表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死出の福引  作者: 氷見
3/3

見田花音の話2

延々と2人だけの世界

「福引の話なんて聞いた事無ぇよ!そんな心の声が私には大量に聞こえております。えぇ、えぇそうでしょう。福引システムについては話す事は禁じられております、というより話せません。死後の世界で福引を行った、そんな街おこしの商店街みたいなノリでこの世界の事を語られては我々の沽券にかかわりますからね」


「実際に福引を自分達で行っておいて、話されるのは恥ずかしいし、とかバカじゃねぇの?」

 同意だ。全力で金田さんに頷いておいた。


「滅多に出ませんが特等の更に上もありますよ。そしてこの福引、なんとなんとなんとなんとただの運試しではございません。生前の行動が反映されます。よりよく生きた方、何故か不運続きだった方などは良いものが出やすくなっております。生前いい事が無かったとお嘆きのあなたこそチャンスの時、どきどきしてお待ちください」


「オレは見田さんに逢えた時点でもう運使い果たしてる気はするな」

 金田さんはもう…生前からこんな恥ずかしい事ばっかり言ってたのかな?でも、言われてイヤな気はしないし。


「はいはいはいはい、色々な質問聞こえておりますよ。ではいくつかお答えしましょう。全部?全部は無理ですよ、多すぎる。まず、行列が順不同で死の直前で止まっているというのはどういう事か。…時の流れが違うのであります。人間のあなた方の創作作品でお馴染みではありませんか?並行して止まっています」

「蘇生した人間の行動。たとえば大量殺人の犯人を30秒巻き戻った人が制止した場合、他の犠牲者も蘇生するのか?これは歴史がその時点で変わりますからね、蘇生というよりそもそも死ななかった事になる。この世界の記憶すら無くなりこの世界から消えます」


「お?俺は蘇生のチャンス多いのか?なら…もし特等出たらさ見田さんに譲るわ」

 え?


「福引の景品は譲れるのか。はい、好きにして下さって構いません。ただし他人から暴力や生前の関係での脅迫などで奪うのは無しです。というより出来ないはずです。そのような行為に出た時点で地獄行きです。…地獄ありますよ、地獄」


「げー、だな。地獄あるってのはある種、救いではあるけどな。クソ悪人が死んで穏やかに終わるなんて許せないって思う人多いだろうし」

「でも自分が堕ちるかもしれないって思うと」

「だから見田さんは大丈夫だって。少なくとも今俺をこんなに幸せな気持ちにしてくれてんだから。譲渡もオッケーって言ってたし、特等出ろー」

「あ、あの、それ…特等なんて譲っちゃダメだって…」

「見田さんは……その自殺…でいいのかな?」

 うん、はっきりと記憶は蘇った。リストカットなんてやっぱり本気で死ぬ気が無いからこそのものだ。私は飛び降り自殺で死んでる。30秒巻き戻ればもちろん助かる、助かるけど。

「自分で死んだんだから巻き戻ってもまた自殺する?」

「しない。……と思う」

 今は何てバカな事をしたんだろうと思ってる。短慮だった。お父さんにもお母さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。当てつけだった、あの子を苦しめたかった。でも、死ななくてもいいじゃないかと。金田さんは「12歳、勿体ない」とか言ってくれた。自分でも思う、ホントバカな事をしたと。

「ならオッケーだ。つっても特等なんてそもそも出るかどうかだけどな、オレも別に褒められた生き方したわけじゃないからなぁ。運は悪かった気するけど、今その分取り返しちまってるからなぁ」

 またそーいう。でも、金田さんはホントに私に出会えた事を幸運だと思ってくれてるのかな?こんな下らない事で死んだバカな子との出会いを。


「この世界には福引を行った場合、福引後最大72時間滞在出来ます、その間他の方と話をするのも生前の事を思い出すのも、特等を手に入れた方はその30秒でどうするかをじっくり考えるのも自由ですよ。福引しないならもうその場でさくっとホントに死にます。生前の行いがわるければ地獄にも行くでしょう」


「特等以外については秘密です!が、特定の誰かの夢に出て最後の言葉を伝える事が出来たり、色々ありますよー。蘇生の可能性があるのは特等以上のみですが」


「オレはさ、いわゆる無差別大量殺人の被害者なんで、オレ自身が蘇生出来なくてもそもそも事件そのものが無くなる可能性が高いんだわ、さっきの話からすると」

「…その理屈なら大量殺人なんて1件も起きないはず、でも現実にはいっぱいその記録は残ってる。特等自体滅多に出ないんだよ、やっぱり」

「まぁそうだろうなぁ、何でオレが特等引く可能性も限りなく低い。でも、もし引いたらやっぱり見田さんにあげたい。生まれて20年この人には尽くしたいと思えた人にやっと出会えたんだし、年上の格好良い男性として記憶に残りたいじゃん?」

