二話 そして終わり
太く長いチェーンを付けた派手な老人は浩輝の目からいなくなった。唯一何か今の状況を知っている人物を逃がしてしまった。
浩輝は意気消沈し壁に全体重を乗せながら、気力のない目でずっと結界が張ってある自動ドアを見ていた。
すると、自動ドアから出ようとする親子がいた。
「お母さん、こっちこっち」
「もう、待ってよ。優君」
浩輝が見たのは子供が走り、その子の親が追いかけている一般的な光景であった。そして、親子は結界が張ってある自動ドアを通り抜けた。
結界で出られないはずなのに。何で。
と思った浩輝は再び自動ドアに近づき、外へ手を出そうと試みたが、薄い壁に当たった。結界はあった。
なんで、あの親子は出られたのに俺は出られないんだ?
俺だけがこの結界から出られないのか。
携帯の電波なら。
と一筋の希望を見たのだが画面に写っているのとは変わらず圏外のままであった。
浩輝は爆弾からは逃れることができないことを悟り、足をふらふらしながら健と陽のいるところへ戻った。
戻ると、
「やぁ」
目の下が赤くなっていた陽が弱弱しい声を掛けてきた。
泣いていたようだった。
浩輝には、やせ我慢しているようにしか見えなかった。
「ダメだった」
浩輝はただ結果だけを伝えた。陽は「そう」と言って下を向いてしまった。
「何が?」
陽とは違う声であった。その声も陽と同じ元気のいい声ではなかった。
「健、起きたのか」
「ああ、こんなに目覚めが悪いのは初めてだな」
健は顔がやつれていた。
「腹は大丈夫なのか?」
浩輝は、腹を殴られ気絶した健の無事を確かめようと聞いた。
「今は少し痛いだけ、それよりも陽の方がひどい状況みたいだな」
浩輝は健が気絶した後に何があったかを言った。冗談だと思われてしまう話であったが、状況が状況なので、健はそれを聞いてすぐに信じた。
それと、一階で起きたことについても陽と健に言った。陽と健はその話を聞くと暗い表情になった。
「ここから出られないってことだよね」
「そうだな。あの結界から出るのは諦めた方がいい」
浩輝は陽の質問に答えると陽は思いつめた表情をした。
「俺たち以外なら、外に出られるんだよな?なら、人に頼んで助けを呼べば」
「ダメだった。今の僕たちはいない存在になってた。他人からは僕たちを見ることも声も届かなかった」
健の話を遮り、陽がよそよそしい言い方で否定した。
「は?何言ってんだよ。そんな馬鹿な事あってたまるか」
健は大きな声で叫んだ。その声は怒号と悲鳴が合わさったような声で陽に向けて叫んでいるのではなく、周辺に訴えているかのようだった。今の健の気持ちが表れているようであった。
しかし、三人以外の他人には聞こえてないのか、誰一人もこちらを振り向かなかった。
健はそれでは納得できないのか、席から立ち上がり、近くにいた人に片っ端から声をかけたが、誰も反応しなかった。何でだよと愚痴をこぼしながら、歩いている人を止めようと腕をつかんだ。しかし、歩いている人は止まろうとせず、ひたすらに歩こうとする。
「健、手を出しても反応しないよ。いくら、妨害してもやられている人は動くのを止めないよ。ただその行動を実行しようするだけでゼンマイ人形みたいに行動が決まっている。僕も健が寝てて、浩輝が携帯を確かめに行ったとき、携帯をかけている人がいたから声をかけたんだよ。結果は健とまったく同じだったよ」
陽が言ったことを浩輝は考えると確かに派手な老人を追いかける時に何回も人に当たったが、何も言われなかった。あの時は追いかけることだけを考えていたからどうにも思わなかったが、今思うと不自然であった。
「まじかよ」
健はまだ今起きている状況を受け付けることができないのか、呆然とした状態になった。
そして、少しした後、健はこちらに戻ってきて深々と席に座り、背もたれに深くよかかった。
「俺たちはこのままだと爆死か・・・」
健は生きるのを諦めてしまったかのように俯き、溜息と一緒に呟いた。
「そうかもな」
浩輝も健の言葉に便乗した。
「いや、まだ、何か・・何かあるはずだよ。出る方法あるよ。絶対。何か方法が・・・」
陽が諦めようとしている二人に向けて言った。
浩輝と健は諦めているのだが陽だけはまだ必死に生きようと考えているようだった。
