Ⅲ-5.ジャングルジムの“王様”
これは三人娘のイジメよりも前のことだったと思う。
休み時間に校庭のジャングルジムで皆と遊んでいた時のことだ。
Aくんという子がジャングルジムを独り占めにしたことがあった。Aくんは太った男の子で力も強かった。この子がジャングルジムの上に陣取って、「ここはオレの陣地だから他のヤツは登ってくるな」と言ったのだ。
そして登って来ようとする他の子たちを足で蹴って落としてしまったのだ。それでも登ろうとする別の子の手を踏みつけて、文字通り“お山の大将”のような態度で威張っていたのだ。
それを見たぼくはなんてひどいことをするんだろう、と腹立たしく思った。
だからこっそりとAくんの死角である反対側からジャングルジムに登った。そして天辺でふんぞり返っている彼の後ろに立つと、「ひどいことするなよ!」と言いながら、彼を後ろから突き落としたのだ。
地面に落ちた彼は踏みつぶされたカエルのように手足を広げて地べたに這いつくばっていた。そしてそのまま起き上がらずに火のついたように泣き出したのだ。
直前まで威張り散らしていたAくんが情けなく泣いているのがおかしくて、ぼくはジャングルジムの上でゲラゲラ笑いながらその光景を見下ろしていた。
そして彼のすぐ横にスタっと飛び降りると、「あんなことするからだぞ」と言いながら手を差し伸べて助け起こそうとした。
けれどAくんはぼくの手を振りはらって自力で立ち上がると、泣きながら走って逃げて行ってしまった。ぼくは、せっかく手を貸してやろうとしたのに、と思ったことを憶えている。
当時のぼくは友だちにひどいことをしたAくんを懲らしめてやった、というつもりでいたので悪いことをしたとは思っていなかった(多少やり過ぎたかも、とは思った)。
だがジャングルジムの上から突き落とすなど、ひとつ間違ったら大ケガをさせていたかも知れない危険な行為で、Aくんのしていた意地悪などとは比較にならないくらいの悪質な暴力行為だったと今は思う。
それにしてもジャングルジムの上に仁王立ちになって突き落とした相手を笑いながら見下ろすなんて、どう考えてもイジメっ子の所業だ。これだけのことをやっておきながら、どうして自分のことを「おとなしいイジメられっ子」だと思っていたのか理解に苦しむ。
ちなみにその後、特にAくんと仲が悪くなったということもなく、ふつうに仲良く遊んでいた。ただAくんが他の子をイジメたり、乱暴なことをしなくなったのは憶えている。
次の頁ではぼくの暴力について考察して見たい。
次回、Ⅲ-6 “お姫様”と“狂犬” に続く