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ご入用? ~ドラゴンを倒すエルフの戦士と武器商人の取引~

作者: B・T
掲載日:2026/02/25

 エルフ達の住まう神聖な大森林に、災害が翼を広げた。

 昼は消え、平穏は灰と化す。


「な、何でドラゴンが!?」

「うろたえるな!直ちに防御魔法を展開!森を守れ!!」


 災害そのものが襲いかかり、エルフ達は村に巨大な防御魔法を展開。

 他の集落からも応援を要請する時間を稼ごうとするも、火炎のブレスによって魔法で形成した防壁は一撃で消し飛ばされた。


「ギャアアア!!」


 その爆風に巻き込まれたエルフの少女、カラビーナは、仲間と共に吹き飛んでいった。

 数十メートル吹き飛び、身体の一部を焼かれながら地面に叩きつけられる。


「ブヘッ!」


 ダメージで防具のきしむ音がする。

 そんな事を考えながら、カラビーナは一緒に飛ばされた仲間の方を向く。


「レオン!大丈夫……」


 仲間の姿に、カラビーナは目を見開く。


「ア、グ」

「じゃないわね!」


 目に入り込んで来たのは、腹部に魔法の剣が突き刺さった仲間の姿。

 すぐに治療を行うべく、カラビーナは仲間を引きずって行く。

 運よく近くに洞窟を見つけ、二人はそこに逃げ込む。


「ああもう、トカゲ野郎が、今は休眠期の筈でしょ!?」


 今も故郷である森を焼くドラゴンの姿を横目に、仲間の応急処置を開始する。


「(私達エルフは絶好のエサ、このままじゃ全員食い殺される)」


 そう考えていると、数名の影がドラゴンの巨大な口の中に放り込まれた。

 今すぐ同胞達を助けに行きたい気持ちをこらえ、今は治療に専念。

 常備している道具で血を止め、包帯を巻きつけていく。


「しっかり!(こうしてる間にも、村の皆は)」

「グ」


 呼びかけるカラビーナは、脳裏にとある人物を思い浮かべた。

 最近森の中で度々見かけるようになり、剣や弓より強力な武器を売る謎の武器商人。


「(……いや、あんな怪しい奴に頼るなんてどうかしてる、今回こそ自分達の手で)」

「そこの綺麗なお嬢さん」

「ッ!」


 最近よく聞く声がカラビーナの耳に入り込み、勢いよくその声の方を向く。

 ダボダボの黒いローブを揺らしながら、大きなバックパックを背負う人物がゆっくりと洞窟の奥から現れる。

 金色の刺繍が施された黒いスカーフで口元を隠しているが、声だけで女性と解る。


「何か、ご入用で?」

「アンタ……悪いけど、何度もアンタに頼る訳には」


 口元は見えないとは言え、絶対ヘラヘラしている。

 彼女を横目にしながら、カラビーナは空を陣取るドラゴンを睨む。

 故郷は次々と燃やされ、同胞達も次々腹の中に納まって行く。

 この光景に、カラビーナは血が流れる程拳を握り締める。


「……あの野郎」

「ククク、まぁそう言いなさんなって、こっちだ、ついて来な」


 そう言いながら、彼女は首を動かして洞窟の中へ招き入れて来る。

 レオンの包帯を巻き終えると、すぐに追いかける。


「ま、待ちなさいよ!人の話聞いてたの!?」


 洞窟の中に足音を響かせながら後を追うと、ロウソクや魔法を用いらないランタンの光が見える。

 その光に包まれるのは、大量の武器が中に展示されているオリーブ色のテント。

 前には、先ほどの武器商人が立ち尽くしていた。


「では改めて、何かご入用ですか?ビジター」

「アンタねぇ、頼らないって……」


 顔は目元しか見えない彼女は、手を広げながら歓迎して来た。

 何週間前かに現れては、彼女の後ろにある面妖な武器を売っている。

 まるで何でも見透かしている目の彼女に、カラビーナは口元をピクつかせる。


「……外に居るトカゲ野郎を吹き飛ばせる奴、用意できるの?」

「クク、任せな」


 そう言いながら、武器商人はテントの奥を探り始めた。


「……あんのかよ、ッ!?」


 そして洞窟の外で何かが爆散する音に状況を思い出し、カウンターに身を乗り出す。


