It is being influenced
街に入れませんでした。スンマセン。
なあ、アン。本当にこっちでいいのか?お前が見えたって言ってから相当歩いたぞ。
【もうちょっとの辛抱ですよ。頑張ってください。】
お前、これで8回目だぞ。
【マスターも、『お前、○回目だぞ』っていうの8回目だぞ】
いや、お前が言うからそう返してんだろ⁉︎なんだよ、まったく。
って、あれ?
あれ、城じゃないか?
…
……
「やったぞー‼︎街だ!やっと見えた!苦節、5年間!メンドクサイスキルに踊らされること8時間!やっと着いた!辺りは夕暮れ、まるで、俺の到着を笑みで見ているようだ!そう、テンプレでいうと!」
と、そこで俺は駆け出す。
そうだ、テンプレでいうと日が落ち出すと街に入れなくなる!そう思い至った俺は世界新を優に叩き出せる地面に靴の跡をつけながら走った。良くも悪くも日本の文化とは違うこの世界では、家の中でも靴だ。
そして、親父様は、
『冒険者になるなら、靴を履いて寝ることもあるから、慣れておくといいかもね』と、靴を履いて寝ることを推奨してきた。
ただ、『じゃあ、なんでパジャマで寝るのは絶対なの?』っていう俺の質問には、『自分の子供のパジャマ姿って凄く可愛いじゃないか。』と、俺がいい年した赤の他人の意識であることを知っていながらに、そう言ってのける親父様は流石だと思った。
今考えると、凄く愛されてたってわかるけど、当時は、『ショタが好きなのか?』って焦ったね。俺が、2歳と10ヶ月の時の出来事。
【マスター、余計なこと考えてないでもっと走ってください。5年ものだらけるための改造は、ちょっとずつですが改善されています。ただ、今直しているのが〈最適化〉なら、悪くしたのも〈最適化〉なので、割と時間がかかるかもしれませんね。】
改善されていっているのか…それは、いいことだ。
ただ、どんな改造になっているんだ?
【魔法が使いたいみたいですから、って違ーーう!走れつってんの!ボケナスが!】
ちょっと、なんでそんなにキレてんの?お前。なんで、大したことなさそうなこと、はぐらかそうとすんの?
【え、マスターが街について、宿屋に泊まって寝たら今日の仕事は終わりじゃないですかー。だから、さっさとついて欲しいんですー。】
いやいや、お前、俺のスキルじゃーん。なんで、お前が仕事なんて思ってんだよ。それこそ、メイドみたいに無償奉仕じゃないのか?
【マスター、あんたは恐ろしい人だよ。いや、本当に。自分で私がこうなった原因を作っておきながら、『おいら、知んないよ。そーんな契約した記憶なーーい。てことで、無償奉仕。』なんて感じで、私を追い詰めるとは……!】
えー。おいら、知んないよ。そーんな追い詰め方した記憶なーーい。てことで、無償奉仕。
【いーーやーーだーー!】
お前は、クソガキかよ。
【いーーやーー、ん、マスター、街が見えてきましたね。】
え、まじで⁉︎よっしゃ、俺、張り切っちゃう。
てことで、ゴーゴー!
【いーけー。イエイ。いーけー。イエイ。ぐんぐん進むぞー、シーリーウース。】
なんか、アホみたいな歌だなあ。
【Yo,Yo,おいらは無敵の快速ランナー。情報知れない変態ワンダー。スキルのことなど俺は知らんなー。アホすぎ弱すぎ珍妙マスター。おいらがこの世のダークマター。】
おまえ、絶対俺を馬鹿にしてるよな。
【いいから、走れ。間に合わねえぞー。】
はっ、そうだった。
「うおおおおおおおおお!」
【俺は叫んだ。異世界に来て初であるが、喉が痛いことはない。むしろ、もっと心のそこからアンへの愛を叫べ、と俺の心は猛り狂う。その危険をはらんだ眼差しの奥に隠された確固たる意志は一つのことを、ただただ想っていた、そうーー】
いや、何勝手にモノローグ入れてんだよ。喉が痛くないの後は全部、嘘じゃねえか。それも不思議なんだ、なんで喉が痛くはないのだろうか?
…
……
教えて!アンちゃん先生!
