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理想の王子の為になら、命なんて惜しくない

作者: 男爵



 この物語りは私の異動から始まる。


1


七瀬ななせ 陽子ようこ。お前は明日から罪源七課ざいげんひちかに異動を命ずる」


 いつもの様に出勤してきた私に、何の説明も無く上司はそう言った。

 異動?

 なら、せめて一週間前とかに説明しとけ。そんな簡単な事も出来ないのか、この無能上司が、禿げ上がった頭は飾りですか? 装飾品ですか? 輝いてますね。

 などとは、死んでも口に出して言えない私は、 


(なんだよ、それ)

 

 と、心で留めるしかない。

 そんな訳 (ひどい)で、今日はもう帰っていいと、帰宅を命じられた私。帰宅を命じられても、やるべき事は無い。今まで、そりゃあ、完全に仕事一筋で生きてきたわけではない私だけど、でも、それなりに頑張って来たと自負している。

 何を隠そう私は刑事だ。

 刑事と言っても、生活安全部であり、難事件に挑むような人間じゃない。だからこそ、罪源七課――通称『悪魔課』に異動を命じられたのが、信じられないんだけど。


「ヨーコ、お待たせ~!」


 月曜の昼時。

 私はこの愚痴を聞いてもらおうと、同じ生活安全部の先輩、由香里さんと食事をする約束をした。先輩も忙しいだろうにわざわざ付き合ってくれるあたり、人柄の良さがにじみ出ている。

 私たちの勤務地――私にとっては元勤務地になるのだが、そのビルから近い所にある喫茶店で私は由香里さんを待っていた。

 私の憧れ由香里さん。

 クールビューティーな容姿と、冷静でいて優しい性格は私の憧れる、出来る女性刑事そのものだ。


「ゆがりさぁん~」


 先輩の顔を見た途端に涙が出てきた。


「あー、ほら。泣くな泣くな」

「だって、いきなりの異動ですよ? それも『悪魔課』に!」

「はははは、そりゃそうだ」

「笑いごとじゃないですよ……」


 『悪魔課』――それは文字通り、『悪魔』を相手にする組織。『悪魔』とは勿論比喩ではあるけれど、私からしたら、さほど変わりはない。むしろ悪魔の方が可愛いんじゃないかと思えるくらいに、危険な相手なのだから。

 

「うう、やだよー。やだよー」


 そんな危険な相手をするにあたって、当然のように、今の日本の警察に置いて――もっとも死亡率の高い組織。

 そんな所に私が言っても、その日の内に死んでしまうのは、日を見るより明らかだ。


「日を見るよりって、沈みゆくわたしには残酷すぎます!」

「何考えてるか分かんないけどさ、多分、日じゃなくて、火だと思う」


 え、そうなの?

 日を見るって太陽は必ず登って来るって意味じゃないの?

 さりげなく自分の中で上手い事言えた、これなら由香里さんも食いついてくるだろうと、内心占めたと思ったのに……。


「それに、それも仕事じゃない」


 命を賭けるのが仕事!? 

 ブルブル、とんでもない。


「仕事の為に命かけたくないですよ!」

「じゃあ、何の為に刑事になったの……?」

「それはもちろん!」


 言わずもがな決まっている――私の夢は小さい時から一つだ!


「イケメンの刑事と結婚する!」

「そりゃあ『悪魔課』にも配属されるわ」

「ひどいっ!」


 由香里さんを信じてたのに……、一緒に上司に直訴してくれると思ってたのに!


「一番危険な『悪魔課』で働けるなんて警察としてこの上ない幸せよね!」


 嬉々として語る由香里さん。

 そうだった、私はあまりのショックに忘れていた。

 由香里さんは仕事馬鹿だった――。

 そう言えば、過去に自ら『悪魔課』への配属を希望していたと聞いた事がある。


「呼ぶ人間違えた……」


 後悔。

 

「なによ、現に今の平和は『悪魔課』が命賭けで頑張ってるからあるのよ?」

「それは分かってるけど……」

「なら、ヨーコも頑張んな」

「はい……」


 もう駄目だ。

 私は協力してもらうのを諦めた。


「きょ、今日から、財源七課に異動になりました七瀬 陽子です!」


 第一印象が大事だと挨拶を張り切ったんだけど、いるのは課長ただ一人。

 私は果たして誰に自己紹介をしているのだろう?

 ていうか、何で誰もいないの? 学校の教室程度の広さには誰もいない。


「ああ。彼らはそれぞれ単独行動が好きでねぇ。私もいっつも一人ですよ」


 ほんわかとした課長。

 少し油の乗った体はほよほよしていた。


「えーと、それじゃあ私は?」

「とりあえず、この『罪源七課』がどんな所か説明しようか……」

「説明は――大丈夫です」


 財源七課の職務内容は、恐らく――全国民が知っている。

 『七つの罪源』を使用した人間を捕まえること。

 ただ――。 


「『七つの罪源』を使用した人間は危険だから、殉職する人も少なくない。ですよね……」


 『七つの罪源』とは――突如として裏の世界で出回り始めた『薬』。 

 使用したものの欲によって現れる現象が変わるのが特徴。


「ほほほ、良く知っていますねぇ」

「調べましたから」


 昨日、由香里さんと別れたあと、私は出来る限りの資料を調べた。

 24歳。

 結婚する前に死にたくない。

 私の夢の為なら――!


