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九話 ルール


 約束の時間の五分前になると、いなかった人がぞろぞろと入ってきて全員揃った。

やはり、この中で一番服装に迫力があるのは愛優の甲冑姿であろう。ガシャガシャと歩くだけでうるさい音に、銀に輝いて眩しく、存在感を放っている。そしてその隣にいる派手な赤いドレスを着ている星野も負けてなかった。

 そんな星野と愛優は姫と姫を守るナイト連想させられた。

 愛優と星野以外の遅れて入ったきた人は恭真と同じでサイズが合っていないものを我慢して着ている感じであった。

 愛優と星野が別格であったのだ。


 トランプで考えるに愛優は11のジャック、星野は12のクイーン。服装はトランプをもとにしているのかもしれないことが推測される。しかし、13のキングはというと王様と思うような服装ではなかった。普通によく見かける服装であった。サイズは恭真みたいなサイズが合っていないことはなかったがそれは前の体が中学生だったことによるものであるのだと考えられる。13のキングは12のクイーンの星野に愛優の隣に座っている人である。恭真が知っている人であった。それは智也であった。

 全員が自分の席に座り、九時になるのを待った。

 恭真の隣の人は片方は有海で、もう一方が、さっき智也の周りにいた一人で、ぼそっと浩輝が言ってやりたかったことを言ってくれた全身黒ジャージの人であった。


「隣だったんですね」

と恭真は声をかけてみた。

「そうだな」

 ぼそっと答えた。

「俺、菊池浩輝、よろしく」

「ああ」

「えーと、名前は?」

「大黒 力」

「よろしく」

「ああ」


 素っ気ない返事しか返ってこなかった。あっちからは話しかけてこない。大黒は返答するのみであった。そのまま話が途絶えてしまった。

 話しづらい人だなと思った。

 ちょうどその時、この部屋に大きな音が響き渡った。その音は太鼓の音の振動が体に振動する感じであった。

 何が起こっているか周りを警戒する者、怯える者、立ちすくむ者、人それぞれの行動をした。

 浩輝は周りを確認していた。ドアが徐々に開いていた。そこには、やはり昨日と同じように、ターロットが立っていた。

 扉が全開になったことが分かるとターロットは歩き出す。そして、円卓中央に立った。それと同時に音も鳴りやんだ。


「昨日はよく眠れたかのー?」


 浩輝はターロットが厭味ったらしく言っているようにしか感じえなかった。


「うーむ、返事はないかのー。まあ、我が作ったものだ。聞くまででもなかったのー。

では、お主らの意見で実験内容を決めるかのー。ほれ、考えたのだろう。言って見せるがいい」

とターロットは言ったが、すぐに言う者は居なかった。静寂に包まれた。そしてそれを乱したかのように智也が立った。


「んじゃあー、僕から言うよ。昨日考えたんだけど、運動会なんてどうだろう。人間の感情がたくさん見れると思うんだよね。楽しい感情、燃える感情、悔しい感情、ほかにもいろいろあると思うんだよね。僕がやりたいだけなんだけど。どうかな?」


 智也は若干興奮しながら言った。どうしてもやりたいという気持ちなのが分かる。

 浩輝は別にいいと思った。運動は得意な方であったからだ。今の体はどうなんのかはわからないが、高校に入ってから部活に入ってないので久々に体を動かしたい気分であった。ちょうど赤7と黒7というチーム分けもできている。あとは競技を考えるだけだろう。

 しかし、こんな状況の中でよく運動会を言えたものだ。その度胸に浩輝は智也に感心した。

 周りの反応から見ると、これでいいのかと思う者が多いのか、微妙な顔をしている者が大半であった。


「うむうむ、やはり、そう言う奴は絶対に一人いると思った」


 ターロットはニヤニヤと薄気味悪い笑顔で笑っていた。それは、智也の言ったことの受け答えではないことが聞いているだけで分かる。では、誰なのか?


「決まったぞ」


 何が決まったんだ?周りのほとんどの人が動揺した。まだ、智也の運動会しか言ってない。運動会をやるのか?


