四話 失望と薄い希望
「ようこそ我の世界へ。ようこそ、我の自慢の城へ」
浩輝は老人の言っていることを耳に流し、老人が通ってきた扉の向こうを見たが、見えたのは真っ青な海であった。海には何も浮かんでなく不気味なほどきれいであり、波が一切立っていなく、ただ一本の地平線が見えるだけであった。
逃げることはできないと見せつけられているようだった。
老人は扉が完全に閉まるの見計らい、老人は再び歩き出した。
そして、円卓の中央の空いている部分に立った。
「主ら全員、自らが思う番号の席に座ってくれ」
老人が言うと
-----六番。
浩輝は突如とその番号が頭の中に浮かんだ。
「ヒロ君、何番?」
「多分、六番」
「私、五番。隣の席かもしれないね」
浩輝と有海は互いの席へと向かった。他の人たちもそれぞれ自分の番号のところへ迷わずに歩き進んだ。
数分ぐらいでほとんどが座り終えたが揉めているところがいた。瓜二つの双子であった。
「おい、そこ、俺の席だぞ」
「え?で、でも、ここ2番」
「俺が2番だ。お前が間違えてんだよ。早くどけ」
「ご、ごめんなさい」
双子の姿は似ているが性格は正反対であった。
双子のオドオドしている方は、怖気づき、気性が荒い方へ席を譲ろうとしていた。
「そこだけは二人で座る席でのー。とりあえず座ってくれないかのー」
老人は面倒くさそうに言った。
「っち、おいお前そっち詰めろ」
二番の席はほかの席と比べ大きく、二人は余裕で座れるぐらいであった。
「は、はい」
おどおどしている方は命令を従順と聞いた。
気性の荒い方は大股開きで席のほとんどの範囲を占領し座った。オドオドの方は内股でポツンと座った。
「皆、席に座ったのー。ではこれから話すとするかのー」
一回溜息を吐き、メリハリがない声で話を始めた。
「我の名前はターロットだ。この世界の創造主で、お主らの世界で言うと神みたいな存在かのー」
ターロットは自分のことを神だと言い放ったがそれをおかしく笑う者はいない。この状況であるかもしれない。ターロットの言葉に威厳はないが、油断したら刺されそうな何とも言えない独特な緊迫感が起こった。逆らったらその次に起こる末路が見えてくるほどであった。殺してやりたいと思っている浩輝も手を強く握って、血が出るくらい我慢しているしかなかった。
「まずはここへ来た経緯から話そう。皆、気になるであろう。皆はこれを見たことがあるはずではないかのー」
老人は懐から携帯を取り出した。その携帯はスマートフォンではなく、ガラパゴス携帯略してガラケーと呼ばれている今では旧世代の物であった。それを老人は自慢しているかのように円卓の周りに見せびらかした。
「これはお主らの世界の物でのー。ケータイであったかのー。最近我がはまっている物でのー。」
老人は、パカっと開き円卓の周りに座っている人たちに見せるが何が書いてあるのか、画面が小さくて見れなかった。
「んーー、これだと見れないかのー。なら、お主らのケータイを授けようではないか」
老人は手からどんどんケータイを生み出して、円卓に座っている人全員に投げた。投げられた携帯は手に吸い込まれるように全員がキャッチできた。
浩輝が受け取ったケータイは、赤色で背には大きく6という数字が彫られていた。それと小さい鍵のキーホルダーが付いていた。浩輝が見る限り、レンズがないのでカメラ機能はないと見た。
「ほーれ、開いてみろ」
皆、一斉に怪しげな携帯を開いた。
写っていたのは、陽が見せた携帯の内容と同じ、毒々しい暗赤色に白い文字で、
午後の3時にフォレストミールのショッピングモールを爆破する。
とそれだけしか書かれていない爆破予告文であった。