「じゃあ、これは知っていますかな?」


 ホワイトボードにゆっくりと書き込む課長。

 腕を動かすたびに二の腕がほろほろ震えるので、ついつい目で追ってしまう。

 

「これは……」


 ホワイトボードに書かれたのは『七つの罪源』。

 

 激情。

 羨望。

 堕落。

 大食。

 高慢。

 貪欲。

 肉欲。

 

 人にあるとされる――七つの罪源から付けられた薬の名前。

 それらの欲望を増殖させることで、体内に置いて特殊な細胞を作り上げる『悪魔の薬』


「それは知ってますけど……」


 でも、その程度なら一般人でも知ってると思う。

 『七つの財源』を発症させたものは『悪魔』と呼ばれ――悪魔の力を扱える。


「そうです。ただ――この欲望には、それぞれ扱える属性があるのは知ってましたか?」

「属性……?」


 それは私が調べた資料にも乗ってなかった。

 いや、それより――!


「属性って!」


 何よその少年漫画チックな説明は。

 私はイケメン刑事デカ少女漫画ランデブーしたいだけなのに。夢は頑張れば遠のくとは言うけれど――虚しすぎる……。

 

「私は課長みたいに独身にはなりたくないのっ!」

「初対面の上司に、よくもまあ……そんな酷いこと言えますねぇ」

「?」

「声、出てましたよ?」


 はうっ。

 しまった。

 興奮すると独り言が独り歩きして声に出てしまう……。

 最近は無かったんだけど。


「すいません!」


 腰を90度に曲げて頭を下げる。


「いえいえ。私はこう見えても……」


 自分のデスクの引き出しから、小さな輪っかを取り出して自分の薬指にスポリとはめた。


「結婚してますから」

「そん……な」


 負けた。

 課長と勝負していたつもりは無いのに、この心に生まれた気持ちは孫う事なき敗北感だ。

 私が負けた?


「この課長に?」

「君、失礼ですねぇ」


 肉を揺らしながら笑う課長。

 身体だけでなく器も大きくて助かった。


「さて、説明続けてもいいですかな?」

「ど、どうぞ!」


 私は体を上げて、ぴしりと敬礼する。

 

「では、属性に付いて説明しますね」


 激情の炎。

 羨望の水。

 堕落の風。

 大食の土。

 高慢の雷。

 貪欲の氷。

 肉欲の木。

 

 欲望によって扱える能力が変わるという。

 不思議な力が使えるとは聞いていたけど、属性なんて初耳だった。


「ええ。これは『財源七課』に置けるシークレットですからねぇ」

「そうなんですか?」

「はい。属性が分かれば動機が分かる。動機が分かれば犯人も見つけやすい……ですから」


 どんな理論だよ、と、思ったけど、同じような理屈すいりを使っていた、探偵小説を思い出したので、少し納得してしまった。

 

「なるほど……でも、そんな分類があるなら何で説明しないんですか?」

「薬を売るのが目的の組織が、いちいちそんな説明しないのですな」

「なるほど……」


 薬を扱っている、裏の世界にもあまり知られていないらしい。

 話を聞けば聞くほど、私――ここの課に必要かな?

 そう思ったとき――部屋の扉が開いた。


「な、なっう!?」


 思わず心の吐息が漏れてしまった。

 入ってきた男は、私が思い描いていた理想の刑事である。私が愛用している乙女ゲーム、『刑事の王子様』。

 通称――でかプリ。

 その中の一人に外見がそっくりだ。荒々しく立てた髪の毛。獣のように鋭い視線。逞しく鍛え上げられた肉体は、服の上から出もしっかり分かる。


「課長、こいつは?」


 その理想の王子が、私を指差して何者か尋ねる。

 もう、指先まで美しい!


「ああ、彼女は七瀬ななせ 陽子ようこさん。今日からここで働く仲間ですな」

「かっ。これ以上、俺の邪魔する人間増やすなって言ってんだろうが」

「そんな事言わずに……。君たち4人――七瀬さんを含めれば5人ですね。ここに配属された君たちには大いに期待してますからねぇ」


 おっと、もうこんな時間ですな。

 そう言って課長は部屋から出ていこうとする。


「あ、あの私は!」


 部屋から出ていく直前、私は急いで呼び止めた。


「何をすればいいでしょう?」


 一日目とは言え、私に出来ることを頑張らないと。

 別に、王子様に似た人が来たから頑張るんじゃないのよ?

