一話 始まり
最近、この町では物騒な事件が相次いでいる。
家族惨殺事件が二件、放火事件が8回、駅爆破事件と今年に入ってから7月までに起きた事件の数だ。
その中でも、一番被害が大きかった事件は、3月に起きた駅爆破事件だ。そして他の事件の起点となった事件でもあった。
死者は100人以上と推測され、生存者はたった一人の青年だけだった。
未だ、何人が死んだのか確定されていない。何故かというと、爆弾の破壊力が凄まじく、ほとんどの遺体が消しとんでいたからだ。警察は、事件が起きた駅を調査したが何の手掛かりも見つからず、何かを知っていそうな一人の生存者も精神が不安定な状態であったので何の手掛かりをつかめなかった。
この事件を機に、タガが外れたように事件が頻繁に起こった。
家族惨殺事件は名の通り、一家を全員殺された事件であった。
一家全員の死体には縄で縛られた跡と体の隅々に傷があり見るに堪えないものであった。
このことから、おそらく犯人は一家を縄で縛り、一人ずつ嬲り殺したという感じに世間で公表されている。
犯人は捜索中であり、事件が起こった周辺地域は特別体制をとっている。
放火事件の方は、最初はごみ捨て場の放火から始まった。そして、徐々に燃やす対象がレベルアップしていった。ゴミ捨て場を2件燃やした次は、公園の木になり、次は人がいない空き家を3件放火、最近では、人がいる一軒家を放火して殺害を起こしている。
犯人は指名手配が出ているが捕まっていない。
この町は全国のメディアで危険な町として取り上げられ、有名な町になった。
そして、また、新たな事件が再び起こり最も危険な町になろうとしていた。
・・・・・
ぢりぢりとケータイのアラームが鳴っていた。
菊池 浩輝は今日も一日が始まるのか。と呟きながらアラームを消した。
眠気を飛ばそうと、あくびとだらけ切った体を伸ばし、完全に開いてない目をこすり、アラームが鳴った時計を見ると10時を回っていた。
浩輝はその時間帯を見て一瞬焦った。学校がすでに始まっている時間であったからだ。しかし、昨日のことをよく思い出すと今日は休みだと分かる。
そうだ。今日は日曜日だ。
浩輝は今日が休みだと気づくとテンションがあがり、さっきまで眠かったことなど忘れた。
勢いよくベットから起き上がり、鼻歌しながらテレビをつけ、朝食の準備をした。準備と言っても、シリアルなので、コーンフレークに牛乳を入れるだけだ。
出来上がった朝食を食べながら、テレビを見る。行儀が悪いといわれるのだろうが家には一人だから関係ない。
「今日も、やってんなー」
テレビにはニュースが流れており、この町の事件が報道されていた。今年に入ってから、この町が ニュースに出ないことはない。昨日、新しい放火事件があったらしく、ニュースキャスターが、事件現場で事件内容を説明している。
「あれ?ここって家の近くだよな」
事件現場に映っていたのはいつも、登下校の時に見る景色と一致していた。
そこには、屋根が瓦で少し古風な家が並んでおり、日本の都会では珍しい街並みだったのだが、一軒が全焼になっており、釣り合いが取れず見た目が悪くなってしまっていた。
この放火事件は少し前に起きた放火事件と同じ方法であったので、同一人物であることがわかり、今回で通算9回目になった。
一応、数日前に放火犯人の写真は流出されているのだが、捕まらない自身があるのか、犯人は堂々と犯行をこの町で繰り返している。
(そういえば、このまえの家族惨殺事件の方もここの近くで起こったよな。てことは、次は、爆破事件が自宅の近くで起こるかもな。