「この文は我がお主らを救おうとした予言でのー。なのに、それを無視した不埒者がいた。それがこの場にいる主らの誰かでのー。覚えはあるではないかのー」
浩輝は老人のその発言に怒りを押さえつけられなかった。
「予言?お前が全てやったんだろ。陽の体に爆弾を付けたろ。その爆発で多くの人間が死んだんだぞ」
恭真は我慢の限界に達し、それまでため込んだものを吐き出した。
「いや、予言だのー。だが、予言を見た者の中に未来を大幅に変えてしまった者がいてのー。自らの運命を変えるのはいいもののそやつの行動の所為で爆破を実行するはずであった奴が臆してしまってのー、それだと我が嘘をつくことになるからのー。仕方なく、我がやったのだ」
老人は感情などないように淡々と話した。
「お前がやったのには変わりがないじゃないか」
「うむ。そう思うならそれでよい。だが、お主らを救ったのも我だぞ。この我の世界に来させてやったのだ。我に感謝して欲しいものだ」
ターロットは開き直り、恰も救世主であるかのように言った。
「ふざけんなよ」
浩輝は殴りかかろうと席を立ち、円卓の真ん中に立っている余裕そうな老人をぶん殴ろうと円卓の上に乗り、向かおうとした。
「だめだよ。ヒロくん」
目を瞑っていた有海は円卓の上に乗った恭君の足を両手で抱き、はっきりした口調で言った。
「なんでだよ。あいつのせいで」
「でもダメ。ヒロくんが死んじゃうよ。まずは落ち着こう。ほら、あの人の予言を見た人はここに集められているのなら明輝君と松平君がここにいるってことじゃない」
そうだ。陽と健もここにいるはずだ。
「陽と健いるんだろ。出て来いよ」
浩輝は円卓の周りに座っている人達を見た。だが、反応してくれるものはいなかった。
「なんだよ。いるんだろ。この中に」
浩輝は再度問いかけたが、最初と変わらなかった。
浩輝は怒りの形相でターロットをにらんだ
「おい、いるんじゃないのか。陽と健もあの場にいたはずだ」
「うむー。それはのー、未来を変えてしまった奴がいたせいでのー。本来、来たであろう人がこれなくなってのー。ほら、ここには制限がある」
ターロットは円卓の席を指した。十三席に十四人座っている。
「抽選に溢れてしまったのではないか?それか、そもそも、爆発で死んでないのか。どちらかだのー」
「あ・・・」
爆発で死んでなければ来れない?あの時、健は生きていたのか?陽は?爆発前に死んでいたの・・か?
恭真にはわからなかった。確認などしなかった。わかるはずがない。陽と健はここにはいいないのか・・・。
すると、馴染みのある涙が出てきた。
もう、死んで早く陽と健会いに行こうかな。あいつに立ち向かって、一発かましてから死ねば・・・
浩輝はターロットへの怒りから諦めに変わっていた。
ああ、もう死んだ命なんだ。もう一回死んでも変わらないじゃないか。
浩輝が考え老け終わると横からだんだんと声が聞こえてきた。
「ヒロ君、こっち向いて」
浩輝は咄嗟に振り向いてしまった。そして、目を開眼している彼女と目があってしまった。
「ヒロ君、ヒロ君にはまだ私がいる。それと、まだ決まったわけじゃない。きっと、あの二人は何らかの事情で出にくいだけなんだよ。だから、やめよ。ね?」
有海は必死心に訴えるかのように感情的に浩輝に言った。
「けど、あいつは・・・」
「ヒロ君が死んだら、私もあいつに立ち向かうから」
有海の言葉は自分も死ぬということである。陽、健と協力して助けたと思っていた人間がまた死ぬ。それは浩輝にとって健と陽に申し訳ない。そして何よりも愛する者を殺したくなかった。
そうだ。俺にはまだ有海という存在がいる。まだ必要とされている。
そう思うと一時の感情が冷めていった。