 世の為人の為に頑張るのが刑事ですから!


「そうですねぇ――彼に聞いてください」


 課長が部屋から出て、この部屋には私と王子様だけが残ってしまった。

 私と王子様が残った。

 あれ、これはひょっとして、いきなりボーナスシーン突入かな?


「おい、ヨーコ」

「はいィ!」


 いきなり下の名前で?

 まさか、本当に突入するの?


「俺は少し寝る。お前はそれまでに部屋ぁ片付ろ」

「喜んで!」


 もしよかったら膝枕でもしましょうか!

 なんて言いたいけど、これは現実。初対面の女性がそんなこと言ったら、引かれてしまう。


「お、おう」


 私の返事に引きつった顔で眠りに付く王子様。


「はっ!」


 そうだ、眠りに付く前に名前聞いておかないと。


「そうだ、おうじさま……じゃなくて、先輩の名前を教えてください!」

「何かうるせぇ奴が入ったな」

「私、うるさいです!」

「俺はすずめ 朱理あかりだ」  


 男は自分のデスクに座り、天を仰ぐように眠りについた。


「朱理さんかぁ。見た目に反して可愛い名前!」

「おい、聞こえてるぞ……」

「すいません!」


 怒られた。

 でも――思ってたより良い職場だと思う。

 理想の王子がいるしね!


02


 一時間程して朱理さんは目を覚ました。


「おい、ヨーコ。何か食うものねぇか?」

「あります!」


 そう言うだろうと思って、私はちゃんと料理もしてた――なぜなら、朱理さんに似ているゲームのキャラも、何か食わせろと言っていたから。

 でかプリを完全攻略した私に死角はない。

 いいお嫁は掃除も食事も大事だもん。


豆乳辛とうにゅうから-メンです!」


 韓国風のインスタントメンがあったので、拝借をして作っておいた。

 掃除をしながらも、いつ起きるのか、常に視線をそらさなかったので、出来立てアツアツは食べて貰える。


「おまっ。これあいつのラーメン使ったのか? いや、別にいいか」

「はい?」

「いや、食うぜ?」


 男らしく麺を啜る朱理さんの横顔。

 もう、麺になりたい!


「じろじろ見てんじゃねぇ。食いづれぇだろ」

「そんなみるななんて……」

「何で照れんだよ」


 ドン。と、スープを飲み干したどんぶりを机に叩きつける。

 

「うっし。じゃあ、やるかな」

「や、やるっ?」


 え、ちょっとまさか。そんな。

 もう、テンポよく進むんだから、朱理さんは!


「そんな初対面なのに!?」

「かっ。仕事に初対面も関係あるか――これを見ろ」


 朱理さんは先程まで課長が使ってたホワイトボードを裏返して、顔写真を張っていく。


「おお、ドラマだっ!」

「取り敢えず黙れ」


 慣れた手つきは出来る刑事そのものだ。


「俺達の仕事がどんなものか、しっかり体験した貰わねぇとな」

「ぜひ体験させてください」


 仕事で認めてもらえれば……彼女になれるかも!


「その元気がいつまで持つか……見ものだ。今回俺が追っている悪魔――」


 ホワイトボートに張り付けられた写真の一枚に丸を付ける。

 その写真は人の燃えた後のような――死体。


「うわぁ!」

「たかが、写真だ――いちいち騒ぐな」

「でも、だって」

「……ったく。何でここにくる人間はこんな奴らばっかなんだよ」

「それは私も聞きたいくらいです」

「じゃ、仕事で手柄上げて出世するんだな。恐らく、死体の状態からして――『悪魔』は激情の炎」


 激情はいかり

 人の欲望なんて――解釈ひとつな気がするのは私だけだろうか? 

 死体現場には火の気がないのに、二人は焼死していた。

 そのあり得ない状況だからこそ、激情だって朱理さんは判断したんだろうけど……。

 

「被害者二人は恋人同士だった。そこから考えれば動機はすぐに分かる」


 被害者の一人、男性は、杉本 弘樹24歳。一流大学卒のエリートで、女性の方は、同じ大学に通っていた、鈴木 緑 21歳。

 同じ大学が結んだ熱い恋。

 なら、きっと――、 


「燃える様な恋に落ちて、実際に燃えてしまったとか!」

「とか! じゃねぇよ。馬鹿かお前は! 俺を馬鹿にしてんのか」

「そんな。王子様を馬鹿になんて!」

「やっぱ、馬鹿にしてんなぁ」


 胸ポケットに手を入れ、何かを取り出そうとしているが、思い留まったのか何も取り出さずに拳を握る。

 この人――まさか拳銃で?

 私を撃とうとしたの?

 そんなことしなくても心はもう打ち抜かれてますっ!


「なるほどな――。おもしれぇ」

「?」

「頭の悪いお前に教えてやる。恋愛に絡めるのはまあ、普通だが正しい」

「ほえ、でも、恋愛なら、やっぱ嫉妬じゃないんですか?」


 どうなんだろ?

