横四楓院絞男はケミカル幼女がお嫌い
「フゥ……ここなら流石に大丈夫だろう」
昼休み。
くさやの入ったタッパーを包んでいる風呂敷とまだ封を切っていない赤ワインのボトルを両手に持った僕は旧校舎の裏手にあるプレハブもとい男子便所の前まで来ていた。無論、ベンジョール・ウィッシュの為に社会の肥溜めのようなこの場所に来ているのは最早言うまでもないが、今日の絞男は一味も二味も違う……『ニュー絞男』の誕生の歴史的瞬間を君たちは目の当たりにすることだろう。
ベンジョール・ウィッシュの開催場所の変更である。
新校舎の各階に設置されている水洗式の男子便所からこの今にも『トイレのゲリ子さん』『妖怪フケがけじじぃ』といったヤバめのお化けが出そうな旧校舎の男子便所に移転した。これは別に部屋の模様替え的な気分で変えちゃったぁキャッハァ☆とかそういう意図では決してない。敵対組織の追手よりもある意味やっかいな田中恵とか言う頭の中がお花畑の総合商社のエリート社員から身を隠す為である。身を隠すと言っても別に僕はあのフラワー女を恐れて逃げているわけではない。あの女が僕から背を向け、隙を見せたその瞬間……バァン!僕の本領発揮である。今の僕は能ある牙を隠す百獣の王さながらの危ないスパイという訳だな、フフフ。
「う゛っ……さ、流石に……これはきっついな」
人知れない人気のないこの場所は邪魔されないという意味ではメリットであるが、ぼっとん便所とかいつの時代ですか?と問いたくなるほどの犬の野糞のような環境である為、悪臭という名のスメルが容赦なく僕の鼻孔を攻撃するというデメリットもある。ぐっ、が、我慢だ我慢。昼エサを食べるには地獄のような環境であるが、これさえ我慢すれば便器に座って優雅なベンジョール・ウィッシュが開催できる。僕は意を決して、激臭漂ううす暗い便所の中へ入り立て付けの悪い大便個室の戸を開く。
「あ、あぁっ!? し、しまったあ!」
嗚呼、何と言う事でしょう。
真正面から不条理に服を着せたような輩に思いきりラリアットを喰らったような気分になる僕。ぼっとん便所という地の構造をすっかり忘れていた。洋式便所ではなく和式便所であった。くっ、こ、これでは落ち着いて座ってエサを喰い散らかせないじゃないか!こ、これはもう便所にまたがってエサを喰うしか。
「よいしょ……」
ここで呆然と突っ立っていてもただ単に無意味な時間が過ぎるだけなのでとりあえず、和式便所にまたがってウンコ座りをしてエサを喰う準備をする僕。あの、人として、いや、スパイとして……流石の僕も……こ、これはイケないんじゃないかな!?絵的に見ても相当アレだし、客観的に見れば、只の変態であるし、客観的に見なくてもこれは捕まるのではないか。いったい、どんな罪状なのか自分でも分からないのだが。嗚呼、誰も見てなくて良かった。
ギィ……。
「ふむ。敢えて言うならば、『天然記念物チン列罪』といったところだろうな。ちなみに天然記念物とは君の事だ、横四楓院氏」
「んきゃあぁあぁぁあああ!?」
ホッと落ち着いて和式便所にまたがっていると突然、立て付けの悪い個室の扉がゆっくりと開く。突然の来訪者に流石のスパイである僕も乙女のような悲鳴を上げてしまい、動揺を隠せず狼狽えてしまう。えっえっえ、うっそやろ!何か変な女が当たり前のように、まるでさらさらーっとまかないのお茶漬けを食べる工事現場のおっさんみたいな顔して入ってきおったでこの女!
「ヒッヒィイイイ……! 誰っ誰!? 貴方は誰なのぉ! 貴方は誰でしゅか!? 貴方は誰でしゅかぁ!?」
「落ち着け横四楓院氏。私が此処へ来たのもすべて科学で証明できる……それにしても面白い絵だ。ハイ、チーズ」
ピロンピロン
「ヒェッ! と、撮らないでっ……撮らないでくだしゃい!」
いきなり僕の目の前に何の前触れもなく現れたこの女は白衣を身に纏い黒のスカートに黒のタイツを身に纏った大人の女性をにおわせる格好で学園の校医のように見える。髪型は右肩に寄せるタイプの黒髪の馬の尻尾のような髪型でせくしぃで大人の魅力を感じさせる。しかし、一方で背丈は明らかに僕よりも大分低く、そして出るとこも出てない身体つきで幼体じゃなくて幼女にも見える。な、何で僕はこんな変態女の容姿を一生懸命説明しているんだ!い、いや、ちょっと待てよ。確かこの学園の校医は河童の生まれ変わりのようなババァだったはずだ!じゃ、じゃあ誰なんだこの女は!ていうかそれ以前に何故、僕のコードネームを知っている!
