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帝国魔導士は休みたい  作者: たつみ
第一章
6/13

episode 3 殺して殺して

 

 予想通りとはいえ厄介だ。砲兵を潰せたのは良かったが、対魔導士となってくると話は変わる。ライフルじゃなくて携帯用ガトリングガンとかあればいいのに。だが、ないものねだりをしていても仕方がない。

 敵の装備は……っ!??遠距離で!?


「っっぐ!!」


 飛んでいる最中から無理やり体を反転させて、避ける。敵の攻撃は俺の鼻先を掠めた。ピリピリと痛むがそれどころじゃない。俺の防御結界を破って俺の体に損傷を与えたのだ。敵は。

 魔導検知からして距離1500、砲兵陣地を潰しに行った分こちらにくるのは当然早いか。ハイリスクハイリターンの行動のハイリスクの部分だ。しかも、帝国の防御結界を一発で貫ける武器を持っている。これは十分な脅威だ。しかも、最悪なことに今ので通信器具が破損した。救援も呼べない。


「流石にやばいな」


 捕捉されている以上、仕方がないが…!?これは…敵の光学術式を攻撃に転用しているのか??

 つまり、人の身を焼くブレイザーかよ。ブレイザーとでも呼称しようか??

 そんなことはどうでもいい!!これは敵の新兵器だ。威力からして魔力消費は激しいだろうが、かなりの脅威だ。敵の数は大隊規模だ。それに歩兵、戦車隊もある。流石にここから離れて部隊の合流を急いだほうがいいだろう。


 クソっ、魔力消耗など考えずにズバズバ撃ってきやがる。避けるこちらの身にもなれというのだ。

 ノーマルセルをフル活動させても避けるのがやっとだ。機動性はこちらの方が上なのだが、いかんせんかずの差がある。しかも相手は油断もクソもない。そりゃそうだわ。敵の砲兵陣地まで単騎でくるバカを警戒しないわけないわ。


「撃ってくんな!!」


 隙をみて、反撃をするものの回避と機動性にリソースを割いていることからなかなかに厳しい。

 帰還するまでがピクニックなのだがな、なかなか厳しい帰り道になりそうだ。せめて、せめて中隊に合流せねば。

 奴ら、俺を撃ちつつ、遠距離攻撃を帝国の塹壕に撃ちまくっている。なんとかしたいがブレイザーをこちらに向けさせているのでどうにもならない。一撃必殺の兵器なんてクソゲーにも程があるな。

 統制射撃も厄介だ。弾幕の波となり、反撃の機会すらも消してくる。あいつらはできる奴らだ。要するに精鋭。落とせる時に落としておきたいが、防御術式も一流だ。距離もあるので、接近して撃ち合わないとかなり厳しい。


 逆転の一手を考えるのも難しい。俺はチェスの世界王者とさし合ってるのか?ならその盤面ごとぶっ壊してやる。


 空間爆破だ。暴発のリスクはあるが盤面を吹っ飛ばさないとジリ貧になる。このまま後方、歩兵陣地までこいつらを連れて行ってやるギリはない。

 任意で選んだ座標の空間を圧縮し、それを暴発させる。要するにこれは、空間そのものを無理やり内側に圧し潰そうとする、爆縮系の術式だ。魔力で座標を固定し、その一点に圧力をかけ続ける。空間ってやつは意外と頑丈で、でも妙に繊細で――限界を超えた瞬間、暴発する。結果、発生するのは空気の爆発。

 いや、“空気が弾ける”って言ったほうが近いかもしれない。爆心地の周囲数メートルにわたって、音と衝撃と破砕の波が一気に拡がる。術式としては最高に乱暴で、制御も難しい。けど、それがいい。盤面をぶっ壊すには、これくらい無茶な手段のほうが向いてる。精密さより威圧。正確さより暴力。それがこの術式の本質だ。


 デメリットとしては自爆またはノーマルセルの故障を招くことがある。魔力の消費も激しいし、他には敵にそれを察知されることが多々ある、らしい。

 少なくとも教本には書いてあった事象。こんなのをするのは一種のかけだ。敵が落とせれば良し、目的は落とすことではなく別にある。初めてやるけど、やるしかない。やれなくても俺は歩兵を見捨てて逃げる。……流石に敵前逃亡だな、やめとくか。だけどやるだけやるしかない


「くっそ、やっぱバレるか」


 敵はいきなり動きを止めて、防御結界で身を固める。5騎くらい落とせたらと思ってたんだけど。

 まぁ、関係ない。


 一瞬、敵の大隊前に黒い渦ができる。そして、次の瞬間空間の爆縮が解き放たれて、一気に熱を帯び爆発を起こす。大きな爆音を奏でて、白煙を上げる。


「……一か八か、行きますか」


 俺は一気に敵の方へスピードを上げる。最高速で敵に突っ込むのだ。ノーマルセルは不快な金属音を出して限界を示している。しかし、突っ込むしかない。敵の隊長でもやれれば離脱も多少はしやすくなるし、遅延戦闘の役割も果たせるだろう。

