姉さんは溶接の神になり、眩しさで時計は滲む、そんな一週間。
ある冬の月曜日――
「このあいだはありがとね。姉さんのおかげで勇気出た」
「私は大したことしてないわよ。・・・で、どうだったの?」
「無事付き合えましたー! イェイ」
そう言ってVサインを出したのは、先週、私に恋愛相談を持ちかけてきた同級生、猫下 彩だ。
「良かったわね。栗原くんとずっと仲良くね」
「ありがとう。やっぱ姉さんに相談してよかったわ。特に『アナタが告白するよりも先に、栗原くんに恋人ができてもいいの?』って言われた時はハッとしたもん」
『姉さん』とは私のニックネームである。「姉川 智香」それが私の本名だ。
「てかさ、姉さんって皆の恋愛相談に乗ってくれてるけど、姉さん自身は彼氏作んないの?」
「私はまだ、そういうのはいいかな」
「気になってる人とかいないの?」
「気になってる人はいなくもないんだけどね…」
「え!? ウソ!? 誰? 誰?? 教えてよ! 私も協力してあげるからさ!!」
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくわ。 でも、私のことなんて気にしなくていいから、せっかくできた彼氏と存分にイチャついてらっしゃい」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな! でも、姉さんが困った時はいつでも協力するからね!」
そういって、猫下はクラスの栗原 誠くんの方へパタパタと駆けて行った。
“まこくぅーん。私、数学の宿題わかんなかったの~。まこくん教えてぇ~”
なんて言いながら。
―――猫かぶってんじゃねぇよ! 猫下てめぇ、得意科目は数学だって言ってたじゃねぇか!!
カップルってヤツはどうして、こうも人を腹立たせるんだ!? ふと、そう思った。
けれど、答えは分かりきっている。ただ、嫉妬をしているだけなのだ。
きっと彼氏・彼女がいる人たちは、あんなカップルをみても腹は立たないだろう。
正直、羨ましい。
――姉さん自身は彼氏作んないの?
――私はまだ、そういうのはいいかな。
さっきのやり取りが頭の中を駆け巡る。
ホントは、彼氏が欲しい。いや、ただ彼氏が欲しいんじゃなくて、アイツと付き合いたい。
私には好きな人がいる。
私のところへ恋愛相談に来る人たちに向けて、「勇気を持ち、思い切って告白してこい」私はそんな言葉を度々投げかける。
けれど、一番それができてないのは私だ。「意気地なし」それが私にぴったりの称号だろう。
「なぁ、姉川ってさ、よく恋愛相談受けてるよな?」
「ええ、今日の放課後も相談を受ける予定が入ってるわ。だけど、それがどうかしたの?」
急に声をかけてきたのは、隣の席の三宅 響哉。
「いや、誰かがお前に相談する度に新しいカップルが誕生するじゃん? なのに、何でお前ってカップルを超険しい目で睨んでんの?」
「え? ウソ!? 私、そんなに怖い目してた?」
「してたぞ? 『●ね! クソ【自主規制】どもが!』って、目が物語ってたぞ?」
言えない! 本当にそう思ってただなんて…。
「…………そんな事ないわよ?」
「え、何? 今の間は?」
「だ、だいたい私が、伏字になるような汚い言葉遣いをするわけがないじゃない」
「いや、お前から汚い言葉遣いを取ったら何も残らな――
「何か言った?」
急に黙り込み、脂汗を流し始めた三宅の鳩尾には、深々と突き刺さる私の拳。
「何も…、言ってません……」
「そう。ならいいわ」
失礼極まりない三宅も沈めたことだし、ホームルームまで本でも読んでいようかな。
そう思って、持ってきた本に手を伸ばしたとき、チャイムがなった。
「はーい、みんな席つけー。よし座ったな。じゃあ、委員長号令かけて」
「きり~つ、 れぇ、 ちゃくせ~きぃ」
