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『見えない鎖:誇りを失った国』第1~3章(全10章)

 本作『見えない鎖』は、現代社会を舞台にしたフィクション小説です。

 歴史的事実や実在の人物・団体を想起させる記述がありますが、物語の展開や登場人物はすべて創作によるものです。


 テーマに据えたのは「見えない力に縛られた社会」と「そこから抜け出そうとする人間の矜持」です。

 記者・井藤の視点を通じ、読者の皆さまに「もし自分が同じ立場ならどう動くか?」という問いを感じていただければ幸いです。


 まずは第1章から第3章までを公開いたします。物語の序盤として、主人公が真実を追う決意を固めるまでを描いています。

第1章 訃報

第1節 不意の知らせ

 午前六時を少し過ぎた頃だった。古びたアパートの一室で、井藤聡いとう・さとしは、使い込まれたノートパソコンの画面を開いたまま机に突っ伏して眠っていた。携帯のけたたましい着信音が、薄暗い部屋に響き渡る。

「……こんな時間に、誰だ」

 寝ぼけ眼で画面をのぞき込むと、表示された名前に思わず息を呑んだ。かつて取材で知り合い、互いに敬意を抱いていた経済学者の秘書からだった。

 通話を取ると、短い沈黙ののち、かすれた声が告げる。

「先生が……亡くなりました。昨夜、ご自宅で」

 一瞬、時が止まったように感じた。心臓が鼓動を打つ音だけが耳に残り、言葉が出てこない。

 病死、と秘書は言った。だが、その経済学者がつい数日前、井藤に漏らした言葉が、脳裏で生々しく反響していた。

「この国は、気づかぬうちに鎖で縛られている。近いうちに、私はその証を示すつもりだ」

 その矢先の訃報である。偶然と言うには、あまりに出来すぎていた。

 机に散らばる資料の中に、数枚のメモが目に入った。赤いペンで殴り書きされた「土地買収」「浸透」「支配」という単語。経済学者から渡された調査の断片だ。

 井藤は、込み上げてくる焦燥感を押し殺すように拳を握りしめた。メディアを追われ、居場所を失った自分が再びペンを握る理由を、この知らせは無言で突きつけていた。

「……また始まるのか」

 カーテンの隙間から差し込む淡い朝日が、机上のメモを照らし出す。そこには、まだ解かれていない謎と、命を賭けてでも追うべき真実が待っているように思えた。

 井藤は深く息を吸い込み、ノートパソコンを閉じた。次に開くときには、ただの記録者ではなく、闇の構造を暴く「戦う記者」としての第一歩を踏み出すことになる。


第2節 孤立した記者

 井藤聡の名前を、いま覚えている記者は少ない。かつては大手新聞社で鋭い記事を書き連ね、政財界の矛盾に切り込む特ダネ屋として注目を浴びていた。だが、その輝きは長くは続かなかった。

 五年前、与党幹部の不透明な資金疑惑を追った記事が掲載寸前で握り潰され、さらに「誤報の疑い」として社内で責任を押しつけられた。上層部の意向を無視して触れてはならない領域に踏み込んだ報いだった。

 世間はただ「不適切な記事を書いた記者」としか見ない。仲間だったはずの同僚たちも距離を置き、編集局の空気は冷え切っていた。退社に追い込まれた彼に残されたのは、安アパートの一室と、借金まみれの生活、そして使い古されたノートパソコンだけだった。

 それでも井藤は書くことをやめなかった。無名のブログに記事を投稿し、時折フリーランスとして依頼を受ける。それらは一部の読者に支持されたが、大きな影響力を持つには至らない。かつて世論を揺さぶった自分と、いまの自分との差に、彼は幾度も挫けそうになった。