「何!?鉄塊みたいなバカデカい魔法の剣でもあるの!?」

「んー、剣は無いが、槍なら、あるぜ!っと」


 なにやら重そうにウェポンケースを置いた武器商人は、腰を軽く叩く。


「ふいー、花火大会をご所望な奴にピッタリな武器だ、使い方は、目標をセンターに入れて、マークが赤くなったら引き金を引くだけ」


 そう言いながら、武器商人はケースを開く。

 中身は槍などではなく、巨大な鉄の筒。

 そんな物を多分笑顔で説明してくる武器商人に、カラビーナは細めた目を向ける。


「どこが槍なのよ」

「名前がジャベリンって言うのさ」

「そう……」


 カラビーナは、目の前の武器の表面を軽く撫でる。

 武器商人の彼女から売られる物は、いつも強力で危険な状況を切り抜けられた。

 だが、何度も武器に頼るのは、エルフとしての矜持が揺らぐ。


「おいおい、ここでプライドを捨てるか、仲間を見捨てるか、簡単だろ?」

「グ……」


 こうしている間にも、同胞達はドラゴンの腹の中に放り込まれている。

 増援もいつ来るか分かった物ではない。

 深呼吸したカラビーナは、目を瞑る。


「……分かったわ、何はともあれ、これに頼るしかないもの」

「ククク、それで、料金の事なんだが」

「……ん」


 代金の話をされると共に、カラビーナはアイテムボックスから金貨が大量に入った麻袋を取りだし、雑に置いた。


「おっと、準備済みだったか」

「アンタがいつ来てもいいようにね」

「……ただ、今回欲しいのは、コイツじゃなくてね」

「な、何よ、いつもお金お金って」


 じらされる事に青筋を浮かべたカラビーナは、カウンターに身を乗り出す。


「アンタの村で商売する権限が欲しい、次にこういう事があってもすぐに優良顧客の方々に武器を売れるように」

「……わ、分かったわよ、村長に、掛け合ってはみるわ」

「ククク、ありがとね、じゃ、この金貨は人質代わりに与かっておく」

「ちょ!」


 金貨の入った麻袋はテントの奥へと投げ込まれ、それと時を合わせるように爆音が洞窟に響きわたる。

 もう四の五の言っている状況ではないと、カラビーナは金貨を諦めて金属の筒を担ぐ。


「あーもう!交渉が成功したら返してもらうからね!って、重!」


 思ったよりのしかかって来る重量に眉をひそめつつ、洞窟の外を目指す。


「気を付けろ!撃てるのは一発、魔力も大量に使う、慎重にな!グッドラック!」


 そんな声を耳に挟みながら洞窟から出ると、空高く飛び上がっているドラゴンの姿が目に映る。

 その巨体に他の仲間達の攻撃魔法が繰り出されるも、強靭な鱗に阻まれている。


「あんなのに通じるのかしら?」


 少し不安になりながら、カラビーナは担いだ金属の筒を構える。

 とは言え、初めて渡された武器。

 武器商人のセリフを思い出しつつ、大きな穴を覗き込む。

 傍から見れば相当不格好なのだろうが、沸き上がって来る羞恥を飲み込む。


「……センター、って、マークって、これ?」


 中央に白いマークを見つけ、それをドラゴンへと合わせる。

 聞いた事のない変な音がピーピー鳴り、その間に森や仲間達が焼かれている。


「あーもう、早くしなさいよ」


 歯がゆさを必死にこらえていると、やがてマークは赤に変わる。

 息を飲みつつ、引き金を引く。

 凄まじい爆音と共に辺りに土煙が舞い上がり、鼓膜が突き破られそうな痛みが襲う。


「ッ……あんの野郎、耳栓付けろ、位言え!」


 筒を捨てて痛む耳を抑えながら、カラビーナは上を向く。

 発射された飛翔体は、物凄い速度でドラゴンへ直進。

 空気を斬り裂く音と噴射される炎のせいで、ドラゴンに攻撃を気取られる。


「(気付かれても、あの速度なら!)」


 心のそこから、叫ぶ。


「行けえ!!」


 命中する姿を想像した瞬間、飛翔体は向きを変えて上昇。

 ドラゴンに当たる事無く、空へと消えていった。


「……」


 終わった。

 ドラゴンに位置を特定され、脅威と判定されたのか一目散に向かってくる。

 恐怖で尻餅をついたカラビーナは、洞窟に隠れようと足に力を入れようとする。

