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ひと狩りやってるアサシンさん

「―――にしても、アサシンさんが突然トラックの前に現れたんで驚きましたよ。普段局内でも凄い速さで動いてるの知ってましたけど、アレ距離関係無いんですね」


若いお母さんと小さな女の子が局を後にしてから暫し経ち。

午後三時の『怒濤のお客様ラッシュ』を乗り越えた私は、朝イチ死ぬ気でブローした髪を耳に引っかけながら小声でアサシンさんに問いかけた。


すると、アサシンさんは黒覆面の顔をことりと人形みたいに傾げ、なぜか自分の右手指先を眺めている。

彼女の意外と白くほっそりした指先には、事務作業をする人間には必須とも言える某グッズが嵌められていた。


オフィス用品通販最大手の『スグクル』では常にランキング上位に位置しているオレンジ色の小さなゴム製品―――そう、指サックである。


って、あれ?


アサシンさんがつけてる指サック、うちの局で使ってるのとは少し違うような……というか、ゴム製品というよりは、明らかに何かの皮っぽい気がするの気のせいか。


なんだろ。先っちょのぶつぶつ具合がやたらと生物的な突起に見えるんですけど。

いや、待て。


なんだかよく見れば見るほどなんかグロ……。ってあ、いつの間にか白い紙が。

何々……?


ついアサシンさんの手元を凝視していたけれど、ふっと現れた白い紙を確認すれば説明文らしきものが書いてあった。


「ええっと……この指サックを作って置いて良かったです、って指サックがですか?確かにその指サック……始めて見ますけど。普通のとは違うってことですか?」


アサシンさんは自らの指先を目視した後、首をふるふる振って再び白い紙をぱっと私に向けて見せてくれた。勿論、今度は書いている内容が変わっている。


「こちらは自作指サックなので……?ちなみに、お、……大蝦蟇おおがまの皮で作りました……?」


白い紙には、簡潔にそれだけが書かれていた。


が。

ふりがながあったおかげで何とか読めたけれど、おおがまって。


えーっと……大蝦蟇ってあれ?

蛙の妖怪の事ですよね?


確か著名な作家である京極夏彦さんの妖怪時代小説にも登場してて、かの有名な絵師、葛飾北斎も北越奇談ほくえつきだんで描いたという……?


でも、あれって空想の産物では?というか、作りましたって何?もしかしてモン○ンよろしく一狩りして剥ぎ取って作ったってことですか?上手に取れました的な?いやあれは焼けましたか。


兵糧丸の時にも思ってましたけど、どんなサバゲーですかそれ。むしろ現代日本に存在するんですか大蝦蟇。ちょっと見てみたい気もします。

喰われそうだけど。


しかも水掻き付き指サックもありますってそれ最早指サックじゃないですよねっ?

対水中戦用にしか思えないのは私の勘違いでしょうかっ?ナニと戦うんでしょうか。どうやって。


まさかの事務(?)用品自作発言に恐々としていると、三度白い紙に書かれている文章が変わる。


「えーっと……蝦蟇は千里の彼方に捨てても一夜のうちにかえる、故に蛙と言います。私は親元に子を帰したのみです……なるほどっ!」


アサシンさん曰く、彼女の持つ指サックには特殊な能力が宿っているらしい。


いや、普通なら信じらんないと思いますけど。何しろ彼女異世界から来た住人ですし。

高速動作に移動に妖怪ハンターまでやっちゃいますし。もう今更っていうか何ていうか。


森のヌシ的なでっかい猪とか倒したって言われても、たぶん私納得すると思います。え?猪は基本直進しか出来ないので回り込めば首落とすの簡単です?ごめんなさい聞いてないですというか参考にするのは到底無理です。瓜坊ですら仕留められませんよ私。


ちなみに、アサシンさんは他に鎌鼬の持つ刃を使用したカッターや九尾の狐の尾毛で作られた書類束用のこより、髪切という妖怪が宿る鋏などの品々もデスクから出して見せてくれた。


なんだか最後は妖怪そのものだった気がしないでも無いけれど、そこはまあ突っ込まないでおく。


他にもありますのでまた今度説明します、と追記されたけれど、ただの珍品発表会にしか為らないだろう事は容易に予想できた。蓬莱さんもこっそり私達の会話を聞いていたのか「まー、職人さんって道具に拘るって言うものねぇ」なんて寛容を通り越して明後日な方向の感想を口にしている。


あ、局長はガクブルしてます。「ナニソレ怖い、お寺に納めて」とか言ってますが無視です。

だってアサシンさんもちゃんと説明文に『今は無害です』って書いてくれていたし。今は。


しかし、ほぼ……ていうか確定で暗器です。暗器の数々を常備している郵便局員がここに居ます。どなたもお挑みにならないでください。返り討ちにされること請け合いです。


と、そう思った私の願いがフラグとなったのか何なのか、恐れていた出来事は、先方の方から「どっせ~い!」とばかりに景気よく、翌日にお目見えとなったのでした。


この世はやはり―――無常である。


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