よし、今日は家から一歩も出ないで、ゲームでもするか。)
浩輝はでたらめに推測した自分の予想で今日一日のスケジュールが決まった。
朝食を食べ終え、食器を片づけ、ふわふわのソファーに寝転がり、携帯のゲームを始めようとした時、電話が掛かってきた。
健からだった。
健が電話を掛けてくるのは今日遊べるかを聞くときだけである。
一日家で過ごそうと思っていた浩輝は電話を無視する手もあったが後でネチネチ言われると思い、仕方がなく、電話に出てみた。
「おーい、恭真、遊ぼうぜ」
浩輝の予想通りに健は陽気な声で遊びに誘ってきた。
「えー」
浩輝は曖昧な返事をした。
「どうせ、暇だろ。」
「そうだけど・・・」
「よし、んじゃー、12時森男のいつもの場所な。大丈夫だ。俺と浩輝の二人でデートってわけじゃねーから。陽が来るから」
森男というのは、この町で一番でかいショッピングモールである。
本当の名前は、フォレストミールなのだが、陽が森男というと、浩輝と健も短くて呼びやすいと思い、三人の間でそう呼ばれている。
「わかったよ」
「じゃな」
「じゃ・・」
別れの挨拶を言おうとしたが、その前に電話が切れた。
浩輝は携帯をソファーに放り投げ、出かける支度をした。
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森男のいつもの場所、基、森男の中にある2階の本屋の前にある休憩用のテーブル席についた。
そこには、二人が座っていた。一人は、今時の高校生の髪型をしていて、人懐っこい顔をしている。こいつが浩輝に電話してきた健だ。もう一人は、目に半分かぶさるぐらい前髪が長く、ちょっと暗い感じなのが、陽だ。携帯をいじっている。
「よ」
浩輝は、挨拶をし、空いている席に座った。
「おー、浩輝、遅かったな」
「いつもの通りが通行止めで使えなくなっててな」
「昨日の事件か」
「ああ」
浩輝の家から森男は三人が通っている高校の中継地点の場所に位置する。なので、事件場所が通れない以上、遠回りしないといけなく遅れてしまった。
「んで、何すんの?」
「えーとだな。おーい、陽さーん。何すんだっけ」
浩輝を呼んだ健が遊ぶことを最初に言い出したのではなく、陽だったらしい。
いつもは、浩輝か健が遊びに誘って、陽はいつも受け身だったから、今回は珍しかった。
「これこれ、なんだかわかる?」
陽は声変わりしたのかわからないぐらいのちょっと幼めな高い声で興味を誘うような言葉を言った。そして、さっきまで見てた携帯をテーブルに置いた。携帯に見えたのは、毒々しい暗赤色に白い文字が書かれていた。いかにも胡散臭そうなことが書かれていそうな感じがした。
「チャットだろ」
健はすぐ答えた。
「うん、重要なのはこの内容なんだ」
チャットに書かれていたことは、爆破予告だった。
午後の3時にフォレストミールのショッピングモールを爆破する。
と書かれてあった。
それに対して、コメントしていたのが10人にも超えないほんの数人だけだった。
あまり栄えていないらしい。
「んーで?これは本当なのか?」
「本当だと僕は思うね。駅の爆破事件の時もこのチャットに爆破予告が書かれているんだよ。ほら、チャットの履歴」
陽は携帯を操作し、前に起きた爆破事件の予告を見せた。
場所が駅になっているだけで、さっき見た爆破予告と同じだった。コメント数はさっきより少し多いぐらいだった。
「この日って、駅爆破の一日前だよな。これって本当に起きるんじゃないのか?」
健はそれを見て顔色が変わっていた
浩輝はビビっていた健を無視して話した。