陽はその後、必死に生き抜く方法を健と浩輝に提案したが、3人は今いる状況から逃げられないことを再確認しただけであった。
陽はそのあとも必死に考えたが生還への突破口が開けないのか、ついには泣いてしまった。
「泣くなよ」
浩輝は慰めようと陽の背中を撫で優しい声をかけた。
健の方は、気力を取り戻したようで目を見開いて本屋の方を眺めていた。
「おい、あれって有海さんだよな」
健がそんなことを言うので、浩輝は健の視線の先を見てみると確かに浩輝が好きな人はそこにいた。しっとりした黒髪を二つ結びで清楚感を出していて、服は紺色のワンピースを着こなしている。有海愛未がいた。
有海は本屋の中でカタログ雑誌を立ち読みしていた。
「何で・・・」
浩輝は驚かずにはいられなかった。
何で今日に限ってここにいるんだ。これもあの老人が言っていた運命なのか。
浩輝は思いながら、顔を手で覆った。そして、浩輝は有海を救う方法を考えた。
有海は今の俺たちのことを認識できない。逆に俺たちは有海のことを認識できる。だが、声は有海には届かない。俺たちは触るのは可能だが、触られた有海には触られたということが分からない。認識、接触をしないで、声も掛けずに相手に伝える方法・・・
と浩輝はまず、今の状況で有海を救えるかを考えようと自分が今おかれている状況を整理した。
なら、物を使って伝えるのは可能なのだろうか?
浩平は一つの疑問にたどり着いた。
そして、一つの方法を思いついた。
「手紙?なー手紙で伝えることってできると思うか?」
「そ、そうだよ。文字なら、相手に伝わるかも。浩輝、できるよ。多分」
浩輝は自分たちはもう助からないと思っている。思いついた方法は有海を助けるために言ったものである。だが、陽には三人が助かる道だと思ったのかさっきまで泣いていたのがすぐに元気を取り戻したように目を輝かしていた。
「どうやるんだ?相手が気づかないと意味がないじゃないか。手渡しはできないんだぞ」
健が何か考えているような表情で言った。
「それなら、これだよ」
陽は生き生きな声で、バックから財布を出し、千円札を健と浩輝に見せた。
「なるほど、確かに金が落ちてれば拾うよな」
浩輝は陽に関心を抱いた。一方、陽はふーんと失敗すると思っているのか興味を示さなかった。
「よし、じゃー、この千円札に何を書けばいい?」
陽はペンを持ち何を掻くと思ったが浩輝に聞いてきた。
「まず、読むことができるかどうかを確かめるために何か感情が顔に出るやつの方がいいかもな」
「なら、ぎょっとするように、僕の血で書こう」
陽はそう言って、自身の腹部のまだ固まってない血で「助けてください」と千円札に納まるギリギリの大きさで書いた。
「気持ち悪いな」
浩輝は出来上がった千円札を見て、文字の途切れ具合が絶妙でホラー映画で見たことのあるような筆記体であった。ホラーの体制がない人はゾッとするんだろうなとそう思った。
「よし、あそこで歩いている人の前に置いてみよう」
と陽は気持ちが舞い上がっているのか、怪我をしているのに自ら置きに行こうとする。
「陽、俺が置いてくるよ」
浩輝は陽が立ち上がる前に言った。陽はお願いと言って浩輝に任せた。
浩輝は歩いている中年男性の少し先に千円札を置いた。そして、中年男性は、置いてある千円札に気付いたのか、挙動がおかしくなってきた。男性は千円札を拾い、表と裏を確かめ、ニタニタと下品な笑みをしながら、ポケットにしまい、何もしなかったような態度で歩いて行ってしまった。
「気づいてなかったのか?」
いや、裏表を見てたから気づくはずだ。血で書いてある赤い文字に表情が変化するはずだ。文字を書いても伝わらない結果になったってことか。
浩輝は当てが外れ、席に重い腰を下げた。
「浩輝、なんで落ち込んでるの?まだ一回目じゃないか。今度はもっと感情が豊かな子供にしよう。そうしたら、うまくいくかもしれない」
陽は失敗したことを認めたくないのか、次に使う千円札を取りだし、また自分の血で書こうとしていた。
「陽、あれは完全に文字が見えていなかった。陽が書いた文字は俺たち以外の人には見えない」
「いや、気づかなかったんだよ。僕の血を多くつければ」
陽は諦めずにいた。
