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57. 再会①

「えっ、ほんとに!?」

「クロお前、エリート倶楽部にスカウトされたのか!?」


 身を乗り出すほど驚愕するローミィとネチル。


「エリート倶楽部ってなんだい?」

「ですー?」


 呑気にごはんをもぐもぐするライナーとコヨヨ。


「有名よ、エルミィスのエリート倶楽部。いわゆる出世コースってやつよね」

「学年首席とか学科ごとのトップとか、ガチエリートしか入れないって話だぜ。卒業後もトップクラスの魔法師とか冒険者とかめっちゃ輩出してるって」

「へー」


 クロもごはんをもぐもぐ。今日のランチはエルミィス名物ジングゥライスだ。前世世界のカレーライスに近い。


「へーってクロ、他人事みたいに。あたしを差し置いてスカウトされるなんて」

「ローミィは誘われたら入りたい?」

「そりゃあ……うーん、どうかしらね」

「どうして?」

「だって、成績だけじゃなくて家柄もよくなきゃ入れないって話よ。あたしんちも貴族の端くれだけど、しょせんは田舎の町長だし」

「まあ、うちも中堅ってとこだし」


 カーンライト帝国での辺境伯は伯爵相当。貴族の全体数から言えば上のほうにはなるが、エルミィスにはもっと上がゴロゴロいる(クロにとってはどうでもいいが)。


「で、お前はどうすんだよクロ? エリート倶楽部入んの?」

「どうだろうねえ」


 曖昧に首を捻り、ジングゥライスを口に運ぶクロ。今日も鬼のようにうまい、飲みもののようにするすると入っていく。コヨヨは貫禄の五杯目をおかわりしにいっている。


「おい、マッティ」


 声をかけられたクロよりも隣のネチルのほうがぎょっとする。


「ちょっと顔貸せよ」


 ――ポクハムだ。

 

 

 

 午前中のエリート倶楽部との件。

 一触即発の雰囲気にさらなる混沌を投げかけたのは、


「高みの見物と洒落込んでいただけじゃったが……そんなに儂が気になるか?」


 山羊のような角のある見知らぬ幼女だった。露出の多い奇妙な服装をして、ヒョロッと細くて先端がハート型の尻尾を生やし、棒つきの飴を咥えている。


「……新任教師だと? 君のような魔族が?」


 毅然とそう問うたのは会長のウェルズだ。


(魔族……?)


 クロもそういう人種がいるのは聞いたことがあるが、実際に見るのは初めてだ。


「おお、斯様な若見え評価は久方ぶりじゃの。儂の名もまだまだガキんちょどもの世界には轟いておらんようじゃ」


 まだ名乗られていないが、と頭の中でツッコむクロ。


「ともあれ、邪魔したの。うひひ、楽しくなりそうじゃ」


 そんなことを呟いた瞬間、

 幼女の身体がゾゾゾッと黒い触手のようなものに包まれ、

 それがふっと消えると同時に、彼女の姿も消えていた。


「「「…………」」」


 そんなこんなで興を削がれた形になり、いくらか話の続きをしてからその場はお開きとなった。


「入会の件、かんがえておいてくれると嬉しい」


 ウェルズはあくまでスカウトに前向きのようだった。


「――で……なんの用?」


 そして現在。


「…………」


 食堂を出た先の廊下で、ポクハムと二人になる。自分から呼びかけておいてなかなか口を開こうとしないポクハム、ぶすっと頬を膨らませて唇を尖らせている。


「……お前、入るつもりか? エリート倶楽部に」


 以前は「マッティくん」と呼ばれていたのに「くん」がなくなり、二人称も「君」から「お前」になっている。


「えっと……君は僕に入ってほしいの?」

「だ、誰がっ! ……」


 大きな声を出した自分に照れて頭を引っ込めるポクハム。


「……お前には合わないよ、あそこは」

「え?」

「悪いことは言わない、エリート倶楽部には来るな。あそこはお前みたいな庶民かぶれしたやつのいるところじゃない、部の輪を乱すだけだ」


 お前なんかには相応しくない、という侮ったニュアンスではなさそうだ。


 もっと切実な、あるいは――クロを案じるかのような。


「……忠告はしたぞ。僕の邪魔をするようなら容赦しないからな、マッティ」


 くるりと踵を返し、のしのしと去っていくポクハム。


(……なんだったんだ……?)