「なんで、それを知っていてここで遊ぼうとするんだよ。危ないじゃないか」
浩輝も少し怖気づいてしまったのか、少し強めの口調でしゃべっていた。
「大丈夫だよ。まだ3時間もあるじゃないか。逃げようと思えばすぐに逃げれるよ。あと、僕は少し信じているけど、嘘かもしれないしね。だから少し落ち着いてよ」
「そ、そうだよな。よし、ここから近い俺んちにでも行こうか」
すぐに逃げ出したいのか。まだ、平常心が保ててない健が提案してきた。
「ああ、いいけどさ、こういうのって警察とかに言わなくていいのか?予告だけでも捕まるんだよな」
浩輝は少し前にやってたニュースで、予告しただけで捕まっていた人を見たことがあった。
「言った方がいいと思って交番まで行ってチャットを見せたんだけどね。痛い子を見るように、軽くあしらわれたんだよ」
ひどいよねーといいながら、陽はがっくりと肩を落とす。
なんだ、そんなものなのか。警察はいちいち確認しないのか。
ネットでは死ねとか殺すと書かれているのをよく見かける。それを無視するのと同じか。予告してから本当に起きてしまう事件なんて極少数。警察だってそれを一々信じるはずないのだろう。今回の予告だって、見栄を張りたい誰かが書いたものだと思ったのだろう。陽は多分、俺と健を驚かせたかっただけなのだろう。
浩輝はそう思った。健も同じことを思ったのか強張った顔が和らいでいた。
でもな陽だからな。と浩輝は思った。
「それは、陽だったからじゃないか?」
健は陽には聞こえないように浩輝の耳元で囁いた。浩輝も思っていたので頷いた。
「聞こえてるよ。健」
言葉には少し怒りが入っていた。
「わりーわりー」
健はすぐに謝った。
「確かに僕は初対面の人と話すのは得意じゃないけど、それぐらいはできるよ」
浩輝と健は本当かー?と言っているようなジト目で陽を見た。
陽は、大が付くほどの人見知りで、浩輝と健が初めて話しかけたときは、陽は耳を傾けないと聞こえないくらいの小さい声で返ってきた。それから、しつこく話をかけて、徐々に今の陽までになった。なので浩輝と健は楊が初対面の人と会話できたことを信じられなかった。
「何その目。ちゃんと、会話できてたからね。会話の一部始終言わなきゃ信じてもらえないの?」
「そこまで言うなら本当なんだろうな」
「そうだな」
浩輝と健は信じることにした。陽は「二人ともひどいなー」といいながら携帯を自分のバックに入れた。この時、3人は爆弾予告を聞いた時の最初の緊張や恐怖感はすっかり消えていた。
「いやーでもさー、陽はイケメンなのにもったいないよなー。そのイケメン顔、俺が貰ってあげたいぐらい。そしたら、俺スゲーハイスペック。女の子にモテモテ」
陽は目鼻立ちがはっきりしていて、モデル顔負けするほどイケメンなのだが長い前髪で顔が隠れていて、身近にいないと気付かない。そして、身近になるためには、極度の人見知りを突破しないといけないので、隠れ残念イケメンである。
「お前はイケメンになる前にまずいつもの行動をなおせ。女がいる教室内でエロ本を見せびらかしたり、性用語を言ったり、彼女ができた友達をいじったりしてそれでモテると思ってんのか」
健はこのような女性に対して破廉恥な行動をするので、ものすごく校内の女性に嫌われている。しかし、それもあり女に縁のない男達には多いに好かれている。
「そうだよ。健は別に顔は悪くないんだから。その行動を直せば絶対もてるよ。」
健は、陽ほどではないが、顔は整っている方で、それにオシャレさんだ。よくファッション雑誌を買ってきて、流行りの髪型、服などをオシャレに疎い浩輝と陽に教えている。あと、肌など手入れしているのかとてもきれいである。