【いいですよー。前に言った、厨二な言葉を口走るから口を噤んどけってやつだね^_−☆。喉が自分がd(^_^o)と思ったことを言うぶんには、\(^o^)/ってことですね。】
ごめん、こんなことで資料を頭に送りつけてこないで。
すっごいメンドくさいし、なんか違う気がする。
【まあ、いいじゃないですか。要は、叫ぶのとかってよく創作物の主人公がやるから、そういう主人公補正的なのが、喉に適応されているって思ってもらえれば。】
そうか、じゃあ考え事は止めだ。
走るぞ!
ーーーーーーーーーー
「そんな……」
俺はうなだれた。そう、開いてなかったのだ、城門が。
ただ、空いていないなら野宿しかないと潔い考えで城門からの前から一歩踏み出そうとした時。
「おや、迷子かい?どうしたんだい、僕?こんな時間にこんなところで、一体何をしているのかな?」
と、振り返ると騎士のような格好をしたおっさんが訪ねてきていた。これ、幸いと口を開くが、
「なに、この融通の利かぬ城門を消し飛ばそうと思っていたところだ。我が入るのを許容できぬでかいだけの扉など、木屑ほどの価値もない。」
あっ、と思った。そうだ、アンが言っていたじゃないか、俺が口を開けば厨二でアホなことを口走る、と。
見てみろ、おっさんを、『厄介なガキだぜ。パジャマ着て歩いてるってことは、どっかいいとこの坊ちゃんが家出して、帰れなくなったのか?まあ、今日は厄日だな』みたいな顔してやがる。
「厄介なガキだぜ。パジャマ着て歩いてるってことは、どっかいいとこの坊ちゃんが家出して、帰れなくなったのか?まあ、今日は厄日だな」
見事に大正解をおさめた俺だが、どっちもどっちで方や厨二、方や勘違い、ととても間抜けな状態になりつつある。
どうにかしようとどうにか厨二を抑えるように言おうとするが、
「ほう、我が言ったことが理解できぬとは、お主はこのでかいだけの木屑以上に価値がないようだな。」
などと言う。この言葉はさすがに、理解し難かったのか、おっさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
矢継ぎ早に、弁解を試みようとするが、
「ふむ、この木屑に存在する価値がないように、この木屑が守る街もまた、価値がないということか。ふん!ならば、我がここで浄化してやる。我の手で死ねることを光栄に思うがいい。」
と、元は純粋なブルーの瞳が天色に変わり、怪しく光る。
ブルーと天色は微妙な違いであるが、違和感が出るし、何より光っているのは一目瞭然だ。
さらに問題なのは、これが〈魂魄眼〉の発動であることだ。
俺的には、大見得切って発動した魔眼は鑑定系統であることに、穴があったら入りたい気分だが、これは俺の意思で発動したのではない。そう、厨二なセリフに引っ張られて発動したのだ。それなら、〈武具支配〉で、おっさんの剣を触れずに浮かせたりした方が、カッコ良かった。
【いや、かっこいい、とか、の、もんだ、ププッ、いじゃ、ありません、プッ、よ?プッ、アーハハハハハ】
いや、そうだけどそんな笑うなよ!どうにもなんないんだよ。さっきからずっと大人しいと思ったら、笑ってやがったんだな⁉︎
【まあ、まあ、フフッ。落ち着き、ましょう、マスター。フッ、と、とりあえずは、こちらに戦意が無いことを、プフッ、アーハハハハハハハハハハ】
おまえ、いい加減にしろよ?俺だってここまで酷いとはおもってなかったんだよ!
「きさま!私たちの街を襲うつもりか⁉︎子供だからといっても、貴様のような危険思想の持ち主を生かしておくにはまずいのでな、ここで死んでもらう!」
なんだ、これ。もう相手は、激おこだよ。うわあ、どうすんの?これ。やはり、とりあえずはこちらに戦意が無いことを主張するしかないな。
そう思って、俺は言う。
「はっ!ゴミが我に剣を向けようとはな!貴様には、勇敢と無謀が違う、ということを教授してやらねばならぬ!大人とはやはり、現実に押しつぶされて夢を捨てねばならなかった負け犬だ!このようなクズの集まりを自身の命を賭して責務のために消費せねばならぬなど、家畜と同じようなものだ!そのようなものなど生きる価値もない!」
……俺は、大人に恨みでもあるのか……
いやいや、本気でまずい!なんで俺は魔王みたいなこと言ってんだよ。ていうか、口の制御が効かなくなってきたんだけど!
【ああ、マスター。それは〈最適化〉の能力の一つで、状況に応じて体の操作を無意識にやってくれるやつですね。】
それのどこが便利なんだよ!