 激情と嫉妬。

 そのシュチュエーションによっては、限りなく近いと思うんだけどな。

 

「はっ、俺にとっては動機なんてどうでもいいさ。ただ、悪魔の薬である『七つの財源』を使用している人間を許さねぇ」


 炎を操る激情と、水を操る嫉妬は対局の欲望。

 なら、被害者が焼死してしまっている以上――『激情』に主観を置いて捜査を進めた方が、進展は早いといいたいのかな?

 それにしても朱理さん……。 


「顔。顔!」


 そんな顔をしては、刑事と言うよりも完全に犯罪者だ。

 指名手配犯だけは見かけで判断していいと、その昔お父さんに言われたものだ。お父さん自身が顔が怖いので、小学生の時は、お前の父ちゃん、ヤ○ザと言われたものだ。


「あん? 顔がどうした?」

「えーと、犯罪者になってますよ」

「はっ。何言ってやがる。人を捕まえる警察も、権力に隠れた犯罪者だ」

「そんな……」


 人を守る警察と、人を危険にさらす犯罪者が同じなんて――極論過ぎる。

 なによ、その人類みな兄弟みたいな考え。

 朱理さんみたいなお兄さんは確かに欲しいけど、出来れば、一緒に海と行きたいけど、だからと言って、そんな私の大好きな警察(イケメン刑事)を犯罪者と一緒にされたくない。


「そんな甘い考えじゃ、ここでは生き残れないぜ?」


 朱理さんは自身の上着を肩に担いで席から立ち上がる。


「それを――お前にも教えてやる」


「日野 彰。手前ぇが犯人だ」


 私と朱理さんは今、小さな借家へと訪れていた。

 この家に住んでいるのは日野 彰で、容疑者候補の内の一人だと言われて、この場所に来たのに、家の中から出てきた、顔色の悪い青年を見るや――朱理さんはその青年を犯人だと断定したのだ。


「ちょ、ちょっと、朱理さん? まだ証拠がないから聞き込みにきたんですよね?」


 この事件で上がった容疑者は日野 彰を含めて三人。

 殺された女性のストーカー、日野 彰。殺された男の浮気相手、月下つきした ひかり。最近は毎晩のようにあっていたらしい。殺されたカップルの共通の知人 木場きば 貴志たかし。この男が恋のキューピットとなった。

 その三人の中でも、最も『激情の炎』に近い人物。それが日野だと言うのだ。

 激情――それは憤怒。

 人間に置いても原初的な感情である。

 それ故に生物が嫌う炎を操れるのかも知れないけど、果たして彼はどうなのだろうか。


「お宅ら、誰?」


 いきなり犯人だとか言われても理解できないのか、私たちが何者かと問うてくる。うん、思ったより普通の反応。初夏と言う事もあり、薄らと汗を浮かべている日野。暑さのせいもあってかィ苛ついている気がする。

 それでも、私は、


「くそ!? 何でバレタ? こうなったら『激情の炎』で燃やし尽くしてやるぜ!」

「朱理さん、危ない!」


 と、朱理さんをかばい、私は重傷を負うも、何とか朱理さんは事件を解決する。そして、その後――命がけで庇った私に惚れ、朱理さんがこう言うんだ。


「結婚してくれ」


 キャー! 

 理想、超理想。

 てっきり、そんな展開になると思ってたのに……。

 現実はそんなに甘くない。


「ああ。こういうもんだ」


 朱理さんが自分の警察手帳を見せる。


「罪源七課――雀 朱理だ」

「罪源七課って……。俺はそんな危ないもん使ってないですって」


 罪源七課に付いては知っているようで、自分は何も使ってないことをアピールする。


「なんなら、ほら、部屋の中調べて貰っても構わねぇし」

「本当に使ってないのか?」


 朱理さんが疑うのも私にはわかる。

 一方的に女性をストーキングしていた日野。何かの拍子にいかって薬を使ったと考えれば、『激情の炎』も納得がいく。

 もう一人の女性は浮気相手。なら、発症するのは『嫉妬の水』の確率が高い。

 これは私の勝手な解釈だけど。


「本当だよ……っがぁ、あああああああ!! あああ。ああああああ、ああ!!!」


 その時――炎が日野を襲った。


「なに、なんですか? これ、え? 自殺?」

「そんな訳あるか! 水、水だ!」


 水と言われても近くに川とかは見当たらないし、家の中に入ろうにも玄関で燃え続けている日野が邪魔をして中には入れない。

 炎が家へと燃え広がり、家が赤く染まっていく。


「とりあえず、救急車と消防車、呼びます!」


 急いで連絡を取る。

 

(はやく来てよー)