「金田さんはロリコンの変態ってだけで格好良くないから」

「キツイな、また。どうせ出ないんだし、な、格好つけさせてくれって。万が一特等引くだろ?この世界の記憶持って蘇生して…辛いじゃん、見田さんの事思い出して」

「そんなの私だって同じじゃないですか。金田さんに命譲られて生きるとか」

「悪いな。正直に言うわ。オレの場合30秒貰ってもダメなんだ、多分。あーあ、自分の蘇生の権利を捨ててまで女の子に権利譲る格好良い男やりたかったわ」

「…それすら信じらんない、まだ格好つけてウソついてない?刺されて死んだって言った時、お腹押さえてましたよね?どういう状況なんですか、無差別大量殺人って。死んだ状況説明しろなんてヒドい事言ってるのわかるけど、でも説明してくれないなら蘇生の権利渡すとか言われたって受け取れるわけないじゃないですか」

 そうだ、私は今こんなとこにいる事を後悔はしてる。出来ればやり直したい、30秒あれば十分すぎる。でもだからって、私は間違いなくこの人に心を救われたってわかってる。だったらこの人の蘇生の権利を奪うなんて冗談じゃない。

「つまり30秒あってもどうしようもないってのを証明しろってか?人込みに猛スピードで車が乱入。車はどっかの建物にぶつかって動かなくなった。この時点でみんな逃げりゃいいんだけどな。野次馬根性なのか、腰が抜けてたのか、それとも危機意識が緩いのか、車の中の男が降りてくるのを黙ってみんなで見物してた。そいつが刃物持ってる事にも気づかずな。で、降りてきたと思ったらその刃物でまた大暴れだ。人数が多いんだから取り押さえようもあったと今なら思うけどなぁ」

「今なら思うなら30秒巻き戻ればやれるじゃないですか」

「位置次第か。みんな思い思いに逃げようとするから転ぶヤツも出てくるし。少なくともオレが30秒貰ってもまた死ぬだけだろうな。その30秒をオレだけが必死に逃げる事に費やせば違うだろうけど…見田さんなら出来るか?何だっけ、カルアネスの板とか何とか:」

「カルネアデスの板?」

「それだ。まあ緊急避難な。場合によってはオレもそれを選ぶとは思うんだけどなぁ。元々死んでたのに30秒ボーナス貰った!オレは助かった、けど元々の歴史じゃ死んでなかったはずの人が代わりに死んだ。…耐えられるか、これ?」

「……私は無理かも。でも…」

「でも?」

「でも、だからって……」

「まー、そもそも特等が当たってから言えって話だよな」

 …それはそーだ。

「ただ万が一当たったら受け取って欲しいって話だ。他人を犠牲にするかもしれないぐらいならせっかく出会った可愛い子の命救いたいからな」

 自分でも単純すぎる、チョロすぎるって思うし、こんな死を目の前にした状況で何をと思うんだけど、間違いなく私は、この人…金田さんに恋をし始めてる。初恋だ。この人が格好良いなって思えてしまってる。ロリコンなのに。…ま、私もロリコンなんだけどね。


「そういえば身体があるのかどうかっていうのと、死神のアナウンスで気づいたんだけど、みんな黙ってるんじゃなくて多分思いもいに誰かと会話してるんじゃないかなって。何か波長のあう人とだけ会話が出来てるんじゃないかって」

 だって、身体無いんだから声なんて出せるわけない。五感はあるっぽいけど、それも何か疑似的なものなんだと思う、なら声も実際には出ていない。実はテレパシー的なもので会話してるんじゃないかって思えてる。

「あー、あのライトな死神クンは何か色々声受信してるヤバイヤツ状態だったな、そーいや。…何だ、じゃあ俺達無茶苦茶相性いいじゃん」

 金田さんが嬉しそうに見つめてきたものだから、もう何か恥ずかしくなってしまった。ダメだ、恋してるって意識した途端、金田さんの顔まともに見れなくなっちゃった。

「お?どした?」

「何でもないです」

「何だ?格好良い金田さんと両想いだったなんて嬉しい…金田さんになら全部あげちゃう!とかか?」

「あげちゃうの意味がわかんない」

「またまたー。小6にもなってわかんない事ないだろー」

 どーいう事?腕あげればいい?違うよね?金田さんにプレゼントって事?ロリコンしてて男子に興味無かったからわかんないだけで、普通の小6女子はわかるもんなの?恋すると何かあげちゃうの?…金田さんに恋してる感覚って間違い?これは恋じゃないとか?

「あの、ホントによくわかんなくて。恋すると何かあがるんですか?それともプレゼントの話ですか?」

「え?あー、うん。……えー?あー、そうだな。うん……うん、いやわかるよな?全部あげるっていったら『私の全部あげる』って。その心とか身体とか、主に身体か?もっと具体的に言うとエッチな事してもいいっていうか」

 ………え、えっちなこと…こ、この変態ロリコン野郎。当たり前の顔して何言ってんの?