 だが魔力をゴッソリ持っていかれたせいで、立つ事さえままならなかった。


「花火大会って」


 涙で歪んだ視界は、口内に血のように赤く黒い炎を蓄えるドラゴンを捉える。

 今にも放たれそうなブレスを前に、武器商人への恨み言を腹の底からぶちまける。


「こういう事かあのクソ女ぁぁ!!」


 これが最期のセリフ。

 あの世から末代まで祟ってやると決めた。

 その瞬間、ドラゴンは大きく姿勢を崩す。


「……え?」


 体を反る形となったドラゴンの背中には、先ほどの飛翔体が食い込んでいた。

 飛翔体には多数の魔法陣が同時展開され、一瞬の閃光と共に炸裂。

 凄まじい熱風を纏う光と共に、ドラゴンの右半身は爆散。


「ギュオオオオ!!」


 大気を揺らすドラゴンの悲痛な叫び。

 右腕は千切れ落ち、翼も焼失した。

 辺りにドラゴンの血が雨のように降り注ぎ、その一部はカラビーナにも降り注ぐ。

 その傷のおかげで、ドラゴンは飛べずに地に伏せる。


「……」


 肉や土が身体を汚し、それらが口に入り込もうと、思考は真っ白なまま。

 開いた口も閉じられないカラビーナは、その様子を前に硬直した。


「……な、なんじゃこりゃ」


 やっと出せた言葉。

 目の前の事を問い詰めるべく、震える足に苦戦しながら立ち上がる。

 半ば千鳥足で洞窟の中に入り込んだカラビーナは、先ほどまで武器商人が居た場所に到着する。


「……しかも、もう居ないし」


 最初からそこに居なかったかのように、洞窟の中はもぬけの殻だった。

 代わりに、複数の小さな瓶と、羊皮紙が一枚置かれていた。


「……」

『上手くいったようだな、ビジター、今回の商品のおまけに回復薬を置いて行く、では、またご入用の時に』


 武器商人からの手紙。

 全部読むなり、カラビーナはそれを握り潰した。


「って、こんな事してる場合じゃない!」


 釣銭代わりと言う回復薬を持って、レオンの元へ向かい、中身をぶっかけた。

 何度もお世話になっている彼女特性の回復薬は、レオンの容態を一気に回復させる。


「ふぅ、これで大丈夫っと」


 胸をなで下ろしたカラビーナは、ゆったりとした足で外に出る。

 外では弱ったドラゴンに対し、応援に駆け付けて来たエルフ達が魔法を集中砲火していた。

 先の攻撃で鱗を剥がされた部分に攻撃が集中し、他は足止め程度に行われている。


「はぁ、この分なら、私は必要なさそうね」

「グヲオオオ!!」


 ドラゴンの悲鳴を耳にしながら、カラビーナは座り込む。

 地面や周囲の樹木たちが動きを止め、攻撃魔法で逃走を阻害されている。

 袋のネズミ状態のドラゴンへ、空から光が降り注ぐ。


「あ」

「ギュアアアア!!」


 降り注いだのは、巨大な光の槍。

 エルフ族に伝わる最大規模の魔法がドラゴンの背を貫き、串刺しとなった。


「ジャベリンって、普通あんな感じよね……まぁ良いわ」


 戦いの終わりと共に、カラビーナは先ほどの回復薬を飲みだす。

 味はお世辞にも良くないが、疲れは徐々に取れていく。


「(また頼った……いや、でも、エルフとしてのプライドに任せていたら、この村は)」


 空になった回復薬の瓶を置いたカラビーナは、立ち上がりながら以前購入した遠眼鏡を覗く。


「……全員腹の中、よりはマシよね」

「流石に命までは売ってないぜ、ビジター」

「ッ!?」


 当分聞く事が無いと思っていた声が耳に入り、心臓が止まりそうになりながら距離を取った。


「……な、何よ、急に」

「どうもこうも、消費者レビュー……使い心地を聞くの忘れたからな」

「つ、使い心地ぃー?」


 急に現れたと思ったら、突然聞かれた質問に頭の中の何かが切れた。


「何が使い心地よ!急に上行ったからマジで死ぬかと思ったわよ!あとちょっとで良い歳こいて漏らす所だったわよ!!」

「あー、言い忘れてた、落下エネルギーも加えるために、一回上昇するのさ」

「先言え!守銭奴!!」

「まぁまぁ」


 食い掛るのをなだめて来る武器商人は、口元を隠しているスカーフをとる。