 机の上のメモを見つめながら、井藤は苦笑する。

「世間から忘れられた記者が、また巨大な闇に挑もうとしている……滑稽な話だな」

 だが、経済学者の死が突きつけた現実は、滑稽さでは片づけられない。もし真相を探り出せば、再び命を狙われるかもしれない。それでも踏み出さねばならない――。

 井藤の孤独は、もはや彼自身の選択でしか打ち破れない。

 そのとき、不意に受信箱に新しいメールが届いた。差出人は匿名。件名は短くこう記されていた。

「あなたにしか託せない」

 井藤は、震える指でクリックした。画面に映し出されたのは、見慣れぬファイルの添付だった。


第3節 決意の取材開始

 添付ファイルを開くと、粗い画質の写真が数枚並んでいた。雪に覆われた広大な土地、その奥に建つ見慣れぬ建造物。そして、鉄塔のようにそびえ立つアンテナ。撮影場所は明記されていないが、北海道の一角であることは直感的にわかった。

 さらにファイルには、短い一文が添えられていた。

「この土地の背後にいる者を追え。あなたが沈黙すれば、この国は終わる」

 井藤は息を呑んだ。経済学者が残したメモと符合する。誰かが意図的に彼へバトンを託している。もはや偶然ではなかった。

 恐怖がなかったわけではない。むしろ全身を覆う冷たい感覚は、かつて経験したどんな取材よりも重かった。それでも胸の奥底で燃え続けているのは、かつて信じた「記者の矜持」だった。

 彼は古びた手帳を開き、数名の名前を書き込む。大学時代から付き合いのある研究者、退職した新聞社の同僚、匿名の市民ジャーナリストたち――。孤立しているように見えても、まだ繋がれる人々はいるはずだ。

「やるしかない」

 独り言を吐きながら、井藤は決して新品とは言えないスーツに袖を通した。鏡の中の自分はやつれて見えたが、瞳の奥には確かな光が宿っていた。

 外に出ると、冬の冷たい風が頬を刺した。街はいつもと変わらぬ朝を迎えている。それでも井藤には、見慣れた景色の裏に潜む「影の支配」が確かに感じられた。

 彼は足を踏み出した。その一歩は、やがて国家の闇と向き合う長い旅路の始まりになる。


第2章 沈黙のメディア

第1節 干された過去

 新聞社に勤めていた頃の井藤聡は、確かに時代の先端を歩いていた。国会議事堂の記者クラブで鋭い質問を投げかける姿は、同業の記者たちから一目置かれ、テレビに映るたびに「骨のある記者だ」と囁かれた。

 だが、その評価は一つの事件を境に一変した。与党の大物政治家と建設業界の癒着を追ったスクープが、掲載直前に差し止められたのだ。理由は「証拠が不十分」――表向きはそう説明されたが、裏では上層部と政治家の間で密談が交わされていたことを、井藤は知っていた。

 記事を引き下がる選択肢は、彼にはなかった。真実を伝えることこそ記者の使命だと信じていたからだ。だが結果として、紙面には彼の署名記事ではなく、当たり障りのない短い談話記事が掲載された。

 その翌週、社内での立場は急速に揺らいだ。会議では無視され、原稿は後輩に差し替えられ、ついには「誤報の可能性を指摘された記者」として処分を受ける。誰も公には口にしなかったが、実際には「触れてはならないものに触れた」代償だった。

 喫煙室で同僚に吐き捨てられた言葉が、今も耳に残っている。

「正義感なんて飯のタネにはならない。おまえ、記者クラブから追い出されるぞ」

 結局、井藤は自ら退職届を提出するしかなかった。抗うことなく従順に残る同僚たちを見て、彼は深い虚無感を覚えた。だが同時に、心の奥底では小さな炎がくすぶり続けていた。

 その炎がいま、経済学者の死とともに再び燃え上がろうとしている。


第2節 タブーに触れるとき

 井藤が追っていたのは、単なる資金疑惑ではなかった。政治家と大手建設会社の癒着の裏には、外資系企業の影がちらついていたのだ。資金の一部は、表向きは投資事業として日本に流入していたが、実際には別の意図を秘めた資金だった。

 調べを進めるうちに、井藤はある奇妙な一致に気づいた。政権中枢に近い議員が次々と特定の団体主催のパーティーに出席し、その団体の背後に、中国資本が存在していることを示す資料を手に入れたのだ。