「いーや、あれはもう確定的だ。何回か、やったとしても結果は同じだ。陽、もう
時間がないんだ。だから、焦っているのもわかる。けど、止めよう、な」
「わ、わかってるよ。けど、今更考えても・・・」
あと、爆発する3時まで40分ぐらいしかなかった。陽はその焦りで泣きだしそうになる。
「陽、ごめんな、生きたいって思うのはわかるが俺はもう無理だと思ってる。俺が提案したのは俺たちが助かろうとする方法じゃなく有海さんを救うための方法を言ったんだ」
浩輝は言いながら、陽の肩に手を置こうとしたが、陽は拒否し、浩輝の手を弾いた。
「ち、違う。僕は生きたいって思ってない。浩輝と健が僕のせいで、僕のせいで死ぬのが嫌なんだ。僕だけが受ければいいのに。浩輝と健にまで・・・」
陽は浩輝の目を見て、涙目ながらも力強く訴えた。
「何で陽が責任を感じる?」
「だって、僕が面白半分でここに誘わなければこんな状況にはならなかった。すべて僕のせいだ」
「別にそんな責任背負わなくていいんだ。俺と健がお前のせいだって陽を責めると思うか?第一、悪いのは爆弾を陽に着けたやつだ」
「けど・・・」
陽は俯いて何も言えなくなった。
「浩輝の言うとおりだ。陽は何も悪くない。それでも悪いと思うんなら、死んだ後に飯のおごりでチャラだ」
さっきまで何か考えていたのかだんまりを決めていた健はきっぱり言い、言い終わった後に頬笑んだ。健は、浩輝と同じように、生きるのは無理だと諦めていた。
「そうだな。寿司にしようか?それとも肉か?」
そして、浩輝もそれに賛同し、陽を元気づけようとした。
「陽、もう俺と浩輝は死ぬ覚悟はできている。だから、もういい」
浩輝は健が言ったことに大きく頷いた。
「僕は、僕は・・・」
陽は瞼に貯められた涙がこらえられなく、こぼれてしまった。浩輝と健は陽が落ち着くまで見守った。
そして、10分立った後、陽は泣き止み、落ち着きを取り戻した。その直後有海はカタログ雑誌を読み終わったのか、レジに並びだした。すると、有海の動きを待っていたのか、動いたタイミングで健は突然席を立ちあがった。
「よし、そろそろ浩輝が好きな有海さんを助ける作戦を言おうとするかね」
健はいつもの調子に戻ったのか、声が明るく戻っていた。何故か、好きなを協調して言ってきた。
「え?」
「健、助ける方法があるのか?」
あまりにも急すぎて、浩輝と陽は驚いてしまった。
「任せとけって、お前ら二人がやった実験のおかげで思いついたんだ。いやーやっぱ俺すごいなー」
自身があるのか堂々と胸を張りながら言ってきた。
「おい、どういう方法なんだ?」
浩輝は気になり、陽を急かした。
「まーまー。慌てるな。ゴホン、それは有海さんを早く帰さす作戦だ」
健は一回咳こみ、自信満々に言ったことが浩輝にはよくわからなかったので
「は?」と言い、
浩輝は首を横に傾けた。
「有海さんはここへ来たのは買い物をするためだ。だから、俺たちがその有海さんの買い物を素早く済ま
して、タイムリミットまでにここから出せばいい」
「なんで、有海が買い物するってわかるんだよ。これから友達と遊ぶ可能性もあるじゃないか?」
「だから、DTは」
陽は溜息を吐きながら、哀れな目で浩平のことを見た。
「は?お前もだろ」
哀れな目で見られた浩輝はムキになり言い返すが「はいはい。そうですね。」とあっけなく言い返された。
「あのな。女ってもんは、服を分けるんだよ。普段着、友達と遊ぶ用、デート用、って、まあ、ほかにもありそうだけど、まー、これぐらいあるんだけど、俺の見解で言うと、有海さんの服装は、普段着だ」
「なんで、そうなるんだ?」
そう浩輝が言うと愛優は溜息を吐きながら首を横に振る。
「だから、DTは。女の服は男みたいにただ単に着るものではなく自分を見せつける物」
有海の服装は足を出して涼しそうな紺色のワンピースを着ていて、浩輝には、似合っていて普通にかわいい。デートに来ててもおかしくないと思った。
「わかってなさそうだな。女は友達と遊ぶ時はイヤリングやネックレスとかの装飾品をつけて、それを話の話題にして、ほら、私ってこんなにオシャレなのよ。とか言って、自分をアピールする。