浩輝は涙を拭いた。
まだ、有海さんがいる。二人もまだいる可能性がないわけではない。二人がいなくても、有海を一人にはさせられない。
浩輝は「・・・分かった」と小さく呟く。
「分かったよ。有海さん」
浩輝は自分の席に着いた。
「あーあ、やっと、終わったか。女同士のいちゃつき何か見せつけやがって気持ちわりーんだよ。まだ、そのじじいの話が終わってねーじゃねーか。黙っとけよ」
と挑発口調で双子の気が強い方が出張ってきた。
「そうだのー。そろそろやめてはしいのー」
浩輝は老人の何も感じていない表情にムカッと来たが殴るのを我慢した。
「では、話を再開するかのー。えー、経緯はもういいかのー。次は理由でも話すかのー。
我がお主らを呼んだ理由は興味があったからなのだ。我の世界では、貧しいものがほとんどでのー。我が食べ物や衣服、力などの施しを与えたのだが、貧しい者は貧しいままでほとんどが我頼みなのだ。我の役目を減らすのにはどうしたらいいのかとその時思った」
ターロットは見る見るうちに感情が入った言葉になっていった。口調もそれに伴い変わっていった。
「思い至ったのが他の世界はどうなのかと。それを参考にしようとしたのだ。そして、人間という種族がいたのがお主らの世界だけだった。見たときは驚いたものだ。我の世界と似ても似つかないほどに違っていたからだ。我の世界の人間とお主の世界の人間は違う存在なのではないのかとも思うほどだった。
違うところを言うなら、我によってつくった力がないというだけで、それだけを比べたら、我の世界の住人のほうが文明が進歩すると思ったのだが、なぜ、そっちの世界の方が進歩するのかが分からんかった。我が読み解くのに苦労する感情が左右されているんではないかと思った。
我は考えた。そして、考え付いた。我はお主らの世界から人間の魂を我の世界に呼び起こし、実験しようではないかと。
お主らの感情はどのように左右し、お主らはどう行動し、そして、我に何を願うか。我は見たいのだ」
ターロットは興奮し長く喋っていたせいか息を切らしていた。「少し、我にしては熱く語りすぎたのー」と呼吸を整え、続きを喋った。
「そこでだ。お主らの意見が欲しい。どうやったら、我の思った通りの実験結果になるのか?急に言って返答するのは難しいか?」
とターロットは顎の髭を触りながら考えた。
「なら、意見を言うのは明日にするかのー。我は疲れたことだしのー。それと、お主ら、臭いし、汚いしのー。我の前なのだからお主らきれいにしてほしいのー。明日の9時に身をキレイにして円卓に座ってくれ。」
ターロットは今更のことを臭いというジェスチャーを交えながら言った。
「遅れたものには、罰を与える。わかったかのー」
ターロットは返事を聞かずに「それではのー」といい、帰ろうと円卓の中央から出て再び大きい扉を開けようと、ズズズと地響きを鳴らせ、開くのを待っていた。
円卓にいる人達は皆、困っていた。何をしてもいいのかわからないので座ったままであった。すると、ターロットが浩輝等がいる円卓の方を振り返った。
「おっと、忘れてしまった。お主らの部屋は赤の扉と黒の扉の二つの扉の向こうにある。ケータイの色と同じ扉にお主らと同じ部屋がある。後は自分の番号の部屋があるからケータイについている鍵で開けれるから。わかったのー。おっと、これも言っておくべきか。ここから逃げたらひどい目にあうぞ」
ターロットが言い終わったとき、ちょうどいいタイミングで扉が開き終わり、ターロットは外へと出て扉が完全に閉まった。
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取り残された人達はそれぞれ、ターロットが言っていた「お主らの部屋」のところへ行こうとしていた。
