コォォォ……」


 僕はすぐさま自分の席の机の上に胡坐で座る。

そして両手はももの上に置き、掌を天井に向ける。背筋を伸ばして目を閉じ、自然な呼吸を繰り返す。嗚呼、今まさに僕はこの教室という名の密閉空間における仏様になったよう。自然と恍惚感が増し、深い笑みを浮かべてしまう。こんなところを誰かに見られてしまったら通報されるかもしれないが、これも誰もが認める立派なスパイの訓練なのである。


 ヨガ、である。


 ヨガとは古代インド発祥の伝統的な宗教的行法の一つである。

心身を鍛錬によって制御することで精神を統一して古代インドの人生究極の目標である輪廻転生からの解脱に至るうんたらかんたらと何言ってのコイツ状態になるのが受け売りだと思う。そして、宗教は巨大敵組織のスメルしかしない負のイメージでしかないと今迄、思っていた……そんな時期も僕にありました。しかし、実際にそのヨガの詳細を突き詰めてみると良い事尽くしなのである。


「コォォォ……クポォォォ……」


 ヨガがもたらす効果は心身共に絶大であると言われている。

この『心身共に』と言うところがヨガの魅力であると僕は考えている。まず、『身体』にもたらすヨガのストロングポイントを僕がヨガりながらご紹介しよう。内臓脂肪の燃焼である。この外から見えない内臓脂肪は生活習慣病の温床となっている。これをヨガで燃焼させることができるのだ。そして、新陳代謝が良くなり、体の血の流れを良くすることで腰痛や生理痛、そして猫背からくる肩こりの緩和にもつながると言われているのだ。フフ、スパイにとって腰痛は最大の敵であるからな。夜道で僕の身体を狙う全裸トレンチコートの変態おやぢに突然、襲われそうになった際にこれまた突然、ヘルニアにでもなったら目も当てられない結果になるからな。常日頃、足腰を鍛えるのはスパイにとって基本的な訓練なのである。


「コォォォ……ヒック! コッコォォ……コォオコヒッ、コヒッ」


 し、失礼。持病のしゃっくりが再発してしまったようである。

続けよう、次に『心』にもたらすヨガのストロングポイントである。瞑想し、深く深呼吸することで自律神経のひとつ、副交感神経に働きかけ、ストレスを解消し、『心』を落ち着かせることができるのだ。病は気から、と言うが、その気をテラピる(※テラピーする)ことで病を吹き飛ばす効果にも一役買っていることは言うまでもない。無論、近年悩まされて社会問題ともなっているうつ病にも効果がある。最近、頭のおかしいストーカー女子に狙われている僕にとってはこれは絶大な威力を発揮していることもまた言うまでもない。


「コッコォォォ……ヒッ、ヒッ、ヒヒッ、コヒッ! コォオォヒッ!」


 と、止まらない。も、もうすぐ死ぬんじゃあないかな僕……百回、しゃっくりすると死ぬとか何とか迷信あったようななかったような。それは兎も角、最後にヨガのもう一つの魅力は、道具なしに手軽にそして老若男女関係なく誰にもできるという点にもあるといえよう。但し、スクランブル交差点とかストリップ小屋とか衆人環視の下ではなるべくやらないようにしよう……邪魔になるし、ちょっぴり恥ずかしいから。そして、今まで述べた効果はすぐに出てくるものではない。継続は力なり、長期的に続けることが何よりも大事なのである。以上、テラピスト絞男の提供でお送りいたしまコヒッ。


「コッコォォコヒッヒッヒッウッ! クックポヒッポッヒッ、ヒッヒッ、ヒヒッ、コォォ……ヒィン! ヒッ、ヒッ、コヒッ、アァン!」

「……。事件です! 事件です! ぴーぽー! ぴーぽー! お巡りさん、こっちに何か一人で変な恰好で喘ぎ声を上げてる変態がいます! こっちです!」


 コヒイイィ!?(コーヒー、一杯下さい)

いきなり背後から悲鳴に近い声が聞こえ、慌てて振り返ると教室の出口に向かって駆け足で僕から離れる女子もとい田中某がいた!えっ、ちょっ、嘘、あたしの恥ずかしい姿を見られちゃった!?待って!僕は慌てて、田中某を追いかける。


「ま、待って……待ってくだひゃい! ご、誤解でヒッ」

「えっ……。『コヒヒッ、お前さんの生暖かい御貝を御開帳してやるでコヒッ』とか……ヒィィイ! 佐藤くん、犯さないで!」


 田中某は両腕で自分の胸元を抱くように隠し、僕から後ろ歩きで退く。

も、妄想が激しすぎるぅ。い、いや、待て。何かオーバーリアクションだし、微かに口元が笑ってる……こ、こいつ。僕をからかっているな!ち、畜生め、いつか本当にお前の貝をこの目で拝んでやる。


「あ、あの……ヒッ。い、いったいどこから入って……ヒィン」

「んー? どこって、そこから?」


 田中某はで教室の窓に向かって指差す。

う、うっそだろ、おい。ここ、三階ですよ?スパイ●ーマンかこいつ?ち、畜生め、折角施錠して籠城していたのに僕としたことが窓の鍵の施錠まで気が回っていなかった。今度、教室で自家発電するときは廊下側だけでなく、窓側の鍵もチェックを怠らな……いや、しねえ!只の変態だそれ!ボクちゃん、外の方が何だか興奮するんです、とか言ってる変態だコヒッ!


「ねーねー、さっとうくーん、今日はどんな変態してるのー、ねーねーねー」


 今日はどんな変態してるって、どういう意味だそれ!


「い、いや……ヒッィン。こ、これ……ヨガでヒッ」

「ヨガ? ヨガってあのグイ~~ンって、足がのびたり、『ヨガファイヤー』とか叫んで口から火を噴く上半身裸の変態の人の事かな?」


 田中某は足を軽く前に蹴る動作をしながら、僕に説明する。

そ、それ、ちゃう人や!い、いや、間違ってはいないんだけれど違う奴や!あ、あと、変態とか言うのやめてあげて!


「ねーねー、さっきの……ほらっ、スケベポーズもっかいやってよ佐藤くん! 何か面白かったから!」


 な、何が、スケベポーズだ!

神聖なる真性なヨガのポーズを馬鹿にしやがって!いいだろう、如何に僕のヨガりが素晴らしいか特とその目に焼き付けよ!僕は教卓の上に先刻と同じポーズで座る。


 ピロンピロン


 コヒッ!?

な、何だ……今のヨッ●ーの咀嚼音みたいなSEは!僕は目を開けると、田中某がスマホのカメラを僕に向けているではないか!えっあっちょっ嘘!僕はすぐさま、教卓から降り、田中某を追いかける。


「ちょっコヒッ、と、撮らんといて! 撮らんといヒッ!」

「あはははー! しゃくれてるさっとうくんかっわいいー!」


 な、何がしゃくれてるだ!

しゃっくりの間違いだろ!僕は逃げ回る田中某を追いかけるのであった。そして、数時間後、僕と田中某は職員室に呼ばれてゴリラに服を着せたような体育教師に説教を喰らうのであった。畜生、理不尽だ!

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