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帝国魔導士は休みたい  作者: たつみ
第一章
3/12

prologue 3 もう、意味不明だ

 帝国に支えて15年余り、私は初めて書面を握りつぶしてしまった。


「なんだ、これは????」


 洋風チックな一室。中央のデスクに座る男は冷や汗を流しながら部下から提出された報告書に目を通す。

 はっきり言って内容は馬鹿げている。プロパガンダにもならずに一笑にしてしまうくらいの報告書。

 内容はこうだ。


 新人四名の観測魔導士が、敵魔導大隊の攻撃を受ける。

 それが敵の大尉を含む、17騎の撃墜。そして、それに大隊の撃退を無傷でやってのける。

 死神や炎の魔女なんかではない、新人の着任して早々の一個小隊がやってのけた。

 荒唐無稽だ。ありえない。だが、実際に援軍として赴いた中隊が撤退している敵大隊を発見している。

 なんだこれ???カートゥーンの方が説得力がありそうだ。


「撃退に観測隊副長が肩に銃弾を受けただけで生還、爆破魔導を使用。爆破魔導だと??ハイレベルの術式構築と多量の魔力を消費して発動する大魔術だ。それを新兵が?ノーマルセルで??マジなの?これマジなの??」


 私は信じられなかった。これが本当なら戦術が覆る。魔導大隊を小隊で大打撃を負わせつつ撤退させるとか、もはや怖い。通常なら時間稼ぎもままならず撃墜されて終わりだ。それを、嘲笑うような大戦果。

 だが、私は大佐である。このような報告書でも目を通さなければならない義務がある。故に読み進める。


「ーーーーん?ノーマルセルが焼き切れた?は?術式演算機構が高負荷を受けすぎて破壊されている??」


 これはフィクションだ。ありえない。

 

 そもそも魔導機関とは、背中に装着されるボックスサイズの箱型装置である。その内部には、「術式」と呼ばれる定理や公式が多数組み込まれており、いずれも魔法現象を引き起こすための数理的な骨格である。

三平方の定理に似た空間操作式、ベクトルの合成理論に基づいた衝撃波制御式など――術式は、現象を生み出すための論理的レールだ。魔導士が魔導機関を装着すると、機関は脳内と思考を同調させる。魔導士の意図、感情、状況判断を読み取り、内部の術式群から最適な一つを選び、演算を行って現象へと変換する。

この過程で、術式は魔力を媒体として現実に干渉する力となり、攻撃、防御、補助といった形で発現する。魔導士の思考が研ぎ澄まされていればいるほど、展開される魔法もまた、精度を増す。


 だが、報告書にはノーマルセルの演算機関がオーバーヒートを起こして焼き切れていたとある。こんなの通常は起こらない。ノーマルセルは一般の帝国魔導士向けに設計されているものだ。優秀な帝国魔導士をはるかに上回るくらいの演算量を要求しないとそうはならない。

 また、限界設定を超えた過剰な魔力供給も起こっていたそうだ。記録によると時速は460キロを超えるスピードで飛行したとある。はっきり言って、ノーマルセルでは不可能な飛行速度だ。私は技術士官でもないから深いところまではわからないが、こんな芸当をやってのけるのはかの帝国の大魔導士(インペリアルマギア)くらいだろう。その力を新人が持っていると言うのか??


「ともかく、事実なのだとしたら重大なことだ。帝国における魔導士のエースが増える。やはり、少将閣下に報告はしておこう。先進技術研の者どもにでもこのデータをくれてやれば泣いて喜ぶことだろう」


 私は報告書を机にしまう。


「いよいよ始まるか、戦争が」


 窓の外を見やりながらそう思わず呟いてしまった。


 ラフレーヌ共和国の宣戦が布告された。春から国境沿いに動きありとは聞いていたがついに動いてきたか。東方方面軍が対応しているが、若干先制攻撃の煽りを受けて押され気味のようだ。参謀本部は、当然この動きを警戒しており、ヴァルハラデ防御体系でこれに対応。ある程度の侵攻を許容しつつも戦線の各種拠点で局地的に抗戦。敵戦力の消耗と分断を誘発し、機動打撃部隊による包囲殲滅によりこれを撃退していく遅滞防衛をする方針である。それに加えて、西方方面軍からの航空、陸戦魔導士の導入を待ち、攻勢にでるという考えだ。


「しかし、問題は」


 そう、問題は別にあるのだ。


 北方連合との国境付近での動きも強まっている。おそらく圧力か、最悪は2方面作戦になるやもしれん。忌々しいヴァイキングの末裔共め、もうとっくに貴様らの時代は滅びている。もし、2方面作戦となるのであれば、共和国といえどもかなりの苦戦を強いられる。兵站と資源も決まっている。それを二分されるとなると、苦戦は間違いない。勝てないことはないだろうが……、帝国を締め上げようと言う魂胆か??またしても帝国に噛み付く気か。北方の野蛮人には教養は微塵もないらしい。


 それに他にも海の向こうの大公国もきな臭い。海上封鎖はしてこないだろうが、共和国と北方連合の支援にまわっていると言うのは確かだろう。金と物資の動きがある、おそらく植民地からのものであるだろうが。厄介なことを。考えたくはないが3方面作戦の可能性もある。そうなると、流石に厳しい。故に電光石火で共和国を破るか、消耗を抑えながらの戦争をすることになる。


 ともかく今は共和国だ。

 北方連合が圧力を強めようと、大公国が物資を流そうと優先するのは戦争をしている共和国だ。今、帝国が相対しているのは、共和国による電撃戦だ。受けきれなければ背後の工業地帯、帝国の血を通わす心臓を抉り取られるやもしれない。

 それに、東部7区で敵の攻撃を阻止できたことは大きい。これを本部はプロパガンダとして活用でき、兵士たちの戦意高揚にもつながる。局地的な勝利だが、戦術的意味では大きい。


 帝国の未来は決して潰えない。

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