デートの時は明るい色の服を着て印象を良くする。露出は程よく。装飾品は時計まで。ゴッタゴッタに付けているとビッチだと思われるからな。まー、浩輝みたいなDTなのに処女厨の人は有海さんが今着ている服装が好みとか思っているだろうけど、女は男の思いなんてわかってないからな」
浩輝は健の話を聞いて自分が女性に疎いことがよくわかった。否定したい部分もあったがそれよりもあの女性に嫌われている健がこんなにも詳しいのかが気持ち悪かった。横にいる陽も健のことを少し引いていた。
「健、お前、そんなにも女に執念を抱いていたのか?」
「ちげーよ。ほら、俺、女家族だからこういうのはわかるんだよ」
「なるほど。そういうものなのか」
健は姉二人と母と暮らしている。浩輝は陽と一緒に健の家に訪れたときに姉とあったことがある。その一人の姉は人生経験が豊富で何かと経験談を聞かされたことがあった。浩輝には理解できない部分であるのだが女家族だとそうなりそうなので納得した。陽も納得したのか、軽く頷いた。
「よし、有海さんがもうそろそろ本屋から出てくるぞ」
陽が言ったので、本屋を見た。有海が本を数冊買って本屋から出てきた。
「追いかけるぞ。浩輝。陽、少しここで待っててくれ」
「いや、僕もついていくよ」
健は陽の怪我を案じて言ったのだが、陽は行くといったので浩輝は心配になって聞いてみた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。どうせ、もうすぐ死ぬんだし、最後は二人と一緒にいたいからね」
陽は死ぬ前とは思えないほどの笑顔で言った。
「そうだな」「ああ」
三人は死ぬ覚悟を決め、エスカレーターを下る有海のことを追った。
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有海は一階に下り、くじ引きで混雑していたところを抜け食品売り場へと行こうとしていた。
浩輝たちは一階に降りたので帰るのかと期待を膨らませていたが一瞬でなくなった。
浩輝たちはがっかりしながら、有海を追いかけ、そして追いついた。
「やっぱりだめか」
浩輝は有海の目の前で後ろ歩きし、有海の顔を見たが、何の反応もしなかった。いつもなら、どうしたの?とか面白おかしく聞いてくるのだが無視された。やはり、自分らはいない存在なのだと改めて確認した。知っていたことで合ったが浩輝は少し悲しい気持ちになった。
「そんな、落ち込むなよ。ほら、よく考えてみろ。こんなに近くにいるのに有海さんは俺たちに気付かないんだぜ。今なら何でもできちゃうぞ」
健はゲスが思いつくような発言をした。浩輝は健が自分を励ますための冗談を言ったのが分かってしまった。なので、浩輝はのってみることにした。
「そうだな。やっちゃうか?」
「え?やるの?そこは健を止めるか、怒るか、しないの?」
陽は、冗談を本気でとらえてしまったのか、かなり動揺していた。
「冗談だよ。俺は健みたいな趣味はないから」
「は?俺だってねーよ。お前、俺の冗談をわかってて言っただろ」
「え?お前、前にそういうのが好きだって言ったじゃないか」
「へー、健にそんな性癖が」
「ちげーよ。おい陽、少しは人を疑え。てか浩輝を疑え」
三人は有海の周りでいつもの感じで会話をした。その会話は有海は耳障りだとかそんなのは感じられずにただ足を進めていた。
そして、食品売り場へとつき、
有海は入口に置いてあるカートに買い物かごを乗せ、入っていった。
「多く買うみたいだね」
「そうだな。これだと時間がかかるな」
陽についている時限爆弾は残り三十分を過ぎていた。これだと、間に合うのかが分からない。
「俺たちで有海さんが買おうとしているものを全て買い物かごに入れちゃえば、少し天然が入っている有海さんなら、大丈夫何じゃないか?なあ?浩輝?」
「なるほどな、確かに、俺達でもできるな。有海さんなら、自分が入れてない商品でも自分が入れたって思うだろうな」
「ひどくない?二人とも。有海さんは見る限り普通だと思うのにその言い方は」
悪口を言われているとは知らない有海は音量小さめで鼻歌を歌いながら、台に置かれている野菜と値段を見ている。
「なー。今思ったんだけど、これって、有海が買おうとしている物が何なのか?わからないと意味ないんじゃないか?」
