幸運のペンダント 【月夜譚No.356】
そのペンダントは、不思議な力を持っていた。
何時何処で手に入れたかは判らない。物心ついた頃には既に彼女の手許にあった。赤い石がとても綺麗だったから大切に仕舞い、特別な時にだけつけるようにしていた。
そして、それを身につけた時は決まって幸運が訪れた。何処に行っても売り切れで諦めていたバッグが店頭に一つだけ残っていたり、彼女が偶々拾った財布に孫の作った大切な折り紙が入っていたとかで老婦にいたく感謝され、高級菓子折りを貰ったり。行く先々で何かしらの良いことがあるのだ。
――そのはずだったのに。
今日は朝から寝坊をし、電車を乗り間違えて仕事に遅刻。午後からトラブルが多発して残業を余儀なくされ、夜に友人と行く予定だった食事会をキャンセルするしかなかった。そして現在、ホームで終電が来るのを待っている。
胸元に手を遣り、コロンと掌に小さな石を転がす。自分でそう思い込んでいただけで、本当は幸運のお守りではなかったのだろうか。
溜め息を飲み込んで、電車が来ることを告げるアナウンスに前を向く。白い明かりが高速で目の前を通過し、ゆるゆるとスピードを落として止まった目の前のドアを見て、彼女は目を見開いた。
開いたドアの向こうには、彼女と同じような顔をした男性が立っている。
彼女は口角を上げて、そっと指先で石に触れた。自分の認識は間違っていなかったと、今日一日の不幸など忘れる勢いで電車に飛び乗った。