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「あれ、サト。真面目に記録読んでたの?お昼返上で?」
お昼を食べて帰って来たのか、ジュエル先生が記録と格闘している私に声をかけてきた。
「ジュエル先生、おかえりなさい。記録の仕方を知りたくて、今までのファイルに目を通していたんですが・・・」
「あ、あぁ~。ごめんね。ボクもちゃんと伝えておけば良かったね。リュウ先生からの記録は記録になってないもんね~アハハ~」
「そのようですね・・・」
「なんだ、薬剤師としての所見を書いたのに、その扱われ方は。」
調剤室からリュウ先生が顔を出す。
「リュウ先生、だってこれ・・・クサイとかウルサイとか、文句しか書いてない・・・」
と言って記録を見せる。
見るに堪えない罵詈雑言が並んでいた。
「本当のことしか書いてないぞ?それに、香りとか口数って、大切な情報だったりするんだぞ?なぁ、ジュリ。」
「うん、まぁ、そうなんだけどさぁ。それ、リュウくんにしか分からないように書いてるじゃないか。誰が見ても分かるように書いてくれないと~。」
「まだまだだな。分かるようになるまで、頑張って勉強しろよ。」
「「・・・鬼・・・」」
「あ、そうそう、ミサ、腕出して。」
「は?」
「いいから、黙って素直に出して。」
逆らえるわけもなく、黙って両手を差し出す。
おもむろに私のシャツの腕のボタンを外し始めた。
「な、なにを・・・セク・・・」
続く言葉を、視線で制すリュウ先生。
肘のところまでまくったかと思うと、ポケットからなにやらクリームを出して塗り始めた。
スーッと清涼感のある香りがしたかと思うと、午前中の特訓でプルプルしていた腕が楽になった。
「午前中は頑張ったからな。聖女様に薬ぶっかけても後が大変だから。アフターケアだよ。」
― うわ、これがあの有名な「飴と鞭」か。
これは~、ちょっとヤバい。アリィさんがときめいちゃったのがこれか!
「あ、ありがとうございます。楽になりました。」
両腕に丁寧に塗り込まれた後、容器ごとポイっと私に投げ、「コーヒーに追加ね」と言って調剤室に引き上げていった。
― これがなけりゃなぁ~。
現実へ一気に引き戻される。
そして、私の負債は増えていくばかりである。