「決まったぞ。実験内容は、コ ロ シ ア イだ。子供がやる運動会より楽しそうだろ」


 浩輝は最初何を言っているのかわからなかった。


 殺し合い?何だよそれ?どっから出てきた?


「そんなに嬉しいのかのー?我を讃えてもいいんだぞ」


 ターロットは浩輝たちの顔を見て意気揚々と言った。ほとんどの人が困惑しているのにだ。


「何で、殺し合いになるの?僕は運動会って言ったんだよ」


 唯一提案した智也がターロットに質問していた。智也もそんなことになるとは思ってもいなかったらしく困惑していた。


「それはわかっておるのー。ただ、コロシアイの方がいろいろな感情が見れると思ったからだのー」

「でも、だれも殺し合いをやりたいって言ってない。僕たちが決めるんじゃないの?なのに、なんで?」

「お主が言ったあとに誰かが提案することなるんでのー。別に我が先に言ったところで変わるまい」


 智也はターロットに置く問うが、ターロットは何がおかしいのかわからず、それが当たり前のように話す。


「貴様は予言とか、昨日言ってたよな。これも、貴様のアビリティーによるものか?」

「お主は理解が早くて助かるのー」

「ふん。智也、こいつに何を言っても無駄だ。もう、決まっているらしいからな」


 ターロットは痛い奴に感謝したが、痛い奴はターロットを鼻であしらい、智也に助言した。

 痛い奴は怖いものなしなのか。とても堂々としていた。


「そうだのー。我の中ではもう決定している。これ以上、提案しても変わりはない。無駄な時間だのー。我は時間を有効に使いたいのでのー」


 殺し合い・・・。この十四人の中で殺し合いが起こる。十四人の中に最低一人は人を殺したくてウズウズしている。この殺し合いを提案しようとした人だ。


「では、コロシアイの内容なのだが、やはり、ルールが必要であろう。お主らには、まず、ゲーム内容とルールを知ってもらおう。我が渡したケータイを見てくれ」


 浩輝たちはターロットの指示に従うしかなかった。コロシアイは決定してしまったから。反対してもターロットは絶対聞く耳を持たないだろう。やるしかないのだ。

 浩輝は殺し合いの参加を決め、ケータイを開らき、表示画面を見た。そこには、一回目に開いたときの爆破予告ではなく、13項にも及ぶ項目があり、一つ一つ書きならべてあった。


1、十四人の中に一人、JOKERという存在がいる。JOKERを殺せば、実験終了。終了時、生存者には一つ願いを叶えられる


2、JOKERは一周期に一人殺さないといけない。JOKER以外の人がJOKERの代わりに人を殺した場合、JOKERは一周期以内に人を殺すことが出来ない


3、十四人には、一人ずつ特別な能力がある


4、ケータイの機能は時計とターロットとのメール機能がある。時計は一周期を三日間とし、一周期を過ぎると、リセットし、一日目と表示する。


5、番号のある部屋はその部屋の鍵の所有者しか開けられない。内側からは誰でも開けられる。鍵の所有者が死んでしまった場合、所有者の部屋は開いた状態になる


6、城外に出られないように結界が張ってあるが何らかの方法で出てしまった場合、能力を剥奪し、城内に戻す。


7、JOKER以外の人が人を殺した場合、殺した人の最初に備わっていた能力を使えるようになる。


9、城の中の物は、真夜中の2時から3時の間に元の状態に戻す。ただし、城内にあるもので人の手により作られた武器は元に戻らない。


10、朝の9時までに中央広間の円卓の席に座らないといけない。その中で死んでいる者がいる場合30分の間に死体を発見し、九時三十分に席に座らなければならない。座らなかった者は能力を剥奪する。