「横四楓院絞男。本名、佐藤秀臣。満十八歳。性別、男。身長、百六十五センチ。体重、四十九キロ。家族構成、父、母、妹、犬。好きな食べ物、スイーツ全般、ジャンクフード全般、カップ麺全般、妹。嫌いな食べ物、くさや、ワイン。最近嵌ってる趣味、自分を学園に送り込まれたスパイと思い込んでスパイゴッコすること。基本的に、スポーツ全般が苦手どころか見ると嘔吐する体質で口先の魔術師である。つまりは、ヘタレでコミュ障も併発している……」
「うきゃあああああああ! だ、誰かっ、誰かぁ、タスケテ! タスケテクダサイ!!」
怖いっ、怖すぎる、怖すぎるぞこの白衣の女!
僕の赤裸々な個人情報をまるでお経を読む坊さんのようにベラベラと無表情で喋る。白衣の天使なんてもんじゃない!ストーカーだ!何てことだ、まあ、おっかけというか僕のファンくらいは学園に百人か二百人はいるかと思ったがまさかこんなキチ●イなストーカーが存在していたなんて。は、早く、此処から逃げないと。
「落ち着け、横四楓院氏。私が君の事を知っていることも……すべては科学で証明できることだ」
科学で証明という名のストーカー行為かっ!?
ふ、ふざけるな、僕は逃げる!僕はももももっもぉ逃げるぞぉ!ていうか、色々と突っ込みたくて引っ掛かることはあるけれど、好きな食べ物の中に妹とか食べられないモノがあるけどそれってどういう意味ですか!?
「待て。私の話はまだ終わっていない」
逃げようとスタートダッシュを切ったが、すぐさま首元の襟を掴まれる僕。は、早い。それに何か掴む力が強すぎる!その細い体のどこに僕を引っ張る力があるのだ!?
「い、いやでしゅ! はなして……はなしてくだしゃい!」
「好きな食べ物に妹。これに疑問があるような顔をしているな君は。なあに、簡単な事さ。君は夜な夜な妹の睦海氏の部屋にチン入し、性的に喰い散らかしている。それだけのことさ」
「きょ、狂気! 言葉の凶器! 嘘だ! 事実無根だ! お、お前を訴えてやる……訴えてやるです」
「事実巨根。君が仮性の巨根で救いようのない童貞であることもすべては科学で証明できる」
「し、失礼な事を言うなあ!? お前の身体で試したろか!? ……嘘ですごめんなさい訴えないで下しゃい」
「そして、この私の未成熟な身体に興奮してふるおっきする君のトカレフもすべては科学で証明できる」
「証明せんといて! 証明せんといて!」
目の前の謎の白衣の女は自分の胸に手を当て、真剣な表情で僕を見つめてくる。あかん、あかんでこの女!レズ魔と同じく絶対関わったらあかん人種や!先刻から何言ってんのか分かんないし、この女のペースに乗せられているような気がする!こ、こういう時にこういうあかん奴を追っ払う手立てはただ一つ!
「こらー! 誰なんだよー! 私の三角木馬に手を出してるイケない子はー! とっちめてやるー!」
あかん奴をもう一匹召喚してあかん奴にぶつけるだけや!
何か図ったようにタイミングよく田中某が僕と白衣の女の目の前に現れたが今はすごくすごく天使のように見える。今ですあかん奴先輩!あの白衣のあかん奴を仕留めてやってください!あと、あかん奴先輩!僕を三角木馬扱いにしないで下さい!
「フッ……。君は田中氏だったな。どうした、もうすぐ授業が始まるぞ? 教室に戻るがいい」
「ぐるるるるっ……がうっ! 佐藤くんをいじめていいのは私だけだよ! 佐藤くんから離れて下さい! 佐藤くんの半径十キロメートル内に入るの禁止!」
「田中氏……。それでは私はこの学園から出て行かなければならない。しかし、それにしても必死だな」
「ううっ~~~わんっ、わん! わん!」
「田中氏が佐藤氏を私から引き離そうと必死である……これも科学で証明……ふがふがっふが」
「ぎっ……うわっわわわわぁあああああ! それ以上はだめっ、そ れ い じ ょ う は だ め え ! !」
「ふがふがふっがっふ」
田中某は謎の白衣の女の口を塞ぎ、校舎の方へ押して行った。
……は、はあ~~。た、助かった。しかし、何だったんだよあのキチ●イ女は。今まで学園で見たことのない幼女だったが。まあ、いい。もう会うことは無いだろうし、例え偶々見かけたとしてもその時は全力で逃げるとしよう、フフフ。さあ、邪魔者は二人まとめていなくなったし、さっそくランチでショウタイムを……。
キーンコーンカーンコーン(←予鈴)
うっそやろ?
──次の日、朝のHR。
「えー……っと。此処で皆に突然であるが、知らせがある。このクラスの化学担当の先走り先生が突然の体調不良により、長期的な入院が必要となった。急ではあるが、代わりの担当の先生を紹介する……天宮先生、簡単なご挨拶お願いします」
「ああ……。今、紹介のあったように私は先走り先生の野球で言うところの代打で君らクラスの化学の授業を受け持つことになった天宮育だ。慣れないことも多く迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼む」
昨日の白衣のちびっこちびちゃんが教卓でクラスメイトに向かってそう挨拶をした。……うっそやろ?(二回目)