「ヒロ君は何色?」
「赤色」
「良かった。私も」
有海は安堵していた。
浩輝も有海と同じ色で安心した。
円卓に座っていた人たちは皆それぞれのケータイの色の扉へと向かった。
黒の扉、赤の扉にちょうど7人ずつに分かれた。
「やあ、二人も赤色なのかい」
突然、軽い感じで話しかけられた。愛優であった。そして愛優の隣には女と男が一人ずついた。
「あ。紹介するよ」
後ろにいる人達に向かって言った。
「こちらは体が汚れてない方が浩輝で、汚れている方は愛未ちゃん」
「よろしく、っておい、汚れている方って有海さんに失礼だろ」
「だって、そういわないと区別がつかないじゃん」
浩輝は自分が今有海と同じであることを忘れていた。
「んで、こっちは、星野夢香ちゃんとえーと名前なんだっけ?」
浩輝と有海に向けて愛優の後ろにいる人を紹介した。女の方は金髪に目が赤色でいかにも気が強そうな人だと思ったが、何かに怯ええているようで縮こまっていた。
もう一方の男は、身長が皆と比べ一段大きく、体格が大きく、とても頼もしい感じであった。今、その男は、愛優を怖い顔でにらみつけていた。怒っているのか。それとも元なのか、わからなかった。
「陽介だ。」
「そうそう。僕たちは陽って呼んでんだ」
愛優は怖い顔でにらみつけている中、平然と話す。
「陽・・・」
浩輝は会えなくなってしまった親友の名前が出てきたので思わず反応してしまった。
「何?知り合いなの?」
愛優はまたかと言わんばかりの表情で陽に聞いた。
「いいや、知らない」
どうやら、陽と呼ばれている人物は最低限の言葉しか喋らないらしい。浩輝は最初陽の可能性があるのではないかと思ったが喋り方が違ったので自分が知っている陽とは別人と認識した。
「人違いみたいだ」
この世界には陽と健はいないかもしれない。自分が今やらなくてはいけないことは有海愛美を守ること。それしかない。有海の方を見た。有海は目を瞑って、自分の袖をしっかり掴んでいた。
「よし、赤の扉に入ってみよう。僕たち以外の二人は中に入っているようだし」
愛優は先頭に立ち、扉のドアを開いた.浩輝たちはドアの向こうへ入った。あかりがついていたのか。前の部屋とは違く明るく、様々なものが目に入った。
まず目に入ったものは赤色であった。部屋の全ての壁は赤色に塗り染められていた。他にも椅子、棚、ソファー、テーブルなどの家具から小物までもが全て赤かった。そして、入ってきた向かい側にはまたしても赤い扉があった。長居したら、目が痛くなりそうな部屋であった。これも、あのターロットがセッティングしたのかと思うと趣味が悪い。
「やぁー」
愛優が手を上げた、そして、それに答えるように声がした。
「っち。ようやく来たか」
双子の片割れが壁に寄っかかって立っていた。顔の見分けはつかなかったが、口ぶりからして気象が荒い方であろう。
どうやら、愛優はこの男のことを知っているらしい。
「お前か」
浩輝は不満が口から自然と漏れた。双子のどっちがいいというならば絶対に目の前にいる奴はない。まだ、オドオドしている方がマシである。
「お・ま・えー。なめた口きいてんじゃねーぞ」
絡まれる際に言いそうな言葉を言い、浩輝に近づいてきた。
「片割れはどうしたんだ?」
恭真はすぐに疑問に思っていたことを聞いた。ヤンキーみたいな気象が強い人間は、すぐに違う話題に行くことが先決である。おい、話代えてんじゃねーといわれるときもあるが、たいていはそれでやり通した方がいい。しつこいやつは顔をキスするぐらい至近距離まで近づいて来るので、距離がある際にすぐ対処した方がいい。今は女であるので関係ないが。