 入道雲のような白煙に突っ込む。さっきの爆発で魔力探知はおざなりになり、視界は煙で奪われる。そして俺はデコイでリスクを減らす。実に合理的だ。


 俺は右足に魔力を集中させる。魔力刃、光の剣のようなものを腕に纏わせながら、突っ込む。

 通常は銃撃戦が基本であまり使わないのだが、基本的には腕に使うものだ。しかし、足に使えない言われはない。

 それにこちらは魔力検知は麻痺っていない。つまり敵の居場所は筒抜けである。

 空中で体を捻りながら、最高速で右足で飛び蹴りする形で敵を魔力刃で突き刺す。


「ぐはっ!?な、なぜ!?」


 そのまま殺した敵魔導士を蹴りながら煙を突破する。


「なっ!?」

「敵兵!??」


 そして、持っていたライフルで近くにいた奴を防御結界を展開させる前に撃ち殺す。

 な、違った!?クソ、指揮官じゃない!?爆発前に視認して確認したつもりだったが。


 蹴りながら動いていたが、そのまま直角移動。予定変更だ。せめて敵をかき乱す。

 瞬時に腕に魔力刃を移し、近くにいた敵兵を2人続けて首を落とす。


「な!?なんだこいつは!?」

「フラウドが殺された!!クソ!殺せ!殺せぇ!!」


 何が殺されただ。どっかで聞いたぞ?撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだってな。そんな覚悟のない奴は引っ込んでろ!!


 現状相手の陣形は崩れている。ただし、さすがというべきかすぐに立て直してくる。

 ここまで戦闘開始からの十数秒だけだ。うまく行ったのは。せめてブレイザー、ブレイザーさえ殺せれば離脱が楽になるものの。撃たれた射線は、一つだけだった。つまりブレイザーは一つしかない。大量生産できていない武器なんだ。それを持っているのがおそらく指揮官だ。


「しね!」


「っっ!?」


 殺気に反応して体を思い切り捻りながらなんとか避ける。ブレイザーの光線が耳を焼く。

 クソ、ブレイザーは厄介すぎる。ノーマルセルの出せる出力の防御結界では防ぎきれないダメージを出してくる。その他にも集中砲火を受け始めた。高機動で動かないとやがて結界が壊れて蜂の巣だ。


 3騎で流石に限界か。離脱するしかない。


 だから俺はあえてブレイザー持ちに突っ込む。


「死にに来たか!!死ね!!!」


 ブレイザーの弱点はあらかじめ射線がわかることだ。つまり、なんとか避けられそうって話。ここでもギャンブルだ。心臓、または脳みそに当たった終わり、それ以外なら俺の勝ちだ。


 敵が引き金を引くと同時に体を思い切り捻り避ける。


「……っぐ!!?」


「なっ!?グアアア!!腕がァァァァ!!」


 指揮官の2本の腕が800m下へと落下していく。

 体を反転させると同時に足で腕を落としてやった。ざまぁみやがれ!!

 その後、指揮官の体を両足の魔力刃で突き刺しながら踏み込み、そこから再加速する。血飛沫が空中に飛び、舞い散る。

 跳び箱の踏み込み台の要領だ。人間の体って反発力あるしな。


「大隊長殿ぉぉ!!!」


 クソいってぇな、。流石に肩にアレを喰らうのは痛い。5cmくらいの穴がぽっかり空いてしまっただろ。熱戦だったのが幸いだが、痛いものは痛い。命があるだけマシだが。それにここからが正念場だ。ここから離脱が一番厳しい。

 運が良かった。あいつまで殺せたのは本当に運が良かった。指揮官を殺せば多少は隊に淀みが生まれる。そこを突いてある程度逃げれる。あとは追撃をどう振り切るか。遅延戦闘の役割は果たしているだろうし、もはやこんなの勲章もらってもいいだろ。


「撃ち殺せ!!大隊長の敵だァァァァァァ」


「うるせぇ!!お前らが死ね!!」


 片腕で銃を扱うのはかなり難しいな。重いし照準が合わない。しかもバランスも取れないからなかなかに厳しい飛行になってる。こうなってくると追撃を振り切るのは完全に難しいな。そもそも1人で大隊に捕捉された時点で仕方のないことだが。嘆きたくもなる。好きで誰が軍人なんてやるんだ。俺は戦闘狂ではない。ラブアンドピースを愛する黒髪の可愛いティーンネイジャーだ。


 デコイを使い続けているが、部隊の数が多すぎる。数人の意識を逸らすだけで虱潰しに撃ってくる。おかげで数秒を持ちやしない。

 どうする。俺の魔力残存はあと15%くらいだ、それにノーマルセルを酷使しすぎた。性能以上のことばっかやってるからまた壊れる。頼むからまだ持ってくれよ。

 どうする、マジでどうする??このままだと魔力切れでジ・エンドだ。いやだ、こんな場所で死ぬのは。まだ、肺癌とかで生命による死を受けた方がいい。誰かに殺されるなんてまっぴらごめんだ。だから俺は抵抗する。もし死ぬとしても思い切り自爆してやるよ。