 だが、社内でそれを報告した瞬間、会議室の空気は凍りついた。編集長は冷ややかな声で言い放った。

「……その件は扱うな。社としての方針にそぐわない」

 井藤は反論した。「事実です。証拠もある。報じなければ、国民は知らぬままに――」

 言葉を遮るように、編集長は机を叩いた。

「だからこそだ! 国民が知らなくていいこともある!」

 その瞬間、井藤は悟った。自分が踏み込もうとしているのは、単なる政治家の不正ではなく、国家の奥底に横たわる禁じられた領域なのだと。

 帰り際、廊下の窓に映った自分の顔は、妙に険しく見えた。だが同時に、胸の奥で震えるような高揚感があった。真実に手をかけているという実感が、恐怖をかき消していた。

 しかし――その高揚感が、やがて孤立と追放へと繋がることを、このときの井藤はまだ知らなかった。


第3節 報道の空洞

 退職から数年が経っても、井藤の胸に焼き付いている光景がある。編集会議で、記者たちが政治家やスポンサーの顔色をうかがい、記事の方向性を修正していく場面だ。誰もが口をつぐみ、忖度という言葉を超えた沈黙に支配されていた。

 テレビ局も同じだった。スポンサーである大手広告代理店の意向が最優先され、不都合なテーマは事前に排除される。キャスターは原稿を読むだけの存在に成り下がり、視聴者に届くのは「切り取られた断片」だけ。そこには血肉を伴った真実はなかった。

 井藤は思う。報道とは、権力を監視するためにあるはずだ。だが、いまの日本のメディアは監視どころか、権力の下請けに甘んじている。結果として生まれたのは、空洞化したニュース、ただの「情報風の音」に過ぎない。

 ある夜、井藤はかつての同僚に酒場で問いかけた。

「どうして、あんなに大事な記事を捨てたんだ?」

 同僚はグラスを傾け、乾いた笑いを漏らした。

「国を動かすのは記事じゃない。資金だよ。記事なんて、誰も本気で読んじゃいないさ」

 その言葉は、真実を追い求めてきた井藤にとって、冷水のように冷たかった。だが同時に、確信を深めさせる。もし報道が空洞であるなら、自分が埋めなければならない、と。

 その夜、帰宅した井藤の受信箱に、再び匿名のメールが届いていた。

「次に向かうべき場所は、かつての仲間の中にある」

 井藤は思わず手を止めた。沈黙のメディアの中にも、まだ声を上げようとする者がいるのだろうか――。


第4節 旧友との再会

 夜の路地を歩きながら、井藤は胸の奥に沈む不安を振り払おうとしていた。匿名メールに示された言葉――「次に向かうべき場所は、かつての仲間の中にある」。それが誰を指しているのか、すぐに思い浮かんだ人物が一人いた。

 加納誠。かつて新聞社で机を並べ、同じく社会部で汗を流した旧友だ。井藤が退職したあとも彼は社に残り、いまは編集デスクに就いていると聞く。互いに連絡を絶って久しいが、信じられる数少ない相手でもあった。

 井藤はためらいながらも、加納の携帯番号を呼び出した。数秒のコールののち、聞き覚えのある低い声が応答した。

「……井藤か。久しぶりだな」

 待ち合わせた喫茶店は、記者時代によく原稿を仕上げた馴染みの店だった。向かい合う加納の顔には疲れの色が濃い。だが、目だけは当時と変わらず、真っすぐに相手を射抜いていた。