 そう祈りながら待ってる間もどんどんと火が広がってく。

 私はただ、茫然とスマホを握ってる間にも、朱理さんは近くの住民、住宅に被害が広がらない様にと、走り回っていた。


03


 夜。

 私は一人、罪源七課で待っていた。

 ガチャ。

 扉の開いた先にいたのは朱理さん。燃えた日野の死体を凝視できなかった私を気遣って、一人で対応ををしてくれていたのだ。


「残念だが、日野は死んだ」


 ホワイトボードに貼られた日野の写真に×を付ける。


「まさか、あんなことになるとは、思ってなかった。悪かったな」

「いえ、十分に分かりました。仕事の厳しさを」


 日野さんが犯人じゃなかった。

 でも、何で殺されたの? もしかしたら、あの炎に焼かれていたのは――私かも知れないし、朱理さんかも知れない。 


「今回の犯人はかなりヤバい。まさか、刑事おれたちの前で人を殺すなんてなぁ。舐めてやがる」


 思いっきり机を叩く朱理さん。

 かなり怒っている様だ。


「くそ、炎なのは分かってるのに――容疑者の中にはもう」


 激情の炎。

 属性が決まっているだけに、それが外れた時の代償が大きい。


「やっぱ、女性が嫉妬じゃなくて、激情なんですかね?」


 もう一人の共通の知人に至っては、二人をくっつけた、キューピット。悪魔では無くて天使なのだから、どの属性にも当てはまらないだろう。


「そうなのか……」


 沈黙。

 しかし、その静けさを破る様に、扉が開いた。


「あうっ」


 そこにいたのは、眼鏡をかけた知的な男性。

 この人物もかなりのイケメンであり、ゲームや漫画に出てきそうな、執事の風貌。スーツと眼鏡が似合うこと似合うこと。


「嘆かわしい……」


 入ってきていきなり、椅子に座って、何かを考えている朱理さんに向かい、そう言葉を投げかけた。


「あなたの適当な行動で、人が一人死んでしまいました。これで分かったでしょう? もう古いんですよ、一人一人を足を使って調べるなんて――昭和じゃないんですから」

「はっ。古いも新しいも関係ねぇ。俺は俺のやり方で進めるだけだ」

「それで、失敗したんでしょう?」


 二人は仲が良くないのだろうか。

 空気が重い――重いっていうよりも、悪い。この部屋全体がキムチ鍋になった気分だ。

 あ、ピリピリしてるって事ね。


「あの……、あなたは?」


 険悪な空気を和らげようと、私は初めて見る執事の風貌の男に声をかける。


「すいません、お嬢さん。挨拶が遅れました、私は青島あおしま 龍二りゅうじと申します」


 以後お見知り置きを、と膝を付いて私の手を取る。

 そんな仕草、もう漫画!

 私は漫画の世界に入り込んだの?

 と、興奮するが――今の状況を思い出し、自分の気持ちを落ち着かせる。


「私も罪源七課ここの刑事です。今は、忙しいのですが、落ち着いたら、こんな馬鹿よりも、私と共に仕事しましょうね」


 それだけ言って部屋から出ていった。


「はて? 何しに来たんでしょう」

「失敗した俺を馬鹿にしに来たんだろう、陰険な野郎だからな」

「そうなんですか?」

「ああ。俺が失敗するたびに、どんなに自分の仕事が忙しかろうと――必ず俺を馬鹿にしにくる。火に油を注ぐのが大好きな冷酷な男だ。もっと、普段は黙って俺を見下してみてるだけなんだが」


 今日は新人がいたから、良い姿を見せたかったんだろうぜ。朱理さんは悪態をついた。 

 火に油を注ぐ。

 けど、今の朱理さんをみると、まるで励ましに来たみたいではなかろうか? さっきよりも目に見えて、元気になっている。


「こうなりゃ、絶対捕まえてやる」

「あ、あの! じゃあ、もう一度事件の全貌を私に教えて貰えませんか?」


 二人のカップルが焼死した事と、『七つの罪源』が絡んでいるとしか教えて貰っていない。犯行時刻、人間関係を洗えば、新たな容疑者が浮かび上がってくるのではないかな? ドラマの見すぎか?


「なんで新人のお前に……」

「人に教える時は頭を整理しながら話すので、良いとよく言いますし」

「なるほどな。それは一理あるか」


 私は朱理さんから事件の全貌を聞いた。まずは、二人のカップルが死んだ時刻と場所。

 平日の昼間。

 ある公園で、衣服が脱ぎ捨てられた状態で燃やされた。


「服が脱ぎ捨てられてた。ですか……」

「ああ。だけど、あそこでは普通なんだよ」


 その公園は、昼間から――外で性行為を出来るとネットで一定の若者たちの間で話題になっていたらしい。

 人通りも少なく、木陰に入れば、通行者からは見えない。

 スリルと快感を一度に味わえると。

 

「そんな馬鹿な……」


 外で、しかも昼間に性行為。

 考えただけで恥ずかしくて死にそうになる。


「全くだ。下らねぇ」


 その現場、犯行時刻から、移動可能な範囲。容疑者の職業を割り出して――アリバイが無かったのが、あの三人だったと。

 