 そのまるっとした背中をクロは呆然と見送るしかない。


「…………」

「…………」

「……少なくとも坊ちゃまを煩わしく思っている風ではないようですね」

「先に声かけてくれない?」


 メイだ。いつものようにいつの間にか後ろにいる。


「今日は朝からいろいろあったんだけど……メイに見られてる感じはしなかったかな」

「すみません、最近は教師の仕事で時間に追われることが多く……坊ちゃまのお風呂も三日に一度しか覗けません」

「二度と覗かせない気構えを持つよ」


 とりあえず偽ラブレターの件などは知らないようだ(知ったらどうなっていたことか)。


「そういえばさ、新任の先生? を名乗る人と会ったんだけど」

「本当ですか?」

「あれ、先生たちの顔合わせはしてないの?」

「はい、週明けに着任すると聞いていたので。教員側も『当日まで内緒だぜ! サプライズだからな!』と校長がふざけたことを言っていましたので、我々もまだなにも」

「まあ……なんか理由あるんかな?」


 情報管理を徹底しているだけかもしれないし、あの校長だけにただの悪ノリと言われても納得ではある。


「ちなみに坊ちゃま、どのような方でしたか?」

「えっと……女の子、っていうか幼女だったよ。でもおばあちゃんみたいな口調で、黒い巻角みたいなのが生えてて、コヨヨみたいに浅黒い肌で、服はなんか無駄に露出が多くて……魔族って先輩が言ってた」


 この世界にはいろんな人種がある。


 メイのような獣人種に耳長の長命種、鍛冶や工芸に長けた坑人種など。ちなみにこの大陸で圧倒的多数派なのはクロたち火人(ひびと)だ。


 魔族――というのは、本来帝国にはいない。元々は敵国の民だった人種だ。


「…………」


 口に手を当てて黙り込むメイ。


「……どうしたの?」

「現時点で断定的なことは言えませんが、その者が私の知る人物であるなら……」

「知ってる人かもなの?」

「いえ、もしかしたらですが……かつて私が、唯一仕留め損ねた人物、かもしれません」

「……マジで?」


 その表情は――いつになく鋭く冷たかった。

 

 

    ***

 

 

 そして週明け、天曜日。


 生徒たちは朝食後に一階の大講堂に集合する。入学式を行なった大広間だが、全学年全生徒が集まっているのでちょっぴり狭く感じられる。


『あーあー、みんなおはよう。校長だぞ』


 さっそく登壇したのはラマールスナギツネのマスクをかぶった変質者、もといカッツェ校長。


『今日は新任の先生をみなさんにご紹介したいんだが……その前に俺から一つ話をさせてほしい。先週の始業んときにできなかったんでな』


 こほん、と咳払いする校長。


『昨年の一年生の特別授業の件を、改めて謝罪させてもらう。あのような犯罪者どもの本性を見抜けず、長年教鞭を振るわせていたことは当学園の責任者として真に恥ずべきことだ。心身に傷を負った生徒たち、心労心配をかけた生徒やそのご家族に改めて心からのお詫びを申し上げる』


 深々と頭を下げる校長。


『やむなく中退や転校を選ばざるを得なくなった生徒たちにも、当学園から相応の補償をさせてもらうつもりだ。今後はいっそう学園内外の警備体制の強化し、諸君らが安心して学びに取り組める環境をつくっていくことを約束する』


 講内はしんと静まり返っている。


『では……今後一緒に安全な学び舎をつくっていってくださる、新任の先生を紹介させてもらう。さっそくご登壇いただこう』

次回は木曜日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
金玉破裂した方が良いゲス野郎も居る事だし入らない方が良いよ。 それよりロリババアかも知れない魔族の方が重要だよ!
更新お疲れ様です。 >メイさんが殺り損ねた人物かも もうその情報だけで某漫画ばりに「何…だと……!?」ですよね。逃げ切った→それだけ防御や回避といった生存に直結する技術は超一流な訳ですし。 逆に攻撃…
ポクハム君は何を知る。まあ、ツンツン野郎のタマ捻る許可無くして入る必要性は無いよね! メイが仕留め損ねた程の猛者、魔族ロリBBA先生の紹介楽しみだ。
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