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「聖女様、こちら、この度新たに配属された、この診察室の助手のミサトさんです。今日は彼女に記録を取ってもらおうと思っています。彼女の経験のため、ご協力いただけますか?」
ジュエル先生が、キラキラ度30%増しの笑顔で話しかける。
「ミサトと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
― あまり余計なことは言うまい。
何が琴線に触れるかわからない。
「あら、そうなの、ふーん。」
一礼した私を値踏みするように上から下まで見た後、「ま、いいわ」と興味なさそうな返事をして、
「それより、ジュエル先生、聞いてくださいよぅ~」と話し始めた。
― ふぅ~、まずは第一関門突破。
しかし、これは・・・リュウ先生の記録がアレだったのが分かる気がする。
内容が・・・ないよう。
ハッ、つまらないことを考えている場合じゃなかった。
ジュエル先生は、ニコニコと仕事用の笑顔を浮かべながら、「そうなんですか~」「それは大変でしたね」「さすがは聖女様です」を繰り返し、会話を成立させている。
― すごいな、これがプロの捌き方。
どこをどう切り取って記録していいか分からないので、「職場(神殿)に関する苦言」とか「上司(神官)に対する不満」とか「同僚(聖女候補)に対する暴言」と書き記していく。
聖女様を見ようと顔を上げた時、奥の給湯室にいるリュウ先生とケリーさんが見えた。
こっちを見て頷いている。そろそろお茶の入れ替えの時間だ。
そっと席を立ち、給湯室へ向かう。
「ミサ、順調だな」
「え?」ケリーさんがちょっと驚いた表情をしている。・・・何かあったのかな?
「ありがとうございます。リュウ先生の記録の意味がようやく分かりました。」
「だろ?あぁ、そうだ、今日の聖女様の香りはどんな感じ?」
「香りですか・・・そうですね。それほどキツイとは感じませんでした。フルーティな・・・柑橘系ですかね?」
「そうか、じゃ、こっちでいいかな。今回は俺が淹れるから。」
「分かりました。淹れ方が違うんですね?」
「そういうこと。もう少しで終わりだ。気を抜くなよ。」
二人に会えて少し緩んだ気持ちを締めなおす。
「失礼します。どうぞ。」
「あら、気が利くわね。」
そうして、二回目のお茶も、どこにもぶっかけることなく、無事に聖女様の口に届けられた。




