世界に嫌われた者【下】
青年は組織を抜けた。
自分を認めてくれた者を裏切る事に後ろめたさがあったが
それ以上に彼女を守りたかった。
彼女もまた、自分と同じ苦しみをしてきた青年に惹かれていた。
二人は人里離れた山奥で暮らす事となった。
生活は苦しかったが、二人は幸せだった。
ある日、青年が畑仕事から帰ってくると
家の扉に書き置きがあった。
(サンと会いたければ丘の上へ来い…シャドウ)
青年は理解した…組織の追っ手が来たのだと。
丘の上に向かった青年が見たのは
サンに銃口を向けた「あの男」だった。
男は問う…何故、組織を裏切ったのか、と
青年は言った。
自分と同じ苦しみをしてきた彼女を殺す事は出来なかった…裏切りの制裁は自分で償うと。
それを聞いた男は青年に向かって発砲する。
青年の太股を銃弾が貫いた。
捕らわれていたサンが男を突き飛ばし、倒れた青年に覆い被さる。
男は構わず発砲し、いくつもの銃弾が彼女の背中に当たった。
青年は隠し持っていた短剣を取りだし、男に向かって投げつける。
短剣を受けた男は銃を落として倒れた。
青年は血だらけになった彼女を起こした…
銃弾は彼女に致命傷を与えていた。
彼女は言った…一緒に暮らして自分の能力は失われた。
少しの間だったけれど、本当に幸せだった、と
「私の分まで…貴方は生きて。そして…私にくれた愛情を他の人に…」
そう言い残して彼女は死んでいった。
青年は叫び、そして泣いた…
短剣を受けた男は上半身を起こし、息も絶え絶えに青年に言いはなった。
数多くの人間を殺したお前が、人並みに幸せになれると思ったのか?
お前は彼女を世界から奪い、そして組織からも追われる羽目になった。
お前には、もう何も残ってはいない。
そう言い残して男は死んだ。
青年は悲しみの中、丘の上に彼女の墓を作った。
彼女が好きだった「太陽の花」が咲くように、墓の周りに沢山の種を植えた。
そして青年は姿を消す…
ほどなくして、世界各地の犯罪組織が次々と壊滅していった。
生き残った者は口々に言う…
「影が来る…」と
青年の名は伝説となった。
あるものは彼女を奪った大罪人と…
また、あるものは世界の平和を守る守護者だと…
月日が流れ、彼女の墓の近くに村ができた。
その村の人間はこう言う。
毎年、同じ日に丘の上にある墓を訪ねてくる男がいる。
その男は必ず「太陽の花」を墓に添えて、悲しい顔をしながら呟き、去っていくのだと…
これは…世界に嫌われながらも生き抜いた、悲しい青年のお話。