委員長のやる気の無い号令で一日が始まる。
失礼なアホと、無気力としか言いようの無いルーム長の号令のせいで、「意気地なし」だとか悩んでたのがどうでもよくなってしまった。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
放課後。
夕日が照らす教室で、私は恋愛相談を受けていた。
「あ、あの…恋愛相談、よ、よろしくお願いします」
緊張しつつ頭を下げたのは、木田 秋くん。この時間に恋愛相談の予約を入れていた男子だ。
「そんな緊張しなくていいわよ、木田くん」
そう言って、微笑むと、木田くんは少し落ち着いた。そして彼は、私に尋ねた。
「あのさ、姉川さん。男なのに恋愛相談するのって変かな…?」
「そんな事ないわよ? 男からの恋愛相談も実は結構多いのよ」
「あ、そうなんだ…。じゃあ、僕にも溶接神さんのお力を貸してください」
「もちろんいいわよ。でも、その『溶接神』って何かしら?」
「あれ、姉川さん知らないの? 皆の間で姉川さんは『溶接神』ってよばれてるんだよ? なんか、どんなに相性の悪そうな人たちでも確実にくっつけるから『溶接神』だってさ」
何だその可愛くない称号は…。超、いらねぇ……。
「ま、まぁ『溶接神』の件は置いといて、恋愛相談、さっそく始めましょうか」
「よろしくお願いします」
「いきなりだけど、あなたの好きな人は誰? あ、別に言いたくなかったら別に言わなくて良いわよ」
「じゃ、じゃあ匿名でお願いします」
木田くんのように、好きな人の名前を伏せて相談する人も多い。それも、名前を伏せての相談は男の方が多い。最近の男どもはホントに女々しいんだから…。
「じゃあ、匿名で進めていくわね。で、あなたはどう告白しようと思ってるの?」
「最初はメールで告白しようと思ってたんだけど…。やっぱり直接言わないとだめかな…?」
「いや、あなたの場合はメールでの告白が良いと思うわ。木田くんは真面目で誠実な印象が強いから、相手もしっかり受け止めてくれるはずよ」
「それでいいのかな…」
「あなたなら大丈夫よ! それに、木田くん、あなた緊張せずに、ちゃんと直接告白するなんて事できるの?」
「できないかも…。」
「でしょ? でも、メールならできそうでしょ?」
「うん…。 そうだね! ありがとう。じゃあ、メールにしてみるよ」
木田くんは、そう言って笑顔を見せた。が、すぐに俯き、不安げな表情になった。
「うまくいくかなぁ…」
「木田くん。あなたなら、きっとうまくいくから! 勇気を持って、思い切って告白してきなさい!!」
木田くんが吹っ切れたような笑顔になる。
「そうだね、ありがとう。じゃあ、早速、今日メールしてみるよ!」
そう告げ、木田くんは早足で教室を出て行った。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
翌日の火曜日――
朝、教室につくと、私の机の上に紙切れが置いてあった。
『 姉川さん、ありがとう。 ――木田 』
どうやら、うまくいったようね。おめでとう。
心の中でそう呟いた時、木田くんが彼女と一緒に登校してきた。
「あ! 姉川さん、昨日はどうもありがとう。お陰で付き合えることになりました」
目が会うと、彼は照れたような笑顔でそう言った。
「よかったわね。末永くお幸せにね」
「姉さん、ちょっとやめてよぉ。『末永くお幸せに』とか、そんな言い方だと、私たち結婚するみたいじゃん」
満更でもなさそうに彼女の方が訂正を求めてきやがった。
私は、微笑みつつ彼女の訂正を無視してやった。ちなみに、木田くんの彼女は、同じクラスの青塚 真希だった。
―――なんで、てめぇのんが先に彼氏作ってんだよ! 先週、「あたし、彼氏とかそういうのは、ちょっと興味ないなー」って言ってたの、私はちゃんと聞いたぞコノヤロー!