「は?片割れ?」
「兄弟だよ」
「は?兄弟?ああ、あんな奴、双子でもなんでもねーよ。てか、俺が知りたいぐらいだっつーの」
と男はその場で止まり話した。
浩輝がこれを質問したのは番号が同じなら、同じ色何ではないかと思ったのだが、予想外の言葉が返ってきた。
「え?じゃー、なんなんだ?あいつは?」
双子って認識したくないほど犬猿の仲なのか?双子ってずっと傍にいて仲良い存在だと思ったんだが。
「知らねーよ。ただ、あいつは目覚めた直後に俺の傍にやってきて、僕は君なんだって、きめーことほざ
きやがったから、名前は?って聞いたら、あいつ、谷崎 純一って。俺の名前を言ってきたんだ。あー、もう、気持ち悪かった。」
この男は谷崎 純一というらしい。その谷崎は寒気で鳥肌が立っているのか手で上腕を摩っている。
「だから、あんなに口論になっていたのか?」
「口論?ああ、あの事か。そーだ。気味が悪かったからなー。隣なんてまっぴらだったぜ」
浩輝は谷崎純一の認識を間違えていたらしい。谷崎は少し口調と態度が悪いだけで別に分かり合えないわけではなさそうだった。
「それで、てめー、名前は?」
「菊池 浩輝だ。よろしく。そして、こっちは有海愛未」
「よろしく」
有海はそう言い、目を瞑りながらも、笑っているかのように愛嬌があった。
谷崎は「ん?」と訝し気な眼で有海を見た。
「おい、何でこいつ目瞑ってんだ?」
「あ、それ、僕も気になってた?」
谷崎が気になって有海に質問した。そして、愛優も乗ってきた。
「そ・・それは」
「有海さんって二回叫んで倒れてしまったじゃない?その原因がどうやら、『目』らしいんだよ」
浩輝は有海が何故か知らないが言い淀んでいたので代わりに大まかな内容で話した。
「へー、そうなんだ」
「あんときのは、めっちゃ耳にひびいたぜ」
「ごめんなさい」
愛美は頭を下げる。
「あれ、そういえば、残りの一人は?」
赤の部屋、黒の部屋、それぞれ7人いるはずであった。菊池浩輝、有海愛未、月原愛優、星野夢香、陽
介、谷崎純一、今分かってりるのは6人だけである。あと一人いるはずである。
「あいつはなんかふらふらしながら先行ったぜ。もう自分の部屋の中なんじゃねーか」
「んー。困ったな。その人は、まだ話してなかったのになー」
愛優は唸っていた
「別に後でもできるし別にいいか。んじゃー各自、自分の部屋に行きますか」
愛優は気を戻して、冒険するときの先頭を立つ隊長みたいに、提案してすぐ実行に移った。
「そうだな」
「おう」
浩輝と谷崎は賛同した。
愛優の後ろにいる二人の男女、夢香、陽介は全く話に参加せず、静かにしたままであった。
@@@@@@
赤い部屋から出ると長い廊下へと出た。その廊下はさっきの赤い部屋とは違く、奇妙なところもない普通の廊下であった。
さっきの赤い部屋のせいで感覚がマヒっているのかもしれないが、長い廊下は天井が高く、幅が広いだけで特徴的なものは何もない。
浩輝達は廊下を一通り歩いてみた。
廊下の側面には途中途中間隔を空けて扉が置かれていた。入ってきた扉と二つの扉以外の扉には番号とマークが書かれていた。ハートの2、ハートの4、ダイヤの5、ハートの6、ハートの10、ハートの11、ハートの12の女王の部屋があった。これは、ターロットに渡された携帯の背に書かれてある番号とマークが一致しているのが自分の部屋だと分かった。赤い部屋から低い番号から始まり、そして廊下の直線状の一番奥には番号が12番の女王の部屋があった。女王の部屋だけは特別かのように、扉が大きく両開きであった。他の扉はどれも番号が違うだけでほとんどが似通っている扉であった。