 そして、初めて本格的に笑みを向けて来る。


「命は売れないが、守る術が入用なら、値段にガッツ入れて売ってやる」

「……そうよね」

「ん?」

「これからも、よろしくね、村の皆を守れるんなら、私はどんな武器でも買うわ」

「……ククク、なら、これからも頼むぜ」


 笑みを浮かべる武器商人の目を睨むカラビーナは、改めて彼女の素顔を見る。

 若々しく、外見からはとてもあんな武器を作れそうに見えない。

 色々気になる所は有るが、今は一番気になる事を訊ねる。


「てか、何で私がここに来るって解ったのよ(顔だけはいいわね)」

「ククク、精霊のお導かね?」

「じゃぁ……何で私に付きまとうの?」


 いつもそうだ。

 武器商人は、必要だと思った時にどこからともなく姿を現す。

 今回だけではなく、初めて買い物をしてからずっとそんな事が続く。


「ビジター、アンタは最初の取引相手だ。それに、エルフなら、末永く取引ができるだろ?」

「……結局お金?」

「ああ……私達の種族は、アンタと違って人生が短い、私にとって入り用な物を満たす為に必要だ」


 一瞬目を逸らしたが、武器商人はゆっくり近寄って来る。

 目と鼻の先に来ると、互いの息がかかりそうな程顔を近づけて来る。


「けど」

「な、何よ?」


 よく見れば、唇は柔らかく潤い、まつげも長い。

 より柔らかな笑みを浮かべた彼女は、アゴを持ち上げて来る。

 火薬と油の臭いが鼻に突くが、その中にほんのりと甘い香りを捉える。


「アンタの心は、どんだけ大枚叩いても買えそうにないな」

「なっ!」


 そんなセリフに心臓が口から飛び出そうになりながら、カラビーナは武器商人を突き飛ばす。


「な、何言ってんのよ!?」

「クク!」


 両手で自分の身体を覆いながら、カラビーナは武器商人を睨む。


「わ、私の身体はそんなに安くないのよ!」

「わかっているよ!消費者の心をどれだけ揺さぶれるか、商人の必須スキルだ」

「……」


 羞恥で熱くなってきた顔で武器商人から距離を取って行くと、彼女はスカーフを直す。

 ゆっくりと下がって行くと、足元から発生した電気に包まれながら消える。


「さて、これで本当に失礼させてもらうよ、ビジター」

「……待って、何が目的なの?私達にあんな危険物売りさばく何て」


 先ほどの物のような武器を今後は村で大々的に売り出す。

 本当にそんな事になれば、新たな火種が生まれてしまう。

 自衛の為だと、森の外の連中に言っても信じてもらえるかもわからない。


「……なぁに、お客様が入用だという物を、価格以上の品質でご提供する、それが、商人だ、こんな事がまた起きるんなら、対抗策を欲しがるだろ?」

「まさか、他の連中にも売る気?」

「さぁ?どうかね」


 足元から徐々に消えていく彼女は、首の辺りが消えていく辺りで手を振る。


「お次は、仲間達とド派手に頼むぜ、カラビーナ」

「……私、アンタに名前教えたかしら」


 先ほどまでそこに居た筈の人物は、完全に視界から消えた。

 カラビーナは一人取り残され、洞窟の中で見つけた物と同じ質感の羊皮紙を見つける。

 それを拾い上げ、中身を見る。


『またご入用の時に、使ってくれ』

「……はぁ」


 ため息をついたカラビーナは、同封された割引券に目を通す。


『特別なチケットを持つ貴女だけの素敵なキャンペーン、一度限り全品30%オフ、有効期限は、お宅の寿命まで』


 と書かれており、更に端の所にはキスマークまである。

 完全にツバを付けられた事に青筋を浮かべながら、それらを雑にポケットに突っ込んだ。


「……なら、私より先に死ぬ前に来なさいよ、アンタの方が短い訳だし」


 焦げた風になびく髪をかき分けたカラビーナは、焼けた森を見上げた。


最後までありがとうございました。

硝煙と破壊の中でこそ、百合は一際美しく咲き誇ると信じています。

今後も百合作品を書いていきます。

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