なんて思ってる間に、木田と青塚のヤツらは自分の席についていた。
全国のバカップルの不幸を全力で祈りながら、私も自分の席に着いた。
すると、三宅が声をかけてきた。
「おはよ、姉川。お前、またカップル誕生させたのか?」
「おはよ。そうなのよ。昨日、相談受けてまた新しくカップルが誕生させたわ。人を幸せにすると自分も幸せな気分になれるわよね」
「いや、お前幸せな気分になってねぇだろ。さっきの『末永くお幸せに』だって、俺には『爆発しやがれ』って心の声が聞こえたぞ?」
なんだコイツ…。エスパーか!?
三宅の発言を否定できない私は、話を逸らすことにした。
「最近、相談が増えたのよね。なぜかしら?」
「なぜって、そりゃ冬だからだろ」
「は? どうして、冬だと恋愛相談が増えるの?」
「だって、冬といえば、クリスマスやら、初詣やら、バレンタインやらでリア充には忙しい時期だろ? だから皆それまでに恋人が欲しいんだろ」
「なるほど…。そんな事考えもしなかったわ」
「まぁ、お前には縁の無い話だもんな。考えた事なくてもしょうがな(殴
「ちょ! なんで殴んだよ! しかも無言で殴るなよ!!」
「あら、ごめんなさい。条件反射で手が出ちゃったの」
「条件反射って…」
そう呟くと、三宅は、急に優しさと哀れみが混ざったような目になった。
「悪かったな。≪冬の行事を一緒に過ごす恋人ができない奴≫の気持ち考えてなかったわ。でもまぁ…きっと大丈夫だって! きっと再来年のクリスマスは彼氏と過ごせてるって!多分だけど。だから、な? 元気出せよ」
やめろ! 頼むからやめてくれ!! 優しさは時に人は傷つけるんだ…。優しさが、ツラい…。
涙が出そうになったとき、ふと気付いた。
「よく考えりゃ、お前も彼女いねぇじゃねぇか!! しかも、人を失礼な呼び方してんじゃねぇ!! あと、なに来年のクリスマスすっ飛ばしてんだてめぇ! さらに『多分だけど』って何だよ!? なんで励ましといて最後弱気になんだよ! そこは断言してくれよ!!」
三宅の言葉には『優しさ』なんて微塵も含まれてはいなかった。
「おぉ! ひとつ残らずツッコミを入れるとは…!」
なんか感心された。そんな感心いらねぇんだよ!
「てかさ、俺、思ったんだけど、姉川って好きな人とかいないの?」
―――好きな人? いるよ?
そんなこと、言えはしない。
言えるわけないよ………だって、アンタだから。 私の好きな人は三宅響哉だから…。
「好きな人? いたとしても、お前にだけは言わねぇよ、バーカ!」
結局、そんな事しか言えなかった。
「ふーん、いないんだ? まぁ、『いる』って言われても、いまいち想像できねぇけどな。ま、別にどっちゃでもいいわ。俺カンケーねぇし」
『ふーん』じゃねぇよ! 『俺カンケーねぇし』じゃねぇよ! いい加減気付けよ! 私の想いに気付いてくれよ! いつもみたいに、心の中見透かしてみせろよ! エスパーみたいな勘の良さをココで活かせよ!
心の中で鈍感な三宅を責めていると、チャイムが鳴った。三宅との会話はそこで終わった。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
よく晴れた水曜日――
朝の教室。段々と冬の寒さが厳しくなってきている。
「昨日はどの授業にも身が入らなかったなぁ」
ひとり呟く。
――てかさ、俺、思ったんだけど、姉川って好きな人とかいないの?
昨日、ずっと頭の中に響いていた言葉。この言葉のせいで、昨日は何にも集中できなかった。
「よっし。今日は切り替えて、授業に集中しよう!」
きっとあのアホのことだから、あの言葉に深い意味はないのだろう。
そう思うと、なんだか無性に腹が立ってきた。
―――あのアホ…! 大して考えもせずに吐きだした言葉で私を一日中悩ませやがって!
