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Ⅲ-4.「“まじめ”にやらなきゃダメだよ?」


 こんなエピソードも思い出した。これも三人娘のイジメ事件より後のことだ。


 それは教室でのグループ学習の時のことだった。


 男女二名ずつ四人の班で一枚の白地図を完成させる、という内容だったと思う。何故だか先生はおらず、自習になっていた。


 女の子二人が誰だったのかは憶えていないけれど、男の子はHくんという明るい性格の子だった。


 Hくんはニコニコとうれしそうにしていた。そしてふざけて歌を歌ったり、突然踊りだしたりする落ち着きのない子だった。


 そうして四人で作業を始めたのだけど、Hくんはことあるごとにふざけて作業をサボっていた。


 ぼくは、「まじめにやろう? ね?」とか、「まじめにやらなきゃダメだよ?」などと声を掛けていた。


 けれどHくんは五分とたたずにまたふざけて歌を歌い出したりした。


 ぼくはその度に「ほら、ふざけないで」とか「ちゃんとして」「まじめにやってよ、もうっ」「ダメだよ、ね、ほら、ここが塗れてないよ?」と注意を続けていた。


 何度目かにHくんがふざけて歌い出したとき、ぼくはついにキレて声を荒げた。


「まじめにやれっ、つってんだろぉ!」


 そして拳骨でHくんの頭を殴りつけたのだ。


 殴られたHくんは恐怖に目を見開いてぼくを見た。そして「殴るなんてひどいよ」と弱弱しく言った。ぼくは、


「ああ? まじめにやらないのが悪いんだろうがっ!」


 とHくんを睨みつけた。Hくんは目を伏せて、うつむいた。微かに震えていた。


 それからはHくんは大人しく白地図を塗る作業をしていた。


 ぼくが「これをやって、ここをこうして」と言うとその通りにおとなしく言うことを聞いていた。ぼくは、「やりゃあ出来るじゃん」と思って平然としていた。二人の女の子も何も言わずまじめに作業をして時間内に白地図を完成させた。


 ぼくの行為は弁解の余地のない明らかな暴力行為だった。性質(たち)の悪いことにその時のぼくは自分が間違っているとはまったく思っていず、まじめにやらないHくんが悪いのだと本気で思っていた。


 そしてHくんがまじめにやらないのはぼくのことをバカにしているからだ、と腹立たしく思っていた。


 Hくんがなぜあんな態度だったのかについてはこんな考察が可能だろう。


 彼は“お姫様”であるぼくと同じ班になれたことがうれしかったのだ、と思う。大好きなお姫様と並んで一緒に作業ができるのだ。彼が有頂天になるのも無理はない。


 そしてふざけて作業を中断すると、お姫様であるぼくが優しく注意してくれる。ふざければふざけるだけお姫様に構ってもらえるのだ。


 あれはぼくのことをバカにしていたのでもからかっていたのでもなく、ぼくに声を掛けてもらえるのがうれしくて、おふざけが止められなくなっていたのだと思う。


 それなのにぼくはそんな彼の想いを踏みにじって暴力をふるったのだ。やさしいお姫様だと思っていたぼくの豹変に、Hくんは明らかにショックを受けていた。


 今は彼に対して申し訳ないことをしたと思う。そして自分は、あの時のぼくのことを許すことはできない。


 あれはイジメだ。ぼくは自分がイジメられて嫌な思いをしていたのに、まったく意識せずに、自分にされたことよりも数段悪質なイジメをしていたのだ。


 Hくんに対しての暴力はこの時だけだったし、他の誰に対しても理由もなく暴力をふるったりはしなかった。けれど、だからと言って許されるものではない。


 そして更にもう一つ似たようなエピソードも思い出した。


次回、Ⅲ-5 ジャングルジムの“王様”  に続く

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