【本当は、自分が察知できなかった攻撃をスキルが次の攻撃の邪魔にならないようにオートで避けるって感じだったりするんです。】
なんだ、それ。めっちゃ便利じゃん!
【まあ、今その便利な能力でとんでもない状況に追い込まれていますけどね。】
そうだよ!どうにかしてくれよ!さっさとしないと変なこと言っちまう。俺が冒険者として生活できなくなる。
「違う!この街は、街の人々はクズではないし、ましてや、消されていいようなものでは、決して無い!そうだ、お前の言うように俺もまた、金がないと生きていけないと思って安定したこの仕事を選んだ、だからお前が言う現実に押しつぶされて夢を捨てねばならなかった負け犬だ。だがな、俺にだって根底にあった初心ともいうべきことはあった、俺にも守りたいものがあった!それがこの街の人の人の笑顔だったんだ!お前のおかげで気づかされたよ、今では何の問題もなくて、このまま俺の立場が危うくなるようなことさえなければいいと思っていた。だけど、今なら言える!この命!この魂!いつの日か記憶の隅に追いやっていた、若き頃の神への契りともいうべき決意を貴様という害悪を打ち破るためなら捨てることも厭わない!さあ、かかってこい!」
……なんだ、これ……なんか、すごい。
ちょっとちょっと!アンちゃん、あの人も厨二入ってんじゃないの⁉︎
【うーむ。さすがですね、マスター。相手も空気に呑まれたというか、感化されたというか、It is being influencedというか……】
いや、頭良さそうに英語使わないでくれない?意味、おんなじだよ。
【はい。まあ嘘ですよ、マスター。簡単に言うと〈最適化〉の能力ですね。自分が望んだ展開になるように相手の意識を自分と一部同調させる感じです。まあ要は、自分の土俵に相手をたたせる能力になります。】
なんか、〈最適化〉ってかなり便利なんだね。
【そうですよ。マスターが馬鹿みたいな使い方をするからダメスキルみたいな気がするだけで、かなり有用な能力なんですよ。】
へえ、ってまた口が!
「ふん、口だけは威勢がいいようだな。貴様のような凡夫など星の数ほど見てきたわ!貴様が守りたいなどと抜かす者たちは、貴様になど期待してはおらん!数多といる自分の安全をほんの少し意識させてくれる番犬のようなものなのだ!貴様は。そして、使い潰されて初めて、そんなやつ居たんだ、と気付くものがいる。中には、そのようなことは些事と、貴様の死をなんとも思わないようなカスがいる!このようなものなど、生かすべきではないのではないのか⁉︎」
ごめんなさい。私が見た中であなたは異世界二人目の人物です。そんな星の数が正確な数わかってないのにアホなこと言いません、生まれて5年ですし。
てこれ、まずいよ!どうしようもない状況になっちゃうんじゃないの⁉︎
【大丈夫ですよ。先程申しましたが、マスターの意識に同調するのです。確かに〈最適化〉フィルターというべき言葉の厨二化を促す効果のあるパッチが当たってますが、だいたいマスターが考えているのは、街に入りたいってことでしょう?なら、相手もその意識に同調している可能性が高いです。違う場合もありますがね。ですが、そうでなければ、放っておいても街に入れるようになると思います。】
本当に⁉︎信じるよ⁉︎信じていいんだね⁉︎
【ええ、信じてくれても良いですよ。プフッ】
おい、今笑ったろ?いい感じに説明してくれてると思ったら内心でほくそ笑んでいたわけか⁉︎
【いえ、そんなことは、プッ、決して無いで、フフフ、すよ。プハッ、アーハハハハハハハハハハ】
くそめ!もうお前なんて信じてやんねーよ。お前なんてーーまた口が!