なんか、ホントに腹立ってきたな…。仕返しに目潰しくらいしてやってもコレ許されんじゃね?
そう思いつつカバンから筆箱を出していると、扉の開く音がした。
「おはよー」
そう言って教室に入ってきたのは、三宅だった。
三宅は、私が昨日悩み続けた事など気付いてないのだろう。彼は、自分の席に着くや否や、私に挨拶してきやがった。
「姉川、おは――って、ちょっと待て! なんで、いきなりシャーペンを刺そうとすんだよ! しかも完全に眼球を狙ってきてんじゃねぇか!!」
シャーペンを握った私の腕は、眼球ギリギリで三宅に受け止められてしまった。
「おまっ! すげぇ、力入ってんじゃねぇか!! マジ危ねぇからやめろって!」
私は、腕に全ての力を注いだが、やはり男の手を押し負かす事はできないようだ。
三宅の目の前(比喩抜きで)で一進一退の攻防が続く。
こうなったら…! カチカチカチカチカチ…
「うぉ!? 芯! 芯出てるって!」
“これ、0.3ミリじゃねぇか! 鋭すぎるって!!” 三宅が戦慄している。
「しかも、よく見たら、このシャーペン、クルトガじゃねぇか! マジやめろって! クルトガの殺傷力はハンパないんだって!!」
「ねぇ、三宅くん。どうして、人間の目が2つあるか知ってる?」
「どうしてって、それは、2つあることによって、物体を立体的に見ることができ――って、待て! 違うぞ! 決して、≪一つ潰れてもいいから≫とかじゃねぇぞ!?」
数分に渡る攻防の末、私は目潰しを諦めてあげた。
三宅に対して腹を立てる事は、三宅のことを気にしてしまっているようで、癪にさわったからだ。
―――今日は切り替えて、授業に集中するって決めたんだから、三宅の事は放っておかないとね
隣の席をチラッと見る。息を切らせて汗を流している三宅がいる。
“なんだお前…、姉川ってホント………『優しい』の…正反対…な奴だよな………”
三宅は、息も絶え絶えに、失礼な事を呟いている。
別に特別な事なんか無い。
教室を見渡す。教科書を読めば誰でも解ける国語の宿題を栗原くんに教えてもらう猫下。
いつも通りだ。窓際で楽しそうに談笑している木田くんと青塚さん。いつも通りの光景。
無気力としか言いようのないルーム長。いつもと何ら変わらない。
今日もまた、いつも通りの一日が始まろうとしている。
周りの景色なんて、自分の心しだいで違って見える。いつも通りの心でいれば、一日をいつも通りに過ごすことができる。
今日という日を、いつも通りに過ごすために、三宅の事は忘れようとした。
そんな時、体力が回復した三宅が、私にこんな事を言った。
「なぁ、姉川。明日の放課後、俺の恋愛相談に乗ってくんね? 俺さ、最近、好きな娘できちゃったんだよね」
私が、何か応えようとした時、チャイムが鳴った。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
結局、今日も私は、心ここにあらずだった。
私はどうしたらいいんだろうか? わからない。
―――自分はどうでもいい。好きになった人が幸せでいてくれれば、それでいい
そう思う自分と、
―――三宅が誰かと付き合うのは嫌だ。そんなの見たくない。
そう思う自分がいる。
私はどうしたらいいんだろうか?
相談に来た三宅に対して、私が『今はまだ、時期尚早だ。告白するのはもっと後にしたほうがいい』というアドバイスを繰り返せば、誰かと付き合う三宅を見ないですむ事になるだろう。
でも、本当にそれでいいんだろうか…?