「そ、それは男の性分だろ。それより浩輝はどうなんだよ。有海さんとはうまくいってんのか?付き合ってんだろ」
健は恥ずかしいかったのか急に話題を変えてきた。
「それを有海さんがいるところで言うなよ。ったく、別に付き合ってない。ただ、よく話すだけ」
「え?付き合ってんじゃないの?だって、有海さん浩輝のこと浩くんて親しく呼んでいたところ何度か聞いたよ。」
「まじか。おい、浩輝、どういうことだ。白状しろ」
「それは・・あいつが勝手にいってるだけだよ」
浩輝は頬が薄赤くなっていた。満更でもないようだねと陽はニヤニヤしていた。
「陽さんこれはどう思いますか」
「これは確定ですね。健さん」
「あ。そういえば、隣のクラスの青木ってやつが校門前で女と手をつないでたぞ」
浩輝はこのままだと有海さんとのことを全て話すまでしつこく聞かれると思い、今思い出したかのように作り話を話し、話題を反らす作戦に出た。
「まじか、青木」
「青木?」
浩輝の作戦は成功した。そのまま、話題を戻すなよと浩輝は願った。
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それからずっと高校生によくある他愛のない会話が続いた。
そして、時間は刻刻と過ぎていき、森男に来てから一時間経っていた。
そんな中、三人組はここへ来た意味も忘れ会話し続けていた。
「しかし、意外ですねー。まさか。あの奥手の浩輝さんが告白まで言ったなんて、けど返事がもらえてないと、告白は成功か失敗か、どっちになると思いますか。陽さん」
「7:3の割合で成功するでしょうね。やはり、浩くんと呼ばれているのが大きいですね。それと返事を待ってもらって結局振るのはないと思われるので、成功すると思います。しかし、絶対というわけではないので慢心するのは良くないと思う私からの助言と絶対付き合うなと願っている健さんからの怨念を合わせたら、割合は7:3でしょうね」
スポーツ解説しているかのように浩輝の色恋をからかっていた。
「おい、また掘り返すのか。やっと、話が変わったと思えば、なんで戻るんだよ。何度も何度も、なんだ?まだなんか聞きたいのかよ。もう、ないぞ」
浩輝は話題を何回か反らすことはできたのだが、なぜか5分おきぐらいに二人のどちらかが有海さんの話に戻される。それで、しつこく聞かれた浩輝は自白してしてしまった。
「ですって、どう思います?陽さん」
「これはもう全て吐いたみたいだよ。これ以上やっても意味ないみたい」
浩輝が意気消沈してるのを見て、陽はスポーツ解説の言い方をやめて、元のしゃべり方に戻った。
「そうか。有海さんのこと全て聞いたことだし、そろそろ、俺ん家行かね」
健は満足した顔で言った。
陽は元気よく「うん」と返事をした。一方、恭真は気力ない返事をした。
3人は席を立とうとしたとき、一つの放送が流れた。
「本日は、第一日曜日ですので、2時半から、くじ引きでの抽選会が行われます。くじ引き券は、当店で1000円以上お買いになったらゲットできます。場所は一階の東出口前で行われます。くじ引き券を持っている皆さま、お気軽に足を運んでみてください」
「あ、そういえば」
陽は放送で思いだしたかのように自分のバッグから紙を取り出した。
「やっぱり。僕、持ってる。帰りに回しに行こうかな」
陽は少し楽しそうにウキウキと体を動かしていた。
「おいおい、止めといた方がいいぞ。ここのくじ引きって、結構な確率でいい景品が当たるからすごい行列になるんだぞ。」
