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帝国魔導士は休みたい  作者: たつみ
第一章
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episode1 作戦報告

作戦報告 第2185号(東方方面軍)

帝国標準暦:117年 第14週


・敵戦線は既に旧ウルデン渓谷を突破、ヴァルミュント内地70km圏に突入。

・鉄道ルートA・C・F、通信網のうち第3系統が完全に断絶。

・第3軍、第5軍、観測班11隊が壊滅。後方にて再編中。

・グランベルグ市街は未だ安全圏内にあるが、東部戦線の結節点となる見込み。


「はぁ、やばすぎだろ」


「だね、いっぱい亡くなった。仲間たちが」


 俺たちが敵性魔導大隊と接敵して一週間が経過した。状況は悪くなる一方である。

 戦線は押され、後退を繰り返す。防衛戦力をはるかに凌駕する戦力投入を共和国軍の奴らはやってくる。こちらの兵士が100人増えるとしたら奴らは300人増えているようなものだ。こちらが砲撃をすると、相手は三倍の砲撃をしてくる。物量さは圧倒的であり、当初予定されていた防衛戦力はまるで機能していない。

 局所的に爆撃機による空爆もおこなれており、なかなか状況は逼迫している。


 アルフェリアがこのような報告書も書かないといけないくらいに。


「ところでなんでお前が書いているんだ??」


「……他にかける人がいないのよ」


「は??」


「本当は情報将校の仕事。でもその人もその代わりの人も司令部ごと爆撃されちゃった」


「やっぱ、司令部が消されてたか。お前が仕事しないといけないくらいには」


「うん。私しか今記録処理なんかの訓練を受けていないから」


 と言った風に、自国内であるにも関わらず人座不足、補給不足がある。

 しかも指揮系統も撃滅されており、現状他の部隊との通信も困難であった。足並みが揃わない戦争。つまり勝てる状態でもなんでもない。実際に俺たち4人は幾度もこの一週間馬車馬のようにこき使われた。魔導士だからって理由は理解していた。だが、敵の物量が圧倒的すぎるのだ。戦車を引き連れた機甲師団、航空魔導士、空軍。全ての戦力が帝国を上回っている。それが、司令部沈黙の主な要因だ。

 要するに帝国は敵の戦力を見誤っていたのだ。

 国境線のうちに入られ、そのまま70キロほど侵攻される程度には。


 俺たちも敗走に次ぐ敗走、交代制で休養をとっていたが魔導士の人数も少なくなってきており、もはや休養すら無くなりそうだ。そろそろこの辺も砲兵の射程位置に入るかもしれないな。となってくるとまた戦線後退をするわけだが、流石にこれ以上下がると工業地帯が危うくなる。流石に参謀本部は理解しているだろうから、手は打つはずだ。もう少し、もう少し耐えないと。


「帝国が負ける」


「え??」


「あ、すまない。忘れてくれ」


 思わず声に出てしまっていた。だがしかし、状況が悪いのは変わらない。援軍。魔導士の増援がなければ戦線の維持は難しいぞ。


「しかし、まぁ。俺たちをこき使うよな。一応新人なんだけど」


「ふふ、ちょっとやりすぎたのかもね」


「ああ、あれか。確かに遅延戦闘だけで良かったのかもな」


 あの大隊をぶっ飛ばしたのがやりすぎた。他の新人が後方で観測しているって言うのに俺たちは最前線で撃ち合いっこしている。これは平等なのかな?初めて社会主義に偏りそうなる。ああ、でも奴らは奴らでめんどくさいからいいやだわ。自由がないのはごめんだ。


「そういえばエルヴィンたちは??」


「クロエと行っちゃった。先輩たちとの緊急スクランブルだってさ」


 緊急出撃か。どっかの部隊の救援か?


「救援か??」


「うん。ここから先にある砲兵陣地の防衛。敵魔導士が来てるみたい。無事だといいけど」


「まぁ、クロエはともかくエルヴィンがいるんだから大丈夫だろ」


 エルヴィンはクロエとツーマンセルを組んでおり、別の中隊に臨時配属されていた。俺はアルフェリアとのツーマンセル、そして第三中隊に配属されている。もう、このエリアの魔導士数は合計60名くらいしかいない。それも観測魔導士を含めてだ。


「このまま援軍が来ないってことあるのかな……」


 アルフェリアは報告書を打つ手を止めて、そう思わず言ってしまう。


「……まさか、天下の帝国様が仲間を見捨てるわけないだろ」


 とは口で言うものの、実際は俺たちを囮にして後方を固めて援軍を待つ方が合理的だろう。俺ならそうする、被害は少なくなるし多少の人的資源の喪失で済むからだ。だとしても、見捨てられる側は心にくるな、流石に。やっぱり帝国最低だ。災いあれ。あ、現在進行形で災いだったわ。


「そうさ。帝国が仲間を見捨てるわけがない」


 そう言って通信機材が置いてある野戦テントの中に1人の褐色の女性が入ってくる。スタイルも良く、髪も短く揃えており、まさしく軍人女性といった女の人だ。


「ビアンカ中尉、どうされましたか??」


 ビアンカ・フォーグナー中尉、俺の所属する中隊の隊長だ。


「いや、怪物殿の顔を見にね」


 とウィンクしてくる。


「怪物殿はさすがねぇ。アタシより飛行上手いんじゃない??」


「まさか。そもそも怪物ってなんですか?そんなのアリのようにいる共和国の豚どもの蔑称にでもしてください」


「アッハッハ。確かに。豚どもは化け物みたいに数が多いね。んじゃ、その化け物退治に行くわよ」


 え?もう?速くない??休憩はいって一時間も経ってないよ。


「塹壕戦の場に敵の魔導士がでしゃばってきたようだよ。これをぶっ潰すわよ!!」



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