答えに辿りつかないまま、約束の時を迎えてしまった―――。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
ついに来た木曜日――
放課後。
「おぅ姉川、じゃ、今日はよろしくな」
三宅は、少し照れが混じった表情で軽く挨拶をした。
「う、うん…。それじゃあ、始めましょうか」
私は、三宅の恋を全力で応援する事にした。
私が的確なアドバイスをしたところで、三宅が絶対に振られない訳ではないのだ。
私は、その可能性にかける事にした。
「じゃあ、いきなりだけど、あなたの好きな人は誰? でも、言いたくなければ言わなくていいわよ」
ちょっと期待して聞いてみる。三宅の好きな相手が分かるかもしれない…。
「え? 言わなくてもいいの? じゃあ、匿名でお願いするわ」
結局、分からなかったか…。
三宅が補足する。
「凄く優しい人、とだけ言っとこうかな」
優しい人か…。誰なんだろう……。わからない。
でも、分からない方が良かったような気がする。名前がわかってしまったら、私はその人と今までどおりに仲良く付き合える自身がない。
「アナタの好きな人が誰かは置いとくとして、アンタはどうやってその人に告白するつもりなの?」
「メールとかでちゃっちゃと済ませようかと――
「ハァ? バッカじゃないの? 不真面目で不誠実で女誑しで軟派で軽い男のアンタがメール? 頭おかしいんじゃないの? どうせ、≪いつもの戯言≫程度にしか思われないのがオチよ?」
「なぁ、ちょっと待ってくれ…。姉川の恋愛相談って、こんなにも相談者の心を抉る物だったのか? 俺、心折れかけてるぜ?」
ダメだ。私、イライラしてる。
「てかさ、前々から思ってたんだけど、姉川ってなんで相談受けんの得意なの? 今じゃ溶接神なんて呼ばれてるし」
三宅が本題ではない事を問いかける。
この脱線は、正直ありがたい。他愛の無い会話で、ちょっと気分を落ち着かせることができるかもしれない。
「こう見えて私、かなりの読書家なのよ。いろいろな本を読んでるうちに、いろんな知識が身についたわ。恋愛相談は、その知識の中から適するものを選んで教えてあげてるだけなのよ」
「へぇ~。すごいんだな。姉川が読書家なんて知らんかったわ」
「だから私、国語が得意なのよ。主な範囲が小説と論文だった期末テストだって確かアナタよりいい点数だったわよね?」
ちょっと自慢。
「あ~。確かにそうだったかも。そういえば、国語だけは姉川に負けたんだった。たしか一点差で」
総合点では三宅に負けたが、国語だけは勝ったのだ。ちなみに私のクラス順位は2位だった。
「あれ? でも姉川さ、漢文と古文が範囲だった中間テストでは、たしか23点だっt(殴
「急に殴るなって! そんなんだから彼氏ができな(殴
「痛ぇな! やめろって!! ホント姉川ってさぁ…」
「いいわよ、続けて。私が何かしら?」
そう言いつつ掌を構えて見せると、三宅は続きを口にしなかった。きっと失礼な事を言おうとしてたのだろう。
そのかわりに、彼はこういった。
「本題に戻そうぜ。殴られんのも嫌だし」
もうイライラしてはいなかった。
「そうね、戻しましょう」
「で、不真面目で不誠実で女誑しで軟派で軽い男の俺は、どう告白するのがいいんだ?」
コイツ…根に持ってやがる…!
