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海賊Project-海賊達の航海日誌-  作者: 七夜瑠奈
Chapter1--はじまりの刻はまるで嵐のように
3/4

海賊としての覚悟①

降りかかる朝日でヴェルナは目を覚ます。寝たのも中途半端な時間だったこともあり、身体の調子はあまりよくないが、気分の方はそこそこ晴れやかだ。身体を起こし、大きく伸びをする。まだ身体中が痛むというのと、盛大にお腹が鳴った。

「その様子ならもう大丈夫なんじゃない?」

「う……」

いつから聞いていたのか、ヴァレルが淡々と話しかける。分厚い本のページをめくりながらのその様子は夜と全く変わらない。っていうか、もしかしてずっと起きてたんじゃないだろうか。

「…しばらく仮眠するけど、すぐに出ていけとは言わないから…、好きにして構わないよ。」

「あっ、はい…」

どうやらその予想は当たったらしい。聞けばいつ何が起きても対応できるように最低限の仮眠をとる程度にしているらしい。こんな時間に仮眠とは、船医も大変なんだな、とヴェルナが思っているうちにヴァレルは先程まで読んでいた本を枕替わりにして机に突っ伏していた。そしてすぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。

動くたびに悲鳴があがる身体に鞭を打ち、なんとか立ち上がる。腹が減っては戦ができない。いや、まだ本調子じゃないし戦をする予定もないが、せめて朝食だけでも、と思いヴェルナは医務室を出た。

気を失った状態で運ばれてきたので、部屋の場所を把握していなかったのだが、どうやら船員達の部屋からも、訓練所からも近い場所のようだ。船内のどこで何があってもだいたい安心できそうな部屋割りだ。

幸い、食堂もそう遠くはなかった。痛みに耐えながらたどり着くと、リクとリキが出迎えた。

「おー!ヴェルナ、無事だったかー!」

「とりあえず死んでなくてよかった。」

出迎えたのは彼らだけではない。「あれ昨日副船長にボコされてた雑用係じゃね?」的な視線が集まる。本当にやめて欲しい。

「まあ…、一応なんとか……」

「それにしても、あの副船長をマジにさせるなんて、何したんだよ。」

昨夜ヴァレルにも同じようなことを訊かれたが、何度振り返って考えてみても本当に心当たりがない。

「嫌われたな。」

「嫌われてるね。」

その通りに答えると間髪入れずに兄弟が口を揃えて言う。やはりそういうことなのだろうか。

「まああれだ、そんなことより喧嘩ごっこしようぜ!」

「は?」

話の流れを全く無視したリキの提案に半ば反射的に声が漏れた。しかしリクは自然に弟に同調する。すっかり話が流されてしまったが、そう思う自分の方がおかしいのだろうかと思ってしまう。自分より先に食べ始めていた兄弟は自分達の分を食べ終えるとさっさと喧嘩ごっこの準備などといって食堂を出ていった。取り残されたヴェルナも少しペースを上げ、二人を追いかけようとした。しかし、

「何々、喧嘩ごっこ?俺もやってみたいねぇ。」

思わぬ邪魔が入った。いや、副船長に対して邪魔というのも失礼極まりないのだが。

「ふ、副船長…、おはようございます……」

「やあやあ、もう退院かい?よかったねぇ。」

「ええ…おかげさまで……」

なんでこの人は他人事なんだ。無意識のうちに表情が強ばっていた。

「やだなあ、そんな顔しないでよ。ところでさ、耳寄りな話があるんだよ。聞きたい?」

不思議と嫌な予感しかしない。昨日人をあんな目に遭わせておいて一体何の用だというのだろう。限りなくトラウマに近い不信感は拭えないが、なんとなくここで退く方が後々面倒になる気がする。

「内容によりますけど…」

「そう、じゃあ今度の<探索>(サルベージ)に参加してみない?」

<探索>(サルベージ)?」

「まあ早い話が宝探しさね。君を拾った町で、この辺りのお宝の話を聞いてねぇ。<探索>(サルベージ)なら同業者と鉢合わせするか、よっぽどのことがなければドンパチにはならないし、素人の君でもそれなりにやれると思うよ。まあ、それでヘマするようなら一生笑ってやるけど。」