「その三人の中でも、二人にちょっかいをかけてたのが日野で、激情の可能性があった。だからこそ、一番最初に、聞き込みに言ったんだがな……」

「なるほど……」


 残りの二人の説明を受けて、私も朱理さんの判断は間違っていないと思う。

 男の浮気相手、月下 光。

 毎晩あっていると行っていたが――彼女はキャバクラ嬢。彼女は独立しようと、一流大学卒の杉本に相談していたようだ。


「その理由が、二人でバーをやろうと相談してたって噂だ。既に何件か店の候補を立てていた」


 ふむ。

 その話がこじれて、殺してしまった? でも、それじゃあ、わざわざ彼女まで殺す必要はない――と、いうか、嫉妬じゃないじゃん。私はすぐ色恋に結び付けようとする――本当に、悪い癖だ。

 

「それでもう一人は確か――恋のキューピットさん。でしたよね?」


 木場 貴志。

 一応、アリバイはないから入れてはいるが、動機がない為、ほとんど候補から外れていた。

 しかし、わずかでも可能性があれば疑うのが刑事である。

 それが、朱理さんの信念らしい。

 因みに、似たようなことを、でかプリで朱理さん(に、似ているキャラ)が言っていたので、ちょっと、ときめいたりもする。


「恋のキューピットか~。いいなー、私にも現れないですかね?」

「知るか。俺に聞くんじゃねぇよ」

「ひどいっ!」


 ま、恋は自分で掴むモノだもんね。ごめん、恋のキューピットさん。私には現れないでいいよ!

 心の中で現れたかも知れない未知の天使に誤っておいた。

 あ、そう言えば……。

 ネットで昔こんな記事を読んだ気がする。

 恋のキューピットや、人と人をめぐり合わせる人は――自分で恋が出来ないから、代わりに人をくっつけるのだと。

 しかし、彼氏いない歴の長い私は、そんな馬鹿な……。自分に彼女、彼氏がいるから、勝者の余裕なんですぜい。

 と、一人記事に突っ込んでいたのを覚えている。


「ええと、木場さんは彼女はいるんですかね?」


 私の考えは合っている筈と、確認をすべく朱理さんに問いかける。事件には全く関係ないんだけどね。


「いや、確か――独り身だ。彼女もいない」

「あれ?」

「どうした、何か分かったのか?」

「いえ、自分の理論が間違ってました」


 私が昔読んだ記事の内容を朱理さんに教えた。ついでに、私の理論も聞いてもらおうと思ったのだけど、その内容を聞いた途端、


「まさかな……。いや、でもだ。だとしたら――龍二の奴……」

「龍二さんがどうかしたんですか?」

「いや、何でもねぇ――まさか、本当にいい恰好していきやがったとはな」


 龍二さんの机を見ながら、朱理さんは鼻を鳴らした。


 朱理さんは翌日、この事件の犯人である人物――木場 貴志を誘き寄せると、私を例の公園に連れてきた。

 なるほど、体の大きな朱理さんがしゃがんでいるのに、通行する道路からはその姿は何も見えない。声にだけ気を付ければ、ばれないだろう。

 私は、しゃがんでいる朱理さんの元に行き、同じように腰を下ろした。


「それで、どうやって木場さんを誘うんですか?」

「いや、それは心配するな。もう呼んだ」


 朱理さんは言いながら、私にスマホの画面を見せて来た。画面に映っていたのはメールの送信画面。

 宛先は木場 貴志になっていた。


「ふむふ……。え、ええええぇっ!」


 内容を読み進めるにあたって、私の顔は赤くなる。


「ちょっと、朱理さん。これ、本当に? え? え!!?」

「ああ。これなら恐らく奴は来る」


 それから数十分後。メールに乗っていた時刻よりも僅かに遅れてだけど、木場さんは本当にやって来た。どんなつもりで来たかは知らないけど……。


「よく来たな。木場 貴志」


 木陰から立ち上がる朱理さん。私はまだ、混乱から立ち直れずに、しゃがんだままだった。


「あのメールで来るって事は、相当に捕まらない自身があるか――変態かだな」


 そう――朱理さんが送ったメールは、どんでもない内容であった。


 正午に、杉本と鈴木が犠牲になった例の公園で待つ。

 もしも来てくれたのならば、俺は七瀬 陽子とその場で性行為を行う。

 

 そんな内容だった。

 え、ちょっと、性行為!?  しかも、その場って事は屋外ですよね!? 考えただけで顔から火が吹き出そうだった。


「なにを言っているんですか……? 警察に協力するのは国民の義務ですよ」

「そうかよ」

「でも、あんなメール送るってあなたの方が変態なんじゃないですか?」

「さあな……。それより、見せてくれよ、『七つの罪源』をよォ」


 朱理さんは、犯人である木場を挑発する。

 でも、こんな好青年で、人当たりのいい人が、人を燃やすなんて……。


「『七つの罪源』。それほ僕も知っていますが……。僕には使えません」

「嘘つくなよ……。こっちは大体もう理解してんだからよ」

 