「≪プレゼント≫っていうのはどうかしら?」
「プレゼント? なんで?」
「さっきも言ったように、アナタって≪不真面目で不誠実で女誑しで軟派で軽い男≫っていう印象なの」
「……………………俺って、ガチでそんな風に思われてたんだ」
三宅がちょっと落ち込むが、構わず続ける。
「だから、自分が本気であることをアピールする必要があるの」
「なるほど……。そこで≪プレゼント≫ってわけか」
「そうよ。で、問題は、何をプレゼントするかって事ね」
私がそう言うと、三宅は自分の額に手をあてて考え始めた。
真剣に考え込むとき、額に手をあてるのは三宅の癖なのだ。
―――私、三宅の癖まで知ってたんだ…
私は、三宅の真剣なときの癖まで見つけられるほど、三宅が好きだった。
しかし、この「真剣さ」は私でない誰かに向けられている。そう思うと悲しいような淋しいような、そんな切ない気持ちになった。
しばらくして、何か思いついたのか、三宅が声をあげた。
「あ! 指輪とかは?」
「うーん、まだ付き合ってない人にプレゼントするには、ちょっと重すぎないかしら…?」
「そっか…。じゃ、ブレスレットは?」
「それは良いかもしれないわね。……でも、せっかくだから、学校でもつけられる物が良くない?」
「確かにそうだな…。 あ! じゃあ、腕時計は?」
「あら! それなら良いんじゃないかしら」
「よっしゃ、じゃあ明日、時計をプレゼントしながら告白する!」
「幸運を祈るわ」
「姉川…いや、溶接神様! ありがとな! それじゃ!!」
彼は、駆け足で教室を出て行った。きっとこの後、渡す相手に似合う時計を探しに行くだろう。
―――これで、良かったのかな……
私は彼が振られる可能性に賭けていた。けれど、きっと彼は振られないだろう。
頭も良くて、運動もできる。おまけにカリスマ性もあるし、面白い。いつも皆の笑顔の中心にいて、誰よりも親しみ易い。そんな彼に想いを寄せる人は少なくない。私もその一人。
―――本当は、幸運なんて祈れないよ…。祈りたくないよ……。でも、きっとこれで良かったんだよね。
これで、良かったのだ。
そう思うことにした。そうじゃないと、泣いてしまいそうだったから………。
・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,・゜*。+,
厚い雲が空を覆った金曜日――
教室の扉を開ける。まだ教室は人が少ない。けれど……
いつもは遅い三宅が、もう学校に来ていた。
三宅は、笑顔だった。本当に嬉しそうな、そして本当に楽しそうな、そんな顔をしていた。
その表情を見て、私は察した。
―――そっか…。 告白、うまくいったんだ……
三宅が私に気付く。そして、席を立ち私のほうへ歩いてきた。
報告なんて、聞きたくないよ…。
「おはよ、姉川! 昨日はありがとな!」
「うん…。で、どうだったの?」
「それがさ、昨日あの後すぐ時計探しに行ったんだけどな、姉川に超似合いそうな時計見つけてさ!」
時計の話じゃねぇよ、私が聞きたい報告は。いや、聞きたくない報告かな……
「だから、ホイ! これ姉川にあげる。俺からのプレゼント」
そう言って、ポケットから取り出されたのは、レディースの白い腕時計。
「は…? それ、好きな人に渡すためのヤツじゃないの? もう一個買ったってこと?」
「そんな2個も買う余裕ねぇし」
そう言って笑った後、三宅は真面目な顔つきになった。
「姉川、俺と付き合ってくれ」
そう言うと、三宅は、改めて時計を私に差し出した。
え……………?
私、今、告白された? それも私がアドバイスした方法で…?
「姉川、聞いてる? 俺、今、告白したんだけど…?」
その一言で疑問が喜びに変わった。
コイツ、私のことが好きなのに、本人に恋愛相談もちかけるとか…(笑)
「紛らわしい事してんじゃねぇよ、バーカ!」
そう言って、三宅から引ったくり、私の左腕につけた時計は、
まぶしくて、少し、にじんで見えた。
姉さんは溶接の神になり、眩しさで時計は滲む、そんな一週間。 完
恋愛小説って難しいですね(^∀^;)
かなり苦労しました。
拙さが目立ちますね…w 精進します!
タイトルについてですが、最近、あるボカロPの曲にハマった結果、こんなタイトルになりました。
あと、最近、0.3ミリのクルトガが指に刺さって流血しました。
そんな作者が書いた、こんなお話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
ご読了ありがとうございました! 次回もまた、お会いできる事を願っています。