11、番号のついている部屋は防音であり、女王の部屋と王の部屋は、同じ構造の部屋である。


12、生存者の半分以上に発見された死体は即時回収され、中庭にある墓に埋められる。


13、ターロットはルールを変えられる。


浩輝は携帯に書かれているルールを一部始終読み終わると

「我が考えたルールはどうだのー?面白くなりそうであろう」

ターロットはニヤニヤと笑う。


「おい、ターロット、元から殺し合いをしようとしてたんじゃないよな?」


 痛い奴はターロットの気迫に物怖じせず、背もたれに深く寄っかかりながら言った。


「お主は本当に鋭いのー。そうだのー。我は殺し合いを見たく前々から考えていたが、我が最終的に決めたわけではないのー。我にはお主らの中に一人は人を殺したいという願望を持つ者がいると思ったから考えていただけだのー」

「じゃー、その殺しあいを提案しようとした奴は誰なのかな?ターロットにはわかるんだよね?」


 愛優は言った。


「それを言ったら、面白くないからのー。これからのお愉しみだのー」

「そういうと思った。コロシアイを望むやつなんて元からいないんじゃないの?自分がやりたいから、無理やりねじ込もうとしているんじゃないの」


 痛い奴と愛優はどうやら、ターロットは元から実験内容は殺し合いと決まっていて、十四人の中からの意見なんか意味がないと思っているらしい。


「そう思うなら別にそれでもいいのー。もういいかのー。先へ行ってルールの質問に入りたいのだがのー」


 ターロットがそれを信じようとも信じなくとも関係ない。何を言っても無駄である。

 今の十四人はターロットという神の手の平の上で踊らされているにしか過ぎないのだから。


「質問に入るのー。まとめて、受け付けるのー。我はあとからまとめて言うでのー」

「はい」


 智也の周りにいた女が手を挙げた。ターロットは手を挙げた女を見ているだけで、発言許可とか何もしなかった。


「言ってもいいのかな?ええーと、JOKERというのはターロットが十四人の中から決めたの?」


 女は何も話さないターロットに戸惑いながら言った。ターロットは女の発言が終わると「フムフム」と頷いた。


「では、質問を終了する。次は我がお主らの質問に答える」


 まだ質問一つ目なのだが、質問を終わらせ、複数の質問を聞いた風に言った。風ではなく多分予言の能力で全ての質問を聞いたのだろう。


ターロットは一本の指を立たせた。

「まず、一つ目の質問の答えは、そうだ。JOKERは我が本人の判断は関係なく、決めた」


 これは、JOKERがこの中にいる殺人鬼になるということはない。殺したくない人がなる場合もあるということである。


二本目の指が立った。

「次の何でも願えられるかという質問は、一つならば何でもよい。例えば、複数の人間を生き返らせるというのはダメでのー。質問した者の願い、元の世界に戻れるのは可能であるのー」


 元の世界へ帰れる、陽と健のどちらか一人だけ生き返らせることもできる。今すぐに考えられる浩輝の願いはこの二つだけであった。しかし、生き返させることができるのは一人。浩輝はどちらかを犠牲にし、生き返らせることなど考えたくもなかった。


三本

「三つ目の自身の能力が分かる方法は、お主たちの部屋にある何も書いてなかったトランプに書いておいた」


四本

「四つ目はJOKER以外の人は一周期に何回も殺せるか?答えは殺せる。ジョーカーだけが殺せなくなるだけだのー」


五本

「五つ目の質問は死んだ者の能力を使えるのは人を殺した分だけだのー。もし殺した者が二個の能力を使えたとしても、使える能力はそのものの本来の能力一つだけだのー」


六本

「最後は、13項目のルールについてだのー。これは保険でのー。もしもの場合の時に使うかのー。」


 ターロットは「こんなものかのー」と言った。実験内容を決める時と同じようにターロットは何の質問をしてくるかわかっている感じであった。


「これも予言の能力なのか?」

「何を当たり前のことを言っているのかのー。昨日も言っただろう。あの爆破は我が予言でしたことでのーて」


 だが、それは、ターロットが爆破事件を引き起こしたのには変わりない。予言はターロットの出まかせだと誰でも思う。もしそれが本当なら。


「ターロットはその予知でこの後何が起こるのかわかるのか?」

「わかるのー」

「なら、ターロットが予知を見て、結果を知ることができるじゃないか。それでターロットが知りたいことが分かるじゃないか。こんなコロシアイしなくてもいいじゃないか」

「うーむ。それを言われると痛いのー。確かに、だれが殺されて何人が生き残るかもわかったのー。だが、このコロシアイを経て、生き残った者の全員の願いが分からないのだよのー。それが分かれば苦労はしないのー」