「なんだー。健はやったことあるのか」
「は?やったことねーけど」
「何が当たったんだ?」
「だから、やってねーって」
健はくじ引きをやっていないと言っているが浩輝はこの健の表情はやったことがあるんだなとなんとなく分かってしまう。健とはまだ一年過ぎてないのだが長年の親友みたいな感覚であった。
「どうせ、一時間並んだのにいいのが当たんなかったんだろ。そうなんだろ。ティッシュなんだろ?」
「うぐぐ。でもな、俺がもし一つ後ろの順番だったら、海外旅行だったんだぞ。惜しいだろ」
健は浩輝のしつこい質問攻めにようやく本当のことを言った。
「要するに、健は残念賞を引いた。そしてティッシュを受け取るときに大きな音のベルが鳴ったと。悲しかったな。悔しかっただろ」
浩輝はニヤニヤとさっきのお返しができて、すっきりした。
「悔しかったー。だって、あともう一枚くじ引き券があれば、引けたんだぞー」
健はそのことにとても後悔しているのか感情的に話してきた。
「そっか。で、何回引いたんだ?」
「15回だけど?」
「え」
「え」
「へ?」
浩輝と陽はやった回数に驚いたが、やった本人の健は何で驚いているのかと逆に驚いていた。
「ってことは、健は、1万5千円の買い物をしたのか」
一般の高校生にしては高い金額だ。3人の高校の校則で特別な理由がない限りバイトが禁止なこともあり、金はとても貴重である。
「まー、そーだな」
「そんなにもくじを引きたかったのか」
浩輝は健のくじに対する執念に若干引き気味になった。
「あ、あー、いや、あの時は別にくじ引きが本命ってわけないぞ。くじ引きはただ服とか買った時のついでだぞ」
「でも少し狙ってただろ。くじ引きの日にち」
「さーそれはどうでしょうかねー?」
健はこの状況に来てまたしらばっくれた。
「このまま、話すと終わらないから続きは健の家で話させてもらうとするか。でだ。どうするんだ?陽」
これはまた長引きそうだなと思った浩輝は無理やり終わらせた。
「んーー。やめとこうかな。並びたくないし」
陽は引きたい気持ちがあったらしくガックシした。
三人は立ち、それぞれの荷物を持ち、帰ろうとしたが陽が体をむずむずしていた。
「んーー。ごめん、やっぱ、我慢できないや、行く前にトイレ行ってくる」
陽がバックを置いて早めの歩きで、トイレの方向へ行った。トイレはここから見える位置にある。
「俺も行く」
「ここで待ってるぞ」
「ああ、荷物よろしく」
健もトイレへ行き、浩輝だけが待つことにした。
健は走って陽に追いつき、共になって話し合いながら、歩いて行った。
どうせ、俺のことを話しているのだろうなと浩輝は思いながら、トイレへ向かう二人を見た。二人は会話を弾ませながらトイレの中へ入っていった。
何で有海さんのこと、全て話しちゃったんだろう。
浩輝は頭を抱えながら激しく後悔を募らせた。
陽めー。あいつ言いくるめうますぎだろ。人見知りのくせに。健だけだったらどうにかできたのに。よし、陽に仕返しでもするか。
陽が置いていったトートバックを漁った。中に入っていたのは、財布と携帯だけだった。
浩輝は陽の携帯を取り出し、起動させた。
メニュー画面が写った。
陽のやつ、ロック掛けてないのかよ。不用心だな。ここはロックがいかに大切か勉強させてやらないと。
まず、ブラウザの検索履歴でエロサイトを確かめようとしたが検索した形跡がなかった。 次は、人気動画アプリの視聴履歴で変なものがないかを見ようとしたが、アプリ自体なかった。
ゲームアプリもないし、陽って家で携帯触んないのか。ん?