それはプレッシャーなのか。

しかし、これはチャンスと考えていいだろう。もししくじれば一生笑い者らしいが、成果をあげれば一気に見返せるはずだ。持ちかけてきたのがシルバという辺りで何か裏がありそうな気がするが、それも込みでチャンスだ。逃すものか。

「わかりました。俺も行きます。」

「そうこなくっちゃ。あとで作戦の説明をするからよろしくね。で、交換条件って言ったらアレだけどさ……」


その後、シルバの参戦によって喧嘩ごっこが本気の喧嘩になったのは言うまでもない――



<探索>(サルベージ)が行われたのはその翌日。

海に突き出た岩とも小さな島ともつかない場所にできた洞窟が今回のターゲットだ。なるべくギリギリまで船を寄せ、そこから浅瀬を渡って洞窟に入る。

よりによってまたしてもシルバのせいで身体は好調ではないが、初めての作戦参加に胸を躍らせてヴェルナも船を降りた。その背中には身の丈に近い長さの槍を背負っていた。


『剣なんかでやりづらくないの?』

昨日の喧嘩ごっこという名の模擬戦でシルバが突然こう言ってきた。ヴェルナとしては特に考えて選んだわけではないし、それが自分に合ってるかというのは考えたこともなかった。そんなヴェルナが渡された武器が槍だった。早い話がデッキブラシだと言われたが、実際に使ってみると確かに不思議と違和感はなかった。何をもってその適性を見抜いたのかはわからないがこれについては感謝している。


今回は戦闘を目的とした作戦ではない。武器はあくまで万が一の護身用、新入りの自分が成すべきことは洞窟内をくまなく調べ、かつ仲間からはぐれずに帰還することだ。海の中の洞窟なだけあって、あちこちは浸水し、空気も冷たい。先を行く他の船員達は比較的軽やかな足取りで奥へと進んで行くが、ヴェルナはおぼつかない足取りでそれを追った。洞窟といえば、物語の中などでは魔物の住み処としてしばしば描かれるものだが、静まり返っていて自分たち以外の何者かの気配はない。内心少し期待していたのだが、生憎物語は物語のようだ。

洞窟はほぼ一本道で、特にこれといった収穫もないまま最奥へとたどり着いた。それまでと違って比較的人工的な空間に見える。おそらく何者かが宝を隠していたのだろうが、すでに先客があったのか、すっかり荒らされた跡があるばかりだった。

「まあ正直ダメ元ではあったけどなぁ。噂が出回る程度のもんなんてだいたいこういうもんだよな。」

一通りの探索を終えてレイヴがこう漏らした。他の船員達も諦めた様子だった。

しかし、ヴェルナだけは違った。この場所に来てから何故か頭がズキズキと痛む。この間船で感じた、波立つようなあの感じ。自分以外はどうやら気づいてすらいないらしい、この頭痛と共鳴する何かをヴェルナは感じていた。

すでに奪われていた手柄にその場にいた者達が落胆して引き上げようとする中、ヴェルナはその何かに引き寄せられるように奥の壁に触れた。そして、共鳴が最も強くなったところで弾けるように光が走った。

「お、おい、何事だ!?」

その衝撃にレイヴ達は足を止めた。何かまずいことをしてしまったかとヴェルナの頭は真っ白になっていた。

光が収まると、壁が崩れ落ち、そこには先程までなかったはずの道ができていた。

「これは……?」

「ヴェルナ、お前何したんだ?…いや、それは後でいい。この先になら何かあるかも知れねぇな。」

何が起きたのかはわからないが、突如現れた新たな道をレイヴは躊躇いもなく進みだした。

「…ああ、そうだ。ヴェルナ以外は先に戻っててくれ。」

途中、レイヴはこう指示を出した。それに従い、他の船員達は来た道を戻っていく。確かにこの道を発見したのはヴェルナだが、何故彼以外を引き返させる必要があるのだろうか。

「船長、なんで俺だけ…」

「いいから来てみろ。ちょいと気になることがあるんだ。」

わけもわからずにヴェルナはレイヴの後を追う。先程まで塞がれていたはずの道だが、その様子はこれまで通ってきた道のりとさほど変わらない。封印、というものだろうか。しかし誰が何のために?