「じゃー、先に願いをターロットに言っておくのはどうだ?」

「お主は何を聞いていたのだ?我はコロシアイを経てと言っておる。今のお主らの願いがコロシアイ後も変わらないわけではないだろう」


 浩輝は何も言い返せなかった。


「もういいのー。我にまだ我に聞きたいことがあれば我にメールしてくれのー」


 ターロットは入ってきた扉の方に体を向かせ歩こうとしたとき「っと言い忘れたことがあったのー」と言った。


「我はお主らに死の危険を与えた。誰が死んでもおかしくない死を。それをお主らはどう立ち向かい、どう生にへばりつくのか。そして、乗り越えた結果、。お主らの願いを聞こうではないか。その日が来るまでじっくりその瞬間まで待とうではないか」


 ターロットは「ではのー」といい、前回と同じように出ていった。

 残された浩輝ら十四人は、だれも動かずに沈黙していた。

 その沈黙から、智也が立った。


「あの、自己紹介しませんか?僕、黒の人は全員知っているんですけど、赤の方へ行った人達のこと、知らないんで。多分、ほとんどの人がそういう感じだと思うので。どうでしょうか?」

「いいと思うぞ。智也、言葉で揺さぶり、JOKERをこの中から引き出すいい提案だ。どうだ?赤の諸君」


 痛いやつは全員に向けて挑発の言葉を言った。


「あーん?お前、なんだ?その言い方きめーぞ」


 谷崎は罵倒した。


「ふっふっふ、何だね、君は?俺の言い方がきもい?え?きもい・・・の?」


 痛いやつは、落ち込んでいった。


「大丈夫、かっこいいよ、マサの言い方」

「そ・・・そうか?そうだよな。智也はわかっているな。さすが盟約に結ばれた親友だ」


 痛いやつはすぐに元気になった。

 感情が激しい奴だなと浩輝は思った。


「おいおーい、自己紹介するんじゃないのか?」


 愛優は進行が進まないのを見かねて言った。


「そ、そうだね。じゃー、僕から、数が大きい順、時計周りからいこうか」

と智也が言って、一人一人自己紹介が始まった。智也、星野、愛優、陽介と順調に進んでいった。九番の人は厨二病の痛いやつで、伊賀正成という以外に古風な名前であった。智也は正成だからマサと呼ばれていたのかと浩輝は思った。


 伊賀は厨二病の証のように、自分の名前を二つ名のあとに言ったりと聞いてもないのに、自分の恰好のことを語りだし、長い自己紹介となった。


 そして八番の人になった。八番の人はブカブカの青いパーカーと茶色のチノパンを履いていて、帽子を深くかぶっていた人であった。そんな八番は自己紹介はしなかった。


「なー、お前らは楽しいか?殺し合いが始まる前に仲良くしようという茶番。誰に殺されるかわからないんだぞ。JOKERはこの中にいるんだ。そして、殺し合いをしたいやつもだ。そんな中で仲よくしようとするバカがいるか?普通。あ?いたか」


 八番は見下すような目で智也の方を見た。


「おい、貴様、智也をバカにしたな。俺の隠された能力で燃やしてやる」


 伊賀は智也をバカにしたのが許せなく、片目を手で押さえた。能力を発動するのかと思われたが


「ダメだよ。マサ」


 能力を発動しようとしている伊賀を智也が止めさせた。


「そうそう。能力だ。このゲームの中で一番重要なのは能力だ。強い能力だったら、周りに誇示して、牽制になっていいと思うが、六番の変身の能力みたいな戦闘には使えない能力はすぐに死ぬな。しかも、皆に知れ渡っているからな。最初の脱落者だな」

