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あああ  作者: 田童
2/6

悪巧み

ゆっくり書いてます。読んでもらえたら嬉しいです。

「こんな乱暴なの、信じられない」


 愛子が嘆いた。僕は彼女を睨む。


「運がよければ、すぐに済む」

 悪巧みなのだから。


「今から襲って、荒らしてくればいい」


 パンフレットには研究所の地図もある。

 軍隊の基地みたいに、すぐに入れない場所というわけでもない。

 が、乱暴なのは間違いなかった。


「僕が愛子の紐になって、大学に通って、研究所に入って、何年かかる。そんな計画は嫌だ」


 愛子が出してきたのは、大学のパンフレット。入試に受かって、研究所に入るコースは邦人のみ認められている。スパイである彼女にとっては、確実な手段に思えるのだろう。

 研究者と取引を始めるより、取引相手を育ててしまう方法は、なるほど理に適っている。


「宗一は直線的すぎる」

「悪いが、何年もかかるだろうから僕は嫌だ」

 でも、僕は感情的だ。論理的に行動できるなら、そもそも昨日は逃走していた筈なのだ。


「内部の情報までは判らないでしょうに」


 ジイド内部には基地があるだろうから、その情報が不明だということが問題だと愛子は指摘した。


「だから行って確かめればいいだろう」

 僕の骨刀なら。そういった活動ができると信じたい。

 そんな無茶ができるなら、僕がこれまでしてきた、


「人とは違う修練ってやつをしてきたんだから、できる」


 やってきた事の意味になると思う。


「愛子のアイデアは無理がないけど。

 僕じゃなくても、ちょっと頭のいい学生を捕まえれば済むだろう」

「やっぱ宗一はNinjyaだ」


 彼女はため息をついて首を振った。

「あなた人を殺した罪悪感とか無いの?

 言いたくないけど、処理を私がやったんだから。証拠は私が持っているのよ?」

「今更だな」

 捕まる事とか、裁かれることとか想像ができないわけじゃない。彼女が僕を言い含めようとしている意図がどうであるにせよ、僕の論理を押し通す。

「僕でなくてもできる事なら、僕の性能に関係ない」

 僕は、僕の性能を活用したい。それが非常識であればあるほど、僕は僕が掛替えの無い存在だと信じれるから。

 ふと時計を見れば既に午前6時半。

「今日はできない、って事だよね?」

 日常を擬態するなら、長居は無用と思う。

「ええ。昨日の今日で騒ぐのは、あまりにも危険すぎるの。死体の処理だって完了しているわけじゃないんだから、もし蜥蜴を入手しても輸送できない」

「そういった方向は確かに判らない」

 僕の都合じゃないけれど、愛子が手間取るには十分な理由でもある。僕は納得して、頷いた。

「だから、今日の晩までに答えを出すわ。あなた、人知れずコンタクトできる方法ってあるかしら?」


「僕の部屋は誰も居ない」

「一人暮らしなの?」


「ああ。使うなら僕が学校に行っている間に掃除してくれれば助かる」

 愛子は面倒なことに盗聴器だとか監視だとかが怖いみたいだし。

「車があるから、案内して」

「ああ」


 七時前に家に着けば、学校に行くのも十分間に合う。

「五分待ってね。準備するから」

 僕は頷いて、彼女が荷物をまとめるのをぼうっと眺めていた。



「煙草、吸うんだ?」

 助手席に座って、ふと思うままを言った。

「意外だったかしら?蓮っ葉なイメージを出したくて」

「あ、この先の国道を右ね。ただ、車に匂いがしたから」

 何気ない会話って苦手だ。

「苦手かしら?」

「判らない。僕は煙草を吸ったことがないから」

「ダッシュボードにあるわ。気にならない?」

 彼女の投げかける質問があるから、間が持つ。大人はすごいな、と思えた。

「煙草って文明だね?」

 僕は思うがままを話すことしかできないけれど、愛子はきっとそれだけじゃない。

「どうしてそう思うの?」

「火を使う。紙を使う。丸い。どれも文明の発展に欠かせないアイテム」

「宗一はユニーク」

 ふん、と彼女は鼻で笑った。

「あと2ブロック先に駐車場があるから」

「OK」

 そう云いながら、駐車場を通り過ぎての路上駐車。

「おい」

「安全確認してからね」

 彼女はけちけちしている訳じゃない、ただ別のことを考えている。

 