 朱理さんはこの事件を既に解決した。と、そう言った。

 犯人が使う『あ七つの罪源』の感情と属性。そして、動機。

 被害者が焼死していたから、激情の炎だと決めつけてしまった朱理さんだけど、何も物を燃やすだけなら――炎じゃなくても十分可能だ。


「お前の罪は――肉欲の木だ」


 肉欲は――性欲だ。

 その罪源が司る属性は木。確かに木があれば炎は大きくなるし、火を起こせるけど――私たちの前でいきなり燃えだした日野。

 その真相を朱理さんは分かっているのだろうか?


「肉欲の木?」


 分からないですねと、首を傾げる木場さん。

 

「だから、私は確かにアリバイはありませんでしたが、そんなどうやって離れた場所から火を起こしたんですかねぇ」


 私と同じ疑問を木場さんも口にする。

 原理が分からなければ、証拠にはなりえない。


「植物性油」

「は?」

「……」


 私はすっとんきょうな声を上げてしまったが、木場さんは黙ったままだった。その沈黙は何を示すのか。それは本人にしかわからないだろうけど。


「その沈黙を肯定だと受け取らしてもらうぜ」

「え、ちょっと朱理さん? 油は確かに燃えそうだけど――それじゃあ、火の気が無かったのに燃えた状況には結びつかないと思うんですけど?」

「ああ」


 マッチやライターで火を付けられた後も無く、近くに油の後も無かった。だからこそ、『悪魔』の仕業と断定されて、罪源七課あくまかに割り振られたんじゃないの? 悪魔課はそう言う場所だって資料にはあったんだけどな。

 

「食物性油は、熱を浴びると発火する。そんな性質があるらしい――自在に植物を操る事が出来る罪、『肉欲の木』。ならば――それくらい出来てもおかしくないだろ」

「だとしても」


 木場さんがそこで口をはさんだ。


「植物を操れたとして、俺が何であの二人を殺さなきゃいけないんだよ!」

「それも分かってるから慌てんなよ――それは『七つの罪源』が教えてくれてる」


 『七つの罪源』は肉欲。

 肉欲は性欲だってことだから……。


「お前は、あの二人以外にも何人も何組もカップルを成立させてきたらしいな。その中の一部にこの場所を教えてた。違うか?」

「それがどうした! 別に悪い事じゃない。何だ、カップルを成立させるのは犯罪か?」


 いえ、むしろ良い事だと思います!


「けど、肝心のお前は恋人がいない。そして、何故わざわざ屋外のこの場所を教えるのか。それは、自分がその行為を覗くためだ。違うか?」

「覗くって……」

「こいつは人の性行為を見ることでしか、興奮しないんだと――俺は思っている」


 人の性行為でしか興奮できない?

 だから、メールには性行為をすると記載していたのか。そうすれば必ず来ると。


「そこまでは分かったんだが――あとひとつだけ分からねぇことがある。何で殺す必要があった?」


 覗くだけで満足していただけならそれでよかった。

 なのに、何で燃やしてまで殺してしまったのか?


「性行為は神聖なんだよ。何回も獣みたいになぁ、していい行為じゃないんだ!」


 穏やかで優しそうな木場さんの表情が一変する。

 

「だから、燃やした。自分たちの放つ熱と、神聖な太陽の光で身を焼けるように。俺の望んだ力を――『七つの罪源』は与えてくれた」

「そんな……」


 たった、それだけの為に二人を殺したの?


「相応しいカップリングがようやく誕生して、神聖な姿で天へ召された。そして、次に目をつけたカップリングが、聞き込みをしてたお前ら二人だ。危機を乗り越えれば絆は深まる。その為に日野を殺した」

「そんな事の為に……」

「お前にとってはそんな事かも知れないけど、俺には違うんだよ!」


 木場はズボンのポケットから、粒状に小分けされた袋を取り出して、水もなしにその粒をかみ砕き、一息に飲み込んだ。

 欠陥が浮かび上がり、体中の筋肉が痙攣をしている。

 その姿は『悪魔』の名に相応しい狂気に満ちた姿だった。


「お前たちを殺せば、俺の欲望は満たされ続ける!」


 木場の腕から霧状に噴霧された食物油、それも相当密度が高いのか、光に浴びた瞬間に火へと変化していく。私は身を掲げ、咄嗟に伏せるが――朱理さんは、


「この程度、避けるまでもねぇな」


 正面から炎を受けた。

 立ったまま、よろ付く事も無く、ただ燃え続ける人柱と化した朱理さん。


「え、ちょっと……」

「そうだ、燃えろ、燃え尽きろ!」


 そんな木場の思いは届かずに、延々と朱理さんは燃え続けた。ここまで火だるまになったのに、何故平然と立っていられるのだろう。


「朱理さん……?」


 炎の中、首を鳴らす音が聞こえたと思うと、自分の体を覆い、燃え続ける炎を、朱理さんは手で振り払う。

 それだけの行為で――体にまとっていた炎が消えた。


「な、なんだよ! その姿はぁ!?」

 