「おまえ、まだ諦めてないんだな」

 加納はそう言って苦笑した。

「例の経済学者の死だろ? ……実はな、俺も妙な話を耳にした」

 井藤は思わず身を乗り出した。加納の声が低くなる。

「先生は最近、複数の議員に警告を送っていた。中国資本と繋がる土地買収の件でな。それを表に出そうとしていた矢先だ」

 沈黙が二人を包んだ。外のネオンが窓に映り込み、薄暗い店内に揺らめく。井藤は確信する。経済学者の死は偶然ではない――何者かによる口封じだ。

「……加納、おまえはこれ以上関わるな。危険すぎる」

「危険だからこそ、おまえに会ってるんだ。誰かが伝えなきゃ、国は呑み込まれる」

 その言葉に、井藤の胸の奥で何かが鳴った。孤独に抗い続けてきた記者の魂が、再び仲間と呼べる存在を見いだした瞬間だった。

 店を出た井藤の足取りは、先ほどまでの迷いを含んでいなかった。彼の前には、戦うべき闇の輪郭が、少しずつ浮かび上がり始めていた。


第3章 ウォー・ギルトの刻印

第1節 焼き付けられた罪悪感

 翌日、井藤は資料を求めて都心の古書店を訪れていた。埃をかぶった棚の奥に、戦後直後の出版物を集めたコーナーがあり、そこには「GHQ検閲資料」の複製や当時の新聞縮刷版が並んでいた。

 ページをめくるたび、目に飛び込んでくるのは「日本の侵略」「戦争犯罪」という言葉ばかり。まるで日本人の精神に刻み込むために、繰り返し刷り込まれたかのようだった。

 井藤は、経済学者が最後に口にした言葉を思い出す。

「この国は、気づかぬうちに鎖で縛られている」

 その鎖の一端こそ、戦後GHQによって仕掛けられた「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)」にあった。敗戦後、米国は日本人に「自分たちは侵略者であり、永遠に贖罪し続けるべきだ」という意識を植え付けたのだ。

 井藤は本を閉じ、深く息を吐いた。彼自身もまた、子供の頃から「戦争は日本がすべて悪かった」と教え込まれてきた世代だ。それが当然だと信じ、疑うことすらしなかった。

 しかし、いま手にした資料の数々は、その常識を揺さぶっていた。罪悪感を抱かせることで国民の心を縛り、二度と国家として立ち上がれないようにする――それが戦後日本に仕込まれた見えない刻印だったのではないか。

 書店を出ると、冷たい風が街を吹き抜けた。歩道を行き交う人々は、誰一人として過去の影に思いを馳せることなく、スマートフォンの画面に目を落としている。

 井藤は思う。この「罪悪感」という鎖を断ち切らぬ限り、日本は自立した国家にはなれないのではないか――。

 その答えを求め、彼の視線は次なる調査対象へと向かっていた。


第2節 GHQと情報戦

 井藤は、かつて防衛大学校で歴史を教えていた退官教授を訪ねた。古い木造の書斎で、教授は煙草をくゆらせながら静かに語り始めた。

「戦争は銃弾だけで終わるものではない。GHQは徹底的に情報で我々を支配したのだ」

 教授の机には、当時の機密解除文書のコピーが積み上げられていた。その中には、新聞・ラジオ・出版物の原稿をGHQが事前にチェックし、都合の悪い言葉や論調を削除させた証拠が残っていた。

 軍国主義的 愛国的――そのような単語は容赦なく削除対象となり、代わりに平和民主主義戦争責任といった表現が必ず挿入されていた。教授は指で資料を叩きながら、皮肉を込めて笑った。

「つまり、戦後の日本人が考えてきた平和や民主主義のイメージは、彼らの脚本の一部というわけだ」

 井藤の背筋に冷たいものが走った。国民が自ら信じてきた価値観が、他国による情報戦の産物かもしれない――その事実は、単なる歴史の話に留まらず、今のメディア空洞化の現実へも繋がっていた。

 教授はさらに声を落とした。

「君は東京地検特捜部という言葉を聞いたことがあるだろう。あれもGHQの影響下で誕生した組織だ。日本の政治家を監視し、米国にとって都合の悪い者を排除するためにな」

 井藤は息を呑んだ。その名は、かつて自らが記事で追い、そして潰された政治資金疑惑の裏でも幾度も耳にしてきたものだった。

 テーブルの上に置かれた分厚い資料の束を見つめながら、井藤の心には新たな疑念が芽生えていた。――もし特捜部が戦後の情報戦の一部として作られたのなら、日本の司法はどこまで独立していると言えるのか。