 愛子を家に押し込んで、僕は登校する。

 返事がどうあれ、傷が治るまでに動けたほうが、僕には都合がいい。


 骨刀はそういう技術だ。


 あまり時間をかけるようであれば、正義の味方でもするしかない。

 けれどそれは、敵が少なくなるやり方だ。だから僕は迷って、日常生活を続けることができた。悩みながらであれば変化の無い日常だって気にならない。愛子の言うような、長期潜伏だってできるかもしれない。自分の可能性があるのだ、迷うのは仕方が無い。

傷の絆創膏と塗り薬が痒かった。


 

 授業が終わり、家に帰ろうとすると山田に捕まった。

「山河ぁ」

「何だよ」

「ちょっと来なさい」

 ぼけっとしていたら、肩くらいは掴んできそうな勢いだった。

「あんた、レポート書いた?」

「何の」

「呆れた。大学の公開授業、行ったでしょ」

 昨日か一昨日の話とはいえ、そんなことより頭を悩ませていることがあるから。

「そんなこともあったな」

 その程度にしか関心が沸かない。

「昨日のことでしょ。ノートとか見せてよ」

「山田、部活はどうした」

「進路が優先です」

 真面目なことだ。けど、僕はそれより気になっていることがある。


 いつになったら、戦闘ができるのか。


「実験の時のノートなら、山田のも見せてよ」

「うんっ」

 ここで無愛想に帰ってしまうのは、戦闘の妨げになるだろうと思うから。僕は山田と会話を合わせる。それが常に無く面倒だと思えるのは、やはり。

 昨日の余韻が残っているからなのかもしれなかった。



 晩になって、愛子が家に訪ねてきた。

 

「結論から言うわ。あなたが作戦を立てて、異世界から何か持ち帰るなら、私はそれを買い取ることができる。

 けれど、私が作戦を立ててあなたを使うのは無理。この違いは判るかしら」


 僕は黙って考え込んだ。

「つまり、勝手にやれってことか」

「そうまでは言わないけど。私たちは、あなたの活動に対してバックアップができません」

 戦えない。単純明快に僕は僕の機能、骨刀を使用することができない。それを投入するに値する戦闘なり作戦なりが必要だ。そして、僕はそれが不足しているからこそ。


「生かしておいてやったんだけど?」


 見下すように言い放つと、愛子も顔色を変えた。


「舐めきられたものね。私を殺したとしても、あなたはこの国の司法から逃れられるの?捕まってしまえば、それこそあなたの戦力だって無意味になってしまうわ」

「そうか」

 睨み合う。アーモンドのような楕円の瞳、彫りの深い輪郭……美しい相貌。僕が彼女を好きになってもおかしくはない。けど、そうならない。

「僕は、戦いたい」

 

 隙か、切欠があれば僕は技を仕掛けようと思った。まだ僕の傷は直っていないから、骨刀はすぐにでも使える。そして、骨刀は使えるときが限られているから。

ここにチャンスがあるなら、理由はどうあれ斬りたいのだ。


「顔が怖いわよ、宗一。あなたが研究所に潜り込めば、蜥蜴だってすぐ手に入る。焦らないでくれれば、私の協力者としてやっていける」

 警戒しながら、愛子は直接的な口説き文句で僕を誘う。それは多分魅力的なことなのだ。


「僕は、まだ未熟なんだな」

 何とも決め難い。時間があれば考えられるかもしれないから、愚痴が出た。

「そんなことないわよ、あなたは強い。状況があなたの意図にそぐわないだけで」

 慰めようとするのか、僕を。

「待てよ。僕はまだ、どうするか決めていないんだ」

「決めてよ。私と一緒にやるか、独りでやるか」

「時間をかけるか、さっさと済ませるか」

 警戒心が高まっているのだろう。僕も彼女も睨み合っている。

「今すぐ答えが聞きたいわけじゃないわ。食事でもしましょう?」

 愛子が言葉の勢いを弱めた。

「また、仕切りなおしか」

「ええ」

 僕の戦意をうまく避けたようにも思えて、苛々する。

 無闇に暴れ回ることができれば、そんな葛藤はしなくてもいいのだろうけれど。それにだって理由が必要なのだ。




 結局僕は、無理矢理に。研究所に押し入ることを決めた。

 それは、報酬が欲しかったということもあるが。

 何かやってみようとそもそも思っていて。

 僕がやりたい事に近くて。

 普通じゃない事なんて、他に無いからだ。



 道具の手配に1週間。地図はあるから、戻った後の連絡方法だけは決めた。

 僕は、来週。異世界に行くことにした。




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