「お、顔紅くしてどした?」

「この最低のロリコン野郎が。誰がこんなロリコンに恋するか、バカ」

「おおう?いきなりの罵倒。キャラチェンジ?恋の意味も知らなかった子が大人の階段登っちゃったからってそんなに怒んなって」

「知ってたし!知識としてはあったし!そこに思い当たらなかっただけで。何がえっちだバカ、今のはセクハラだから、最低すぎるクソロリコンが」

「見田さん言葉遣いがどんどん汚くなってない?クソって…でもオレはそんな見田さんの事が好きだけどな」

「黙れクソロリコン、その汚い口を開くな」

「実は口は開いてないんだ。ホントにテレパシー的なもので会話してんのか確認したくてさ」

 おのれ、このロリコン、口が減らない。…全く死んだ後にホント何バカな会話してんだ、私たちは。しかもこんなセクハラされてそれでも金田さんへの気持ちは特に変わってない事に自分で驚いてしまう。


「もう死んでるからロリコン死ねとかくたばれとかも通じないし、無敵なんだけどこのロリコン」

「だろ?つうかロリコンロリコン言ってもダメージ受けねぇからな?つうかさ、男は基本ロリコンなんだよ、ああ、もうこれは。ちっちゃい女の子を可愛いと思わない男がいるだろうか、いるわけがない。いたとしたらそいつはおかしい!」

 …同意する。

「それは同意しとく。男じゃなくて女でもね。可愛いものを可愛いと感じないのは素直じゃなさすぎる」

「だろ?だよな。可愛いもんは可愛いんだよ、見田さんももっと自分を可愛いと信じた方がいい」

「それはまた別の話っていうか可愛いの方向性が違うんだって。わかってないなぁ、このロリコンは。いい?ちっちゃい女の子の可愛さってのはそうじゃないの!あの1つ1つのパーツは小さいけど大人と形状は変わらないその愛らしさっていうかね。もちろん男の子だってそれはそうなんだろうけど、何ていうか可愛いって褒めていいのは男の子より女の子なんだって、やっぱり」

「おぉ、その通りだ。確かに可愛い少年ってのはいるけどな、可愛さは女の子に求めたいよな。ちっちゃいのに間違いなく女なんだなぁって感じるのとか超エロい…あ、ああ言葉が悪かったな」

 悪くない。ちっちゃい女の子はエロい!イエス、全力でイエス。何でみんなそれをわかんないのかなぁ。ちっちゃいからエロい。あのエロスは反則でしょ。本人はそれを意識してないんだよ?

「大丈夫、問題ない。イエスだから、ちっちゃい女の子のエロさは反則だから。無邪気にパンツ平気で見せちゃうとかダメでしょ、ダメだよ。お姉ちゃん興奮しちゃうはぁはぁ」

 …あ、あーーーー、今私何を口走った。も、もしかしてあの子の前でもこんな変態発言しちゃってた?あ、あ…せっかく可愛いって言ってくれてたのに。か、金田さんにも変態って…嫌われちゃう。やだ、それは…何で。

「おっさんも興奮する。エロ可愛いよなぁ天然幼女って。」

 え?あれ?

「金田さんはまだおっさんじゃないでしょ?」

 と、とりあえず無難な発言でさっきの発言は聞かれてないと思っておこう。興奮状態で聞いてなかったのかも。な、ならセーフだ。よかった。もう二度と変態だって嫌われたくない。絶対やだ。

「見田さんから見りゃおっさんじゃないの?」

「20歳だよね?別におっさんではないかなぁ?っていうか普通むしろおっさんって言われるの嫌がるんじゃないの?」

「おっさんはおっさんだろ。おっさんがオレはおっさんじゃねぇとか言ってるのって見苦しくね?」

 あ、それも同意だ。自分がどう思うかじゃなくて相手からどう見られてるかなんだから、おっさんって言われる人はおっさんなんだよ。金田さんは年齢もまだ若いし見た目も若いし…私とはたったの8歳差。うん、十分に恋愛相手の範疇だよね?

「わかる。後、女子とかガールとかも…黙れおばさんって言うか」

「…あー、それはオレとしては同意は控えとく」

 えー?

「おばさんは怖いんだ」

「じゃあ、おばさんって言うのもやめないと」

「その通りだ!でもロリっこ本人がロリコンって例もあるんだなー。女性にもロリコンって結構いるとは聞いてたけど、見田さんの場合本人がまだロリなのにロリ好きって…そりゃ波長も合うだろ、ロリコン同士なら」

 え?

「…えーっとロリコン同士?」

「だろ?お姉ちゃん興奮しちゃうはぁはぁ!とかあそこまでやっておいて「私ロリコンじゃないんで」は通用しねぇぞ、この変態小学生め」

 あ、あ…

「ちが、変態じゃない変態じゃない変態じゃない。私はただ純粋にちっちゃい子が可愛いなって思うだけで。違う、別にヘンな目で見てない。やだ、見るなそんな目で…」

「お、おい。おい!…見田さん!!見田さん!!!大丈夫、オレはそんな目とやらで見てない。見田さん、見てるか俺を?」

地獄は実際には無いのです。死使の脅しなのです。どうでもいい話だけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