と八番は浩輝に指を指し、嘲笑う。


 確かに浩輝は能力を全員の前で見せてしまっている。それは手の内が明かされたも同然。浩輝は自分でも、恰好の的だと自覚している。しかし、隣に座っている人はプルプルと手を震わせていて、我慢できな

かったのか急に立ち上がった。


「何を言ってるの?ヒロ君は死ななないわ」

「何を根拠に言っているんだか、ん?お前、何で目を開けてねーんだ?あー、そうか。お前が持っている能力は目に関係する者らしいな。ってことは・・・俺はもう、最初にお前の能力にやられたのか・・・あー、くっそ」


八番は最初は余裕の表情を見せていたが、有海の能力分析をすることにより、追い詰められた表情をした。


「え?私はあなたのことを見てしまったの?な、なら、あの、き、記お・・・・」

有海は八番にしどろもどろになりながらも聞こうとするが、八番は舌打ちでかき消され、「あーもう、やってらんねーな」と大きな声を発しながら、頭を掻きながら黒の方へと行ってしまった。

「あ・・・い、行っちゃった?」


 有海が浩輝の方に顔を向けてきた。


「うん、行っちゃった」


 浩輝は答えた。その時、見た有海の顔は青ざめていた。浩輝は心配になり声を掛けようとするが、いきなり、ダンと机をたたく音がした。


「ね、ねー。ぼ、僕も、き、君たちのこと信用で、できない。ぼ、僕も。部屋に籠る」


 智也の隣にいた、一番の者が手を上げ言った。一番はふくよかな体系をしていて、服はそれ以上にとてもビックサイズであった。多分、前の世界ではこれ以上に太っていたのだろう。そんな一番はオドオドしていて、落ち着きがなく、貧乏ゆすりをしていた。


「ちょっと、待ってよ。翔君。僕たちは友達じゃないか。大丈夫だよ。落ち着こう」

「そ、そう言って、お、お前がジョーカーなんだろ。僕は騙されないぞ」

「おい、翔。リラックスだ」

「それともお前か?ぼ、僕は殺されないぞ。ぜ、絶対に、生き残ってやる」


 智也と伊賀が一番の翔という者を落ち着かせようと声をかけたが、酷いパニック状態に陥っていて、話を真面に聞いてくれない。智也は隣にいたので、落ち着かせようと接近をしてみたが、翔のずっしりとした体系に突き飛ばされた。翔は突き飛ばした智也をちらりと見て、八番と同じように、周りを警戒しながら黒の方へ行ってしまった。


 十三席のうち二席が空席になった。続きをする空気ではなかった。皆が皆警戒している雰囲気になっていた。

なのだが、

「俺の名前は大黒 力」

と大黒はそんな空気関係なく、スッと立ちぼそっと名前だけ言ってすぐに座った。


「へ?」


 続けるのか?