健は自分が数分前に提案したことを自分から無理そうなことを言った。浩平もそうだなと言って考えた。
「なら、こういうのはどうだ?ジャガイモとニンジンを買うならあとは?」
「豚肉と玉ねぎとカレールーだな。物当てか。いいな。それ」
浩輝がクイズ形式で問題を出して、健が答えた。
「ねー。それって、シチューもあり得るよね。あと、家にすでにあるものとかあるから、そんなのまったくもってうまくいかないと思うんだけど」
陽は優しい口調できつい言葉を言った。
「浩輝って変なこと思いつくよな」
健は笑いながら言った。
「お前も「いいな。それ」って言っただろ」
「それは、浩平が真顔でバカみたいなことを言ってきたから否定するのはかわいそうだなーって思ったからだよ。感謝しろよ」
「お前、陽が答えたあとに小声でそれもそうかって言ったじゃねーか」
「くそ、聞いてたか」
「ちょっと、二人とも、あれ」
陽は二人の口喧嘩を止めさせ、有海の方に向かせた。
有海の手には携帯が握られており、有海はその携帯画面を見ていた。
浩輝たちは横から携帯画面を覗かせていただいた。そこには買ってくるものが書かれていた。
「良かったー。あとは書かれている物を買い物かごに入れればいいんだな」
「よし、分担して持ってこよう。」
と浩輝は言い、怪我している陽は有海のそばにいさせ、浩輝と陽が全力で探しに行った。周りは浩輝と健のことを認識できないので走ったりして、少しだけでも買い物を済ませるようにした。
そして、五分くらいで全てを見つけ、有海のところへ戻った。有海はもうそろそろ、野菜ゾーンを抜けそうな位置にいた。
浩輝と健はほぼ同時に有海のところについた。二人ともゼイゼイと息を切らしていた。
二人が持っている買い物かごには有海が携帯に書いていたものを全てあった。
「お疲れ。大丈夫?」
「ああ、このぐらい」「ああ」
陽が補う言葉を言ったのだが、浩輝と陽は短い返事をした。それほど全力であった。
「じゃー。入れるよ」
と陽は言い、二人は短い返事をした。
陽は次々と有海の買い物かごに入れた。どんどん増えていく有海の買い物かごに肉の試食コーナーをジーとみている有海は気づくことはなかった。そして全て入れ終わったとき、有海は試食するのを諦めたのか、買い物かごを見た。
「あれ?なんで?ん?」
と有海は目を離していたら、買い物かごに入っている物が増えていたので戸惑っていた。
「やっぱり、そりゃー誰でも驚くよ。誰だっけ?天然だから大丈夫って言ったのは?」
「健だろ?」
「いやいや、浩輝もそう思っただろうが」
そのあと、有海は買い物かごに入っている物が買いたいものかを確かめ、すべてそろっていたことに再び驚いた。
「不思議だなー」
と有海は小声でつぶやいた。
「もしかしたら、小人さんが・・・・・・・・・」
有海はブツブツと言い始めたが三人は聞かないことにした。
「何か、大丈夫そうだな」と浩輝は安心した
「天然だろ?」
健は陽に言った。
「そ、そうだね」
陽は肯定するしかなかった。
有海の中では小人さんがやったことになっているのか、小人さんありがとうと言い、カートをレジがある方へ向け進み始めた。あとの行動は想像ついた。レジで会計をし、買ったものをレジ袋か、エコバックに入れ、重い荷物を持って帰る姿を。
「おおお」
三人は盛大に喜んだ。ハイタッチなど友情の証にやる手を何度も複雑に合わせるやつもやった。
「ありがとう。ありがとう。」
浩輝は二人に何度もお礼を言った。すると、涙が目からうっすらと出てきた。
これが人を救う喜びなのかと初めて感じることができた。
「浩輝、まだ、泣くのは早いぞ。有海さんがここから出るまでが・・・」
「遠足?」
「救出だ。救出」
かっこよく決めたかった健は陽に邪魔され、仕返しにと陽の首を軽く?締めていた。
「そうだな。行くか」
今にも出そうな涙を上を向いて、流れを押さえながら、言った。
有海が向かっているであろうレジの方へ向かった。レジに着くと有海は会計を済ませ二枚のレシートとおつりを財布に入れていた。レジが終わり買ったものをエコバックに詰めて、重くなったエコバックを持ち、食品売り場のすぐ横にある出口に出ていった。浩輝の想像通りに事が進んだ。