「なんで、あそこだけ特別なんだ?」
「そりゃー、女王様だからだよ。あー誰なんだろ。麗しの女王様は」
「12番の奴じゃねーのか」
一番奥にある女王の部屋の前で話していた。
星野夢香は浩輝達が話しているところを無視して、女王の部屋の鍵穴にもらった鍵を突っ込み、カチャと開ける音と同じタイミングですぐに女王の部屋へ入った。
「え?」
「星野さんが女王様らしいな。どう?愛優の期待通りだった?」
「んー。女王とは思えないけどなー。女王様って普通はわがままで横暴で何かと悪役ってイメージがあったんだけどな」
「なにその傾いた理想は」
浩輝と愛優が話していると
「おい、別にそんなんどうでもいいだろ。俺は自分の部屋いくぜ」
と言って、谷崎は2番の部屋へ行ってしまった。
「俺も自分の部屋に行く」
谷崎に続き、愛優の後ろにいた陽介もぼそっと一言言って、10番の部屋へと入った。
「なあ、陽介ってあったときからずっとああゆう感じなのか?」
陽介が部屋へ入っていくのを見計らい、浩輝は愛優に聞いてみた。
「ん?いや、今よりは喋っていたよ。うーん、なんか気分でも悪いのかな。ちょうど隣だし自分の部屋見たら覗きにでも行ってみるよ」
「陽介とは仲がいいんだな」
「そりゃー、此処へ来て一番最初に喋った相手だからね」
愛優は当然だよという顔をしていた
「名前忘れていたのに?」
「・・・はーはっはー」
愛優は頭を掻きながら、笑ってごまかした。
「私は良かったなー、一番最初に喋った相手が知っている人で」
愛美がそう言って、恭真の袖を強く引っ張った。
「そうだね・・・」
恭真は有海とは会いたいという気持ちがあったが会いたくなかった。死なせたくなかった。どうしてもそう思ってしまう。
「ふーん、僕は嫌だな。僕がもし、知っている人がすぐ傍にいたとしても知られないように隠れるね」
「え?何で?」
「相手の重荷になるかも知れないからだよ。それと自分を変えることができないからだよ。性格、印象、付き合い全てが変わらないまま。それは僕にとっては残酷なことだったよ」
愛優は妬みで皮肉めいたことを口にしたのか、それとも助言なのか、経験談か、今の恭真は愛優が何を言っている理解できなかった。ただ、これを喋っていた愛優はいつものおちゃらけムードではなくとても真剣に話していた。
「んじゃー。僕もそろそろ自分の部屋を見に行くとしようかな。またあとでね。浩輝に愛未ちゃん」
真剣な愛優はどこかへ行ってしまい、すぐにいつもの愛優に戻った。
「ああ」「うん」
愛優は11番の部屋へと入った。廊下にいるのは恭真と有海の二人だけになった。
「よし、もう目開けてもいいんじゃないか?」
「そうだね」
愛美は目を開けた。そして、浩輝の目を見た。
「それって必要?」
「私には必要なの。目を瞑っているせいか、話にうまく入れないの。だから、ヒロ君が会話をどう楽しんでたのかが知りたいの」
浩輝はあんまり見られたくなかった。告白の返事を聞こうとしていたことがばれるからだ。
浩輝はどんな返事が来てもいいように身構えた。
しかし、有海は浩輝の目を見ても、告白について何も触れなかった。
「俺たちも、自分の部屋でも見に行くか」
「うん。そうだね」
恭真は6番へ、有海は5番へ入った。
浩輝は告白の返事を聞こうとしたことについて有海は何も言わなかった。それを恭真は有海が自分のことを恐れているからだと思った。当たり前のことであった。なのに、恭真の心の中の有海には恐れられていないとそう思ってしまっていた。
恭真は自分の罪からは逃げることはできないと心に刻んだ。
赤
2番谷崎純一 4番??? 5番 有海愛未 6番菊池浩輝 10番 陽介
11番 月原愛優 12番星野夢香