混沌とした行列の話
どこかで書こうと思っていた2人の出会いの話
あらすじで「行列」が何か、この世界が何なのかバレてしまっているけど、別に隠す意味も無いので問題無し。
幸せだった気もする。悲しみに包まれていた気もする。
その直前まで幸せだったのか哀しかったのか、ただ何か解放感に包まれていたそんな気はする。
(今何してるんだっけ?)
そう意識し、目を開けるとそこは人の群れだった。夢を見ていたのかとも思うけど、じゃあ今いるここはどこで私は何をしているのか。全く思い出せない。
見渡す限り隙間もないほどに人で埋まっているってわけでもないけど、その人の多さに対してあまりにも静かだとは思った。そして人で埋まっているわけではないけど、整然と並んでいるわけでもない。そう思ったその瞬間、何かの勘違いだったんだろうか。それは行列だった。私は行列の中に立っている、ようやくそれがわかった。
ただ、私には行列に並んだ記憶なんてない。元々、行列は好きじゃないからどうしても避けられないという場合じゃない限り行列に並ぶことはないはずだ。だとするなら、何故か記憶には無いけど何か必要があって私はここに来て嫌々並んだって事になる。それにしたって何の行列なのか全くわからない。
年齢も性別もバラバラすぎる。12歳の私が嫌々ながらもこんな行列に並ばないといけない何か…役所関連だったらお母さんとかがやってくれるはず。っていうか人が多すぎる。…あ、もしかして予防接種とか?記憶に障害が出る病気が流行してて、私は間に合わなくて予防接種受けに来た事すら覚えてない。ふふ、バカげてるなぁ、あるわけない、そんなの。
参ったなぁ。きょろきょろと見回してみると、似たようにきょろきょろしてる人も見える。というかそもそもここがどこなのかわかんない。屋外…だよね?でも、不自然な空をしてる。勘違いかもしれないけど、私の後ろだろうか?行列がどんどん長くなっていってる気もする。そしてこの行列は進んでるんだろうか?ただ並んでるだけ、もしかして?
ふと、私の前の人が振り返ってきて目があってしまった。私の前にいたのは大学生ぐらいなんだろうか。ちょっと格好いい男性。ただ当たり前だけど恋心が芽生えたりなんてしない。一目ぼれがどうとかこんな状況でとかそういう話じゃないんだ。恋した事自体無いから絶対とは言えないけど、私は多分だけど同性愛者なんじゃないかって思ってる。それがおかしな事だって気づいたのは何歳の時だったんだろう。小さな女の子が可愛いと思うし、何なら身体、裸を見てみたいなとも思ってしまう。私自身が女だから『女体』に憧れがあるとか、男子みたいにエッチな気持ちで見たいとかそういうわけじゃないと思ってる。純粋に女の子の身体ってキレイだなって思うから。
長い事、親友だったあの子…あの子なら私のそういう思いを受け入れて貰える、理解してもらえるかなとも思ってた。
「あ、あぁ、バカげたことを聞くんだけどこの行列って何?」
私があの子の事に思いを馳せていたら目の前の大学生っぽい人が照れ笑いなんだろうか、少し恥ずかしそうに笑いながらこんな事を聞いてきた。どう答えたものかと考えいたら更に言葉を続けてきた。
「何の行列かもわかんないんで並んでたの?とか思うよな。オレだってこんな事聞かれたらそう思うと思う。たださ、何か立ち眩みっていうか立ったまま寝てたんだか、どぉぉぉぉにも記憶が曖昧で、何でこんな行列に並んでんだか全然思い出せないんだわ。バカな人がいるとか思ってるだろうけど、な…せめてこの行列が何なのかさ」
は、早く答えないと、この人は私と同じだ。なら情報を共有したい。
「あ、あの、私も同じです。この行列が何なのかも、何で並んでるのかも全然わからないんです。気づいたら並んでて」
私のこの答えに大学生っぽい人の顔が落ち着いたものに変わった。驚きのものじゃあない、焦った感じのあった表情から落ち着いたものに変わったのだ。
「そっか。……何かきょろきょろしてるヤツ多いし、明らかによくわかんない空間だし、もしかして皆そうなのかもなとかは思ってたんだ。なぁ、俺達の会話聞こえてるよな?聞こえてるアンタ等も同じなんだろ?なぁ?この行列が何かわかってるヤツいるか?いるか!!」
最後は少しづつ声を大きくしていった。もちろんこの声に周りの人達は反応はしている。しているけど会話に混ざろうと言う人は出てこない。何で?あ、同じ状況なんだって思えば、必死にみんなで情報を共有しようとしたりするもんじゃないの?