この出口にも結界が張られており外には出られなかった。あの老人が全てに結界を張ったのは本当であった。
有海が見えなくなるまで見守ることしかできなかった。
「よーし、有海さんがいなくなったな。ほら、泣いていいぞ。胸貸してやるぞ」
と健は浩輝の方を向き、腕を開いて、スタンバっていた。
「は?その細い胸でいう言葉かよ」
浩輝は少し飛び込みたい気持ちはあったがこらえた。
「いやいや、俺鍛えてるから、ほれ、見るか、このシックスパック」
と健は自慢げに言い、腹筋を見せた。だが、浩輝と陽にはシックスパックは見えなかった。そこには青と
赤が混じっている色で腫れ上がっている大きな痣があった。とても痛々しそうで長時間見られるものではなかった。
「ん?なんだ?」
健は浩輝と陽が目を見開いて驚いている表情をしていたので、「あっ」と今の自分の腹の状況を思い出したのか、すぐに腹を隠した。
「健。お腹、痛くないの?」
陽が健を案じて言った。
「いや、最初は痛かったんだけどな。だんだん痛くなくなった。慣れてしまったのかもな。いやー、どじった。どじった。ってそれより、泣かなくていいのかよ。浩輝」
頼もしかった健が今では弱弱しく思えた。
「・・・ありがとうな」
浩輝の目から涙が出てきた。馴染みのある涙であった。しかし、この涙とも最後である。陽と健も泣いていた。
あー、これで、終わりなのかーと思ったが残り時間が十分くらい残っていた。思ってた以上に残っていたので、三人は涙が枯れたあと。いつもの場所に戻り、いつもの席に座った。
「なー、浩輝、有海さんを救えてよかったか?有海さんのことをそんなにも好きだったか?」
「そうだよ?」
浩輝は謎であった。健はなぜ今更言ってきたのか。
「本当にか?」
何故、そこまで聞くのか?何かの確証が欲しいのか?
「本当だ。俺は有海愛未が好きだ」
浩輝は真剣な表情ではっきりとした声で言った。
「そうか」
健は消えてなくなりそうな声で言った。弄ってくるかと浩輝は思ったが来なかった。
「おい、健、大丈夫か?」
「俺、ちょっと眠くなってきたわ。陽、向こうへ行ったらおごってくれよ」
「わかってるよ。肉でも寿司でもなんでも大丈夫だよ。」
「言ったな?この」
健は陽の肩にコツンと拳を当て、そのあと目を瞑った。
死んではいないと思う。ただ目を瞑っただけだと思う。そう思いたい。
「陽、あと何分で爆発する?」
「あと、4分」
「そうか。なんか怖くなってきたな」
「そうだね。でも、僕は今清々しい気持ちだよ」
「良かったな」
「浩輝ありがとうね。僕なんかに話しかけてくれて。僕みたいなのと一緒にいてくれて」
「そんなに自分のこと卑下すんなよ。陽といて楽しかったぞ。健も同じだと思うぞ」
「そうだといいなー」
「天国で奢るときにでも言えばいいんじゃないか?」
「そうだね。そうするよ」
そのあとも二人は懐かしいことを思い返し話し合いながら時間が過ぎていった。高校の入学式からこの日までのことを。
とうとう、残りが一分になったとき、ピッピッピという電子音が鳴った。
「何だこの音?」
爆弾から出ている音であった。そして、爆弾を取り付けられた陽は苦しみだし、椅子から体が落ちた。
「陽、大丈夫か?」
陽に近寄って体を起こした。陽はとても苦しそうなうめき声を出していた。
「おい、陽」
陽の口からどんどん血が吐き出されていた。
「健、陽がやばい。おい、健」
浩輝は健の手を借りようと寝ている健を起こそうとしたが、反応しなかった。
健と何度も叫んだが返事は返ってこなかった。
そうしている間に抱えている陽も苦しみから解かれたのか、うめき声も発しなくなった。
浩輝の声に返事をする人はいなくなった。周りではにぎやかな声など、騒がしい音楽が複数に流れているが浩輝に答えるものはいなかった。
浩輝は何もできないことを悟り、目を瞑った。
暗闇の中から残りの数秒を待った。
すると、きーーーという不快な音がなり、起動の合図だと浩輝は思った。そのあと、浩輝は全身に痛みが襲った。それは一瞬の痛みであった。
やっと人生が終わると浩輝は最後にそう思った。浩輝の罪深き人生は終わった。
ショッピングモール爆破事故
被害 約300人
生存者 ・・・