浩輝は楊の携帯をいじっていると、一つのアプリに気にかかった。
日記アプリ?こんなのやってんのか。
開いて見てみると、そこには、今年の一月一日から昨日の日付までの日記が書かれていた。
浩輝はその中から昨日の日付の日記を見てみた。
今日は浩輝と健と一緒に帰った。浩輝は終始惚けていた。たぶん、有海さんのことだろう。健はいつもと変わらず会話を盛り上げていた。何時までも続くといい。
携帯にとった覚えのない変なチャットアプリがあった。爆破予告が書かれていた。心配だから明日交番に見せに行こ。後、浩輝と健にも見せて驚かせてみよ。どういう反応するのだろうか。明日も楽しみだな。
浩輝はそれを読んで、少し恥ずかしい気持ちになった。それと同時にこれは絶対に見てはいけないものだ。陽にばれたら殺されると思いすぐさま、元あった状態に戻すように、アプリ履歴を消し、起動したときのホーム画面に戻し、携帯を停止し、陽のバックに入れた。
浩輝は結局陽の弱みを握れなく、溜息をついた。
しかし、それとは別に陽の思いを知れたので良かった。あの日記を思い出すと頬が緩んでしまう。
復讐心に燃えていた浩輝はすっかり沈下して、おとなしく二人を待った。
しかし、十分待ったが二人とも帰ってこない。
「来ねーなー。ん?」
赤と黄色を主としたアロハシャツと短パンで腰に太く長いチェーンを二本つけていた老人がトイレへと入っていった。
なんだ?あのお爺さん、腰にチェーンしてる。すげー。最近のじいさんって進化したんだなー
と若作りしている老人を見て思った。
そして、さらに十五分、二十分と刻刻と時間が過ぎていったが誰も来なかった。トイレを出入りしたのは若作りした老人だけだった。
「大でもこんな遅いわけないよな?」
あまりにも遅いので心配になった浩輝は、トイレへ向かうことにした。その時、あいつらの荷物をどうしようかと思ったが、近いので別に大丈夫だろうと判断し、トイレの方へ向かった
トイレの中に入ると、手を洗う洗面台の前で健が腹を抱えて倒れていた。
「どうした?」
浩輝は健の肩を抱き起こした。
「陽が。陽が」
健は腹を押さえながら、震える指で唯一開いていない個室を指した。痛みに耐えながらも必死に浩輝に伝えようとした。
「わかった」
それを聞いた健は目を閉じ安らかな顔で眠った。
浩輝は一瞬死んだと思い、胸に手を当て生きているかを確認した。生きていた。
浩輝は健を壁に寄りかからせ楽な姿勢にさせ、健が指さした個室の方へ行き、開くと、そこには、便器の上で脚を腕で抱え込むように、陽が座っていた。陽の服には血がついていた。
「おい。陽。大丈夫か。何があった?」
陽は、体が震えていた。
「ねぇ、浩輝。知ってる?駅爆破事件ってね。なんの科学成分を用いて爆発したかわからないんだよ。それに、犯人、爆発した位置、何もかも謎のままなんだよ。」
陽は今にも消えそうな弱弱しい声だった。
「何言ってんだよ。何で今爆破事件の話をする?」
「それはね。これが駅全体を地獄にした爆弾だからさ」
陽は血の付いた上服脱いだ。そこに見えたのは腹一面を覆う黒い何かだった。それは、陽の肉を強く締めているのか、陽の体には赤い血が陽の白い肌ににじんでいる。
「はは、なんの冗談だよ。なら、なんだあの爆破予告は本当で、陽の体についている物が爆弾なら逃げれねーじゃねーか」
浩輝は陽が項垂れながら、冗談を言うやつではないと分かっていた。ただ、浩輝はそれが本当の爆弾なら、どう対処すればいいか。自分では見当がつかなかった。陽を見捨てて、逃げることはできない。かと言って死にたくもなかった。とにかくその爆弾が陽から外れればいいと。
「言ったんだ。僕の耳元で。これは爆弾。一生外せない。って」
「いや、付けられたんなら外すこともできるだろ。調べたいから、立て。」
浩輝は陽を立たせ調べた。
陽についている爆弾は、どうやって取り付けたのかわからないぐらい凹凸がなく、金属でできているのか冷たく固かった。そして、陽の背中の方にはデジタル時計が埋め込められていた。
これが何を指しているのか浩輝には分かってしまった。
時限爆弾・・・
「一時30分」
浩輝の腕時計と同じ時間だった。これが三時になったら爆発する。