そんなことを考えながら進む途中――

「せ、船長、今何か…」

洞窟の奥から怪しげな音が響く。その音は規則的なリズムを刻み、何者かの呼吸のように聞こえる。しかし、だとしたら一体その主は何者なのか。

「落ち着け、相手が何かわからない以上、騒いだら余計に危険だ。」

「で、でも……」

「いいから静かにしろ。この先に何かがあることは間違いねぇ。行くぞ。」

レイヴは奥へと足を進める。しかしヴェルナは徐々に不安を募らせていた。この先に何かがいるというのもそうだが、進めば進むほど頭痛が激しさを増す。もはやただの宝探しの緊張感では済まなくなっていた。

そして二人はついにそこにたどり着いてしまった。

「これは……竜……!?」

二人の前に現れたのは水のように澄んだ鱗を持つ竜。幸い竜は眠っているようで、聞こえてきた音はその寝息だったようだ。

もし目を覚まして襲ってくるようなことがあればひとたまりもないだろう。自ずと緊張感がさらに高まる。同時に突如としてより激しい頭痛がヴェルナを襲い、膝から崩れ落ちた。

「ヴェルナ、どうした!大丈夫か!?」

「頭が…!なんだ、これ……」

頭痛はさらに激しさを増す。それと同時に脳裏を何かがよぎる。まるで長い時をかけて移り行く海の景色を見ているような――


フラッシュバックのように見えた海の景色が消えると、頭痛は嘘のように去っていった。レイヴが心配そうに顔を覗き込む。ヴェルナは自分の身に何が起きたのかわからずにいた。

「大丈夫か?船に戻るか?」

「いえ、大丈夫で――」

言いかけたところで息を飲んだ。続いてレイヴがヴェルナの視線を追う。

視線の先にあったのは最悪の事態だった。


竜が目を覚ましていた。


「逃げるぞ!何かされたらたまったもんじゃねぇ!!」

「は、はいっ!!」

二人を視界に捉えた竜は威嚇の咆哮をあげる。その声は洞窟中を震わせた。こうなっては探索を続けるのは難しい。レイヴが目眩ましの閃光弾を放ち、その隙に二人は駆け出した。

さすがにこうなることは予想外だっただろうが、ほとんどの船員を退却させていたのは結果的に正しかったかも知れない。二人が戻るとすぐに船は洞窟を離れた。

船が離れた後、洞窟の方から何かが飛び立ち、辺りを突如激しい嵐が襲い始めたのが見えた。


まさかこんなことになるとは。洞窟の中では緊張やら混乱やらでまともに考えている余裕はなかったが、よく考えてみると今回の諸々の原因は自分なのではないか。あの部屋で封印を解いたと言うべきか、隠し通路を見つけたのも自分。また、あの時の頭痛はあの竜との共鳴で、結果的に自分が目を覚まさせたのではないか――



「やあ、ヴェルナ、お疲れさん。レイヴから聞いたよ、成果はなかった上にやばいのに遭遇したんだってね。初めての<探索>(サルベージ)はどうだった?」

船に戻ってようやく落ち着いたところでシルバがこう声をかけてきた。ヴェルナとしては思うところがなくもない。しかし、それはそれ、推測は所詮推測だ。沸き上がる感情は他にもあった。

「でも、なんていうか、楽しかったです。なんか、改めて俺海賊になったんだなーっていうか、物語みたいでわくわくしました。」

決して良い結果ではなかったが、彼にとって初めての作戦だった。それまで雑用ばかりだったが、初めて海賊らしいことをした気がする。そのこと自体は素直に受け止めていた。

「それはよかった。まあ結果は結果だけどとりあえず今回は労っておくよ。お疲れさん。」

そういえばヘマしたら一生笑い者にするとか言っていたことを思い出す。作戦としての結果はともかく、どうやら少しは彼の期待にも応えられたようだ。

見返すまではいかなかったものの、それは初めて海賊として自信を感じた瞬間でもあった。

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