 さて、このまま終われ続けても仕方がない。

 ここはいっちょやってみるか。

 現在地点は上空600m、敵との距離はおよそ400。速度差はほぼない。それにあちらの方々はおおよそ38名くらいの大所帯様だ。よほど指揮官を殺されたのが憎いとみる。

 地面には敵の歩兵陣地。数キロ先には味方がいる。ならやってみる価値はあるだろう。


 俺は高度を一気に下げる。

 何をするのか、それは味方の砲兵の攻撃を利用してやる。散々助けてやってるんだ。今度は俺を助けてもらうぞ歩兵達。今ままでなんのためにやりたくもない遅延戦闘をやってやったと思ってる?次はお前らだ。囮にでもなってくれれば万々歳だ。代わりに少しは倒してやるよ。

 味方の陣地を見ると、撤退をしている状態だ。心苦しいがこれを活用させてもらう。コラテラルダメージのようなものだ。この選択が間違っているかは知らない。だが、あと数騎は落とせるかもしれない。


 地表付近に降りて、地を這うように進む。

 敵兵の顔、血溜まり、臓物が飛び出た死体。眼球、脳みそ、腕、足、しまいには生首さえも転がってる。じっと見つめてしまったら吐き気がする光景だ。これだから戦争はくだらない。敵兵は戦車などの歩兵隊で構成されており、こっちの撤退に伴い進軍していた。その上スレスレを飛ぶ。それでいい。多少は同士討ちの可能性がある以上躊躇うだろう。それに、撤退中の敵を見たら追撃したくなるのが軍人だろ??


 次々と後方の味方陣地から砲撃が飛んでくる。それを視認して避ける。なかなかに難しいが砲撃の爆破のおかげで煙と爆発ができる。この状況でデコイを使う。魔力を節約したいが、今はそれどころじゃない。前回でやる。使うのを渋っていたが精神干渉も怠らず、戦意MAXの戦闘狂に今だけなってやるよ。


 重い銃を捨てて、ノーガードの近接戦をする。砲兵の攻撃射程に誘導したことにより、敵は動揺して動きが鈍る。そこを各個撃破!!それで終わり!まさしくQED!!素晴らしい。テンションが上がってくる、これじゃ本当の戦闘狂じゃないか。


 右側から迂回してそのまま砲撃による土煙を利用して前方に孤立気味にいた2人の魔導士を魔力刃で串刺しにする。


「「ぐはァァァァァァ!?な、なぜ」


「じゃあな」


 そのまま直角に振り切って腹を割く。

 腸が飛び散り、血が吹き出す。

 次だ、次。


「マークがやられたぞ!!?」


「クロードもだ!!?何が?何が起こってる!?」


 今度は上空から身体強化を施した踵落としで頭蓋ごと潰す。

 グシャという嫌な今ままで体感したことのない、気持ちの悪い感触ののち、血が吹き出し、脳みそが首元まで圧縮された頭からこぼれ落ちる。その死んだ体を踏み台に蹴り、方向転換する。


「ロドもだ!!あの帝国兵、ていこっ」


 今度は首を落とす。


「なんだ、こいつは??なんなっ……」


 今度は潰す。


 面白くもない殺しを繰り返す。


「し、死神だ!!悪魔だ!!くるな!くるっ」



「5人目」


 いつか、いつか終わるんだろうかーーーーーー

 殺して、


「6人目」


 殺して


「7人目」


 殺して殺して殺して殺して殺して…………


「8人目」


 殺して

 

 人が人を殺す。そんな、バカみたいなことが。

 誇り高くありたかった、だから殺した。でも結局それは言い訳だ。

 だって俺は、殺してもなんとも思わない。


『ーーーーーーーーて』


 ああ。今度は、今度こそはーーーーーー






「………めんぼくない」


「帰ったら、ね?覚えててね」


 意識がぼんやりしていたあと、俺はいつの間にかアルフェリアの腕の中で飛んでいた。

 体は動かせない。

 数カ所に弾痕、出血がある。どうやら死にかけてたようだった。精神干渉術式恐るべし。このようなものを作る帝国、やはり災いあれ。

 だが、女の子にお姫様抱っこされていると言う状況はいかがなものか、ジェントルマンとしてはずかしいな。


「どうして、1人で行ったの??」


「……なんで?お前がそんなに泣きそうなんだよ???」


 アルフェリアは泣きそうに顔をくしゃくしゃしながら飛んでいた。その顔を見るとなんだか申し訳なくなってくる。


「だってぇ!!!」


「わかってるよ。アルフィ。ごめん」


 そういうのが俺のせめてもの謝罪だった。

 

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