「陽、とりあえずここから出るぞ」
健は起きそうもなかったので浩輝はおんぶし、3人の荷物がある場所へと戻り話し合うことにした。
「まず、何があったんだ?落ち着いて話せよ」
健は気絶していて、陽はまだ立ち直れていなかった。
「僕と健がトイレを澄ませ、手を洗っている時、派手なおじいさんが来て、そのおじいさんが突然、健を殴ったんだ。そして、僕を個室に連れ込んでこの爆弾をつけたんだ。」
「派手なおじいさんって、腰にチェーンがついてる?」
浩輝は健と陽以外でトイレに入ったおじいさんのことだと思った。
「たぶんついてたと思う。ラップしている人みたいな感じの服だった」
「そうか。とりあえず、警察と救急車呼ばないと」
懐から携帯を取り出し、110番をおして電話を掛けた。しかし、つながらなかった。
浩輝は110番てつながらないことなんてあるのかと思い、携帯の画面を見てみると電波が一本も立っていなかった。
「俺の携帯圏外なんだけど」
「あれ、僕のも」
陽も自分の携帯を確かめたが、圏外になっていた。
「なんで、圏外なんだ?こんなことってあり得んのか」
「ジャマー?」
陽が電波が通じない原因で思いついたことを呟いた。
「ジャマーってFPSによくあるやつか?」
「多分。でも、問題は範囲がどこまで及んでいるか。外までは及んでないと思うから、外なら通じると思う」
「なら。俺が外へ出て、警察と救急車呼んでくるから。陽は健を見ててくれ」
浩輝は急いでエスカレーターで下の階を下り、外へ向かった。森男の一階では、くじ引き会場になっていって人込みができていた。
(あいつは・・・)
浩輝はその中で、派手な格好の老人を見つけた。陽と健をやったやつだ。
あいつが向かっている方向は外へつながる出口だった。浩輝は人込みの中を無理やり突っ切って、老人を捕まえようとした。しかし、あまりにも人が多くて、人込みに飲まれてしまい、老人から離れてしまう。そんな中老人は人込みから抜け出し、出口の直前まで到達していた。
やばい、このままだとあいつを見失う。そうなったら、陽に取り付けられた爆弾が起動してしまう。と焦りが出てきた。
人に押されながらもどうにか人込みの中から抜け出したが、逃げるための十分の時間を老人に与えてしまい、もう、そこにはもう老人はいないと 浩輝は思っていた。
しかし、老人は出口を出てすぐそばにいた。通行人を遮るかのように、開き続けている自動ドアの前の真ん中に堂々と立っていた。浩輝は、出口の先にいる老人の肩を掴もうとしたが、見えない何かに阻まれた。
「なんだよ。これ」
浩輝と老人の間には見えない壁のような物があった。焦っていた浩輝はその壁を壊そうと拳で殴ってみるがビクともしなかった。逆に浩輝の拳が手傷を負ってしまった。
「残念じゃったのー。そこには、もう結界を張ってしまってのー。並大抵の力じゃー壊すのは無理でのー。これでようやく、すべての出入り口に張れたのー。クタクタだのー」
老人は、床に跪きながら痛みを耐えている浩平の方へ振り向き薄気味悪い笑みを浮かべた。
「うっく、誰なんだよ。お前。なんで、陽に爆弾を取り付けた?」
浩輝は腕の痛みに耐えながら、質問した。
「それは死んだ後のお愉しみじゃのー」
「死んだ後?」
「そうじゃ、お主たちは、あと一時間ぐらいで死ぬことになるからのー」
老人は顎を触りながら、答えた。
「陽の爆弾でか」
「そうじゃ。それが陽という者の運命でのー」
「運命?お前がやったんだろ。お前に殺される運命なのかよ」
「うーむ、面倒くさいのー。もう話はいいじゃろ。死んでからでのー。じゃあのー」
老人は浩輝に背を向き、歩いて行った。
死んだ後に聞いたって意味がない。何で死んでいるのに死因を知る必要があるんだ。死んだら何もないっていうのに・・・。そう思う内に老人と距離が離れてしまう。
「待て。おい・・・」
浩輝は老人を呼び留めようと叫んだが、老人はただ一度振り返り、顔の筋肉の全てを使い殺気だった顔で浩輝の方へ振り返った。
浩輝はそれを見て、ぞっとした。体が震え出し、叫んでいた声が次第に出なくなった。
やがて、老人の姿が見えなくなるまで浩輝はただ見続けることしかできなかった。