 浩輝は戸惑いながら自己紹介した。そして、有海、西方と続き3番になった。


「わたしは、藤崎 ハンナと言いまーす。ハンナは菜の花の漢字を使って、花菜と呼びまーす。よろしくー」


 この状況ながらも、藤崎は笑顔を絶やさずに言った。笑顔がかわいらしい女の子であった。愛優なんかは藤崎の笑顔に伝染したのか「よろしくー」と言って、手を振っていた。


「俺は谷崎 順平。終了!!」


 谷崎は単純明快如く、すぐに終わった。


「僕は谷崎 順平です。よろしくお願いします」


 次の黒の谷崎純一は昨日のオドオドした感じではなかった。垢が抜けたようであった


「おい。お前、俺の名前を名乗んじゃねーって言ってんだろ!」


 赤の谷崎はもう一方の黒の谷崎の胸ぐらをつかんだ。


「だって、この名前は僕の名前でもあるから」


 もう一方の谷崎は谷崎の胸ぐらをつかんでいる手首をつかみ、抵抗した。


「何でだよ!」

「何でだよって言われてもそうなんだもん」

「はー、もう止めだ。次。ってもういないのか」


 谷崎は疲れたみたいで胸ぐらをつかむのを止め、次に振ろうとしたが空席であった。


「終わりみたいだね。じゃ、今日は解散ってことで」


 智也の言葉で自己紹介は終わり、それぞれの行動に移った。すぐに行動に写ったのは智也と星野であった。

 智也は伊賀を連れて黒の方へすぐに向かった。1番の翔を心配しているらしかった。

 星野は浩輝と有海の方へやって来た。それと一緒に愛優と陽介追いかけてこちらへ来た。


「ねえ。二つで結んでいる方は女の子なんでしょう?」

と星野は言ってきた。有海は「はい、そうですが・・・」と答えると

「あなた、私についてきなさい」

と星野は有海の手を取り、赤の方へ連れて行ってしまい、その際、有海は「え?」と何度も言いながら、手を引かれて行ってしまった。

「おい、なんだ?」

「まー、待て、浩輝、夢香ちゃんは愛未ちゃんには何もしないから大丈夫だよ。心配なら、君も来るかい?夢香ちゃんの部屋に。って、もう夢香ちゃんいない。陽、早くいくぞ」


 愛優が言って陽介は「ああ」と頷き、二人は星野が行った赤のドアに向かっていった。浩輝も愛優と陽を追おうとしたが、


「浩輝くんちょっと待って」


黒の方にいた笑顔がかわいらしい女の子の藤崎 花菜に呼び止められた。


「え?何?」

「浩輝君って何か言いにくいから浩輝って呼んでもいい?私のことは花菜と呼んでもいいから」

「別にいいけど、話はそれだけ?ちょっと急いでいるんだけど」

「いや、ちょっと待って、心の準備をさせて」

と花菜は深く深呼吸をした。浩輝は待っていた。

「私って、可愛い?」

「え?」

「いや、ただ単に私って可愛いのかなと思っただけで。ほら、私達ってこの体になったばかりじゃない?だから、この顔は他人から見てどうなのかなと思って。別にほかの意味はないよ」


 花菜は頬をほんのりと赤らめ、指をもじもじしながら言ってきた。


「普通にかわいいと思う・・・よ?」

 

 浩輝は人をほめることになれてなく、疑問形になってしまう。


「なんで、疑問?」

と言って、花菜は笑みをこぼす。


浩輝は言い直した。


「可愛いと思う」

「良かった」


 花菜は頬を少し赤らめながら笑顔になって喜んでいた。


「え?何?それだけ?」

「それだけって酷いなー」


 花菜は「はい」と言って、浩輝の前に手を出した。


「友達になろう」


 花菜ははにかんだ笑顔で言った。


「あ、ああ」


 浩輝は前に出てきた花菜の手を握り握手した。ハンナの手は柔らかく、女の子の手であった。


「よろしくね。浩輝」


 花菜の声は浩輝の耳をくすぐるように響いた。

「よろしく」

 浩輝は答えた。


「じゃ、じゃー、俺行くわ」

といい、握手した手を離そうとしたが、花菜は離そうとせず握っていた。


「ちょっと、早ーい。もうちょっと感じさせてよ」


 引き留められて、数分間手をつなぎっぱなしであった。


「もういい?」

「もういいよ。ありがとうね。急いでいるのに付き合ってくれて」

「付き合わせられたような気が・・・」

と浩輝は呟いた。

「何?」

といきなり、花菜は浩輝の顔の近くに耳を数センチまで近づかせてきた。

「何でもない、じゃあ、俺行くから」

「うん、またね」


 浩輝は花菜と別れ、愛未がいると思われる女王の部屋に向かった。

 そして、花菜は手を振って浩輝が行く姿を見ていた。


「私達はようやく・・・ようやく始まるのね」


 花菜は感慨に浸りながらしみじみと言い、浩輝の背中を追いかけるように手を伸ばす。


「私は浩輝を・・・」


 花菜はその先は何も言わず、浩輝の方へ伸ばした手をそっと自分の胸の中に包んだ。

 そして、浩輝が見えなくなると鼻歌を歌いながら、リズムよくスキップをして黒の方へと向かった。

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