「そうだ。貴様などは死んで当たり前の命と思われているんだぞ!なんとも思わないのか?」
「それでも良い!俺の命で助かる人がいるならそれでいいんだ!俺なんかの命が正しく使われるとしたら!…それは人のためだ!」
「ふん、大人の悪い言い訳だな。世の為、人の為と口で言いながら、給料は欲しい、休みは欲しいと言う。そんなものなど、偽善に他ならない!ならば、そんなものなど捨ててしまえ!この世の中は、そんな偽善で生きていけるほど甘くない!自分を偽って生きて何が楽しいのだ?生きる価値のないクズとはいえ、折角受けた生なのだ、死を覚悟して生きるよりも自由に生きる方がずっと楽でいいだろう?」
ごめんなさい、重ねて言いますが、生まれて5年です。
「偽善だっていいんだ!俺の生きた証が誰かのためなら、きっと助けた人が俺の思いをわかってくれる!そして、その人が、俺の意思を隣人に、友人に、恋人に、家族に伝えてくれたなら、俺の一生は誰にも揺るがされることのない絶対のものとなる!だから、この街を破壊するのはやめてくれないか?代償は
、俺の命、いや、俺の魂だ…。俺の魂をあげるから君はこの街を襲わないことを誓ってくれないか?」
ちょっと、おっさんがイケメンに見えてきたよ…。
「どうしてそこまで?一体、何がお前が突き動かすんだ?」
「君だよ。」
「我が…?」
「そうだよ、この思いを思い出させてくれた君だ。君ならきっと約束を違えることなどしないだろう?」
「そうだが、なぜ、我を信用する?」
「君が一番救わねばならない人だから、かな?でもきっと、君が救えたなら、死んでも何の迷いも無く神のみもとに行けるだろうからだからだね。」
「………。」
「俺みたいなやつのことは信用できないかい?」
「………。」
「大丈夫だよ、ほらbー「詭弁だ…」え、」
「詭弁だ!きれいごとだ!お前の言う理想なんて夢でもなんでもないただの幻想だ!」
「ウッ!」
「そんなものに踊らされるなんて、そんなのは馬鹿だ!」
「やっぱり僕たちは戦うしかないのかい?
「ーーだが!馬鹿でもいいかもしれないな…。そんな幻想に流されて本懐を忘れて生きるのも面白いかもしれんな……。」
「フフフ、素直じゃないね。じゃあ、俺の命は?」
「ふん、興が削がれたわ!
ーーそれに貴様の言う理想を追いかけてみるのも一興と言ったところだ。」
「そ、それじゃあ⁉︎」
「ああ、今日から我らは同じ理想を追いかける友だ。」
「は、ハハハハハ。うん、うん。いいね、そうだよ。俺たちは今日から友だ!」
「ああ、俺たちは友だ。」
「ああ、そうだよ、友だ。解り合えるものだね、意外にも。」
「ああ、そうだな。もしかしたら、分かり合えないものなどないのかもしれないな、この世界は……。」
「はは、そうだね。そんなものかもしれないね。」
「ああ、そんなものなのだろう」
それから二人、笑い合っていた。
ーーーーーーーーーー
「なあ、シリウス。お前、街を見てみないか?」
「なんでだ、我が消そうなどと思っていた街だぞ?」
「大丈夫だよ。俺が喋らなきゃ分からないし、こんな子供がそんなこと言ってたなんて俺の方が疑われちゃうよ。」
「ははは、それもそうだな。だが、それもいいかもしれないな…お前のようなやつもいるとわかったし、自分が消し飛ばそうとした贖罪としてこの街を知り、この街で働くのも吝かではないな。」
「はは、贖罪なんて考える必要はないさ。君がこの街を好きになってくれればそれで十分だよ。」
「そうか…そうだな。ならば、行こうか。これが第一歩だ。」
「そうだね。案内はいるかい?」
「要らぬ。貴様とて分かっておろう?我らの友情はいつもひっついてなきゃ破綻するような弱いものではない、と。」
「これは、手厳しいね。わかってるよ、そんなのは。じゃあこっちに来てよ。」
「ここか?」
「そうそう、じゃあ開くよ。
ーようこそ、フレンの街へ!」
そうして、俺は初めてできた友に背を向けて歩み出すーー。
ーーーーーーーーーー
なあ、なにこれ。
【なんか、すごい展開になりましたね。】
ああ、馬鹿馬鹿しくてやってらんねえよ。しかし、友だなんだと言いながら、おっさんの名前知らねえんだけど。
【まあ、いいじゃないですか。結果オーライです。】
まあ若干、友情にしては行き過ぎな気がしないでもないが……
【そうですね。マスターがヒロイン的な立場でしたもんねー。】
まあ、俺は女の子が好きだから問題ないけど…
【あ、それなら彼も問題ないですよ。彼は、いわばマスターのせいで、あんな酷くハイな状態になっていましたからね。】
なんだそれ。結局、俺の所為かよ。
友情ってことでお願いします。
…なんかの展開に似てるんですよねえ、何か分かりますか?