 裏返った声で木場が驚くのも分かる。

 背中から朱い羽を生やし、炎を纏う朱理さん。その姿は『悪魔』でもない――神々しい姿だった。

 人とは思えぬ朱理さんではあったけど、普通に話せるようで、


「『七つの罪源』に対抗するために作られた、罪源七課特性の薬――『情』」


 と、教えてくれた。

 情?

 そんな薬を警察作っていたなんて……。

 確かに獣は獣の扱いをしろと、言うけれど、しかし、化け物を相手にするとき――自分も化け物になってはいけない――と、考えた所で朱理さんの言葉を思い出した。

 そうだ、確かに言っていた。犯罪者も警察も同じだ……、と。

 

「人が持つ欲よりも綺麗で、純粋な感情、『喜怒哀楽』。その内の『怒』の感情で発動する俺専用の姿――『朱雀』だ」

「朱雀?」

「ああ、俺はそう呼んでる。この状態になりゃあ、油を燃やして作った程度の炎じゃ、全然熱くもねえ。てめぇの汚い欲望を燃やす俺の炎は――もっと熱いぜ?」


 朱理さんが、


 ふっ。


 と、羽で空を仰いだ。

 ただそれだけの動作で、目の前に立っていた木場は意識を失う。僅かに朱理さんが起こした熱風。木場の髪を僅かに揺らした程度、ただそれだけの風圧で人の意識を吹き飛ばしてしまった……。

 どんな威力だ。


「ええ……!?」


 一方的な朱理さんのパワープレイによって、――事件は幕を下ろした。事件が解決したのは嬉しいけど――そんな裏技あるなら早く使えばよかったのに……。 

 そう思ってしまう私がいた。


 04


「課長! 何ですか『情』って。何ですか、朱理さんのあれ! 私もあんな事させられるんですか!?」


 翌日。

 定時になってもやはり部屋には私と課長しかいなかった。それを良い事に私は課長を問い詰める。


「あんな物あるなら、何でもっと扱わないんですか!」


 あれだけの力があれば、『七つの罪源』に渡り合えるどころが、十分圧倒できる。その薬を使わないなんて、勿体無い。


「まさか、朱理くんが?」

「ええ、朱雀ですっけ、あれ。良いですね、かっこいいですね」

「あまり使うなと言っているんですがねぇ」


 ため息を付く課長。

 『情』は私が思ているほど強力でもないし、むしろ、『七つの罪源』よりも危険な薬だと、そう教えてくれた。


「『情』はもろ刃の刃ですな。『七つの罪源』を圧倒しえる力を持っているのですが、その代償はでかいのです」

「代償?」

「ええ。使用者の寿命ですな」

「寿命って」

「しかも、扱うのが難しくて、下手をすればその場でコロンしちゃいますな」


 上手く扱っても命は減るし、下手したら死んでしまう。

 そんな薬を朱理さんは平然と扱ったって事?


「彼らはその薬を使う代わりに、国から可能な限り一つの願いを叶えると、契約しております」


 『情』とは言ってますが、原理は『七つの罪源』と同じで――朱理さんも龍二さんも欲の為に戦っているんだ。


「それが彼らの覚悟。私たちにはとやかく言う権利はないですな」

「そんな……」


 その時、扉の前で何やら言い合っている二人の声が聞こえてきた。


「ふざけんな。あいつは俺の相棒になんだよ! お前みたいな生真面目野郎は一人で行動してろ!」

「はあ。あなたのせいで彼女は危険な目に遭ったのです。私ならそんな目に合わせませんよ」

「あいつだって刑事だ。危険は承知してるだろうぜ!」


 扉が壊れるんじゃないだろうかという勢いで入ってきた二人の刑事。

 雀 朱理さんと青島 龍二。

 部屋を見渡し、私と二人の目が合う。我先にと私の方へと走り寄り、


「事件だ」

「事件です」


 と、私に手を差し伸べる。

 あれ?

 なにこれ。乙女げーの主人公みたいじゃん。私の求めていた理想像じゃん。

 私はそ嬉しくなって二人の手を取った。


「はい!」


 例え、命が危険だろうと、やっぱり私はここで働きたい。

 イケメンの刑事と結婚する。その為になら――危険なんて、愛の障害だと突破して見せる。私は二人に引きずられるようにして、部屋から連れ出される。


「まだ、離し終わってないんですけどねぇ」


 と、寂しそうではあるけど、どこか嬉しそうな課長の声が私の耳に残った。


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