 その問いが、次なる取材の行き先を決定づけようとしていた。


第3節 東京地検特捜部の影

 東京・霞が関。灰色のビル群の中にひっそりと佇む検察庁舎を前にして、井藤はしばし足を止めた。ここに、日本の司法の名を借りた「もう一つの権力」が存在する――教授の言葉が脳裏に響いていた。

 取材を進めるうち、井藤は特捜部の設立経緯に辿り着いた。終戦直後、汚職事件の摘発を名目にGHQの強い影響下で生まれたその組織は、表向き「清廉潔白な検察権力」として国民から喝采を浴びた。だが裏では、米国に不都合な政治家を狙い撃ちし、巧妙に政界の勢力図を描き直す役割を果たしていた。

 過去の資料には、アメリカ大使館と特捜部の幹部との会合記録が残っていた。そこには捜査対象とすべき議員名がリスト化され、まるでシナリオに従うかのように日本の政治が動かされていたことを示していた。

 井藤はかつて、自らのスクープが特捜部の動きと奇妙に重なっていたことを思い出す。あのとき、自分の記事が潰されたのは、単なる社内政治ではなく、より大きな力学によるものだったのではないか。

「司法までもが、操られていたのか……」

 つぶやきは、冷たいビル風にかき消された。だがその瞬間、背後に視線を感じた。振り返ると、黒いコートを着た男が一人、遠くから彼を見つめている。目が合った途端、男は人ごみに紛れるように姿を消した。

 井藤の胸に緊張が走る。取材はすでに誰かの監視下にある。だが、ここで退くわけにはいかない。真実の鎖を断ち切るためには、さらに深い闇へと踏み込むしかないのだ。

 彼の視線は次なる課題へと向かう。――言論。もし司法が操られていたのなら、報道はどうだったのか。


第4節 封じられた言論

 井藤は都内の図書館で、戦後直後の新聞縮刷版を読み漁っていた。記事の行間から滲み出るのは、奇妙な偏りだった。敗戦国としての自虐史観ばかりが繰り返され、政府批判は許されても、占領軍に関する疑念は一切見当たらない。

 古い資料を整理していた司書が、ぽつりと漏らした。

「当時は検閲が当たり前でしたからね。GHQが赤鉛筆を入れた原稿が、まだ裏倉庫に眠っていますよ」

 井藤は息を呑んだ。その一部を見せてもらうと、確かに赤い線で削除と記された箇所が残っていた。削られたのは「日本人の自衛」「戦勝国による暴力」といった言葉だった。代わりに挿入されていたのは「平和」「民主主義」「戦争責任」。刷り込むべき思想だけが残されていたのだ。

 これが「報道の自由」の正体だった。表向き自由を与えられながら、その実、語ってはならない領域が巧妙に囲い込まれていた。井藤がかつて新聞社で味わった見えない壁は、この時代に植え付けられた構造の延長線上にあったのだ。

 ページを閉じた瞬間、背筋に冷たいものが走る。もし現代に至るまで、この構造が温存されているのだとしたら――。

 館外に出ると、夜の帳が降りていた。街のネオンは眩いが、井藤の心は重い。だがその重さは、彼をさらに突き動かしていた。

「次は……メディアそのものを掘り下げる番だ」

 彼の視線は、戦後から続く情報の帝国へと向けられていた。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 第1章から第3章では、主人公が「訃報」というきっかけを受け、孤立を抱えながらも再び取材の道を歩み出す姿を描きました。


 本作はあくまでフィクションです。登場する出来事や描写は現実の政治・社会情勢と重なる部分があるかもしれませんが、それは小説としてのリアリティを追求した結果であり、特定の個人・団体を批判する意図は一切ございません。


 これからの章では、さらに物語が広がり、さまざまな「見えない鎖」が明らかになっていきます。続きもぜひ楽しみにお待ちいただければ幸いです。

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