「何で誰も答えてくんないんだよ!誰か、誰かわからないのかよ!?」
少し泣き声っぽいものが混ざってきて、私も不安になってきた。同じじゃない?みんなはこの行列を実はやっぱり理解してる?理解してない私たちを異常だと思ってる?
「そんな怒鳴らなくていい。わかった…他の奴らが黙ってる理由はわかんないけどオレは答える意味が無いって思ってただけだ。確かにオレもちょっと前まで記憶が混沌としてたけど、今はそうでもない。放っておけば2人とも直にわかると思うけど…多分ここは…笑うなよ?死後の世界だ」
「し、死後の世界?」
思わず聞き返してしまった。笑えない。だって、この異常な状況はその説明を受け入れるに十分すぎるから。
「ここに来る直前の記憶が曖昧なんだろ?でも、何か心当たりはあるんじゃないか?」
「心当たりって。で、でも、じゃあこの行列って…いわゆる閻魔様の裁きみたいな、そういった本格的に死ぬための行列ってこと?」
「さあな。ただそういったお役所仕事的なもんがあんだろ」
「だとすると行列が短すぎんだろ。人類が生まれて今まで、見た感じ行列は今も長くなってる。つまりここが死後の世界だっていうなら人間の死ぬスピードにその最後の本格的に死を迎える為の手続きか?間に合ってない。人口が少なかった頃は間に合ってたとして、間に合わなくなって一体何千年、何万年経つんだろうな?もっともっと絶望的に行列は長いんじゃないか?」
「アンタには行列の先頭が見えてる?」
「見えてはいないけど…何となく全体は最初に見渡せた気が…あれ?」
…ここが死後の世界としておかしいのかおかしくないのか、その議論はこの2人に任せておこう。そう、私には確かに自分が死後の世界に来てしまっている事に心当たりはある、あるんだ。
あの子に私は同性愛者かもしれない、それに加えてロリコン…小児性愛者も入ってるかもしれないって告白した。受け入れてくれると思ってた、だってそれだけ仲が良かったから。私の本当の姿を知ろうと知るまいとその関係は変わらないはずだって思ってた。けど、彼女は私を拒絶した、それどころか汚物を見るような視線をぶつけてきた。
耐えられなかった。まさか親友だったあの子が私をそんな目で見るなんて思いもしなかった。純粋に好きなものを言っただけなのに変態だって罵られ、みんなの前で理由もわかんないけど脱がされもした。その場に男子がいたかどうかなんて覚えてもいない。羞恥心なんかより彼女がここまでする事が悔しくて哀しかった。もう親友じゃないんだと思うと涙が止まらなかった。
生きてられる気がしなかった。自殺した記憶は未だに頭には無い。無いけれど、目覚める直前の幸せと哀しみの入り混じった感情、解放感それは私が自分で自分の命を絶った事への死ぬ直前の感情だったと思うとすんなりと納得はいく。
「おい、大丈夫か、おい!?」
はっとなって顔を上げる。まさか死んでまで哀しくなって泣いちゃうとか思わなかった。
「だ、大丈夫です。でも、死んだ記憶はまだ蘇ってこないけど、死んだんだろうなって。思い当たるところはあって」
「そっか。だ、大丈夫だって。先頭はまだまだ先だ。死んだけど今俺達生きてるじゃん」
何を言ってるんだ?って思うけど、この人は私を心配して励まそうとしてくれてるんだろうなってのはわかる。その心遣いはすごい嬉しい。
「死んだなら死んでるんですよ、えーっと名前教えてもらっていいですか。それとさっきの人との話は?」
「ん?金田だ。金田智弘20歳、彼女はいないんで惚れてくれて全然問題ないぜ」
20歳…成人してるんだ。でも励ますにしても…さ。
「小学生だよ、まだ?小学生を彼女にする気ですか?」
「いいね、キミ無茶苦茶可愛いし、オレこう見えてロリコンだから全く問題無し。死んだってのは悔しいけどさ、キミに出会えてこうやって話も出来てそれだけはラッキーだったな。いいタイミングで死んだって事だな」
「明るいですね。死んだんですよ?」
「けど、少なくとも今は生きてるようなもんだろ。さっきのやつはよくわからん。実際、この場にいる人数が少なすぎるのは確かじゃないか?」
それは思う、何でかわからないけど、何となくそんなにものすごい数いるわけじゃないってのはわかる。
「あ、名前…見田、見田花音12歳です」
イジメがどうとかそういう重い話じゃない